2MHzモノリシック昇降圧DC/DCコンバータとLEDドライバによりPCBのスペース上の制約に伴う問題を解消

2019年11月01日
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はじめに

電子機器が小型化すれば、その内部の回路も小型化しなければなりません。この製品小型化の傾向はすべての産業分野において見られるもので、スペースに制約のある設計にソリューションを適合させることを強いられるエンジニアに、設計上の新たな課題を提起します。

コンパクトな電子機器の実現に向けて一層厳しくなるサイズ条件を満たすために、集積回路(IC)設計者は、外付け部品をデバイス内に組み込むことでその数を最小限に抑えようとしています。すべての回路には電源が必要であり、DC/DCコンバータはあらゆる場所に使われますが、電子機器の構成に必要とされる様々な回路の中でも、DC/DCコンバータの小型化には困難が伴います。電源設計者は多くの場合、ソリューションのサイズを小さくすると性能に悪影響が及ぶという現実に直面するためです。

例えば、PCB面積を大幅に節約する方法の1つは、慎重に選択したパワー・スイッチ・デバイスをICパッケージに組み込んだモノリシックDC/DCコンバータを使用して、必要な外付け部品をいくつかの受動デバイスだけに抑えることです。多くの場合、このようにして実現した小型化設計は、外付けのパワー・スイッチ・コントローラを使用する設計と比較すると、狭くなったスペース内での電力損失が増大し、温度が大幅に上昇するという望ましくない結果をもたらします。問題となるレベルの発熱を避けるためにコンパクトで効率的な電源システムを設計する場合には、適切なモノリシックDC/DCコンバータを選ぶことが極めて重要です。

2MHzモノリシック4スイッチ昇降圧DC/DCコンバータとLEDドライバ

LT3942は、アナログ・デバイセズが提供する製品の中でも、極めて汎用性の高いモノリシック昇降圧レギュレータICの1つです。この昇降圧コンバータは、性能を犠牲にすることなく、柔軟でコンパクトなDC/DCコンバータ・ソリューションを作るという難題を解決します。LT3942は、4つの40V/2Aパワー・スイッチ、2つのゲート・ドライバ・ブートストラップ・ダイオード、そしてそれらの制御と駆動を行うすべての回路を、4mm×5mmの小型QFNパッケージに組み込んでいます。最大2MHzのスイッチング周波数で動作可能で、あらゆるDC/DCコンバータを高帯域幅で動作させることができるだけでなく、外付け部品のサイズを最小限に抑え、PCBスペースを節約することができます。

LT3942は、LT8390A/LT8391Aファミリの昇降圧コントローラICに使われているものと同じピーク電流モード制御方式を採用しており、2スイッチ昇圧動作モード、4スイッチ昇降圧動作モード、2スイッチ降圧動作モードの間をシームレスに遷移します。このコンバータは入力電圧と出力電圧の監視と比較を行い、適切な動作モードを選択します。PVIN:PVOUTの比率が変化するのに合わせてコンバータのモードも遷移し、LT3942は自動的に適切なスイッチ・ペアを選びながらレギュレーションを維持します。

LT3942は、様々なPVIN:PVOUTの組み合わせに応じた出力電圧のレギュレーションに加えて、定電流レギュレーション・アプリケーションで使用するために入力または出力電流をレギュレーションするよう構成することもできます。ISMONピンからの電流モニタリング・フィードバックは測定電流に比例したバッファ電圧出力を提供し、接続された回路が測定電流レベルを確認できるようにします。この電流または電圧のレギュレーション能力によって、LT3942は、LEDドライバ、小型バッテリ・チャージャ、太陽光パネルを電源とする小型コンバータ、あるいは汎用電圧レギュレータなどでの使用に適したデバイスとなっています。

14V/1A LEDドライバ

LT3942をベースとする小型LEDドライバ評価用回路の全体を図1に示します。このソリューションは、直列に接続した一連の4個(最大14V)の白色LEDに1Aの電流を供給できます。最大給電入力電圧範囲は7V~36Vです。更に4Vまでの低電流動作が可能で、これはレギュレーションなしの車載入力電源に最適です。このソリューションのLT3942は2MHzのスイッチング周波数で動作し、比較的小さいインダクタとコンデンサを使用できます。これによって得られるLEDドライバ・ソリューションは15mm×15mmのPCBスペースに収まり、ICを含むすべての部品をボードの片面に配置できます。

図1 このLT3942ベースのデモ回路(DC2404A)は、本例のLEDの駆動用に特化された、高性能でコンパクトなDC/DCレギュレータ・ソリューションです。

図1 このLT3942ベースのデモ回路(DC2404A)は、本例のLEDの駆動用に特化された、高性能でコンパクトなDC/DCレギュレータ・ソリューションです。

高帯域幅動作もこのソリューションの特長であり、出力電流の迅速な調整が可能です。降圧動作時、LT3942は外付けのPWMソースを使って5000:1の調光比を実現し、100HzでフリッカのないLED調光を行います。外付けのPWMソースを使用できない場合は、内蔵PWM調光機能を使用して調光を行うこともできます。内蔵調光機能は外付けのPWM信号源なしで128:1の調光が可能で、必要なのは抵抗が1つだけです。この抵抗は、調光周波数の設定と、出力電流のデューティ・サイクルを制御するDC電圧の設定に使用します。ほとんどのPower by LinearLEDドライバと同様にLT3942もアナログ調光が可能で、CTRLピンにDC電圧を加えることによって20:1までのアナログ調光を行います。また、アナログ調光とPWM調光を組み合わせれば、それぞれの方法を単独で使用した場合よりも効果的な調光比を実現できます。

拡散スペクトラム周波数変調によるEMIピークの抑制

低ノイズのDC/DCコンバータ・システムの作成を助けるために、LT3942には拡散スペクトラム周波数変調(SSFM)機能が含まれています(オプション)。SSFMを有効にすると、RT抵抗によって設定された値から、それより25%高い値までスイッチング周波数が掃引されます。この掃引動作は、スイッチングによって生じるEMI放射を広い周波数範囲に分散して放射が狭い帯域に集中しないようにし、全体的なEMIピークを低下させます。更に、SSFMを入力および出力EMIフィルタと組み合わせて使用すれば、広い周波数範囲にわたってEMIを減らす助けとなり、EMI放射条件に適合するシステムの設計が容易になります。

12V/1A電圧レギュレータ

LT3942の用途はLEDの駆動だけではありません。このデバイスは高い能力を備えたコンパクトな電圧レギュレータであり、範囲の広い、レギュレーションされていない電源から安定した出力を生成するという問題を解決するのに適しています。図4に示す12V/1A電圧レギュレータ設計は、図2の14W LEDドライバ・ソリューションにわずかな変更をいくつか加えたもので、これら2つの設計は互いによく似ています。LEDドライバ・アプリケーション同様、この電圧レギュレータは広い入力電圧範囲にわたって出力レギュレーションを維持することができ、7Vまでフル出力の電力が得られます。また、出力電力を制限すれば、更に4Vまで入力電圧範囲を下げることができます。

図2 DC2404Aは、LT3942を利用して、広範な入力範囲に対してレギュレーション出力電流を提供するコンパクトな14W LEDドライバ・アプリケーションを創出します。

図2 DC2404Aは、LT3942を利用して、広範な入力範囲に対してレギュレーション出力電流を提供するコンパクトな14W LEDドライバ・アプリケーションを創出します。

図3 LT3942の高帯域幅動作は、広いダイナミック輝度範囲を備えたLED照明アプリケーションにおいて、高いPWM調光比を実現する助けとなります。EMIフィルタを取り除いた状態のDC2404Aは、120Hzで最大4000:1、100Hzで最大5000:1の調光比を実現します。

図3 LT3942の高帯域幅動作は、広いダイナミック輝度範囲を備えたLED照明アプリケーションにおいて、高いPWM調光比を実現する助けとなります。EMIフィルタを取り除いた状態のDC2404Aは、120Hzで最大4000:1、100Hzで最大5000:1の調光比を実現します。

図4の効率曲線は、2MHzのスイッチング周波数で動作させた場合でもLT3942 12Vレギュレータは95%近い優れたピーク効率を持ち、その入力電圧範囲のほとんどにおいて85%以上の効率が得られることを示しています。出力電力が全出力電力の1/10の場合でも80%を超える効率が維持されており、軽負荷条件下でも効率的に動作できる能力を備えていることが分かります。 

図4 12W電圧レギュレータとして構成したLT3942は、広い入力範囲にわたって優れたライン効率特性と負荷効率特性を示します。
図4 12W電圧レギュレータとして構成したLT3942は、広い入力範囲にわたって優れたライン効率特性と負荷効率特性を示します。

(a). Input Voltage Efficiency Sweep.

図4 12W電圧レギュレータとして構成したLT3942は、広い入力範囲にわたって優れたライン効率特性と負荷効率特性を示します。

(b). Load Current Efficiency Sweep.

図4 12W電圧レギュレータとして構成したLT3942は、広い入力範囲にわたって優れたライン効率特性と負荷効率特性を示します。

LT3942の電流検知および制御機能はLEDの調光制御を目的としたものですが、電圧レギュレーションと電流制御が必要とされる他の状況下でも有効に機能します。また、出力に検出抵抗を設定すれば、簡単に定電流定電圧の小型バッテリ・チャージャとして構成することができます。小型バッテリ、コンデンサ・バンク、あるいは太陽電池などから電源を供給される回路のように入力電流が厳密に制限されるアプリケーションでは、検出抵抗をレギュレータの入力側へ移動してモニタリングを行いながらシステムへの入力電流を制限できます。LT3942はCCモードからCVモードへ、あるいはその逆方向へシームレスに遷移し、常に確実に入力または出力、もしくはその両方のレギュレーションを行います。

自動車用のシーケンシャル・ターン・シグナルとトリム照明

比較的新しい高級車やスポーツ車によく見られるようになったシーケンシャル・ターン・シグナル・ライト、いわゆる「流れるウィンカー」は急速に普及が進んでおり、従来の点滅型のものに取って代わりつつあります。初期のシーケンシャル・ターン・シグナルの実装は、複数の降圧コンバータやリニア・レギュレータを使用してターン・シグナル・クラスタ内のLEDに電力を供給していたため、複雑で、どちらかといえば非効率的な上に大き過ぎるソリューションとなっており、考えられる照明設計の範囲もかなり限定されていました。しかし、必要なパワーICの数を減らして1つの効率的なデバイスにすることができれば、照明設計者の選択肢が広がることは明らかです。

1つのコンバータでこのソリューションを完成させるには、すべてのLEDをオンにした場合からLEDを1つだけオンにした場合、更にはその中間のあらゆる組み合わせの場合に至るまで、照明設計時に発生する様々なLEDの組み合わせ、すなわち様々なストリングの電圧に対して出力レギュレーションを維持できるデバイスが必要です。流れるように点灯するライトは種々の構成で接続されたLEDを通じて動作するので、入力電圧は出力電圧より高くまたは低くなることもあれば、等しくなることもあります。この種のアプリケーションには、出力レギュレーションを維持しながら、状況に応じて自動的に動作モードを選択し、シームレスにモードを遷移させることのできる昇降圧コンバータが必要です。LT3942の昇降圧トポロジと高帯域幅動作は、グリッチを発生させることなく、容易にこれらの変更を行えるようにします。

図5に示すシーケンシャル・ターン・シグナル設計は、LT3942を使用して、車載バッテリから8個のLEDへの330mAの電源供給と、方向指示用のアンバーLEDストリング、昼間点灯ライト用の白色LEDストリング、またはヘッドライト/テールライト・デザインに使用するその他のトリム照明のどれを使用するかの選択を行います。

図5 シーケンシャル・ターン・シグナル・アプリケーションでは、新しいPVIN:PVOUTの組み合わせに応じてDC/DCコンバータが迅速に調整を行い、LEDを一度に1個ずつ点灯させます。LT3942を使用すれば何の問題もなくこれを実行でき、シーケンシャル・ターン・シグナルの動作パターンに合わせて昇圧、昇降圧、降圧動作間のシームレスな遷移を実現し、各モードで確実にLED電流のレギュレーションを行います。
図5 シーケンシャル・ターン・シグナル・アプリケーションでは、新しいPVIN:PVOUTの組み合わせに応じてDC/DCコンバータが迅速に調整を行い、LEDを一度に1個ずつ点灯させます。LT3942を使用すれば何の問題もなくこれを実行でき、シーケンシャル・ターン・シグナルの動作パターンに合わせて昇圧、昇降圧、降圧動作間のシームレスな遷移を実現し、各モードで確実にLED電流のレギュレーションを行います。

図5 シーケンシャル・ターン・シグナル・アプリケーションでは、新しいPVIN:PVOUTの組み合わせに応じてDC/DCコンバータが迅速に調整を行い、LEDを一度に1個ずつ点灯させます。LT3942を使用すれば何の問題もなくこれを実行でき、シーケンシャル・ターン・シグナルの動作パターンに合わせて昇圧、昇降圧、降圧動作間のシームレスな遷移を実現し、各モードで確実にLED電流のレギュレーションを行います。 

マイクロコントローラは、ユーザからのターン・シグナル入力と照明システムの間のインターフェースとして動作します。これは、照明設計者(あるいは、必要な場合はエンド・ユーザ)が、LEDを流れるように点灯させるために必要なすべてのタイミングと信号を完全に制御し、更にどの時点でどの色のLEDストリングを点灯させるかを自由に制御することを可能にします。 

この設計では、シーケンシャル点灯パターンの中でターン・シグナルLEDが一度に1個ずつLEDストリングでオンになり、ターン・シグナルを生成します。LEDがマイクロコントローラによってストリングに加えられる際、LT3942は輝度を一定に保つために出力電流のレギュレーションを維持します。すべてのLEDの点灯が終了するとLT3942はスイッチング動作を停止し、次のシーケンシャル点灯サイクルに合わせてコンバータをセットアップするために、出力電圧がドレインされます。ターン・シグナルが使われていないときは、マイクロコントローラがトリム照明のLEDストリングを再接続してユーザからのターン・シグナル入力を待ち、2つの照明機能を組み合わせて1つのLEDドライバ・ソリューションにします。

まとめ

電子機器の設計においては、ますます制約の度を強めるスペース上の条件を満たすために、エンジニアは、常により小型の集積化デバイスを使用することを強いられます。LT3942モノリシック昇降圧コンバータおよびLEDドライバは、性能上の妥協をすることなく複数の省スペース機能を統合することによって、スペースに制約のある電気設計に関わる問題を解決します。そのモノリシック設計と2MHzのスイッチング周波数による動作はソリューションを小型化し、スペースに余裕のないPCB設計への組み込みを可能にします。このデバイスは高い柔軟性を備えており(定電流レギュレーションおよび定電圧レギュレーションのどちらとしても使用可能)、多様なアプリケーションに利用できます。

厳しいEMI条件を満たすために低ノイズの電源を必要とする設計では、LT3942のSSFM機能が伝導妨害波と放射妨害波を低減する助けとなり、その使いやすいICパッケージ・ピン配置によって、スイッチング・ホット・ループを小さくすることができます。これらの機能と広い入力範囲は、小型電源が必要とされる状況に直面した設計者の負担を軽減します。

著者について

Kyle Lawrence
Kyle Lawrenceは、アナログ・デバイセズのアソシエート・アプリケーション・エンジニアです。4スイッチの昇降圧レギュレータや、EMIの少ない車載アプリケーション向けのLEDドライバなど、様々なDC/DCコンバータの設計/テストを担当しています。2014年にサンタクルーズにあるカリフォルニア大学で電気工学の学士号を取得しました。

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