要約
リモートキーレスエントリ(RKE)システムでは、キーフォブから車内のレシーバに送信される無線符号によって、離れた場所から車のロックを解除することができます。RKEシステムは通常、315MHzと433.92MHzを含む免許不要のISM帯域の周波数で動作します。リモート始動の機能および認証付きの双方向RKEが出現したことによって、設計者はこの短距離デバイスの到達距離を延ばしたいと考えています。SAW発振子トランスミッタを、高周波数、高精度の位相ロックループ(PLL)トランスミッタに変えることで、より狭い帯域幅のレシーバを使用することができます。RFICレシーバでは、こうした狭い帯域幅を利用して感度を増大させることができ、それが使用可能範囲の増大につながります。送信出力とレシーバの感度が決まれば、トランスミッタからレシーバまでの信号の伝搬損失が、使用可能範囲の主な限定要素になります。このアプリケーションノートでは、伝搬損失がどのように無線信号の「グランドバウンス」によって影響を受けるのかを明らかにし、簡素化した伝搬損失の近似式を示します。また、空いている駐車場での距離の関数として伝搬損失をグラフで予測します。最後に、マルチパス信号と障害物の効果を予測するためのガイドラインを示します。
はじめに
リモートキーレスエントリ(RKE)システムでは、車の運転者が、符号化した無線信号をワイヤレスでキーフォブから車内のレシーバに送信することによって車のロックを解除します。レシーバは信号を復号化し、アクチュエータを制御してドアを開けます。
RKEシステムの重要な性能の基準は、到達距離です。この距離は、リンクバジェットの計算によって求めることが可能で、その中でも最も重要な要因は、キーフォブから伝送される電力、レシーバの感度、および伝搬損失です。送信出力は、キーフォブ内部の小型アンテナを慎重に整合させることで改善します。感度は、MAX1479のような位相ロックループ式トランスミッタと、MAX1471のような位相ロックループ式RFICレシーバとを組み合わせて使うことによって改善します。このアプリケーションノートでは、伝搬損失のみに焦点を当てます。伝搬損失がトランスミッタとレシーバの間の距離、無線伝送の周波数、およびレシーバに対するトランスミッタの高さにどのように依存するかについて明らかにします。
グランドバウンスでの伝搬損失
「空いている駐車場」という環境において、数メートルを超える距離での伝搬損失の最も重要な特性は、損失は距離の4乗で変化するということです。これは、自由空間における伝送の場合の、距離の2乗とは異なります。伝搬損失は、実際には周波数とは無関係で、アンテナ利得がユニティである小さなアンテナの場合、以下に示す非常に簡単な式に従います。
ここで、Rはトランスミッタとレシーバ間の水平距離、h1はトランスミッタの高さ、h2はレシーバの高さです。
このような短くて覚えやすい伝搬損失の式は、どのようにして得られたのでしょうか? 手短に答えると、「グランドバウンスです」。図1に示すように、グランド付近の任意の場所での無線伝送は、トランスミッタからレシーバへの直接経路とグランドバウンス経路の2つの経路をとります。
図1. グランドバウンスでの伝搬損失図
グランドバウンスによる寄与分は、鏡からの反射と考えることができます。グランドバウンスの寄与分は、通常の領域に対して位相が180゚偏移して反射され、直接経路の寄与分より長い距離を走行します。2つの寄与分はレシーバで再結合され、伝搬長の差がなければレシーバで完全に相殺されます。
直接距離とグランドバウンスの距離は、式2と3で得られます。
R、R1、R2 >> h1、h2であるため、これらの数式は、式4と5で近似されます。
2つの距離の差は、式6によって得られます。
グランドバウンスは、マルチパス伝送の単純な一例です。すなわち送信された無線波が複数の表面で反射することによって、振幅の異なる複数の信号が発生し、またレシーバへの到達が遅れます。
自由空間では、伝送経路は1つしかなく、レシーバにおける信号電力は、以下に示す式7で得られます。
ここで、PRは受信電力、PTは送信電力、GTはトランスミッタのアンテナ利得、GRはレシーバのアンテナの利得、およびは波長です。
前述のように、「グランド」が存在する場合、送信された電力は2つの経路をたどります。すなわち、直接経路とグランドバウンス経路です。この伝送をモデル化するには多くの方法がありますが、その大部分は、大学の卒業論文に相当するような方法です。第2の経路の影響を示す、理にかなった直感的な方法は、電力の半分が直接経路を進み、残りの半分がグランドバウンス経路を進むと仮定することです。結果として、位相がわずかに異なる2つの電圧が存在することになり、これが受信アンテナで差し引きされます(前述したように反射による180゚の位相反転があります)。式8は、これら2つの電圧の結合を複素数で表現しています。
V1およびV2の2つの電圧は、ほとんどの平坦なグランド状態において、ほぼ同じ大きさになります。Vは、受信電力の1/2の平方根に等しい「電圧」(この場合は、ボルト/オーム1/2)と見なすことができます。これを式9に示します。
受信電力は、式8で結合した電圧のちょうど2乗の大きさになります。
式9のVをこの式に代入し、複素数の指数関数項を三角関数と組み合わせることによって、正確な伝搬損失の式は、以下に示すように短縮されます。
式6のRの近似値を式11に代入し、さらにsinx
xと近似すると、簡素化された次の数式が得られます。
広角範囲の小さなアンテナの場合、アンテナの利得は1に近くなります。式12をPR/PTの比率として表し、GT = GR = 1に設定することによって式1の近似式が得られます。
図2および3は、利得がユニティのアンテナの場合の、315MHzと434MHzにおける伝搬損失の式をグラフで示しています。グラフには、式7の自由空間経路での伝搬損失、式11で得られる正確な伝搬損失、および式12で得られる近似伝搬損失が含まれています。正確な伝搬損失は、近距離で大幅に変動し、また信号の周波数に依存することがわかります。
興味深いことに、これらの2つのグラフから、図1の標準的なRKE形態を想定した場合、10メートルの距離での伝搬損失は自由空間経路での伝搬損失に近似可能なことがわかります。これは、直接経路の寄与分とグランドバウンスの寄与分が、300MHz~400MHzにおける波形の約4分の1だけ距離が離れているためであり、結果として90度の位相差が生じます。つまり、2つの寄与分は、建設的でもなければ破壊的でもないということです。
ただし、10メートルを超える距離では、伝搬損失はR-4で変化します。これは、車両からの距離が中長距離の場合の伝搬損失をすばやく計算するのに、式1の数式が非常に役立つことを示しています。実際に、送信と受信の高さhが等しい場合、伝搬損失(dB)は、単純に以下の式で表すことができます。
たとえば、トランスミッタとレシーバの高さが1メートルのとき、1kmでの伝搬損失は、-123dBになります。
図2. RKEキーフォブから車のレシーバまでの信号の伝搬損失(315MHzの場合)
図3. RKEキーフォブから車のレシーバまでの信号の伝搬損失(434MHzの場合)
伝搬損失の計算式を使用する場合のヒント
トランスミッタからの電力を直接経路とグランド経路に分けるという方法は正確なものではありません。このため、モデルによっては、式12と13の数式は2倍も変動します。ただし、重要なことは、このアプリケーションノートの数式によって、達成可能な最大距離性能を極めて良好に近似することができるということ、また、高さと距離によって伝搬損失が変動する様子を説明することができるということです。
車両からの距離が10メートル以下の場合、この10メートル以内で大きな変動がグランドバウンスによって生じることを理解していれば、自由空間での損失モデルを使用することができます。10メートルを超える距離(障害物のない環境)では、R-4の近似を使用することができます。
いずれの距離であろうと、その他に信号を拡散させるような表面が存在すると、伝搬損失の変動は増大します。その他に障害物(駐車場にある他の車、街灯柱、低い建物など)があると、さらなるバウンス経路が生じ、無線波が回折され、またコンクリートのビルの場合には無線波が減衰されます。この場合、R-4損失の挙動は、自由空間での損失と比べて悪くなるように思われますが、実際にはほとんど問題ありません。現実的な設定では、複数の表面によって生じる瞬間フェージングに対応するため、式1の「空いている駐車場」の損失から20dB差し引くことが、手引きとして推奨されているからです。キーフォブが建物の中にある場合(たとえば、リモート始動のアプリケーションの場合)、式1の損失から30dB~40dBを差し引きます。
最後の分析結果として、最大距離を求める最も確実な方法は、実地テストを行うことです。上記の近似は、参照点または「確認のためのチェック」であり、これを参考にして実際の測定を開始してください。
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