要約
一般に、ICのパッケージについては、2種類の熱抵抗値が測定されます。1つは、ジャンクションから周囲までの熱抵抗であるθJA (Theta JA)です。もう1つは、ジャンクションからケースまでの熱抵抗であるθJC(Theta JC)です。ここで言うジャンクションとは、ICチップのことだと捉えればよいでしょう。これらのパラメータは、ICの最大消費電力や自己発熱に関する計算を行ったり、種類の異なるパッケージを比較したりする際に活用できます。本稿では、Maximの代表的な温度センサーと1-Wire®デバイスのθJA、θJCの値を示します。また、それらの活用方法を紹介します。
はじめに
製品の信頼性を確保するためには、電子システムの熱を管理することが非常に重要です。ICが高温にさらされると、現場で故障したり誤動作したりするかもしれません。そうすると、コストをかけてシステムを修理しなければならなくなる可能性があります。場合によっては、システムの再設計が必要になるかもしれません。ICの熱管理を行うためには、1つの標準的なパラメータに注目します。それがICのパッケージの熱抵抗です。熱抵抗は、ICのジャンクションと外部の基準点を対象とした値として定義されます。一般的に使われる熱抵抗は2種類あります。1つは、ジャンクションから周囲までの熱抵抗であるθJA(Theta JA)です。もう1つは、ジャンクションからケースまでの熱抵抗であるθJC(Theta JC)です。これらのパラメータの値は℃/Wという単位で表されます。つまり、消費電力に対する温度の上昇値として表現されます。システム設計者は、これらの熱抵抗の値を基にして、様々なパッケージの熱性能を評価することになります。
本稿では、Maximの代表的な温度センサーと1-Wire®デバイスを例にとります。各製品のパッケージ・オプションについて整理した上で、それぞれのθJAとθJCの値を示します。また、それらの活用方法として、いくつかの計算例を紹介することにします。
θJAとθJCの値
表1、表2に、代表的な1-Wireデバイスと温度センサーのθJAとθJCの値を示しました。これらの値は、JESD規格に従って測定されたものです。具体的には、2層基板と4層基板を対象として規定された試験方法に即しています。基板のサイズ、配線パターンのレイアウト、環境条件についてもすべて規格に基づいています。JEDEC規格について詳しく知りたい方は、www.jedec.orgにアクセスし、JESD51規格を参照してください。
8ピンDIP(300mil) | 8ピンSO(150mil) | 8ピンSO(208mil) | 3ピンPR-35 | 3ピンT0-92 | 3ピンSOT23 | 5ピンSOT23 | 8ピンμSOP/μMAX® | 8ピンμSOP(露出パッド) | 24ピンTSSOP(173mil) | 6ピンTSOC(150mil) | ||
2層基板 | θJA | 110 | 170 | 221 | 97 | 82 | 166 | |||||
θJB | 250 | 140 | ||||||||||
θJC | 40 | 40 | 130 | 82 | 41.9 | 15 | 37 | |||||
4層基板 | θJA | 128.4 | 27.72 | 206.3 | 72 | 126.7 | ||||||
θJB | ||||||||||||
θJC | 40 | 3.12 | 41.9 | 13 | 37 | |||||||
1-Wireデバイス | DS18B20 | X | X | X | ||||||||
DS18B20-PAR | X | |||||||||||
DS18S20 | X | X | ||||||||||
DS18S20-PAR | X | |||||||||||
DS1821 | X | X | ||||||||||
DS1822 | X | X | ||||||||||
DS1822-PAR | X | |||||||||||
DS1825 | X | |||||||||||
DS28EA00 | X | |||||||||||
DS2431 | X | X |
8ピンDIP(300mil) | 8ピンSO(150mil) | 8ピンSO(208mil) | 3ピンPR-35 | 3ピンT0-92 | 3ピンSOT23 | 5ピンSOT23 | 8ピンμSOP/μMAX | 8ピンμSOP(露出パッド) | 24ピンTSSOP(173mil) | 6ピンTSOC(150mil) | ||
2層基板 | θJA | 110 | 170 | 221 | 97 | 82 | ||||||
θJB | 250 | 140 | ||||||||||
θJC | 40 | 40 | 130 | 82 | 41.9 | 15 | ||||||
4層基板 | θJA | 128.4 | 27.72 | 206.3 | 72 | |||||||
θJB | ||||||||||||
θJC | 40 | 3.12 | 41.9 | 13 | ||||||||
2線式デバイス | DS1621 | X | X | X | ||||||||
DS1624 | X | X | ||||||||||
DS1629 | X | |||||||||||
DS1631 | X | X | X | X | ||||||||
DS1631A | X | |||||||||||
DS1721 | X | X | ||||||||||
DS1731 | X | |||||||||||
DS1775 | X | |||||||||||
DS1780 | X | |||||||||||
DS75 | X | X | ||||||||||
DS75LV | X | X | ||||||||||
DS620 | X | |||||||||||
3線式/SPIデバイス | DS1620 | X | X | |||||||||
DS1626 | X | |||||||||||
DS1720 | X | |||||||||||
DS1722 | X | X | ||||||||||
DS1726 | X | |||||||||||
アナログ出力デバイス | DS60 | X | ||||||||||
DS600 | X |
熱抵抗を使用する際の注意点
表1、表2で示した値を、JEDECの規格で定められたのとは異なる条件で使用すると、ほぼ間違いなく計算上の誤差が生じます。実際、JEDECの51-3規格には、「この試験用の基板で測定した値は、あくまでもパッケージ間の比較を目的としたものであり、これをそのまま使用して特定のシステムのアプリケーション性能を予測することはできないことを強調しておく」という旨の記載があります1。
表1、表2に示した値は、非標準の基板のサイズ、密封されたパッケージ、隣接するICからの熱の影響などを加味したものではありません。それらに限らず、実際のアプリケーションでは様々な要因によって温度が変化する可能性があります。各アプリケーション用の基板を使用する際には、温度を実測して更なる分析を行わなければなりません2。
自己発熱の計算
温度センサーが電力を消費すると、そのセンサーによって測定した温度の値は周囲の温度よりも高くなることがあります。これは、自己発熱として知られる現象です。以下の式を使えば、θJAの値に基づき、IC内部の温度を推定することができます。
例えば「DS1620」は、8ピン、208milのSOパッケージを採用した温度センサーです。そのθJAは27.72℃/Wとなっています。同センサーのデータシートによれば、最大変換電流は1mA、最大電源電圧は5.5Vです。変換デューティ・サイクルが最も厳しい条件である100%だと仮定すると、消費電力は5.5mWになります。真の意味で最も厳しい条件における消費電力を求めるために、同ICのTHピンとTCOMピンがそれぞれ4mAの電流をシンクしていると仮定します。データシートによると、4mAの電流をシンクしている場合のVOLは最大0.4Vです。したがって、1ピンあたり1.6mWの消費電力が追加され、トータルの消費電力は8.7mWになります。これに伴う温度上昇値は、次のように計算できます。
このような最も厳しい条件においても、DS1620のジャンクションの温度上昇は0.25℃未満です。そのため、このICとパッケージの組み合わせにおいて、自己発熱は些細な問題だということになります。
最大消費電力
熱抵抗の値は、特定のパッケージが許容できる最大消費電力を概算するために使用することもできます。その計算は、そのままの状態で使用してもパッケージによって十分に熱を放散できるのか、それとも外付けのヒート・シンクが必要なのかという判断に役立ちます。許容できる最大消費電力は、以下の式によって計算できます。
例として、アプリケーションの最高周囲温度が110℃であると仮定します。DS1620のデータシートには、最高動作温度が125℃と規定されています。これらの値を上の式に代入すると、許容できる最大消費電力は次のように求まります。
つまり、SOパッケージに収容されたDS1620を安全に使用するには、最大消費電力を541mWまでに抑えなければなりません。消費電力がこれよりも多くなる場合、周囲温度を低下させるか、より多くの熱が放散されるようヒート・シンクを追加する必要があります。先述したように、DS1620の最大消費電力は8.7mWです。そのため、このアプリケーションはヒート・シンクを追加しなくても安全に機能します。
種類の異なるパッケージの比較
特定のアプリケーションにおいて、異なるパッケージを採用した製品を使用できるか否かを判断するにはどうすればよいでしょうか。その手段としても熱抵抗が役立ちます。このような検討を行うためには、そのアプリケーションにおける実際のジャンクション温度を測定しなければなりません。温度センサーについて言えば、それによって測定された温度を読み取るだけで済みます。次に、周囲温度を正確に測定する必要があります。これら2つの温度の測定値が得られれば、周囲温度との差を把握できます。その情報とθJAの値を使用すれば、異なる2つのパッケージを比較することが可能になります。具体的には、以下の式を使用することにより、異なるICの温度上昇値を推定できます3。
例えば、あるアプリケーションにおけるDS1620の温度上昇値が0.241℃であったとします。ここで、同じアプリケーションにおいて、より小型な別の製品(例えば、温度センサー「DS1626」)を使用した場合の温度上昇値を推定したいとします。その値は、以下の式で求められます。
DS1626の方がパッケージが小さいため、上の式に示したように温度上昇値はDS1620と比べてかなり高くなります。ここでは、温度上昇値は両ICのθJAの比に比例する点に注目してください。このように、熱抵抗の概念は、複数のICの温度と消費電力について比較できるようにするために考案されました。熱抵抗値を基にして適切に計算を実施すれば、信頼できる結果が得られます3。
まとめ
パッケージの熱抵抗値であるθJAとθJCは、JEDECの規格で定められた環境下にあるICの熱応答の判定に役立ちます。条件が異なる場合、計算値と実測値にはズレが生じる可能性が高くなります。熱抵抗値は、自己発熱と最大消費電力の概算にも利用できます。ただ、熱抵抗値を利用する主な目的は、異なるパッケージの熱性能を比較できるようにすることにあります。
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