受動LCバランを使用してMAX2538のFM経路を最適化

2004年03月31日
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要約

このアプリケーションノートでは、183.6MHzのシングルエンドFM IFフィルタへのインタフェース設計について説明します。受動LCネットワーク(「バラン」を使用)によって、必要とされる平衡から不平衡へのインタフェースが得られます。設計では、4つのインダクタと3つのコンデンサを使用します。マッチングネットワークとFMフィルタによる挿入損失は4.9dBです。

MAX2538セルラフロントエンドICは、AMPSセルラ信号経路のための専用ミキサを備えています。セルラバンドLNA (Low Noise Amplifier:低ノイズアンプ) (869MHz~894MHz)は、AMPSとセルラCDMA (符号分割多元アクセス)の両方に共通です。ミキサの設計は、ノイズとLO (Local Oscillator:局部発振器)の抑制を最適化するために、ダブルバランス化されています。このミキサのICピン配列は、差動IF出力とシングルエンドのRF入力となります。

マキシムのセルラ電話の参照設計V3.5では、シングルエンド入出力のFM IFフィルタを採用しているため、差動ミキサ出力をシングルエンドの動作に変換する必要があります。ディスクリートのL-Cバランの設計(平衡/不平衡トランス)が難しいのは、主として、ミキサ出力(~3.3kΩ)からIFフィルタ入力(180Ω)へのインピーダンス変成(「Z」)の比率が高いためです。ここでは18:1のZ比となり、シングルセクションのトランスで実現することは非常に困難です。低い挿入損失を確保するための実用上の限界となる変成比は4:1であることが知られています。部品数を最小限にするために、1次LCの設計によって、妥協案として挿入損失1.5dBを実現しました。

以下は、平衡/不平衡LCトランスの設計方法およびFMフィルタのマッチング方法の例です。

ミキサの内部ソースインピーダンスは12kΩと並列の0.75pFです。ミキサのIIP3 (Input Third Intercept:入力3次インターセプト)、利得、およびNF (Noise Figure:ノイズ指数)のトレードオフを全体として最適なものにするため、3.3kΩの外付け負荷抵抗を選択しています。MAX2538の性能を最大限に活用するため、この3つ(IIP3、利得、およびNF)の目標を約+7dBm、13dB、および8.5dBとしています。抵抗性負荷は広帯域の終端として機能し、相互変調性能を大幅に劣化させる帯域外反射を吸収します。

ステップ1:

MAX2538 FMミキサのシミュレーションから、出力インピーダンスのモデルを導き出しました。FMミキサの平衡/不平衡L-CトランスおよびFMフィルタマッチングネットワークを容易かつ適切にシミュレートするには、IF負荷抵抗とミキサの出力モデルを組み合わせて、差動並列回路を差動直列等価回路に変換すると便利です。

図1. ミキサ出力インピーダンスをモデル化して設計を簡素化
図1. ミキサ出力インピーダンスをモデル化して設計を簡素化

ステップ2:

FMフィルタの入力と出力のモデルが、対象の周波数において既知でなければなりません。使用するフィルタは、Toyocomの製品番号TF3-J3DC5 (183.6MHz)です。

図2. FMフィルタの入力/出力インピーダンス
図2. FMフィルタの入力/出力インピーダンス

ステップ3:

ここでは、RFシミュレーションソフトウェアを使用して、ToyocomのFMフィルタをシミュレートしています(フィルタの2ポートのSパラメータを利用)。また、基準を得るために各部品の値を理想的なものとしています(図3参照)。図4に理想的な周波数応答を示します。この基準は理想的な場合の性能を示します。実際に現実のインダクタのモデルを使用した場合、現実のインダクタのQ (Quality factor)は実際には低いため、性能は低下します。挿入損失を低減するため、実際の実装には高Q値の巻線型インダクタを使用してください。このアプリケーションで使用するコンデンサにはセラミックモノリシックチップのコンデンサをお勧めします。これは、コンデンサのQが183.6MHzにおいて200よりも大きく、挿入損失を最小限に抑えることができるからです。

図3. 最適な部品を用いたシングルエンドのマッチングネットワークが設計の出発点
図3. 最適な部品を用いたシングルエンドのマッチングネットワークが設計の出発点

図4. FMフィルタの最適性能
図4. FMフィルタの最適性能

ステップ4:

フィルタの入力と出力のインピーダンスと周波数応答がわかれば、平衡/不平衡L-Cトランス(バラン)を設計することができます。トランスは183.6MHzで共振します。以下の公式を使用すれば、回路の共振周波数を計算が可能となります。

L = 238.5nHおよびC = 3.15pF (ミキサモデルから2.4pFと0.75pFを選択して3.15pF)を選択すると、Fo = 183.6MHzとなります。

フィルタの入力インピーダンスは、55.49 - j64.33Ωです。したがって、以下の回路はミキサの出力インピーダンスに一致して最初は55.49Ωになります。平衡/不平衡L-Cトランスは最適ではなく、使用したインダクタのQは35であるため、回路には挿入損失が存在し、また元の238.5nHのインダクタを使用しても183.6MHzで共振しません。このため、220nHを使用して183.6MHzで共振するよう設計を再チューニングする必要があります(図5を参照)。図5の回路の挿入損失は-1.44dBです(図6を参照)。

図5. 220nHのインダクタを使用して183.6MHzで共振するように設計をチューニング
図5. 220nHのインダクタを使用して183.6MHzで共振するように設計をチューニング

図6.
図6.

ステップ5:

最後に、平衡/不平衡L-CトランスをToyokomのFMフィルタにマッチングします。

図7. 最終設計で3つのコンデンサを使用
図7. 最終設計で3つのコンデンサを使用

図8. 完成した設計での周波数応答
図8. 完成した設計での周波数応答

結論

最小限のディスクリート部品(2つのインダクタと1つのコンデンサ)の使用で平衡/不平衡L-Cトランスを設計しています。また挿入損失を最小限に抑えます。平衡/不平衡L-Cトランスによる挿入損失は-1.44dBであり、FMフィルタを通した挿入損失は、183.6MHzにおいて-3.16dBです。図7に使用した回路を示し、図8にその性能を示します。

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