ネガティブチャージポンプがWLEDバックライトでインダクタ並の効率を実現

2009年04月15日
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要約

従来、設計者たちは白色LED (WLED)に必要な順方向バイアスを供給するために、キャパシタチャージポンプまたはインダクタを備えたブースト回路を使用してきました。チャージポンプの方が安価で使用が簡単ですが、今まではインダクタベースのブースト回路に比べ効率が劣るという問題がありました。このアプリケーションノートでは、インダクタなしの設計のシンプルさと低コストを保ちながら、インダクタベースの設計の効率を実現するネガティブチャージポンプ設計を紹介します。

このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 64」(PDF、1.99MB)にも掲載されています。

概要

白色LED (WLED)は小さな実装面積で大きな光出力が得られるため、携帯電話をはじめとするポータブルデバイスに用いられる小型カラーディスプレイのバックライトソリューションに適しています。しかし、1セルのリチウムイオン(Li+)バッテリで直接駆動するデバイスでは、使用に1つの課題が存在します。Li+セルの動作電圧が基本的に3Vから4.2Vであるのに対し、WLEDの順方向電圧が3.5Vから3.8V (20mA)である点です。つまり、動作範囲の低いほうではLi+バッテリからWLEDを駆動できるだけの電圧が得られないことになります。

このWLEDに適切な順方向バイアスをかけるため、2つの方法が一般的に使用されています。1つはキャパシタチャージポンプ、もう1つはインダクタベースのブースト回路です。従来より、効率とバッテリ寿命という観点から、インダクタベースの回路が最善です。しかし高コストのインダクタが必要であること、また、レイアウトと設計を上手く行わないと電磁干渉と無線干渉が発生するという問題があります。一方、チャージポンプソリューションはシンプルな形での実装が可能であり、かつ、低コストです。しかし一般に効率が低く、バッテリの寿命が短くなるという問題があります。

ネガティブチャージポンプ技術が低コスト、高エネルギー効率のアプリケーションを実現

マキシムの適応切替え付きのネガティブチャージポンプアーキテクチャは、WLEDドライバICがシンプルで低コストなインダクタなしの設計で、インダクタ並みの効率(平均85%)を実現することを可能にします。

この革新的なトポロジは、適応型モード切替え技術を使用して、各LEDを個別に供給、調光、そして制御します。この方法はLED効率を12%改善し、バッテリ寿命を延長し、ポータブルアプリケーションにおける貴重なPCB面積を節約します。これらのデバイスは、インダクタベースの設計並みの効率を提供し、エネルギー効率を価格面で改善するのに効果的です。

分数倍チャージポンプの効率向上

第一世代のWLEDチャージポンプソリューションは、基本的なダブラトポロジ(2倍モード)をコアに持つものでした。2倍チャージポンプの効率は、次式で表されます。

PLED/PIN = VLED × ILED/[(2 × VIN × ILED + IQ × VIN)]
ただしIQは回路の休止動作電流です。

通常、IQはWLEDの負荷電流に対して小さいため、効率は次式で近似することができます。

PLED/PIN ≈ VLED/2VIN
この効率を高めるために、第二世代のWLEDチャージポンプは、常に入力の2倍を出力する形にはなっていません。バッテリ電圧が十分に高い間は1.5倍チャージポンプで十分なWLED駆動電圧が得られるからです。1.5倍チャージポンプの変換効率は、次式で表されます。
PLED/PIN = VLED × ILED/(1.5 × VIN × ILED + IQ × VIN)
≈ VLED/1.5VIN
このように、チャージポンプを1.5倍にすると効率が大幅に向上します。3.6VのバッテリからWLEDへ3.7Vを供給する場合、効率は2倍チャージポンプなら51%であるのに対し、1.5倍チャージポンプなら69%に跳ね上がります。

第三世代WLEDドライバは、バッテリ電圧が十分高いときには低ドロップアウト電流レギュレータを通じてバッテリをLEDに直接接続する1倍トランスファモードを備えており、さらに効率が改善されています。効率は次式で表されます。

PLED/PIN = VLED × ILED/(VIN × ILED + IQ × VIN)
≈ VLED/VIN
WLEDを直接駆動できるほどバッテリ電圧が高い場合に1倍モードとすると、効率は90%を超えます。4VのバッテリからWLEDへ3.7Vを供給する場合、効率は92%になります。

バッテリ電圧に応じた効率の最大化

最適化されたWLEDドライバは、与えられたバッテリ電圧とLED電圧のために、可能な限り最も効率が高い電力トランスファモードを使用します。また、バッテリ(あるいはWLEDの)電圧が変化すると、モードを切り替えるようになっています。しかしスイッチ損失があると、バッテリ電圧が高めであるにもかかわらず、効率の低いモードへ切り替えなければならなくなります。バッテリ電圧が低下するときに、ドライバは可能な限り長い時間、高効率モードを維持することが求められます。これを実現するためには、電源スイッチの損失を極力抑える必要がありますが、そうすると所要スペースとコストの増大という問題が発生します。

前述のように、変換効率が最も高くなるのは1倍トランスファモードですが、このモードを利用できるのは、バッテリ電圧がWLEDの順方向電圧(VF)よりも高い場合だけです。バッテリ電圧が下がっても1倍モードを使えるようにするために、通常は1倍モードのバイパスFETにおける電圧降下と電流レギュレータにおける電圧降下を可能な限り小さくします。これらの電圧降下が、損失および1倍モードの最小入力電圧を決定します。1倍モードとするために必要なバッテリ電圧の最小値は、以下の式で表されます。

VIN(MIN_1X) = VLED + bypass pFET RDS(ON) × (ILED + VDROPOUT of the current regulator)
従来型のポジティブチャージポンプによるWLEDソリューションでは、図1に示すように、pFETのバイパススイッチでバッテリ電圧をWLEDに印可します。このFETのRDS(ON) は、通常、1Ω~2Ωです。この電気抵抗をさらに小さくするには限りがあります。そのためには大型のFETが必要となり、パワーデバイスのコストが上昇してしまうからです。

Figure 1. In 1x mode, the positive charge pump uses an internal switch to bypass VIN to the WLEDs' anodes.
図1. ポジティブチャージポンプは、1倍モード時、内蔵スイッチでVINをWLEDアノードへバイパスします。

ポジティブチャージポンプの場合、1倍トランスファモードで駆動するにはVINが不足するとき、VINを1.5倍あるいは2倍してWLEDのアノードを駆動します。このポジティブチャージポンプに1倍モードを実装するためには、内蔵スイッチを追加し、チャージポンプをバイパスしてVINをWLEDのアノードに直接印可できるようにしなければなりません。

ネガティブチャージポンプでは、VINが低すぎるとき、VINの-0.5倍を生成してWLEDのカソードを駆動します。このアーキテクチャでは、1倍モード時、チャージポンプから出力されるVINの-0.5倍をグランドにバイパスする必要がありません。電流レギュレータがVINからグランドへ流れるWLEDの電流を直接制御するからです。そのため、ネガティブチャージポンプアーキテクチャの場合、次式の範囲まで1倍モードを拡大することができます。

VIN(MIN_1X) = VLED + VDROPOUT of the current regulator
1倍モード時のネガティブチャージポンプの電流パスを図2に示します。このようにpMOSバイパススイッチは不要で、VINからグランドへ流れるWLED電流を直接制御します。ILEDがトータルで100mAの場合(5つのWLED x 20mA)、2ΩのpMOSバイパススイッチがあると200mVの電圧降下が発生します。Li+バッテリを放電させるとき、3.6Vから3.8V (typ)の電圧範囲では電圧が比較的安定します。このような典型的な放電カーブである場合、1倍モードの動作電圧範囲が200mV、拡大されれば、効率が大幅に向上します。

Figure 2. Individual switchover for each WLED is possible when the driver switches to its negative-charge-pump mode, which improves overall efficiency
図2. ドライバをネガティブチャージポンプモードとすると、WLEDごとに切り替え可能となり、総合効率が向上します。

個々のLED順方向電圧に応じた効率の最大化

従来型の1倍/1.5倍ポジティブチャージポンプWLEDドライバの場合、WLEDのアノードがチャージポンプ出力に接続します。複数WLEDのマッチングがとれていない場合、順方向電圧が最も高いWLEDを駆動できるだけの余裕(VIN - VLED)がなくなった時点で、ドライバは1.5倍モードへと移行します。

ネガティブチャージポンプアーキテクチャでは、わずか1つだけ順方向電圧の大きなWLEDがあったからといって効率の高い1倍モードを捨てる必要がありません。図2に示すように、モードMux回路でWLEDごとに1倍モードまたは-0.5倍モードを選択します。そのため総合効率を最大化することができます。

たとえばチャージポンプドライバのMAX8647/MAX8648では、順方向電圧が最も高いWLEDを駆動できないレベルまで入力電圧が低下すると-0.5倍チャージポンプがオンになります。この状態では、VFが最も高いWLEDのみが(グランドではなく) -0.5倍のネガティブレイルによる駆動となり、順方向電圧が低い残りのWLEDは1倍モードのままとなります。

さらに効率を高めるために、MAX8647/MAX8648では、WLEDごとにモード切り替えが行えるようになっています。VFの違いや温度変化に応じて、WLEDごとに異なるタイミングとVINレベルで-0.5倍モードへと適応して切り替えられます(図3)。

Figure 3. The efficiency of the MAX8647/MAX8648 charge-pump WLED drivers can be extended by switching to a negative-charge-pump mode and to individual mode switching for each WLED
図3. チャージポンプWLEDドライバMAX8647/MAX8648では、ネガティブチャージポンプモードへの切り替えとWLEDごとの個別モード切り替えによって効率を高めます。

まとめ

従来、チャージポンプ型のWLEDバックライトには、インダクタベースの回路よりも効率が低いという問題がありました。また、アーキテクチャがポジティブチャージポンプの場合、WLEDがどれか1つでも設定値以下の電流になると、効率が最も高いモード(1倍)をあきらめなければなりませんでした。このため大量のWLEDを用いたシステムでは、順方向電圧の不揃いによってかなりの電力が無駄に消費されてしまいます。

ポジティブチャージポンプで一般的であるこのような非効率を一掃するのがネガティブチャージポンプアーキテクチャです。MAX8647/MAX8648といったデバイスは、ネガティブチャージポンプアーキテクチャを採用しているとともに、LEDごとの個別切替機能を搭載することによって効率を大幅に高めており、バッテリによる駆動時間を大きく伸ばすことができます。このようなWLEDドライバは、設計者がシンプルで低コストというチャージポンプソリューションの特長を生かしつつ、インダクタ並みの効率を実現することを可能にします。

韓国の「Semiconductor Network」の2008年5月号にも、同様のアーティクルが掲載されています。

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