MOSFETの安全動作領域とホット・スワップ回路
「このアプリケーションに対し、このMOSFETのSOAは十分なものなのでしょうか?」――。これは、ホット・スワップ回路の設計者から最もよく尋ねられる質問です。SOAとはSafe Operating Areaの略であり、日本語では安全動作領域と呼ばれます。特定のアプリケーションに特定のMOSFETが適しているかどうかを評価する際、そのSOAについて直感的に理解できるようになれば効率的に作業を進められます。そこで本稿では、MOSFETのデータシートに記載されているSOAの仕様について説明します。特に、ホット・スワップ回路での利用を前提とし、MOSFETの熱性能とSOAの関係に重点を置いて解説を行います。こうした事柄について理解しておけば、回路シミュレーションによってMOSFETのSOAを正確に評価することができるようになります。SOAのシミュレーションは、LTspiceに付属しているSOAthermを利用することで実施可能です。
SOAとは何か?
MOSFETのデータシートには、必ずSOAのグラフが掲載されています。そのグラフは、MOSFETに特定の値の電圧と電流を印加できる最長の時間を表しています。図1に示したのが、SOAのグラフの例です。このグラフは、Nexperia(NXP Semiconductors)が提供するNチャンネルのMOSFET「PSMN1R5-30BLE」のデータシートから転載しました。この製品は、30Vのドレイン‐ソース間電圧に対応します。また、オン抵抗は最大1.5mΩです。同製品に10V、100Aが印加されている状態について、SOAのグラフを基に考えてみましょう。グラフ上でこの条件に対応する点を見ると、1ミリ秒と10ミリ秒の線の間にあることがわかります。つまり、10V/100Aを1ミリ秒印加しても、このMOSFETに損傷が生じることはないということです。なお、その際にはケース(タブ)の温度が25°Cに保たれていることが重要な条件になります。
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図1. SOAのグラフの例。パルス状の電圧/電流の印加を許容できる最長の時間を表しています。
しかし、実際にはケースの温度を25°Cに維持することはできません。それを実現するには、具現化が不可能なレベルの完璧なヒート・シンクが必要になるからです。ただ、短期間の事象(10~100ミリ秒未満)が発生しただけなら、ケースの温度はそれほど上昇しません。ホット・スワップ回路では、短期間の事象(起動、入力電源のステップ、過電流出力の状態など)における大きなドレイン‐ソース間電圧だけを考慮します。その場合、通常は10~100ミリ秒の時間制限は満足できます。
ケースの温度が25°以上の場合のディレーティングや10ミリ秒以上続く事象については後述します。
定常状態
SOAに関連する過渡的な事象について深く掘り下げる前に、より馴染みのある定常状態(DC)の制限について確認しておきましょう。MOSFETのデータシートでは、シリコンの最高温度(通常、150°Cまたは175°)と併せて、θJCとθJAを規定しています。θJCとは、シリコン(ジャンクション)からパッケージ(ケース)の底面までの熱抵抗のことです。一方、θJAはシリコン(ジャンクション)から環境(周囲)までの熱抵抗を表します。なお、θJCとθJAの代わりにRth(JC)とRth(JA)という表記が使われることもあります。
PSMN1R5-30BLEのデータシートを見ると、θJA = 50°C /W、θJC = 0.3°C /Wとなっています。θJAの値は、データシートに掲載されているプリント回路基板の構成を使用した場合に、周囲とMOSFETのシリコン・ダイに関連する温度の上昇値を計算するために使われます。PSMN1R5-30BLEの場合、θJAはFR4のプリント基板における最小の実装面積を前提として規定されています。MOSFETのメーカーがθJAを規定するために使用したのと同じプリント基板を使用すると仮定すると、ダイの温度は次式で表されます。
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例えば、θJAが50°C /Wで周囲温度が75°Cであるとします。その場合、MOSFETで1Wの電力が消費されると、ダイの温度は125°Cになります。
最近のほとんどのMOSFETは、金属のタブが露出した構造のパッケージを採用しています。θJAは、MOSFET自体ではなく、主としてプリント基板のレイアウトによって決まります(とはいえ、MOSFETの露出パッドの形状とサイズも影響を及ぼします)。また、θJAは基板のレイアウトと空気の流れに大きく左右されます。つまり、メーカーが提示しているθJAは大まかな見積もりにしか使えないということになります。
それに対し、θJCは有用な指標であるケースが多いと言えます。なぜなら、この値は、基板レイアウトの影響を受けることなくMOSFETの性質を示すものだからです。シリコンの温度を求めるためには、以下の式を使用します。
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消費電力が1Wの場合、シリコンの温度はケースの温度よりも0.3°C高くなるだけです。この式を使用する場合、ケースの温度TCASEは物理的に測定するか、あるいはプリント基板の熱シミュレーションによって算出する必要があります。基板のレイアウト、空気の流れ、ヒート・シンクは、定常状態の条件を計算する際の非常に重要な要素です。
過渡熱抵抗
ほとんどのMOSFET製品のデータシートを見ると、過渡熱抵抗のグラフも掲載されています。過渡熱抵抗Zth(JC)は、時間が制限されたパルス電力によって生じる温度上昇に対応しています。過渡熱抵抗のグラフ上で、最長時間の点は必ずθJCの値に一致します。θJCは、定常状態(無限の時間に対応)の熱抵抗として定義されているからです。図2に、PSMN1R5-30BLEのデータシートに掲載されている過渡熱抵抗のグラフを示しました。ここで重要な意味を持つのは、単一パルスに対応するカーブだけです。
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図2. 過渡熱抵抗のグラフ。ジャンクションから基板(mounting base)までの熱抵抗をパルス幅の関数として示しています。
過渡熱抵抗のグラフを利用すれば、任意の幅のパルス電力に対する温度上昇の値を計算することができます。例として、MOSFETのドレイン‐ソース間電圧VDSが12V、ドレイン電流IDが100Aであるケースを考えます。そのMOSFETで消費される電力は12V×100A = 1.2kWです。過渡熱抵抗のグラフを見ると、1ミリ秒に対応する熱抵抗の値は0.075°C /Wです。その場合、シリコンのジャンクション温度は次式のようになります。
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ケースの温度が25°Cに固定されており、1ミリ秒/1.2kWのパルスを印加した場合にこのような温度になるということです。
MOSFETのメーカーは、VDSが中程度(Spirito領域よりも下。同領域については後述)の場合について、過渡熱抵抗のグラフを基にしてSOAのグラフを作成しています。つまり、これら2つのグラフは同じ情報の別の表現によって示しているということです。SOAのグラフは、VDSとIDの各組み合わせに対して、ダイが最大ジャンクション温度(150°Cまたは175°)に到達するまでにかかる時間を表しています。そして、SOAのグラフはケースの温度が25°の場合だけに対して有効です。パルスによって発生するケースの温度上昇を含め、ケースの温度がもっと高い場合にはディレーティングの必要があることに注意してください。
PSMN1R5-30BLEの最大ジャンクション温度が175°Cで、ケースの温度が25°Cだとすると、1.2kWに対する最大許容時間は以下のようにして計算することができます。
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過渡熱抵抗のグラフを見ると、Zth(JC)は約2ミリ秒で0.125°C /Wを横切ることがわかります。これは、SOAのグラフとも一致しています。
過渡熱抵抗のグラフについて理解すれば、ケースの温度が25°C以外の場合の許容時間を計算することができます。上で示した1.2kWの例では、ケースの温度が25°Cである場合の許容時間は2ミリ秒でした。ケースの温度が85°Cであるとすると、以下の計算が成り立ちます。
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過渡熱抵抗のグラフを見ると、Zth(JC)は1ミリ秒で0.075°C /Wを横切ることがわかります。つまり、ケースの温度が25°Cの場合の2ミリ秒と比べて大幅に短くなっています。
熱的な挙動は線形に現れます。そのため、過渡熱抵抗のグラフを使えば任意の消費電力に対する温度の上昇値を求めることができます。その計算は畳み込みを使用することでも行えますが、SPICEなどのシミュレータで熱的な挙動をモデル化する方が便利です。MOSFETの熱的な挙動をモデル化する作業は、LTspiceのSOAthermツールを使用することで実施できます。
10ミリ秒を超える事象
ほとんどのMOSFETでは、10ミリ秒未満しか継続しない過渡的な現象の間にケースの温度が大きく上昇することはありません。その際に発生する熱が、MOSFETのシリコンと銅を伝搬していくのには相応の時間がかかるからです。実際、熱がプリント基板に到達し始めるまでには約10ミリ秒の時間がかかります。
MOSFETが備える銅のタブが小さいものであった場合、MOSFETの温度はより速く上昇し始めてプリント基板に熱が到達します。銅のタブが大きいパッケージ(D2PAKなど)の場合、熱は銅のタブの中でもまだ冷たい部分に向かって外側に伝わっていきます。そのため、多くの銅を使用したパッケージでは、過渡熱抵抗のグラフやSOAのグラフが同様であったとしても、銅の量が少ないMOSFETと比べて、SOAが重要になるアプリケーション(ホット・スワップ回路、リニア・アンプなど)に対して有利になります。
パッケージに使われる銅については、次のように考えればよいでしょう。すなわち、10ミリ秒~10秒にわたる事象が発生している際、MOSFETの温度の上昇を制限するのに役立つ貯水池のようなものだということです。過渡熱抵抗やSOAのグラフについては、使い方を誤らないように注意しなければなりません。それらは、現実にはあり得ないほど完璧なヒート・シンクによってケースの温度が25°Cに維持されている状態を仮定して作成されているからです。
次に示す図Aは、Power-SO8パッケージとD2PAKパッケージの熱特性のシミュレーション結果です。このシミュレーションでは、最上層に1オンス(35µm厚)の銅プレーンを設けたプリント基板に両パッケージをはんだ付けした場合を想定しています。また、この図には、MOSFETのデータシートに掲載されている(ケースの温度が一定に保たれていることを想定した)熱抵抗の特性もプロットしてあります。
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図A. Power-SO8とD2PAKの熱特性のシミュレーション結果
1ミリ秒が経過した時点では、熱はシリコン・ダイの内部にとどまっています。D2PAKに収容されたシリコンの熱抵抗は0.075°C /Wですが、同0.14°C /WのPower-SO8に比べて温度は低くなっています。D2PAK内のダイのサイズが大きいことが主な理由となってこのような結果になっています。10ミリ秒が経過すると、熱は銅のタブの底面に到達し始め、温度に差が出てきます。100ミリ秒では、Power-SO8が内蔵するダイの温度は4.2°C /Wで上昇します。一方、D2PAKが内蔵するダイの温度はわずか0.6°C /Wでしか上昇しません。つまり、多くの銅を使用したD2PAKのメリットが明らかに現れているということです。
LTspiceのSOAthermによる熱モデリングで、MOSFETのダイの最高温度を予測
MOSFETのSOAに関連するツールとしてデータシートに記載されたグラフしか使用できないとすると、どのようなことになるでしょうか。その状態で、ホット・スワップ回路の設計に対するMOSFET製品の適合性を予測しようとしても、良い結果にはつながらないでしょう。そこでぜひ活用していただきたいのがLTspiceです。この回路シミュレータを使えば、MOSFETの熱的な挙動(およびSOA)をモデリングすることができます。
LTspiceではSOAthermのシンボルを使用できます。このシンボルには、MOSFETの熱モデルのコレクションが対応づけられています。これを使用することにより、時間の経過に対するMOSFETの最高ダイ温度の予測値をより容易に得ることができます。その際には、Spirito領域内も対象にすることが可能です。それらの熱モデルは、MOSFETのモデルの電気的な挙動に影響を及ぼすことなく、MOSFETのダイの中で最高の温度に達する個所を提示してくれます。
但し、良くも悪くも、SOAthermのモデルはMOSFET製品のデータシートに基づいています。そのため、メーカーが公開しているデータと同程度の精度しか得られません。通常、MOSFETのメーカーが提供しているSOAのグラフには標準値が用いられています。つまり、デバイス間のばらつきを考慮した十分なディレーティングが行われていないということです。このことを念頭に置き、十分なマージンを確保して設計を行わなければなりません。
SOAthermの使い方
LTspiceでSOAthermを使用するには、MOSFETの上にSOAtherm-NMOSのシンボルを配置します(図3)。SOAtherm-NMOSのシンボルにおいて、TcピンとTjピンの電圧は、それぞれケースの温度とシリコンのジャンクション温度を表します。シミュレーション結果において、TcピンとTjピンの電圧が1V上昇していたとすると、それは温度が1°C上昇するという意味になります。なお、周囲温度の設定方法やその他のパラメータの調整方法など、詳細についてはSOAtherm-NMOSのチュートリアルをご覧ください。
シミュレーションが完了したら、シリコンとケースの温度を波形ビューワ上に表示することができます。図4に示した波形では、MOSFETのシリコンのジャンクション温度が25°Cから72°Cまで上昇しています。また、ケースの温度は25°Cから35°Cまで上昇しています。
特殊な状況のシミュレーションを忘れずに
上記のように、SOAthermによるシミュレーションは、MOSFETがSOAの制限を超える可能性があるかどうかの判断に利用できます。但し、その際には、見逃してはならない重要かつ特殊な状況が存在することに注意しなければなりません。特殊な状況とは、以下のようなものです。
- 入力電源のステップ:例えば、-48Vの電源電圧を使用する通信 アプリケーションでは、入力される電源電圧が-36Vから-72V まで急速に低下するといったことが起こり得ます。その場合、 SOAの能力が高いMOSFETが必要になる可能性があります。 電源がプリレギュレーションされている場合や、そのような ステップを排除するよう適切に制御されている場合には、SOA に関する要件は緩和されます。
- 負荷への対応:現実の回路では、電源電圧が完全に上昇しきる 前に下流の回路がオンになり、電流が流れることがあります。 あるいは、コンデンサなどの部品が故障して抵抗性の短絡を 起こすこともあるかもしれません。そのような場合に備えて、 抵抗性の負荷が出力に存在する場合のシミュレーションを実施 するとよいでしょう。それにより、MOSFETのSOAに対する 要件が予期せず厳しくなる可能性があるのはどのような場合 なのかを把握することができます。
- 通常の動作中に発生する出力の短絡:現実の世界では、シャ ーシの中にクリップを落としてしまう人などもいるかもしれま せん。そうした不測の事態に備えるために、ホット・スワップ 回路(またはヒューズ)を用意しておけば、消防車を呼ばなけ ればならないような事態を防ぐことができます。
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図3. SOAthermのシンボルの追加。この状態でLTspiceによる回路シミュレーションを行えば、SOAに関する情報を得ることができます。それにより、ホット・スワップ回路で使用するMOSFET製品の選択が容易になります。
Spirito効果
古い話になりますが、以前はホット・スワップ回路の設計において最大電流の値は10A以下に設定されていました。その頃は、ほとんどのアプリケーションに対応できるMOSFETを探し出すのは簡単なことでした。その後、この状況には2つの変化が生じました。1つは、供給電流の値が大幅に増加し、100A以上に対応しなければならないケースが一般的になったことです。もう1つは、MOSFETメーカーの懸命な努力により、MOSFETのオン抵抗RDS(ON)の仕様が大幅に改善されたことです。皮肉なことに、それによってより高いドレイン‐ソース間電圧で利用できるSOAが狭まってしまいました。これを「Spirito効果」と呼びます。Paolo Spirito氏1は、「MOSFETメーカーがトランスコンダクタンスを高めてオン抵抗を改善した結果、MOSFETに不安定なホット・スポットが形成されて故障する傾向が強くなった」と説明しています。
ホット・スポットによってMOSFETの故障が発生するかどうかを判断する上では、2つの主要な要因の競合が生じます。1つは、MOSFETが急激な温度の上昇を伴うことなく電力を消費する能力です(これは、過渡熱抵抗の特性に反映されます)。もう1つの要因とは、MOSFETのセルが高温になるにつれ、隣接するセルから奪う電流が増加して「暴走」する傾向のことです。これについては、MOSFETの閾値電圧の温度係数が支配的な要素になります。つまり、温度の上昇に伴って閾値が低下し、温度が高いセルにおいて「電流の集中」が発生するということです(MOSFETのトランスコンダクタンスは、MOSFETの伝導チャンネルにおいてキャリアの移動度が下がることから、温度の上昇に伴って低下します。それによって電流の集中の影響は多少弱まりますが、それについてはここでは無視して構いません)。
MOSFETのパッケージ内には、シリコンのダイが収容されています。そのダイの内部には、ゲート、ドレイン、ソースがそれぞれ並列に接続されたセルのアレイが集積されています。あるセルの温度が他のセルよりも高くなると、その閾値電圧は温度の低いセルと比べて低くなります。その結果、高温のセルにはより多くの電流が流れます。上述した2つの競合要因が不安定な状態に達すると、いずれかのセルが熱暴走し、ますます多くの電流が流れるようになります。その結果、自己破壊に至る可能性があります。
Spirito効果は、主としてVDSが高い場合に観測されます。セルの電流に何らかの変化が生じた結果、VDSが高い場合の電力の変化が大きくなり、セルが熱暴走する傾向が強くなるからです。また、同効果は、MOSFETのセルが熱暴走するまでの時間が長くなる、電流が少ない状態で最も顕著になります(より電流が多い場合、セルの熱暴走が顕著になる前に平均ダイ温度が150°C /175°Cに達します)。つまり、SOAのグラフにおいてVDSが高くIDが少ない領域では、Spirito効果が支配的になります。この領域がSpirito領域です。図Bに示したPSMN1R5-30BLEのSOAのグラフでは、この領域を強調表示してあります。
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図B. Spirito領域
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図4. SOAthermを使用して取得したシミュレーション波形。この図における電圧(V)は温度(°C)に相当します。
広範な動作範囲を誇るホット・スワップ・コントローラ
「LTC4226」は、デュアル対応のホット・スワップ・コントローラです。電源電圧が44Vまでのアプリケーションにおいて、Nチャンネルの外付けMOSFETを駆動することができます。以下では、同ICの使用例を紹介します。
図5の回路をご覧ください。この例において、LTC4226は12Vの電源と5Vの電源に対して電流制限の機能と回路ブレーカの機能を提供します。回路ブレーカのタイマー機能は、FTMR1/FTMR2ピンに接続したコンデンサによって設定します。検出抵抗R1、R2のうちいずれかの両端の電圧が50mV~86mVである場合、FTMR1/FTMR2ピンに接続されたコンデンサの電圧は2µAの電流によって上昇します。
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図5. LTC4226によって構成したホット・スワップ回路。12V/5Vの電源に対する保護を実現します。両電源の定常電流は9Aですが、トランジェントの発生時には最大17.2Aの電流を供給します。
電流制限の機能は、検出抵抗の両端の電圧が86mVに到達するまで作動しません。つまり、電流が86mV/5mΩ = 17.2A未満である限り、MOSFETの消費電力に問題はないと想定しています。このレベルを超える電流が流れたら、電流制限の機能が作動してFTMR1/FTMR2ピンの電流が20µAに上昇します。いずれかのピンの電圧が1.23Vに到達すると、それに対応するチャンネルのMOSFETがオフになります。MOSFETがシャット・オフするまでには、設定された最大時間が適用されます。図5の例では、100nFのコンデンサを使用しています。そのため、両チャンネルの電流制限においてタイムアウトは6.2ミリ秒に設定されていることになります。
LTC4226を使用する場合、MOSFETは、出力がグラウンドに短絡したときに最も厳しい条件で電力を消費することになります。そのため、必要なSOAを規定するのは容易です(電流フォールドバックや電力制限の機能を備えたホット・スワップ・コントローラを使用する場合、最も厳しい負荷条件を見いだすために、より多くの作業が必要になります)。ここでもう一度、図1に示したPSMN1R5-30BLEのSOAのグラフをご覧ください。12V/17.2Aで6.2ミリ秒という条件は、SOAに十分に収まっています。一方、SOAthermを利用したシミュレーションでは、ジャンクション温度の上昇値は50°C未満に収まることが確認できます。また、同じシミュレーションにより、ケースの温度は約5°Cしか上昇しないことがわかります。つまり、D2PAKというかなり大きなパッケージであれば、6ミリ秒という短い事象の間に問題が生じることはないと考えられます。
一方、図5の回路において、5Vの電源側ではpowerPAK-SO8パッケージのMOSFETを使用しています。同パッケージは、12Vの電源に対応するMOSFETのD2PAKパッケージと比べると小型です。5Vの電源に対し、より小型のパッケージを適用できているのは次のような理由によります。12Vの電源に対応するMOSFETの場合、最も厳しい条件における消費電力は17.2A×12V = 206Wです。それに対し、5Vの電源に対応するMOSFETでは、最も厳しい条件における消費電力が17.2A×5V = 86Wに抑えられます。そのため、小型パッケージの製品を使用できるということです。SOAthermを利用してこの回路のシミュレーションを実施すると、ケースの温度は30°C上昇し、ジャンクション温度は40°C上昇するという結果が得られます。ケースの温度が大きく上昇するのは、powerPAK-SO8パッケージのサイズが小さい(つまり銅の量が少ない)ことで説明がつきます。
上記の計算とシミュレーションは、回路の設計、MOSFETの選択に役立ちます。しかし、最終的には現実の回路を使って実験室でテストを実施しなければなりません。LTC4226を使用する場合、SOAの面で最も厳しい条件は出力が短絡した場合となります。そのため、実験室で行うテストは、出力をグラウンドに接続した状態で入力電源を素早く供給するといった程度の簡単なものになります。また、LTC4226を使って構成した回路を通電状態の電源に接続し、実際のホット・スワップの状態を模擬するのもよいでしょう。あるいは、入力電源から給電している通常の状態で出力を短絡するという方法も選択できます。回路に十分なマージンがあるか否かを判断するためには、タイマー用のコンデンサを大きな値のものに変更して再度テストを実施するとよいでしょう。
続いて、図6に示した回 路 をご 覧くだ さい。これは、1個 のMOSFETではアプリケーションにおけるSOAの要件を満たせない場合の対処方法になります。ご覧のとおり、2個のMOSFETを並列に接続しています。一般的には、MOSFETを並列で使用することによってSOAの能力を高める方法はお勧めできません。MOSFETの間のミスマッチ、特に閾値電圧のミスマッチによって一方のMOSFETが熱暴走を起こし、すべて電流がそちらに流れてしまう可能性があるからです。この問題に対処するために、図6の回路では、各MOSFETに対して独立した電流制限機能を設けています。それにより、どちらかのMOSFETが暴走することを防止し、並列のMOSFETを安全に使用できるようにしています。

図6. 2個のMOSFETを並列接続して使用する例。LTC4226は12Vの電源を保護する役割を果たします。定常電流は18Aで、トランジェントの発生時には最大34.4Aの電流に対応できます。
また、この回路では、PNPトランジスタQ1、Q2をクロスカップリングするという工夫も加えています。これにより、ブレーカ機能のタイマーは、両方のMOSFETが全電流を流している場合だけ作動するようになります。このような機構を設けていない場合、一方のチャンネルから負荷に対して流れる電流の割合が高くなると、そちらのブレーカ機能のタイマーが作動してしまう可能性があります。
まとめ
ホット・スワップ回路に必要な電力のレベルが高まるにつれ、MOSFETのSOAに対する懸念もより大きくなっています。大電力に対応するホット・スワップ回路を設計する際には、特定のMOSFETがそのアプリケーションに対応できるかどうかを判断することが大きな課題になるでしょう。回路の設計者は、少なくともMOSFETのSOAのグラフを難なく解釈できるようにならなければなりません。電力のレベルが高くなり、既存のMOSFET技術の限界に近づくほど、過渡熱抵抗のグラフについて理解することの重要性が増します。また、その挙動をSPICEベースのシミュレーションで確認する能力も求められるようになるでしょう。これらのツールは、ホット・スワップ回路の設計者にとって非常に貴重なものだと言えます。
参考資料
1 G. Breglio、F. Frisina、A. Magri、P. Spirito「Electro-Thermal Instability in Low Voltage Power MOS: Experimental Characterization(低電圧のパワーMOSにおける電気的/熱的な不安定性:実験による特性評価)」IEEE Proceedings ISPSD、1999年、Toronto、p233
著者について
Linear Technologyでのキャリアは、電源トラッキング・コントローラ「LTC2923/LTC2925」、高電圧に対応するデュアル理想ダイオードOR「LTC4355」...
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