ワイヤレス・バッテリ・チャージャの設計を簡素化するモノリシック・フル・ブリッジAutoResonantトランスミッタIC

2018年12月18日
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背景

日常的に使用するデバイスでバッテリを使うことは当たり前になりつつあります。こうした製品の多くは、充電コネクタを使用するのが困難であったり、不可能となっています。例えば、製品によっては、過酷な環境から敏感な電子部品を保護し、クリーニングや殺菌ができるように、密閉容器に入れる必要があります。また単に小さすぎてコネクタを挿入できない製品もあります。更に、バッテリ駆動のアプリケーションが動きや回転を伴う場合、ワイヤによる充電は論外となります。このようなアプリケーションでは、ワイヤレス充電を行うことで、価値、信頼性、堅牢性が高まります。

電力をワイヤレスで供給するには多くの方法があります。数インチ未満の短距離では、容量結合または誘導結合を使用するのが一般的です。この記事では、誘導結合を利用するソリューションについて説明します。

代表的な誘導結合ワイヤレス・パワー・システムでは、通常のトランス・システムと同様、送電コイルがACの磁界を生成し、これが受電コイルで交流電流を発生させます。トランス・システムとワイヤレス・パワー・システムとの主な違いは、エア・ギャップや他の非磁性材料のギャップによって、トランスミッタとレシーバーが分離されている点です。また、送電コイルと受電コイルの間のカップリング係数は、通常は非常に低い値です。トランス・システムのカップリング係数は0.95~1が一般的ですが、ワイヤレス・パワー・システムのカップリング係数は、0.8~0.05という小さいレンジで様々です。

図1. ワイヤレス・パワー・システムで24μHの送電コイルを103kHzで駆動するLTC4125。入力電流閾値1.3A、周波数制限値119kHz、送電コイルの表面温度制限値41.5℃。LTC4120-4.2を400mAのシングル・セルLiイオンバッテリ・チャージャとしてレシーバーに配置。
図1. ワイヤレス・パワー・システムで24µHの送電コイルを103kHzで駆動するLTC4125。入力電流閾値1.3A、周波数制限値119kHz、送電コイルの表面温度制限値41.5°C。LTC4120-4.2を400mAのシングル・セルLiイオンバッテリ・チャージャとしてレシーバーに配置。

ワイヤレス・バッテリ充電の基礎

ワイヤレス・パワー・システムは、エア・ギャップで分離された2つの部分で構成されています。送電コイルを含む送電(Tx)回路と、受電コイルを含む受電(Rx)回路です。 

ワイヤレス・パワー・バッテリ充電システムを設計する場合、重要なパラメータは、バッテリに実際にエネルギーを供給する電力の量です。この受電電力は次のような多くの要因に左右されます。

  • 送電される電力の量
  • 送電コイルと受電コイルの距離と配置。一般にコイル間のカップリング係数として表される
  • 送電部品と受電部品の許容誤差

ワイヤレス・パワー・トランスミッタのどの設計においても、その主要な目標は、送電回路が強い磁界を生成して、最も厳しい電力転送条件下でも必要な受電電力の供給を確保できることです。一方で、最良の条件下における受電回路の熱的および電気的な過剰ストレスを防止することも、同様に重要です。出力電力条件が小さくカップリングが大きい場合は特に、この点が重要となります。その一例が、送電コイルの近くに受電コイルを配置してバッテリをフル充電する場合のバッテリ・チャージャです。

LTC4125を用いた、簡素ながらフル機能のトランスミッタ・ソリューション

LTC4125トランスミッタICは、Power by Linear™のポートフォリオの様々なバッテリ・チャージャICの1つ(例えばワイヤレス・パワー・レシーバーおよびバッテリ・チャージャICのLTC4120)をレシーバーとして組み合わせるよう設計されています。

LTC4125は、簡素で強力かつ安全なワイヤレス・パワー・トランスミッタ回路に必要なすべての機能を備えています。特に、このデバイスには、レシーバーの負荷条件に応じて出力電力を調整したり導電性の異物を検出したりする機能があります。

また前述のように、ワイヤレス・バッテリ・チャージャ・システムのトランスミッタは、最も厳しい伝送条件下でも確実に給電できるように、強力な磁界を生成する必要があります。これを満たすため、LTC4125には独自のAutoResonant技術が採用されています。

図2. LTC4125のAutoResonant Drive
図2. LTC4125のAutoResonant Drive

LTC4125のAutoResonant Drive機能により、各SWピンの電圧は、そのピンに流れ込む電流と常に位相が同じになります。図2に示すように、電流がSW1からSW2に流れる場合はスイッチAとスイッチCがオンになり、スイッチDとスイッチBはオフになります。逆の場合も同様です。この方法を使用して駆動周波数をサイクルごとにロックすると、LTC4125は、常にその共振周波数で外付けのLCネットワークを駆動するようになります。このことは、温度や近くのレシーバーの反射インピーダンスなどの変数が絶えず変化し、LCタンクの共振周波数が影響を受ける場合でも成り立ちます。

この技術を使用して、LTC4125は、フル・ブリッジ型内蔵スイッチの駆動周波数を直列LCネットワークの実際の共振周波数に合わせて絶えず調整します。このようにLTC4125は、高いDC入力電圧や高精度のLC値を必要とすることなく、送電コイルに大振幅のAC電流を効率的に生成することができます。

また、フル・ブリッジ・スイッチのデューティ・サイクルを変えることで、直列LCネットワークに生じる波形のパルス幅を調整します。デューティ・サイクルを高く設定すると、直列LCネットワークの電流が増加するため、レシーバーの負荷で使用できる電力が増加します。

図3. LTC4125のパルス幅掃引 - デューティ・サイクルの増加に伴い、送電コイルの電圧と電流が増加。
図3. LTC4125のパルス幅掃引 - デューティ・サイクルの増加に伴い、送電コイルの電圧と電流が増加。

LTC4125は、レシーバーの負荷条件にとって最適な動作点を求めるために、周期的にデューティ・サイクルを掃引します。この最適な電力ポイント・サーチ機能によって、コイルに大きなエア・ギャップや位置ずれがあっても動作を可能とし、いかなる場合でもレシーバー回路に熱的および電気的な過度のストレスが生じることのないようにします。各掃引の周期は、1個の外付けコンデンサで容易に設定可能です。

図1に示したシステムは、かなりの位置ずれがあっても問題なく動作します。コイルの位置ずれが著しい場合、LTC4125は生成する磁界強度を調整して、LTC4120が十分な充電電流を確実に受電できるようにします。図1のシステムでは、最大2Wの電力を最大12mmの距離で伝送できます。

導電性異物検出 

この他に、ワイヤレス・パワー・トランスミッタ回路に必須とされる機能は、送電コイルが発生させる磁界中に導電性異物がある場合に、それを検出できることです。数百mWを超える電力をレシーバーに供給するよう設計された送電回路には、導電性異物に渦電流が発生して不要な熱が生じないように、この異物を検出する機能が必要です。

LTC4125は、AutoResonantアーキテクチャによる独自の方法で、導電性異物の存在を検出します。導電性異物があると、直列LCネットワーク内のインダクタンスの実効値が減少します。このため、AutoResonantドライバが内蔵フル・ブリッジの駆動周波数を増加させます。

図4. 導電性異物の有無における、LTC4125トランスミッタのLCタンク電圧周波数の比較
図4. 導電性異物の有無における、LTC4125トランスミッタのLCタンク電圧周波数の比較

 

図5. ワイヤレス・パワー・システムで24µHの送電コイルを103kHzで駆動するLTC4125の回路図。周波数制限値119kHz、送電コイルの表面温度制限値41.5°C。LT3652HVを1Aのシングル・セルLiFePO4(3.6Vフロート)バッテリ・チャージャとしてレシーバーに配置。

 

周波数制限値を抵抗分圧器で設定すると、AutoResonant Driveがこの制限値を超えている間、LTC4125は駆動用パルス幅をゼロに減少させます。この方法で、LTC4125は導電性異物を検出した場合、給電を停止します。

なお、導電性異物の存在の検出にこの周波数シフト現象を利用した場合、検出感度が、共振コンデンサ(C)および送電コイルのインダクタンス(L)の部品許容誤差とトレードオフの関係になり得ることに注意してください。L値とC値それぞれの初期許容誤差が5%(代表値)の場合、この周波数制限値をLCの代表値から予測される通常の周波数より10%高く設定すると、妥当な異物検出感度と堅牢なトランスミッタ回路設計を両立させることができます。しかし、1%という許容誤差がより厳しい部品を使用すれば、代表値から予測される通常の周波数よりわずか3%高い周波数制限値を設定するだけで、検出感度をより高めながら設計の堅牢さを維持できます。

パワー・レベルの柔軟性と性能

いくつかの抵抗とコンデンサの値を変えるだけで、同じアプリケーション回路を別のレシーバーICと組み合わせて、より大電力の充電が可能となります。

送電回路の高効率フル・ブリッジ・ドライバと受電回路の高効率降圧スイッチング回路構成によって、システム全体で70%の高効率を実現します。このシステム全体の効率は、送電回路のDC入力と受電回路のバッテリ出力との比から計算します。なお、この効率にとって、2個のコイルとその結合のQ値が他の回路実装と同様に重要であることに注意してください。

LTC4125のこれらの機能はすべて、送電コイルと受電コイル間の直接の作用なしに実現します。これにより、簡素なアプリケーション設計が可能となり、5Wまでの様々な電力条件やコイルの様々な物理的配置に対応します。

図6. LTC4125を使用した代表的なフル機能ワイヤレス・パワー・トランスミッタ・ボード
図6. LTC4125を使用した代表的なフル機能ワイヤレス・パワー・トランスミッタ・ボード

図6は、LTC4125の代表的なアプリケーション回路を示すもので、全体のサイズが小さく、シンプルな構成となっています。前述したとおり、これらの機能のほとんどは、外部抵抗とコンデンサを使用してカスタマイズできます。

まとめ

LTC4125は、安全で簡素かつ高効率のワイヤレス・パワー・トランスミッタの構成に必要なすべての機能を備えた、新しい強力なデバイスです。AutoResonant技術、Optimum Power Search、周波数シフトを利用した導電性異物検出によって、距離とアライメントの点で優れた許容誤差を持つフル機能のワイヤレス・パワー・トランスミッタを容易に設計できます。LTC4125は、堅牢なワイヤレス・パワー・トランスミッタ設計する上で、シンプルで比類のない選択肢を提供します。

著者について

Eko Lisuwandi
2002年以降、アナログ・デバイセズのボストン設計センターで設計エンジニアを務める。当初は、監視および高電圧電力パスのミックスド・シグナル製品のCMOS技術での開発に従事。その後、複数チャンネルのバイポーラ・パワー・コンバータにまで関心を拡大。現在は、技術アセット・マネージャおよび部門リーダーとして、BiCMOSのバッテリ・チャージャとワイヤレス・パワー統合回路の研究、設計、開発などを担当。MITの電子工学およびコンピュータ科学科で、200...

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