車載DDR用電源のスタンバイ電流を最小限に抑制

2013年09月12日
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成

ラップトップPCやスマートフォンの電源を入れた後はブート・アップに一定の時間がかかりますが、自動車のドライバーはそれほど忍耐強くありません。自動車では ナビゲーション・システムやインフォテインメント・システムを含むコンピュータ・エレクトロニクスに直ちにアクセスできることが求められ、自動車メーカーは、スタートアップ時間を短縮する設計戦略によってこの要求を満たすよう努力しています。このような戦略の1つが、イグニッション・オフの状態でもダイナミック・メモリ(RAM)を常時アクティブな状態にしておくことです。

LT8610はオートモーティブ用電子部品を動作状態に維持します。

自動車に使われるDDR3メモリは1.5Vレールで動作し、ピーク負荷電流は2A以上です。このレールは、熱の発生をできるだけ抑えるために、高効率のDC/DCコンバータで生成することが望まれます。これらのアプリケーションでは、車が走行していないときのバッテリ寿命を延ばすために、軽負荷時の効率も重要になります。DDRメモリは1.5Vレール使用時にスタンバイ状態で1mA~10mAを消費しますが、自動車の長期駐車時にバッテリから10mAが流れるという状態は許容できるものではありません。この制約により、入力電流と出力電流が等しいリニア・レギュレータを使用するという選択肢は除外されます。これに対しスイッチング降圧レギュレータでは、降圧比に比例して負荷電流より入力電流の方が少なくなります。

Equation 1.

ここで、nは効率係数(0~1)です。図1は、LT8610AB同期整流式降圧レギュレータが負荷1mAで約83%の効率を実現することを示しています。バッテリ電圧12V、1.5V時の負荷電流1mAの場合、計算による負荷電流はわずか151μAです。

図1. LT8610ABの効率と負荷の関係

自動車用バッテリから1.5V DDRメモリへの直接DC/DC変換

LT8610AとLT8610ABは、オートモーティブ・システム用に特に設計されたモノリシック同期整流式降圧レギュレータです。これらのデバイスは3.5Aを供給しますが、静止電流は2.5μAに過ぎません。レギュレータ回りの回路を構成するのは容易です。他の半導体を追加する必要はなく、安価なセラミック・コンデンサを使用できます。また、MSOPパッケージのピンはハンダ付けも検査も容易です。最小オン時間が30ns(代表値、保証最大値は45ns)なので、コンパクトでスイッチング周波数が高く、なおかつ降圧比の大きい降圧レギュレータを設計できます。図2は、1.5Vで3.5Aを供給するアプリケーションです。動作周波数は475kHzで、効率を最適化しながらAM周波数帯より下の帯域を維持できます。

図2. LT8610AまたはLT8610ABを使用するこの降圧コンバータ回路は自動車用バッテリから1.5V/3.5Aの電圧を生成し、低静止電流と同期整流方式によって全負荷範囲で高い効率を実現します。

どちらのデバイスも、オートモーティブ環境に対して優れたフォルト・トレランス性を備えています。42Vの最大入力はロード・ダンプに対応することを可能にします。更に、出力短絡時も堅牢なスイッチ設計と高速の電流コンパレータがデバイスを保護します。最小入力は最も厳しい条件時に3.4V、最大デューティ・サイクルは99%以上、ドロップアウト電圧は1A時に200mV(代表値)です。これらすべての特長によって、コールドクランク時も出力が一定に保たれます。図3は最小入力電圧(代表値)のプロットです。

図3. コールドクランク時やスタートストップ時にもメモリを動作状態に保ちます。LT8610AとLT8610ABは25°Cのときに2.9Vの最小入力電圧(代表値)まで動作し、全温度範囲で3.4Vの最大電圧が保証されています。

低リップルのバースト・モードと最小限の静止電流でバッテリを節約

LT8610AとLT8610ABは、全負荷範囲で出力電圧リップルができるだけ小さくなるように設計されています。軽負荷時には、動作周波数を下げてバースト・モード動作に入ることによって効率を維持します。非常に負荷が小さい場合でも、高速の過渡応答が維持されます。この特長と2.5μAという極めて小さい静止電流の組み合わせは、負荷が数μA程度の場合でも、静止電流0のリニア・レギュレータよりLT8610AとLT8610ABの方が効率が高いことを意味します。低周波数動作を避ける必要のあるシステムでは、SYNCピンにロジック・ハイ信号またはクロック信号を加えることによって、バースト・モード動作をオフにすることができます。LT8610AとLT8610ABの違いは、LT8610ABの方が軽負荷時の効率が良いことです。これは、バースト・モードの電流制限値を上げて各スイッチ・サイクルで供給できる電力量を増やし、所定の負荷についてスイッチング周波数を下げることによって実現されます。MOSFETのオン/オフを切り替えるために必要な電力量が固定されるので、スイッチング周波数を下げればゲート電荷の損失が減って効率が上がります。

LT8610AとLT8610ABの効率の違いを図4に示します。1mA~100mAの負荷では、LT8610AよりLT8610ABの方が10%以上効率が良くなります。バースト・モードの電流制限値を上げることに対するトレードオフは、各スイッチ・サイクルで供給される電力量が増えるので、出力電圧リップルを抑制するために必要な出力容量が大きくなることです。図5はLT8610AとLT8610ABの出力電圧リップルの比較で、負荷を10mAとして、2つのインダクタ値に対する出力容量の関数としてリップル値を示したものです。電流制限に加えて、インダクタの選択も、バースト・モード動作時の効率とスイッチング周波数に影響を及ぼします。これは、電流制限値が同じであれば、インダクタ値が大きい場合の方が小さい場合より多くの電力量を保存できるためです。軽負荷時に高効率であることが最優先される場合は、インダクタ値を増やしてデータシートに示す推奨開始値より大きくすることができます。

図4. LT8610ABではバースト・モード時の電流制限値が大きいので、軽負荷時の効率がLT8610Aより大幅に向上します。

図5a. 負荷10mA時の出力電圧リップルと出力コンデンサ(1210、サイズ47μF)の個数の関係。図2に示す475kHzアプリケーションにおけるリップルの場合です。

図5b. 負荷10mA時の出力電圧リップルと出力コンデンサ(1210、サイズ47μF)の個数の関係。図6に示す2MHzアプリケーションにおけるリップルの場合です。

小型のソリューションほど高速に

ほとんどのオートモーティブ・システムは入力電圧が9V~16Vなので、アプリケーション回路はこの範囲に合わせて最適化されます。図2の475kHzアプリケーションは、3.5V~42Vの全入力範囲にわたり設計周波数で動作します。しかし、通常動作電圧を16Vに制限した場合は(42Vのトランジェント)、動作周波数を上げてインダクタの値とサイズを小さくすることができます。最も条件の厳しい45nsの最小オンタイムでは、図6に示すようにLT8610AとLT8610ABを2MHzに設定することができます。

入力電圧が16Vを超えても出力のレギュレーションは維持されますが、安全な動作を確保するためにスイッチング周波数は下げられます。2MHzソリューションも図2に示す回路と同じですが、RT抵抗が18.2kΩに変更されて、省スペースのためにインダクタの値とサイズが小さくなっている点が異なります。2種類のインダクタを使用した場合の効率と負荷の関係を図7に示します。

図6. 図2と同様の12V-1.5Vアプリケーション。ただし、インダクタの値とサイズを小さくするために、LT8610AとLT8610ABの動作周波数が2MHzに上げられています。

図7a. 2つのインダクタ値を使用した場合のLT8610Aの効率と負荷の関係(2MHz時)

図7b. 2つのインダクタ値を使用した場合のLT8610ABの効率と負荷の関係(2MHz時)

バイアス・ピンが効率を最適化

LT8610AとLT8610ABは、オートモーティブ・アプリケーション用に特別に最適化された2個の内部nMOSFETを使用しています。特に、ゲート駆動回路がFETを完全にエンハンスするために必要な電圧は3Vです。LT8610A/ABはゲート駆動電源を生成するためにリニア電圧レギュレータを内蔵しており、INTVCCピンがその出力になります(INTVCCには外部回路から負荷をかけないでください)。

重要な点は、この内部レギュレータにはVINピンとBIASピンのどちらからでも電流を供給できることです。BIASピンがオープン状態の場合、ゲート駆動電流はVINから取り込まれます。しかし、3.1V以上の電圧がBIASピンに接続されている場合、ゲート駆動電流はBIASから取り込まれます。BIAS電圧がVINより低い場合、この内部リニア・レギュレータは低い方の電圧源を使って効率的に動作するので、全体的な効率が向上します。

図1、4、7の効率データは、BIASピンをオープン状態にして記録したものです。結局、1.5V出力が使用可能な唯一のレールである場合、BIASピンの接続に適した場所はありません。しかし、3.3Vまたは5Vの電源がある場合は、スタンバイ状態やイグニッション・オフの状態でその電源を使用できない場合でも、そこにBIASピンを接続します。BIASに3.3V電源を接続した場合と接続していない場合の効率を図8に示します。全体的な効率の計算にあたっては、3.3Vレールから供給される電力を含め、そのレールは85%の効率で生成されたものと仮定しています。

図8a. BIASピンを外部3.3V電源に接続した場合はLT8610ABの効率を向上させることができます(外部電源の効率を85%と仮定して、ここに示す全体的効率の計算に使用)。

図8b. BIASピンを外部3.3V電源に接続した場合はLT8610Aの効率を向上させることができます(外部電源の効率を85%と仮定して、ここに示す全体的効率の計算に使用)。

外部からBIASに電源を供給する場合は、動作周波数が高いほど有利になります。これは、動作周波数が高ければゲート駆動電流も大きくなるからです。LT8610Aでも外部バイアスは利点となり、その度合いはLT8610ABの場合より大きくなります。ABではバースト・モード電流制限値が大きいので、所定の負荷における動作周波数が低くなります。

メモリ以外にとっての利点

LT8610ABは、3.3V電源や5V電源を含む他の車載用電源にとっても優れたレギュレータで、図9に示すように、その効率は90%を超えます。オートモーティブ・アプリケーションについて考慮すべき重要な点はコールド・クランク時やアイドルストップ時の電源の挙動で、12Vバッテリからの電圧が4V未満まで低下することがあります。LT8610ABは最大99%のデューティ・サイクルで動作し、考え得る最小の入力電圧で出力レギュレーションを行います。図10(a)にドロップアウト電圧を示します。これは、意図した出力レギュレーション電圧に向かって入力電圧が低下する場合のVINとVOUTの差です。LT8610ABも非常に優れたスタートアップ挙動とドロップアウト挙動を示し、入力電圧の関数として予想可能な信頼できる出力電圧が得られます。入力電源が0Vから10Vにランプアップして再び0Vに戻る場合の出力電圧の変化を図10(b)に示します。

図9. 3.3Vおよび5V出力の効率は90%以上で、合計消費電力が減少して温度も制御された状態に維持されます。

図10a. LT8610ABのドロップアウト電圧と負荷電流の関係

図10b. LT8610ABは最大99%のデューティ・サイクルで動作し、スムーズなスタートアップを実現します。

まとめ

LT8610AとLT8610ABは必要部品数が少ない上に最小電圧も静止電流も小さく、広い負荷範囲にわたって高い効率を実現します。これらの特長によって、両デバイスは、オートモーティブ・アプリケーションでのDDRメモリへのスタンバイ電源供給に適したソリューションとなっています。

著者について

David Gilbert

この記事に関して

最新メディア 21

Subtitle
さらに詳しく
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成