要約
このアプリケーションノートでは、DS317xおよびDS318x LIUトランシーバのリターンロスを測定し、改善する方法について説明します。標準的なテスト構成を改良することによって、T3/E3トランシーバおよびLIU内蔵ATM/パケットPHYに対する業界標準の仕様を満たすリターンロスが得られます。
はじめに
このアプリケーションノートでは、DS317xおよびDS318x T3/E3トランシーバのリターンロスを測定し、改善する方法について説明します。リターンロスの定義を示し、業界標準規格が要求するリターンロスの仕様を示します。その後、まず標準的なテスト構成でリターンロスの測定を行い、次に調整を加えて改良した構成でもう一度測定を行います。最終的なテストデータは、ここで提案する設計改善によって業界仕様を満たすリターンロスが得られることを示しています。
このアプリケーションノートは、次の製品に適用されます。
T3/E3 Transceivers | ATM/Packet PHYs with Built-In LIU |
DS3171 | DS3181 |
DS3172 | DS3182 |
DS3173 | DS3183 |
DS3174 | DS3184 |
リターンロスの定義
高速の信号が伝送ラインの終端に到達したとき、伝送ラインの終端処理が不十分であると、その伝送ラインは信号エネルギーの一部を反射してトランスミッタに送り返します。この反射信号が本来の信号と混在し、信号を歪ませます。その結果、LIUレシーバがクロックとデータを正確に復元することが困難になります。
リターンロスは、本来の信号の電力と反射信号の電力の比を、dBで表したものです。簡単に言えば、リターンロスは反射信号の相対的な大きさを示すものであり、したがって、伝送ラインがどれだけ完全に(あるいは不完全に)終端されているかを示すものです。LIUカードのリターンロス測定値がある周波数にいて20dBの場合、反射信号の電力は、同一周波数における本来の信号の電力よりも20dB低くなります。
リターンロスの要件
ITU G.703、およびETS 300-686の場合の、E3の入力リターンロス要件を表1に、出力リターン要件を表2に示します。
表1 入力ポートの最小リターンロス
Frequency Range (kHz) | Return Loss (dB) |
860 to 1720 | 12 |
1720 to 34368 | 18 |
34368 to 51550 | 14 |
表2 出力ポートの最小リターンロス
Frequency Range (kHz) | Return Loss (dB) |
860 to 1720 | 6 |
1720 to 51550 | 8 |
リターンロスの測定
E3のリターンロスを測定するための構成と手順については、ETS 300-686仕様のA.2.5節およびA.2.6節で説明されています。図1に示すテスト構成は、入力リターンロスを測定し、表1に示した要件への適合性を検証することができるように設計されています。出力リターンロスの構成にもこれと同じ機器を使用しますが、レシーバの入力ではなくトランスミッタの出力に接続します。
図1の構成では、リターンロスブリッジとしてWide Band Engineering Company, Inc.製のA57TLSTDを使用しています。2つの50Ω/75Ωインピーダンスコンバータ(Wide Band Engineering製のA65L)を使用し、75Ωで50Ωのジェネレータのポートと50Ωのスペクトルアナライザのポートにインタフェースしています。ブリッジの右側にある75Ωの高精度抵抗は、リターンロスブリッジに組み込まれています。Advantest R3132スペクトルアナライザは、信号発生器とスペクトルアナライザの両方の役割を果たします。
図1. リターンロス測定の構成
図1の構成で、ジェネレータは860kHz~51,550kHzの周波数範囲で1Vピークの正弦波信号を供給します。
リターンロスの測定を実施する前にテストのセットアップをチェックするには、図1の左側にあるブリッジのNTPインタフェースは、75Ω ±0.25Ω以内のテスト負荷で接続されるべきです。マキシムによる構成では、この高精度抵抗として、リターンロスブリッジに付属するWide Band Engineering製のコンポーネントを使用しています。このテスト負荷を接続した状態で、リターンロスは表1に示した要件よりも20dB高くなるはずです。図2に、マキシムの構成を使って測定したリターンロスを示します。この構成では、1720kHzにおいて45.27dBのリターンロスが測定されました。
図2. 75Ωのテスト負荷でのリターンロス
標準的な330Ωの終端抵抗を使用して、DS3174DKまたはDS3184DK設計キットのレシーバにブリッジのNTPインタフェースを接続したときの34.37MHzにおけるリターンロス測定値は、それぞれ図3および図4に示すように、DS3174が16.86dB、DS3184が16.43dBでした。これらの値は、表1の要件を満たしていません。
図3. 終端ネットワークを用いたDS317xの34.37MHzにおけるリターンロス
図4. 終端ネットワークを用いたDS318xの34.37MHzにおけるリターンロス
標準的な330Ωの終端抵抗を使用して、DS3174DKまたはDS3184DK設計キットのレシーバにブリッジのNTPインタフェースを接続しました。図5と図6に、51.55MHzにおけるリターンロス測定値を示します。DS3174が12.80dB、DS3184が13.55dBになっています。これらのリターンロス値も、やはり表1の要件に適合しません。
したがって、定められた要件を満たすためには、明らかにリターンロスを改善しなければなりません。
図5. 終端ネットワークを用いたDS317xの51.55MHzにおけるリターンロス
図6. 終端ネットワークを用いたDS318xの51.55MHzにおけるリターンロス
DS317xおよびDS318xにおけるリターンロスの改善
100nHのインダクタを1次コイルと直列に追加することによって、これらのLIUのリターンロスを改善することができます。DS317xDKとDS318xDKの両方の設計キットの基板に、この変更を加えました。図7に、DS317xおよびDS318xレシーバ向けの、この修正版の標準終端ネットワークを示します。
図7. DS317xおよびDS318x LIUのための修正版の終端ネットワーク
図8は、100nHのインダクタと330Ωの終端抵抗を備えたDS317xのリターンロスが、34.37MHzにおいて21.65dBであることを示しています。図9は、同じく100nHのインダクタと330Ωの終端抵抗を備えたDS318xのリターンロスが、34.37MHzにおいて22.16dBであることを示しています。これらのリターンロス値は、いずれも表1の要件を満たしています。
図8. 修正版の終端ネットワークを用いたDS317xの34.37MHzにおけるリターンロス
図9. 修正版の終端ネットワークを用いたDS318xの34.37MHzにおけるリターンロス
図10は、100nHのインダクタと330Ωの終端抵抗を備えたDS317xのリターンロスが、51.55MHzにおいて16.85dBであることを示しています。図11は、同じく100nHのインダクタと330Ωの終端抵抗を備えたDS318xのリターンロスが、51.55MHzにおいて15.49dBであることを示しています。これらのリターンロス値は、いずれも表1の要件を満たしています。
図10. 修正版の終端ネットワークを用いたDS317xの51.55MHzにおけるリターンロス
図11. 修正版の終端ネットワークを用いたDS318xの51.55MHzにおけるリターンロス
結論
ここで説明した、リターンロスの測定手法と終端抵抗の調整は、他のダラスセミコンダクタ製DS3/E3/STS-1ラインインタフェースユニット(LIU)およびトランシーバ(SCT)にも適用可能です。リターンロス仕様に合わせて設計を変更するかどうかは、理想的な330Ωの終端抵抗を用いて基板を測定した後で判断すべきです。330Ωの抵抗でリターンロスの要件が満たされない場合は、必要に応じて終端抵抗の値を調節したり、1次コイルと直列にインダクタを追加することによって、リターンロスの要件を満たすことができます。
マキシムのテレコム製品を使用した場合のリターンロスまたはその他に関するご質問は、テクニカルサポートセンターまたはお電話((01) 972-371-6555、英語のみの対応)にてTelecom Products Applicationsサポートチームまでお問い合わせください。
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