要約
MAX1472、MAX1479、およびMAX7044の300MHz~450MHz ASKトランスミッタICは、自動車のキーフォブやタイヤ圧モニタなどの極端に小さなパッケージを必要とするアプリケーションで使用されています。ほとんどの場合、これらのパッケージに収まるようなアンテナはスモールループアンテナだけです。ループは、上記の周波数での波長に比べて極めて小さいため、極端な高Qとなり、良好なインピーダンスマッチングを得るためには難しい課題が提起されることになります。
このアプリケーションノートでは、スモールループの標準的なインピーダンス値を示し、このインピーダンスについてのマッチングネットワークを提案しています。また、送信周波数の高調波を抑圧に対する効果を実証しています。マキシムのMAX7044、MAX1472、およびMAX1479など、上記のアプリケーションに対応するたいていのトランスミッタICは、最大の直線性ではなく最大の効率が得られるようにバイアスがかけられています。つまり、パワーアンプ(PA)の出力の高調波成分が非常に大きくなる可能性があるということです。このようなデバイスを使用するあらゆる国の規制機関は、スプリアス発射を制限しているため、PAからの高調波電力を減衰することがきわめて重要になります。
マキシムのトランスミッタICにループのインピーダンスをマッチングさせるための完全なモデルには、バイアスインダクタ、PAの出力容量、トレース、パッケージ、寄生要素などを含める必要があります。これらの要因によって、このノートで規定するマッチング部品の値はわずかに異なります。ここに詳述したネットワークは、MAX7044トランスミッタ用にマッチングされたものですが、MAX1472とMAX1479にも十分に動作します。MAX7044は、125Ωの負荷で駆動するときに最大効率を達成しますが、MAX1472とMAX1479は、およそ250Ωの負荷で最適に機能します。前記のネットワークを用いてMAX1472とMAX1479を使用すると、ミスマッチによる損失が約1dBだけ増加します。必要に応じて、ネットワークをわずかに変更するだけで、この損失を取り戻すことができます。
電気的なスモールループアンテナのインピーダンス
波長がの周波数にて、面積がAであるプリント基板のスモールループの放射抵抗は、次式で与えられます。
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ループのインダクタンスは、周囲長(P)、面積(A)、トレース幅(w)、および透磁性(µ)によって求めることができます。
上記の3つの量は、アンテナ理論の教科書1,2に記載された式から得ることができます。
一般的なプリント基板のループ(この寸法を使用して、スモールループの代表的な抵抗値とリアクタンス値を計算)を図1の図面に示します。これは、おおよそ長方形で、大きさが25mm × 32mm、トレース幅は0.9mmとなります。315MHzにおいては、これらの寸法から上記の3つの量の値は、次のようになります。
もう1つのよく使われる周波数433.92MHzの場合、値は次のようになります。
図1. プリント基板上のスモールループ
放射抵抗は極めて小さくなります。また、散逸損失によって生じる抵抗は、放射抵抗の10倍より大きくなる可能性があります。これは、このループの最大可能放射効率が315MHzで約8%、および433.92MHzで27%であることを示します。マッチングネットワークは、ミスマッチによる損失や、マッチング部品からの余分な散逸損失を最小限に抑える必要があります。通常、スモールループは、トランスミッタによって生成される電力の数パーセントしか放射することができない場合があります。
基本マッチングネットワーク
最も単純なマッチングネットワークは、最近の「Microwaves & RF (マイクロ波およびRF)」の記事に記載されている「スプリットキャパシタ」です3。バイアスインダクタを用いてこのネットワークをPA出力に接続すると、以下の図2に示すように、C2の値を調整して、L1、PA関連の容量、およびC1とループアンテナのインダクタンスによる残留リアクタンスを並列に組み合わせたものと共振することができるようになります。コンデンサC1の等価直列抵抗(ESR)は通常0.138Ωで、直列コンデンサを備えたスモールループの合計抵抗は、315MHzにて0.46Ωです。
315MHzの共振マッチングネットワーク周波数で、極めて小さなループ抵抗は、ループおよびC1の直列リアクタンスによって、125Ωの最適負荷抵抗(MAX7044の最大効率に対する最大負荷インピーダンス)を持つ等価並列回路に変換されます。MAX7044のデータシートで引用された効率は、50Ω負荷についての効率であることに注意する必要があります。放射効率についての最適抵抗は、同じでない場合があります。PAは、広範囲のインピーダンスと電力レベルの全体にわたって高効率を維持しています。並列容量C2、およびバイアスインダクタの並列インダクタンスL1は、等価並列回路のリアクタンスを調整します。
図2. バイアスインダクタを備えたスプリットキャパシタ
C1とループインダクタンスの組み合わせによって、対象の周波数において正のリアクタンスが形成されます。この結果、2つのコンデンサとループインダクタンスは「L」マッチングネットワーク(シャントC、直列L)と見なすことが可能で、これによってスモールループ抵抗は最大125Ωに変換されます。左から右に眺めると、ローパスの、高インピーダンスから低インピーダンスへのマッチングネットワークです。バイアスインダクタはマッチングには必須でないと思われるかもしれませんが、バイアスインダクタは実際に高調波を除去するのに役立ち、またPAの動作電流のDC経路を確保するのに不可欠です。
表1は、上述のループアンテナについて完全なマッチングが得られる値を示しています。
表1. スプリットキャパシタの理想的なマッチング部品の値
At 315MHz | At 433.92MHz |
C1 = 2.82pf | C1 = 1.47pf |
C2 = 63pf | C2 = 43pf |
L1 = 36nH | L1 = 27nH |
表のC2容量には、PA出力とプリント基板による約2pfの浮遊容量は含まれていません。この2pfは、このアプリケーションノートで示したすべてのマッチング計算におけるC2値に追加しています。
315MHzにおけるこのマッチングの周波数依存性を図3のRF電力伝達曲線に示します。この曲線は、ソース(RS)から負荷インピーダンス(RL + XL)に供給される電力を表す式を評価することで計算しました。ここでの負荷インピーダンスは、マッチングネットワークによって変換されるループアンテナのインピーダンスです。
この式にアンテナ効率、およびマッチング部品から生じる電力損失を乗じて、放射電力と利用可能電力の全体比率が得られます。
すべてのプロットは315MHzでの動作を示しており、周波数依存性の考察は315MHzにのみ適用されます。433.92MHzでの動作もよく似ていますが、ここには示していません。
図3. RFICトランスミッタからループアンテナへの電力伝達
ループアンテナのモデルが正しく、マッチング容量の正確な値が達成されると仮定すると、ミスマッチ損失は0dBです。つまり、-14.1dBのアンテナ損失は、効率損失と、コンデンサによって付加される散逸損失だけになるということです(放射抵抗を総抵抗で除算)。このマッチングによって、まったくマッチングがないときの36.2dB (25dBのミスマッチ損失に11.2dBの効率損失を加えたもの)、およびアンテナリアクタンスを調整する単一シャント容量によって生じる34.7dB (19dBのミスマッチ損失に15.7dBの効率損失とコンデンサ散逸損失を加えたもの)に対する大幅な改善をもたらします。単一シャントコンデンサの「マッチング」のための電力伝達を、参考としてプロットに含めています。
実際には、スモールループアンテナのQは、理論予測よりもはるかに低いものです。図1のプリント基板ループを研究室で測定した値を用いて行った計算によると、315MHZにおける等価直列抵抗は、理論的な0.46Ωではなく、2.2Ωになります。この抵抗を使用したときの、ループにマッチングするコンデンサとインダクタの標準値を表2に示します。
表2. スプリットキャパシタのマッチング部品の実際の値
At 315MHz | At 433.92MHz |
C1 = 3.0pf | C1 = 1.5pf |
C2 = 33pf | C2 = 27pf |
L1 = 27nH | L1 = 20nH |
実際のループアンテナの電力伝達も図3に示します。実際のループの損失抵抗は理論ループよりもおよそ4倍大きくなるため、最大電力伝達は、-14dBではなく約-20dBです。電力伝達曲線は、理論ループよりも周波数が広くなりますが、部品の許容誤差に十分対応可能な狭さであり、ピークを別の周波数に移したり、目的の周波数での電力転送を低減したりすることができます。3つのマッチング部品すべての値が5%大きくなると、電力伝達は-26dBに低下します。
電力伝達特性は、周波数を広げることができるため、マッチングネットワークを「離調」することで、部品の許容誤差に対する感度を低下させることができます。これは、「力まかせ(総当たり)」手法によって行うことができます。すなわち、単純にループアンテナに抵抗を追加するか、あるいはトランスミッタに完全にマッチングしない値にインピーダンスを変換します。いずれの手法でも、「追加した抵抗器での電力散逸が大きくなる」、または「離調されたマッチングネットワークでのミスマッチ損失が大きくなる」のいずれかを犠牲にすることによって、マッチング帯域幅を広げています。電力伝達の予測が可能であることの引き替えに若干の電力損失が生じるということは、好ましいことであると思われます。狭帯域マッチングにおける周波数のドリフトによる不都合は極めて大きいからです。
ここで使用した幅を広げる手法では、MAX7044で想定しているインピーダンスよりも大きなインピーダンス(125Ωの代わりに500Ω~1000Ω)にループアンテナをマッチングさせ、そのミスマッチ損失を(避けがたい散逸損失とともに)受け入れています。この手法では、追加的な利点として動作電流が低減されます。
表3は、ループインピーダンスを約500Ωに変換するLとCのセットを示しています。これらは、LとCの標準値の概数となります。
表3. より広い帯域幅でのスプリットキャパシタのマッチング部品の値
At 315MHz | At 433.92MHz |
C1 = 3.3pf | C1 = 1.65pf (2pf × 3.3pf in series) |
C2 = 22pf | C2 = 15pf |
L1 = 27nH | L2 = 20nH |
この回路によって、315MHzでの電力伝達は-22dBに低減しますが、5%の部品の許容誤差による損失の変動は3dBに減少します。
図3は、上述のネットワーク調整における損失を示しています。完全に調整されたネットワークの帯域幅は狭いこと、また「離調」されたネットワークは、損失は大きいけれども帯域幅は広くなっていることがわかります。
この単純なスプリットキャパシタのネットワークは、どの程度の高調波を除去することができるでしょうか?図3は、1000MHzに拡張したもので、理論的なマッチング周波数応答が第2高調波で56dB、第3高調波で58dBだけ低下していることを示しています。基本周波数では、応答は14dB低下しているため、第2高調波除去と第3高調波除去はそれぞれ42dBと44dBになります。実際のマッチングや「離調」されたマッチングの方がより一般的であるため、高調波除去を正しく示すことになります。実際のマッチングは基本周波数で20dB低下し、第2高調波で50dB低下しているため、第2高調波除去は28dBです。「離調」されたマッチングは基本周波数で22dB低下し、第2高調波で46dB低下しているため、第2高調波除去は24Bです。この除去は、315MHzにおいてFCCが許可する最大可能平均電力の放射を満たしていません。許容される放射電界強度(約6000µV/m)は、放射電力の-19.6dBmに相当します。第2高調波は200µV/m (-49dBm)を超えることはできないため、トランスミッタが最大許容平均電力で放射するためには、ほぼ30dBの高調波除去が必要になります。260MHz~470MHzの免許不要の帯域に対するFCC規制は、平均電力よりも20dBも上のレベルでの、低デューティサイクルのピーク電力放射を許可しています。このため、30dBをも超える第2高調波除去が必要な状況となります。
より大きなキャリア高調波除去によるマッチングネットワーク
より良好な高調波除去を達成する簡単な方法の1つは、マッチングネットワークにローパスフィルタを追加することです。これは、スプリットキャパシタのマッチングネットワークとトランスミッタ出力との間にpiネットワークを挿入することで実現可能です。piネットワークはインピーダンスを変換することができるため、多くのインピーダンス変換の組み合わせが可能です。ここで示す例では、LとCのマッチング部品の実際の値が生成されます。図4は、以下のネットワークを示しています。すなわち、ローパスフィルタ内の1つの並列コンデンサをスプリットキャパシタのマッチングネットワーク内の並列コンデンサに結合しています。他の並列コンデンサは、マッチングネットワークの一部として機能することに加えて、この値を調整してバイアスインダクタとIC内の浮遊容量を調整しています。
図4に示すループアンテナに対してほぼ完ぺきなマッチングを得るための値を以下の表4に示します。
表4. 高調波除去を改善したスプリットキャパシタのマッチング部品の値
At 315MHz | At 433.92MHz |
C1 = 3.0pf | C1 = 1.5pf |
C2 = 33pf | C2 = 30pf |
C3 = 12pf | C3 = 8.2pf |
L1 = 51nH | L1 = 33nH |
L2 = 47nH | L2 = 33nH |
図4. スプリットキャパシタのマッチングネットワークとローパスフィルタの組み合わせ
図4の構成において、スプリットキャパシタは、低ループ抵抗をおよそ150Ωに変換します(PAの最大効率である125Ωに極めて近い値です)。またpiネットワークは125Ωの入力/出力インピーダンス用に設計されたローパスフィルタです。ミスマッチ損失は-0.1dBで、この場合もマッチングの帯域幅は狭く、部品の許容誤差に対して敏感になります。マッチングが依然として非常に狭い理由は、複数のネットワークを備えているものの、正確なインピーダンスマッチングが試みられているからです。この場合も結果は同じになります。すなわち、部品の許容誤差に敏感な狭帯域幅マッチングになります。
このマッチングネットワークの帯域幅は、スプリットキャパシタのマッチングネットワークを離調することで増やすことができます(また部品の許容誤差に対する感度は低下します)。ただし、12Ωのpiネットワークのローパスフィルタは保持されます。以下の表に示すC1とC2の値は、ループアンテナの並列抵抗を、最適マッチングの150Ωではなく約500Ωに変換します。その結果、アンテナと125Ωのローパスフィルタとの間に生じるミスマッチによって、ミスマッチ損失は2dBに増大しますが、マッチング帯域幅は広がります。
このマッチングの値を表5に示します。
表5. 高調波除去を改善した広帯域幅スプリットキャパシタのマッチング部品の値
For 315MHz | For 433.92MHz |
C1 = 3.3pf | C1 = 1.65pf |
C2 = 22pf | C2 = 18pf |
C3 = 12pf | C3 = 8.2pf |
L1 = 51nH | L1 = 33nH |
L2 = 47nH | L2 = 33nH |
したがって、スプリットキャパシタのマッチング出力は、piセクションに対して意図的にミスマッチされます。同じpiマッチングネットワークを維持しながら、スプリットキャパシタの値を変更して変換ループ抵抗を500Ω以上に増やすと、マッチング帯域幅はさらに広がり、それに伴ってミスマッチ損失が増大します。
理想に近いマッチングネットワークおよび離調されたネットワークの動作を、参照用の単純なシャントコンデンサとともに、図5に示します。これらのデータは、図3のプロットと類似していますが、高調波除去はまったく異なります。理想に近いマッチングでは49dBの第2高調波除去となり、離調されたマッチングでは44dBの第2高調波除去となります。
図5. RFICトランスミッタからループアンテナへの電力伝達(ローパスフィルタをマッチングセクションに追加)
まとめと結論
スモールループアンテナのマッチングを行う際に忘れてはならない重要なことは、その等価直列インピーダンスが極めて小さな直列抵抗によるインダクタンスであるということであり、これは主として損失抵抗とさらに小さな放射抵抗からなります。スモールループアンテナの等価並列インピーダンスは、大きな並列抵抗によるインダクタンスです(5kΩ~50kΩ)。どちらの場合も100Ωから300Ωの抵抗にマッチングさせることは困難です。
ループに直列な小さなコンデンサと、直列コンデンサとループに並列な大きなコンデンサを組み合わせる方法は、ループをマッチングさせる簡単な方法です。正確なインピーダンスマッチングは非常に高Q (ループのリアクタンスと抵抗の比)になります。つまり、部品の値、周波数、または動作環境にドリフトがあれば、マッチングが低下し、ミスマッチ損失が大幅に増大します。マッチングの帯域幅を意図的に広げるコンデンサとインダクタの標準値を選択すると、部品の変動と環境に対しより耐性のあるマッチングを生成することができます。この帯域幅を広げたことと引き替えに、ミスマッチ損失が増大しますが、その損失は予想がつきやすいものです。315MHzと433.92MHzの例を示しています。
高調波除去が重要なときは、さらにもう2つの部品をマッチングネットワークで使用し、マッチングネットワークとともにローパスフィルタを形成すると良好な結果が得られます。このアプリケーションノートで選択した、スプリットキャパシタとローパスフィルタネットワークを組み合わせることによって、スプリットキャパシタだけのマッチングネットワークの場合に比べておよそ20dBだけ高調波除去を改善することができます。
ここで提示したマッチングネットワークの値は、基板やマッチング部品そのものに存在する浮遊リアクタンスや損失に適応することができるようユーザによる若干の調整を必要とする場合があります。すべてのマッチング部品がその自己共振周波数(SRF)よりも十分に低い周波数(できれば2オクターブ下)で動作していることを確認することも必要となります。
各マッチング部品の固有の値よりもさらに重要なことは、これらのマッチングネットワークの基本構造です。スプリットキャパシタセクションの目的は、ループの抵抗値をより理屈に適った範囲に変換することです。piネットワークのローパスフィルタの目的は、より高次の周波数を除去し、必要に応じてマッチングを追加し、さらにマッチングの帯域幅を確立することです。これを念頭に置いてユーザがネットワークに取り組む限り、正しい部品の値を見つけることができます。
注:
1 Balanis, C, Antenna Theory, Analysis, and Design, Harper and Row, NY, 1982
2 Stutzman, W.A., G.A. Thiele, Antenna Theory and Design, Wiley, NY, 1981
3 Dacus, F., Van Niekerk, J., and Bible, S., "Introducing Loop Antennas for Short-Range Radios", Microwaves & RF, July 2002, pp. 80-88.
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