携帯電話のノイズ管理

2001年01月24日
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要約

ノイズ性能に影響をもたらす携帯電話における問題について紹介します。ノイズ問題を減らすために電源レイアウトの改善をお見せします。低周波数でノイズを低減するためにリニアレギュレータを採用しています。パワーアンプバイアスはRF出力へのノイズを変調します。低ドロップアウトのレギュレータ出力ノイズも説明されています。

携帯電話のノイズ問題に対処するためには、携帯電話のノイズ結合メカニズム、ノイズに敏感な回路ノード、そしてノイズ生成回路についての理解を応用する必要があります。

図1. スイッチモードおよびリニアレギュレータによるクリーンで効率的な電源分配
図1. スイッチモードおよびリニアレギュレータによるクリーンで効率的な電源分配

今日の携帯無線トランシーバは、多くの好ましくない信号の中で所望の信号を選び復調するというほとんど不可能なタスクを行います。標準的な携帯無線において、所望の信号振幅はわずか0.35µVかもしれません。これは近隣の好ましくない信号の振幅よりも100dB以上も下回っています。この信号を復調に適したレベルに振幅するために、携帯無線は、80dB以上の利得で中間周波数(IF)セクションをよく取り入れます。

ビットエラーレート(BER)の条件を満たすためには、システムの電気ノイズを理解し管理する必要があります。シールドおよびフィルタは効果的ですが、民生用携帯電話に余分の重量、サイズ、熱、およびコストといった負担をかけ、同時にバッテリ寿命が短くなります。これより賢明な方法は、既知のノイズスペクトルが無線の性能に干渉しないように最初からシステムを設計することです。携帯電話におけるノイズ管理を行うためには、以下の事項を理解する必要があります。

  • ノイズ伝播メカニズム
  • ノイズに最も敏感な箇所
  • ノイズ発生回路

携帯電話端末

ディジタル携帯電話は、RF、ディジタル、およびアナログ回路をなし、パッケージング、ヒューマンインタフェースおよび省電力の傑作です。RF部はフィルタ、低ノイズアンプ、ミキサ、パワーアンプ(PA)、および周波数シンセサイザからなっています。ミックスドモードASICが送受信部からIF信号に接続します。

ディジタル信号プロセッサ(DSP)とシステム制御プロセッサを含むディジタルASICと協同して動作するこのミックスドモードASICは、一般的にIF信号の変調および復調用のデータコンバータを含んでいます。システム制御プロセッサは、ヒューマンインタフェースと携帯電話動作に不可欠なインテリジェントな電源管理タスクの管理を通常行います。

電源分配サブシステムはバッテリパック(この場合シングルリチウムイオン[Li+]セル)を管理し、端末全体への動作電圧および電流を分配します。Li+バッテリは過電流や過電圧から致命的な損傷を受けるのを回避するのに必須の保護回路を備えています。携帯電話は、また、パワーアンプに適したレベルまでセル電圧を上げるスイッチモード電源(SMPS)も含んでいます。

新しい低電圧ASICは小型のステップダウンSMPSから電源を受け取り、残りのRFおよびアナログ回路はリニア低ドロップアウトレギュレータから給電されることができます。この様々なレギュレータはプロセッサ制御の下、オフ/オンし、電話を特定ワイヤレスシステム(たとえば、GSMまたはIS-95)で要求される多様な動作モードに置くことができます。バッテリに残るセル充電を正確に知ることで、この電源管理技術は最長のバッテリ寿命を実現することができます。

ノイズ伝播メカニズム

伝導および放射は、ノイズがノイズ発生器からノイズレシーバまで伝播する2つの方法です。伝導モードは、有線、プリント基板トレースまたはプレーン、金属シャーシ、またはコンデンサのような電気部品を通してノイズを運びます。放射は、空気を通して、またはFR4回路基板材料のような誘電体を通してノイズエネルギーを運びます。伝導ノイズは従来の回路技術でフィルタできます。放射ノイズはシールディングで最小化されます。

システム内の伝導ノイズは、よく効率的な「アンテナ」を見つけた後、放射ノイズになります。伝導ノイズは一般的に特定コンダクタとして知られ、必要な部分にのみフィルタを適用することができますが放射ノイズはシステムに拡がりどこにでも見られます。システムは追加シールド、導電性コーティング、およびガスケットで放射ノイズをよく含みますが、これらの手法は、ノイズが適正なPCレイアウトとフィルタリングで伝導モードに制限されている場合不要です。したがって、ノイズは伝導モードに保ち、放射させないのが最良です。

図2. IS136およびGSM等のバースト機器の場合、バッテリの大きなトランジェントはタンクコンデンサとブーストコンバータによって最小限に抑えることができます。
図2. IS136およびGSM等のバースト機器の場合、バッテリの大きなトランジェントはタンクコンデンサとブーストコンバータによって最小限に抑えることができます。

パワーアンプ

PAは電源から大電流を消費することによりノイズを発生します。アンテナに達する前に3dBの信号ロスがある3.6V、50%効率のPAはシングルLi+セルから600mA~800mAを引き出すことができます。この大型消費電流は、Li+コネクタ、PCBトレース、およびグランドリターン経路の抵抗を通って流れ、携帯電話の電源ラインにおけるノイズを増やします。

GSMおよびIS-136 TDMA規格で指定されているバースト送信モードを使用しているシステムにおいては、この問題がさらにひどくなります。バーストモードは、PAを短時間のみオンにすることで、電源および分配サブシステムに厳しいトランジェントを起こします。

バーストモードシステムで使われるPAを駆動するためによく使われる方法は、電源電圧を昇圧してピーク電流を低減し、ノイズを最小限に抑え、より一般的で安価なPA技術の使用を可能にすることです。それでも、ピーク電流を供給する必要があるため高仕様のブーストコンバータになります。昇圧されたエネルギーを大型コンデンサに保存するのは良い案です。ブーストコンバータはトランスミッタのバースト間でコンデンサに補充電荷を必要とするのみです。標準的なトランスミッタのデューティサイクルは約12%です。

PA電力の問題は解決されたように見えますが、標準的なDC-DCコンバータの動きについてまだ残っています。コンデンサの電圧降下を検出したときに、できるだけ早く電荷を補充しようとし、Li+セルから電流サージを引き出し、ノイズの問題に引き戻します。この問題に対するユニークな解決法(大型コンデンサを使ってGSM/TDMAトランスミッタを駆動)は、この目的のために設計された一定チップに含まれています。

MAX1687およびMAX1688は、ユーザによってともに設定可能なピークバッテリ電流制限または適応型電流制限アルゴリズムを備えたタンクコンデンサを再充電するブーストパワーコンバータです。この結果、コンデンサとパワーコンバータが協力して、PAへの大電流サージに伴うシステムの乱れを最小限に抑えつつ、効率的な電力変換を維持します。ノイズをさらに制御するために、送信バースト中にこれらのチップは内部SMPSをディセーブルすることができます。

PAバイアス

パワーアンプはまた、バイアス電圧の変動に敏感です。GaAs-FET PAのバイアス電圧はバイアス電流を制御し、このバイアス電流はPAの利得と出力インピーダンスを設定します。結果、このバイアスピンは振幅変調入力となります。GaAs PAに出るノイズはRF出力で包絡線変動として現れ、低周波数ノイズ信号をRFに変換しますが、このRFはシステムを通過し、所望の信号とともにアンテナから放射されます。

GaAs PAは、ゲートバイアスなしで、電圧がソースからドレインに印加される際に最大ドレイン電流を出すディプリーションモードMOSFETを使用しています。ドレイン電流を制御するために、ゲート電位は負(グランドより下)でなければなりません。1アプローチとしてMAX871のような反転チャージポンプでこの負ゲートバイアスを生成する方法がありますが、結果生じるバイアスは制御されておらず、チャージポンプ動作からの強いスイッチングノイズを含みます。

図3. MAX881Rのインターロック機能がGaAs PAを故障から保護
図3. MAX881Rのインターロック機能がGaAs PAを故障から保護

パッシブフィルタリング部品でこのノイズを最小限に抑えることができますが、そのサイズは大変困難です。さらに、非制御出力はPAの利得と出力インピーダンスを、出力インピーダンスマッチングネットワークがシステムに不十分な動作をもたらし、電力を消耗するようなレベルまで変化させることがあります。安定し、静かで、よく定義されたバイアス電圧を生成するには、チャージポンプの次に電圧リファレンスを反転するオペアンプを置くのが一般的です。この手法はフレキシブルですが、物理的に最小の回路を生み出しはしません。

PAバイアスを生成するために入手可能な最小回路はMAX881です。MAX881は反転チャージポンプと負レギュレータを小型10ピンµMAXパッケージに組み合わせています。GaAs PAに共通するバイアスに関するすべての問題は、小型の低電力ICで対応されます。通常の動作条件に関して、この出力ノイズとリップル(~1mVP-P)は、PAのRF出力における好ましくないノイズ側帯の出現を回避するのに十分なくらい低いです。MAX881は、PAの主電源電圧が適用されている際にドレイン電流が制御されることを示す負バイアス電圧の存在も検出します。結果、PAの事故的損傷を回避する安全なインターロックとなります。

PLL周波数シンセサイザ

多くの携帯電話においては、第1の局部発振器(LO)は位相ロックループ(PLL)周波数シンセサイザによって生成されます。AMPS携帯電話においては、電圧制御発振器(VCO)は880MHz付近の±12.5MHzにわたって30kHzステップで同調する必要があります。(実際のVCOは第1のIFでオフセットされる周波数を生成します。) PLLが3Vで動作すると仮定した場合は、2Vの同調電圧(制御電圧)によって25MHzの同調範囲全域をカバーすべきです。2Vによって、PLLがトランジェントや温度ドリフトに反応して飽和しないことを保証するマージンが提供されます。

VCO利得は25MHz/2V、または12.5MHz/Vです。利得が高いとVCOは制御ライン上に出る小さなノイズ電圧に非常に敏感になります。高利得PLLの位相ディテクタおよびVCOが別々になっている場合、VCOが放射ノイズを拾うことがよくあるため、VCOノイズスペクトルを維持するためにシールド付きケーブルが必要です。他の経路から入る多くのかく乱もPLLでVCOを変調することができます。

  1. 位相ディテクタを含むPLL ICで注入された電源ノイズ
  2. VCOに注入された電源ノイズ
  3. 能動積分器またはループフィルタの出力まで到達した電源ノイズ(この効果を見積もるためにはオペアンプのPSRRをチェックしてください)
  4. 水晶発振器(TCXO/VCTCXO)のノイズ。高Q回路の発振器信号はクリーンかつノイズフリーであるべきですが、電源ノイズが過剰の場合には発振器のノイズフロアが上がることがあります。PLLはループ帯域幅内のノイズをPLL分割比(AMPS端末の場合~30,000)だけ増倍するため、周波数シンセサイザはTCXOからのノイズに非常に敏感です。
  5. VCO出力負荷インピーダンスの変動に起因するノイズは反射されてVCOに戻り、動作周波数を引きつけます。
図4. LDOレギュレータからの出力ノイズは、電圧リファレンスにバイパスコンデンサ(CB)を付加することによって低減されます。
図4. LDOレギュレータからの出力ノイズは、電圧リファレンスにバイパスコンデンサ(CB)を付加することによって低減されます。

ループ帯域幅によってノイズスペクトルがDCと500kHzの間になるように形成されている機器においては、第1~4項を受動フィルタリングによって改善することが可能です。周波数シンセサイザは、電源から伝導されるノイズを避けるために個別の低ドロップアウト(LDO)リニアレギュレータから給電される必要があります。最近のディジタル通信システムの場合は、それでも電源による変調に起因する残留位相ノイズが大きすぎます。LDOレギュレータは周波数シンセサイザ用にクリーンな安定化電源電圧を提供しますが、ノイズも発生します。

広帯域ノイズ源

LDOレギュレータ(電圧リファレンス、エラーアンプ、および直列パストランジスタからなる閉ループシステム)は、その機能によりブロードバンドノイズ源となりえます。エラーアンプがそうであるように、電圧リファレンスは大きなノイズを持ちえます。このノイズをシステム利得レベル(10Hz~1MHzの帯域幅で標準2倍~3倍)と合わせることでMAX8863 LDOに350µVRMSの出力ノイズレベルを与えます。このノイズローパスフィルタを下げられますが、このノイズローパスフィルタの前にある電圧リファレンスがリファレンスノイズを増幅します。

低ノイズLDOレギュレータ(MAX8877)はリファレンス電圧をパッケージピンに運びますが、このパッケージピンによってこの点にコンデンサが加わりノイズがグランドにバイパスされます。例えば、0.01µFのコンデンサは、10Hz~100kHzの帯域幅で出力ノイズを30µVRMSに下げます。この改善により900MHzにおけるPLLノイズを10dB~20dB下げることができます。

LDOは端末のセクションをそれぞれ絶縁する役割も果たします。LDO帯域幅内でMAX8877は10kHzにおいて電源ノイズを60dB抑制します。PCB領域については、この抑制は決まりです(ICはSOT23パッケージです)。低周波数で同じフィルタ動作を行うパッシブ素子は大変大きくなります。したがって、低ノイズLDOは、より小型のサイズと省コストが常に要求される市場を持つ最近のディジタル携帯電話での使用に適しています。

効率の改善

最近の携帯電話ではスイッチモード電源が使われ、最新のSMPS ICは小型サイズ、高効率、低ドロップアウト電圧、小さな外部部品、そしてノイズ制御の機能を提供します。例えばMAX1692は、パルス幅変調(PWM)と同期整流を使って、90%効率と予想可能な低いノイズスペクトラムを実現するステップダウン(バック)パワーコンバータです。この製品は、3V~4.2Vを生成するシングルLi+セルで動作し、今日の携帯電話で使われる大型ASICに給電できるように最小1.25Vまで電源電圧を生成します。

IFセクションのような高利得RFセクションから出る干渉を制御するために、MAX1692はTCXOで生成されるような外付け水晶制御クロックと同期することができます(500kHz~1MHzの周波数で)。高周波動作は、小型の外付け部品の使用およびノイズスペクトラム計画に重要です。

図5. バックSMPSでノイズを生成する2つの電流ループ
図5. バックSMPSでノイズを生成する2つの電流ループ

スイッチモード電源は、最低周波数がスイッチモード電源の基本スイッチング周波数であるノイズスペクトラムを生み出します。高調波間の空間はこの基本スイッチング周波数に等しいですが、スペクトラムのその他要素の予想は困難です。高調波間で分配されたノイズ電源は波形(対時間)、電流レベル、インダクタ値、コンデンサ値、およびPCBレイアウトの関数です。

スイッチングノイズは入力、出力およびグランドラインに乗って伝導するか、あるいはプリント基板トレースから放射します。伝導ノイズを低減するためにフィルタネットワークを加えると放射ノイズが増すことがありますが、SMPSから伝導するリップルとノイズは常に最小限に抑えてください。こうしたノイズはレイアウトから放射され、システム中を効率よく電波するため全体からノイズが出ているように見えます。

携帯電話のノイズの問題に対処する最良の道は、電話のノイズカップリング機構、ノイズに敏感な回路ノードおよびノイズ発生回路を理解することです。ブーストパワーコンバータおよび大型コンデンサによって、GSM/TDMA機器のPAトランジェントからの伝導ノイズを最小限に抑えることができます。SMPSからの放射ノイズはプリント基板レイアウトに強く依存し、新しい図式表現を参考にしてレイ アウト作業を進めることにより、初回から成功させることができます。小型リニアレギュレータは能動的ノイズフィルタリングを提供し、リファレンスのバイパスと併用することによって周波数シンセサイザに必要な超低ノイズレベルをもたらすことができます。最後に、IFを電源のノイズ高調波間の静かなゾーンに配置することにより、最近のディジタル携帯電話のビットエラーレートを悪化させる信号汚染を排除することができます。

誤らないために

標準バックスイッチモード電源の回路図で回路動作をよく理解することができます。残念なことに、プリント基板レイアウトを行う人々は、プリント基板について欠陥のあるフロアプランを作ってしまうこともあります。

図6. レイアウトを改善しノイズを低減するのに役立つ変更後のSMPS回路図
図6. レイアウトを改善しノイズを低減するのに役立つ変更後のSMPS回路図

パワースイッチ素子(S1)は閉じ、電流はC1からS1を通ってインダクタ(L1)に流れC2に入り、グランド経路を通ってC1(-)端子にたどり着きます。S1が開いているときは、ダイオード(D1)が動作するまでVxはローになります。電流を循環させる経路は現在D1からL1へ、次にC2へ、そしてD1に戻ります。放射ノイズ電源は電流フローおよびループの放射抵抗に支配されます。

PαI²(A² / λ4),

ここでPは放射ノイズ電源で、Aは電流ループの領域、Iは電流、そしてλは波長です。どの波長(周波数)においても放射ノイズ電源は、ループ領域と循環電流の積の2乗により増加します。したがって、標準的なSMPS回路を使用すると、一般的にループ領域が高レベルの伝導および放射ノイズを発生するプリント基板レイアウトを備えることになります。結果、このノイズを緩和するためにプリント基板レイアウトを何回も繰り返して時間を費やすことになります。

初回で成功を収めるために、C1、D1、およびC2のグランド接続で物理的に近接させる必要性に力を注ぐような方法で回路図を再度書いてみてください。こうしたレイアウトは最初から低ノイズ動作を実現できます。クリーンで最適化されたプリント基板レイアウトができたと仮定すると、動作周波数を調べて、無線レシーバのIFおよびIF帯域幅への関連を決定する必要があります。IF帯域幅がSMPS動作周波数よりも小さければ、IFをSMPS高調波間の「静かなゾーン」に置く必要があります。これをいったん完了するとSMPSノイズは、たとえノイズがシステムにあったとしてもIFパスバンドはエネルギーに欠けるため、高利得IFセクションを汚染することができません。適切な選択を行いトレードオフを実現するには、これらのノイズ計画ステップを、無線の周波数計画の早い段階で考慮する必要があります。

これと同様の記事が「Computer Design」の1999年5月号に掲載されました。

著者について

Bob Kelly

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