絶縁型電源の設計を簡素化する

2011年01月01日
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LT3748」は、絶縁型のスイッチング・レギュレータを実現するためのコントローラICです。トポロジとしてフライバック方式を採用する設計を簡素化することを目的として設計されました。絶縁出力の電圧を1次側のフライバック波形から直接検出するので、3次巻線や光アイソレータ(フォトカプラ)は必要ありません。

フライバック・コンバータを設計する際には、1つの課題に直面します。それは、レギュレーションを維持するために、トランスの2次側の出力電圧に関する情報を、1次側のレギュレータにフィードバックしなければならないというものです。そのために、従来は光アイソレータを使用するか、トランスの巻線を追加することによって、絶縁バリアをまたいでフィードバックを行っていました。しかし、どちらの方法にも設計上のいくつかの問題が存在します。まず、光アイソレータをベースとするフィードバック回路を使用する場合、部品を追加することによってレギュレータのサイズとコストが増加することになります。また、消費電力も増えるので、効率が低下し、熱に対応するための設計が複雑になります。加えて、光アイソレータには、ダイナミック応答の面で制約があります。更に、光アイソレータは本質的に非線形で、個体ごとの一般的なばらつきに加えて経年劣化のばらつきも生じることから、出力を正確にレギュレートするのが難しいという問題もあります。そうした問題を回避するために一般的に使用されているのが、トランス巻線を追加する方法です。しかし、その方法にも、磁気部品のサイズとコストの増加という問題が伴います。加えて、ダイナミック応答に関する制約といった別の問題が生じる可能性もあります。

LT3748は、上述したのとは異なる方法で課題に対処します。具体的には、1次側のフライバック・パルスの波形を調べることによって、絶縁出力の電圧値を推定します。この方法では、レギュレーションを維持するために光アイソレータも追加のトランス巻線も使用しません。出力電圧は、2個の抵抗を使うことによって簡単にプログラムできます。

ここで、図1をご覧ください。LT3748は、連続導通モードと不連続導通モードの境界で動作するバウンダリ・モードという制御手法(臨界導通モードとも呼ばれます)を採用しています。その動作により、2次側の電流がほぼゼロの場合におけるトランスの1次側の電圧を基に出力電圧を算出します。このような手法が適用されていることから、外付けの抵抗やコンデンサを追加することなく負荷レギュレーションを改善することができます。図2に示したのは、12V/30Wの出力に対応するデモ用のボードです。このようなシンプルかつコンパクトなソリューションを実現しつつ、標準的なライン・レギュレーション/負荷レギュレーションとして±5%未満の精度を達成します。

図1. バウンダリ・モードの動作。LT3748をベースとするフライバック・コンバータの理想的な波形を示しています。

図1. バウンダリ・モードの動作。LT3748をベースとするフライバック・コンバータの理想的な波形を示しています。

図2. LT3748をベースとするフライバック・コンバータのデモ用ボード(実寸大)。18V~90Vの入力電圧範囲に対応します。光アイソレータは使用していません。

図2. LT3748をベースとするフライバック・コンバータのデモ用ボード(実寸大)。18V~90Vの入力電圧範囲に対応します。光アイソレータは使用していません。

出力電力

LT3748は、外付けのパワーMOSFETと組み合わせて使用します。そのため、最大出力電力は、LT3748ではなく、主に外付け部品によって制限されます。出力電力の制限は、電圧制限、電流制限、熱制限の3つのカテゴリに分類することができます。フライバック・コンバータの設計において、電圧制限の主な要因になるのは、MOSFETの最大ドレイン‐ソース間電圧VDSと出力ダイオードの定格の逆バイアス電圧です。大電力を伴うアプリケーションにおいて、出力電力を供給する際の電流を制限するのは、一般的にはトランスの飽和電流です。但し、所望の電流に応じた定格値を備えるMOSFETと出力ダイオードを使用することも重要です。フライバック・コンバータの出力電圧が低い場合、熱制限の主な要因となるのは出力ダイオードの損失です。出力電圧が高くなるにつれて、トランスの抵抗損失とリーク損失が占める割合が増加します。

最適化された機能

LT3748は、1.9Aの平均出力電流(立上がりと立下がりの両方)を供給できるゲート・ドライバを内蔵しています。また、同ドライバ用のバイアス電圧INTVCCを生成するためのLDO(低ドロップアウト)レギュレータも備えています。これらを使用することで、適切なMOSFETのほとんどを、最大数百kHzの周波数で駆動することができます。また、スタートアップ時の動作は、プログラムが可能なソフトスタート機能と低電圧ロックアウト(UVLO)機能によって適切に制御されます。LT3748は、コンパクトなMSOP-16パッケージを採用しています。ただ、高電圧の動作に対応できるよう十分な間隔を設けるために、4本のピンを取り除いた状態で供給されます(図3)。

図3. LT3748の外観。高電圧の動作に対応するために、4本のピンを取り除いたMSOP-16パッケージで提供されています。

図3. LT3748の外観。高電圧の動作に対応するために、4本のピンを取り除いたMSOP-16パッケージで提供されています。

3次巻線によるINTVCCのオーバードライブ

LT3748は、光アイソレータや3次巻線を使うことなく、出力電圧の優れたレギュレーションを実現します。ただ、入力電圧が高いアプリケーションの中には、巻線を追加することにより、特に負荷が軽い場合のシステム全体の効率を高められるものがあります。3次巻線は、出力電圧が7.2V~20Vになるように設計する必要があります。出力が15Wを超える標準的なアプリケーションでは、3次巻き線でINTVCCピンをオーバードライブすることにより、最大負荷の場合で数%、軽負荷の場合で10%以上効率を高められる可能性があります。図4は、図5に示した回路に3次巻線を接続した場合と接続しない場合の効率を示したものです。

図4. 図5の回路に3次巻線を接続した場合と接続しない場合の効率

図4. 図5の回路に3次巻線を接続した場合と接続しない場合の効率

過電流保護

LT3748は、抵抗RSENSEを流れる電流が、プログラムされた範囲を超えたことを検出するための内部閾値を備えています。その目的は、システムに障害が発生した際、外付け部品を保護できるようにすることです。そのような状態は、誘導性の出力の短絡によって出力電圧がゼロ以下までディップした場合か、電流によってトランスが飽和した場合に生じる可能性があります。何が原因であるかに関わらず、SENSEピンの電圧が約130mV(抵抗RSENSEでプログラムされた最大電流の制限値よりも30%高い)を上回ると、SSピンがリセットされてスイッチング動作が停止します。ソフトスタート用のコンデンサが再充電されて閾値に達すると、最小電流に制限された状態でスイッチングが再開します。出力が短絡した場合、反射出力電圧とダイオードの順方向電圧の合計値がゼロよりも大きければ、LT3748は通常どおりに機能し、外付け部品に影響が及ぶことはありません。

高温動作への対応

LT3748は広い温度範囲にわたって優れた性能を発揮するよう設計されており、E/I/Hグレードの製品が提供されてします。INTVCC用の内蔵レギュレータを除けば、入力電圧が高い場合でも消費電力は非常に少なく、熱性能を制限するのはほぼ外付け部品だけになります。外付け部品としては適切なサイズのものを選択すると共に、必要に応じて冷却手段を設けるとよいでしょう。

18V~90Vの入力から12V/3Aの出力を生成

図5に示した回路を使用すれば、広範な入力電圧から12Vの出力を効率的に得ることができます。LT3748は、最大100Vの入力電圧に対応可能です。したがって、ライン電圧と同ICの間にインターフェース回路を追加する必要はありません。抵抗とコンデンサで構成されるシンプルなスナバ回路を使うだけで、ラインと負荷の全範囲にわたり過度な電圧からMOSFETを十分に保護することができます。なお、この例ではMOSFETとして200Vに対応する「Si7450」を使用しています。軽負荷時の効率を高めるために3次巻線を接続することになるかもしれませんが、すべてのレギュレーションは1次巻線で行われます。3次巻線を備えていないトランスを使用した場合でも、入力電圧が低く出力負荷が高いという条件下ではほぼ同等の効率が得られます。

図5. 図2のデモ用ボードの回路図。このレギュレータは、18V~90Vの入力電圧を基に12V/2.5Aの出力を生成します。

図5. 図2のデモ用ボードの回路図。このレギュレータは、18V~90Vの入力電圧を基に12V/2.5Aの出力を生成します。

車載用途に適したIGBTの制御用回路

図6に示した回路は、LT3748のもう1つの活用例です。この回路は、電気自動車やハイブリッド車の高いバッテリ電圧から同期モーターを駆動するIGBTに電力を供給するために使用します。スナバ回路として任意のものを使用できるようにするために、最大VDSが150VのMOSFETを選択しています。また、UVLO機能については、次のような状況に対応できるようにヒステリシスの閾値を設定しています。すなわち、スイッチング中に入力電圧VINが8Vまで低下することを許容しつつ、VINが10Vなったらスイッチングを開始するようにしています。

図6. ハイブリッド車や電気自動車で使われるIGBTの制御用回路

図6. ハイブリッド車や電気自動車で使われるIGBTの制御用回路

リモート・センサー用の高電圧の出力

一般に、ケーブル長が長い場合やインターフェース装置に電力を供給する場合、フライバック・コンバータは高電圧の絶縁出力を生成するための唯一の手段になります。図7に、その種の標準的なアプリケーション回路図を示しました。この回路は、±300Vの出力に対応しています。この種のアプリケーションにおいて電力レベルが低い場合には、入手が容易なトランスである「EP13」を使うことで十分な性能が得られます。しかも、ソリューション全体のサイズを小さく抑えることが可能です。 

図7. ±300Vの出力に対応する絶縁型フライバック・コンバータ

図7. ±300Vの出力に対応する絶縁型フライバック・コンバータ

まとめ

LT3748は、1次側での検出機能とバウンダリ・モードの制御方式を採用した製品です。これを採用すれば、光アイソレータやそれに関連する回路は不要になります。そのため、絶縁型のフライバック・コンバータの設計が簡素化されます。この製品の特徴の1つは、入力電圧範囲が広く、自己消費電力が少ない1.9A対応のゲート・ドライバを内蔵していることです。加えて、設計の更なる簡素化や多用途性の実現につながるプログラマブルな保護機能も備えています。

著者について

JD (John) Morris

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