温度補償付きの絶縁型pHモニタ

2019年07月01日
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はじめに

多くの産業分野では、液体のpH 値を把握することが重要になります。液体を扱うあらゆる産業分野では、pH を測定するシステムがほぼ不可欠です。例えば、廃水システムや廃水プラントにとって、そうしたシステムが重要であることは言うまでもありません。それ以外にも、醸造所からの排水は、下水システムに到達する前に、特定のpH 値に収まっている必要があります。本稿では、水を処理するシステムに、絶縁を施した高精度のpH 測定機能を組み込む手段を紹介します。

本稿では、まず、システムに高精度の絶縁機能を適用する方法について考察します。絶縁は、システムから離れたところにある水のpH値や異なるグラウンド・レベルをモニタリングしたり、障害の発生時にシステムを高い電圧から保護したりする上で重要な役割を果たします。

pH値とは、水溶液の酸性またはアルカリ性(塩基)の度合いを表す指標です。単位のない数値であり、水素イオンの活量を用いた次式によって定義されます。

数式1

純水のpH値は、7と定義されています。pHが7未満であれば酸性、7以上であればアルカリ性です。pHの測定には、その値によって色が変わる指示薬がよく使われています。しかし、この測定方法では、大まかな値しか把握できません。図1に示す回路は、ガラス電極の評価を目的としたものです。精度は、0~14の範囲のpH値に対して0.5%です。また、温度補償も適用されています。この回路は、1MΩ~数GΩという高いインピーダンスを持つ多様なpHセンサーに対応しています。

図1. 一体型の電極を備えたpHセンサー回路(簡略化してあります)

図1. 一体型の電極を備えたpHセンサー回路(簡略化してあります)

pH測定用の電極

pH用のプローブは、バッテリと同様に、測定用の電極とリファレンス用の電極で構成されます。測定の対象となる溶液にプローブが浸されているとき、測定用の電極は、水素イオンの活量に応じた電圧を生成します。出力の代表値としては、25°Cにおいて単位pH当たり59.14mVとなります。この値は、温度によって70mV/pHまで上昇します。この電圧をリファレンス用の電極の電圧と比較します。溶液が酸性(pHの値が低い)であれば、プローブの出力電位は、0Vより高くなります。一方、アルカリ性であれば、0Vよりも低くなります。この出力値は、次式によって求められます。

数式2

各変数/定数の意味は以下のとおりです。
E:プローブの出力電圧
E0:電極の標準電位(通常は0V)。プローブによって異なります。
R:気体定数 R = 8.31447 J・mol-1・K-1
T:温度。単位はケルビン。
n:移動電子数(または同等の数)
F:ファラデー定数 F = 96485.34C・mol-1
pH:測定の対象となる溶液の水素イオン濃度
pHREF: リファレンス用の電極の基準値。値は7です。

測定用の回路

図1の回路の主な構成要素は、プローブ用のバッファ、A/Dコンバータ(ADC)、電圧伝送機能を備えるアイソレータです。バッファとして使用しているオペアンプIC「AD8603」は、低消費電力、低ノイズで、入力バイアス電流が極めて少ないことから選択しました。入力バイアス電流の代表値は200fAであり、プローブの内部抵抗を流れる電流によって生じる電圧降下を最小限に抑えることができます。もう1つの重要なコンポーネントはADCです。この例では、分解能が24ビットのシグマ・デルタ(ΣΔ)型ADC「AD7793」を選択しました。同ICは、電源とプログラマブル・アンプを内蔵している点を1つの特徴とします。内蔵する電流源は、Pt1000に流れる電流を生成します。これにより温度を測定し、プロセッサで補償を実施します。同じ電流が5kΩの抵抗(許容誤差0.1%)にも流れ、それによって1.05Vのリファレンス電圧が生成されます。2次的な機能として、この抵抗は、コモンモード電圧を上昇させます。このコモンモード電圧とリファレンス電圧の値を適切に選択することによって、ADCの全入力範囲を利用することが可能になります。プローブの出力は±414mV、最大出力は±490mVです。アイソレータとしては、絶縁型のDC/DCコンバータ「ADuM5411」を使用しています。同ICは、ADCのSPI用の絶縁機能も提供します。

回路の特性

上記のとおり、高い精度を実現するために、入力バイアス電流の代表値が200fAのオペアンプを選択しました。プローブのインピーダンスが1GΩの場合、電圧オフセットの最大値は0.2mVになります。これをpH値に換算すると、25°Cにおいて0.0037の誤差に相当します。入力バイアス電流が最大値である1pAの場合でも、最大オフセット誤差は、1mVと非常に小さく抑えられます。このような望ましい条件を活かすためには、ガード・リングやシールディングのほか、微小電流の影響を回避する手法などを適用し、プリント回路基板のレイアウトを適切に実施することが肝要です。データ・レートを16.7Hz、ゲインを1にした場合、ADCによって生成されるノイズは約2µVrmsになります。ピークtoピークのノイズである13µVを使って計算すると、pH値の精度は0.00022になります。オペアンプからのノイズとADCからのノイズを合わせると、pH換算で0.00053という更に大きなオフセット誤差が生じます。

まとめ

本稿で示したのは、pHセンサーで取得した値を読み取るためのシンプルかつ非常に高精度で低消費電力の回路です。回路のキャリブレーションを実施した後は、pH値換算で0.005という0.5%の精度を実現できます。絶縁を施しているため、多くのアプリケーションに適用することが可能です。

著者について

Thomas Tzscheetzsch
Thomas Tzscheetzsch は、2010 年にシニア・フィールド・アプリケーション・エンジニアとしてアナログ・デバイセズに入社しました。2010 ~ 2012 年にドイツ中部地区の顧客を担当した後、より小規模な顧客層を対象とするキー・アカウント・チームに所属していました。2017 年の組織再編後は、FAE マネージャとして CE諸国の IHC クラスタにおいて FAE チームを統括しています。

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