絶縁型誤差アンプによるAC/DCおよびDC/DC電源用フォトカプラとシャント・レギュレータの置き換え

2013年07月01日
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AC/DC、DC/DC、DOSA準拠の絶縁型電源モジュールの設計者は、マーケットからの性能向上要求に応える際に問題に直面しています。この資料では、1次側制御アーキテクチャの過渡応答を向上させ、動作温度範囲を広げるデジタル・アイソレータ誤差アンプを紹介します。従来型アプリケーションの1次側コントローラでは、帰還ループ・アイソレーションのためにはフォトカプラを、誤差アンプおよびリファレンスとしてはシャント・レギュレータを、それぞれ使用していました。フォトカプラは電源で安価なアイソレータとして使用されてきましたが、これにより最大ループ帯域幅が50 kHzに制限され、実際にはそれよりさらに狭くなることもありました。絶縁型誤差アンプと高精度リファレンス機能を1つのパッケージに内蔵した、高速で信頼度の高いデジタル・アイソレータ回路の使用により、遥かにに小さい温度ドリフトと遥かに広い帯域幅を持つ高精度な絶縁型誤差アンプが実現されました。絶縁型誤差アンプにより250 kHzを超えるループ帯域幅が実現可能になり、絶縁型1次側電源デザインが遥かに高速なスイッチング速度で動作できるようになりました。適切な電源回路での高速なスイッチング速度により、出力フィルタではより小型のインダクタとコンデンサの使用が可能になるため電源の小型化が可能になりました。

我々がここで調べる最初の回路は、部品数が最も少ない回路であるフライバック・コンバータです。フライバック回路はスイッチ数が最小で済みます。ここでの例では1次側にスイッチを1個だけ、2次側に整流ダイオードを1個だけ、それぞれ使用します。シンプルなフライバック回路は比較的低出力電力で使用されますが、出力リップル電流が大きく、かつ右半平面(RHP)ゼロ点のためクロスオーバー周波数が低くなっています。このため、フライバック回路では大きな値の出力容量が必要となり、大きな出力リップル電流定格になります。図1のフォトカプラ方式では、絶縁型出力電圧VOの帰還電圧の誤差アンプとして機能するシャント・レギュレータを使用しています。シャント・レギュレータは、高精度基準として使用する場合、2% (typ) 精度のリファレンス電圧を提供します。分圧した出力電圧が内部誤差アンプによりシャント・レギュレータのリファレンス電圧と比較され、その出力がフォトカプラLED回路へ供給されます。フォトカプラLEDは出力電圧と直列抵抗から供給される電流によりバイアスされ、必要とされるこの電流の大きさはフォトカプラのデータ・シートで規定される電流伝達(CTR) 特性に基づきます。

図1.フォトカプラとシャント・レギュレータ採用のフライバック・レギュレータのブロック図

図2.フォトカプラCTRの性能低下

CTRは、出力トランジスタ電流の入力LED電流に対する比です。CTR特性は非直線的で、フォトカプラごとに変わります。図2に示すように、フォトカプラのCTRは動作寿命中に変わるため、信頼性デザインを非常に困難にしています。ここでデザイン/テストするフォトカプラは、初期CTRで2: 1の不確定性ですが、高電力および高密度電源で遭遇する高温環境での使用またはサービスでは数年後にCTRは40%低下します。フォトカプラをリニア・デバイスとして使用する場合、比較的低速の伝達特性(小信号帯域幅は約50 kHz)を持つため、電源のループ応答は低速になります。フライバック回路の場合、伝達特性が低速であることは問題になりません。これは、誤差アンプ補償によりループ帯域幅を狭くして出力を安定にすることが、この回路で要請されるためです。フォトカプラでの問題は、出力特性の経時変化に対して、ループの安定性を確保するためループ応答をさらに低速化することがデザインで求められることです。低速なループ応答の欠点は、過渡応答性能が低下するため、負荷トランジェントから出力電圧が回復するために要する時間が長くなることです。出力容量を大きくすると、出力電圧降下を小さくすることに役立ちますが、出力応答時間が増加します。このため、小型で安価なソリューションが可能で大きな需要があるのに、電源デザインが大型化し高価になってしまいます。

図3.絶縁型誤差アンプによるフォトカプラとシャント・レギュレータの置き換え

リニア・アイソレータとしてのフォトカプラの安定動作が困難であることを説明した後は、時間と限界温度に対して安定で信頼度の高い性能を提供する絶縁型誤差アンプを調べることができます。図3に示すように、シャント・レギュレータとVREF機能を広帯域オペアンプと1.225 Vのリファレンス・セクションで置き換えて、さらにフォトカプラをデジタル・アイソレータ技術を採用した高速リニア・アイソレータで置き換えます。デバイス右側のオペアンプでは、非反転+INピンが1.225 Vの内蔵リファレンスに接続され、反転−INピンが絶縁型DC/DCコンバータ出力の帰還電圧に分圧器を介して接続されています。COMPピンはオペアンプ出力で、補償回路の抵抗部品とコンデンサ部品の接続に使用することができます。COMPピンは内部でトランスミッタ・ブロックを駆動しています。このブロックはオペアンプ出力電圧をデジタル・アイソレータ・トランスの駆動に使用されるパルス変調出力に変換します。絶縁型誤差アンプの左側では、トランス出力信号がデコードされ、アンプ・ブロックを駆動する電圧へ変換されます。アンプ・ブロックは、EAOUTピンに誤差アンプ出力を発生し、この出力を使って、DC/DC回路のPWMコントローラ入力を駆動します。

図4.絶縁型誤差アンプ出力精度の温度特性

この新しい絶縁型誤差アンプの利点としては、温度に対してオフセットとゲイン誤差ドリフトを小さくするためにデザインされたリファレンスとオペアンプなどがあります。1.225 Vのリファレンス回路は温度に対して1%の安定性に調整されています。これは、シャント・レギュレータに比べて正確で、ドリフトは遥かに小さくなっています。図4に示すように、絶縁型誤差アンプの出力特性(typ) は−40°C~+125˚Cの範囲で0.2%しか変化しないため、高精度DC/DC出力が可能になっています。安定な出力特性を維持するため、オペアンプのCOMP出力はパルス符号化されて、デジタル・パルスとしてアイソレーション障壁を超えて送信され、デジタル・アイソレータ・トランス・ブロックへのアナログ信号として複号されて、フォトカプラ・アイソレーション使用時のCTR変動問題が完全に解消されています。

フライバック回路で可能な過渡応答より高速な過渡応答を必要とするアプリケーションの場合、絶縁型誤差アンプにプッシュ・プル回路を使用することができます。図5にプッシュ・プル回路を示します。2個のMOSFETは交互にオン/オフ・スイッチングし、トランスの2本の1次側巻線を充電し、次に2本の2次巻線がダイオードで導通して、出力フィルタのインダクタとコンデンサを充電します。適切に補償すると、プッシュ・プル回路は非常に安定で、高速なスイッチング周波数と高速なループ応答を持ちます。フライバック回路に使用される同じ絶縁型DC/DCデザイン例(5 V入力、5 V出力、1.0 A出力電流)は、ADuM3190絶縁型誤差アンプを使ったプッシュ・プル回路で実現されています。プッシュ・プル・デザインは、200 kHzの代表的な低速フライバック・デザインに対して1.0 MHzのスイッチング周波数を持つため、広い帯域幅を持つADuM3190はフォトカプラより優れたオプションを提供します。出力フィルタ容量は、代表的なフライバックの200 µFからプッシュ・プルの27 µFへ削減されており、47 µHの小さいインダクタが追加されています。図6の波形は、100 mAから900 mAへの負荷ステップ条件に対して、絶縁型誤差アンプを採用したプッシュ・プル回路は代表的なフライバックの400 µsecに比較して100 μsecで応答し、4倍向上していることを示しています。フライバック回路から見た出力電圧の400 mV変化の代わりに、プッシュ・プル回路出力電圧は200 mVの変化になっており、2倍向上しています。高速なプッシュ・プル回路と絶縁型誤差アンプの広い帯域幅の使用により、高速な過渡応答と小型の出力フィルタで高性能が得られています。

図5.デジタル・アイソレータ誤差アンプを採用したプッシュプル・コンバータのブロック図

図6.デジタル・アイソレータ誤差アンプを採用したプッシュプル・コンバータの100 mA→900 mA負荷ステップ

これらの高性能化は、ループ応答の高速化を可能にする400 kHzの絶縁型誤差アンプの広帯域幅により可能になりました。10 MHzの広いゲイン帯域幅積を持つ2次側誤差アンプは、シャント・レギュレータより約5倍も高速であるため、絶縁型DC/DCコンバータに対して1 MHzの高いスイッチング周波数を可能にします。寿命と温度に対して不確定な電流伝達比を持つフォトカプラ・ソリューションとは異なり、絶縁型誤差アンプの伝達関数は寿命中不変で、かつ−40°C~+125°Cの広い温度範囲で安定しています。これらの性能向上により、1次側制御アーキテクチャにより過渡応答と動作温度範囲を向上させたいと願う絶縁型DC/DCコンバータの電源設計者にとって、絶縁型誤差アンプは最適なソリューションになっています。

著者について

Brian Kennedy
Brian Kennedy は、アナログ・デバイセズのデジタル・アイソレータ・グループに所属するアプリケーション・エンジニアです。2008年4月からアナログ・デバイセズに勤務し、電源デジタル・アイソレーション製品を担当しています。ニューヨーク州立大学(バッファロー)で電気工学士(BSEE)を取得しています。

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