要約
このアプリケーションノートは心電計(ECGまたはEKG)を紹介し、心信号の測定と電子的な表示方法の基本について議論します。ECG装置のアナログフロントエンド(AFE)部分とこの信号経路による心拍数データのディジタル化の方法について幅広い観点から検討します。自動体外式徐細動器(AED)、患者モニタ、およびよりハイエンドの診断用ECGなどの様々なECGアプリケーションとそれらが提供する異なる機能について論じます。
概要
心電計(ECGまたはEKG)は、心筋に関連した電気信号を時間に対して測定し、グラフィック表示します。ECGのアプリケーションは、心拍数の監視から特定の心臓状態の診断まで様々です。ECGの測定法はどのアプリケーションでも基本的に同じですが、電気部品の詳細と要件は大きく異なります。心電計(ECG装置)は、200ドル足らずの移動式ハンドヘルド装置から5,000ドルを超えるFAX機サイズの装置まで、様々なものがあります。ECGは、患者モニタや自動体外式除細動器(AED)などの機器の独立したモジュールに組み込まれている場合もあります。
すべてのECGは、人体の特定部位に取り付けた電極から心信号を検出します。心信号は人体によって生み出され、その振幅は数mVです。特定の部位に電極を取り付けると、心臓の電気的活動を様々な角度から確認することが可能で、それらはECGのプリントアウトではそれぞれ1つのチャネルとして表示されます。各チャネルは、いずれか2つの電極間の差動電圧、またはいくつかの電極の平均電圧と1つの電極間の差動電圧を表します。電極を様々に組み合わせることによって、電極の数よりも多くのチャネルを表示することができます。チャネルは一般に「リード」と呼ばれるため、12リードのECG装置では、独立した12のチャネルをグラフィック表示します。リードの数は、アプリケーションに応じて1リードから12リードまで様々です。残念ながら、電極につながる導線もリードと呼ばれることがあります。12リード(12チャネル)のECG装置に必要な電極は10個(導線は10本)に過ぎないため、この呼び方が混乱を引き起こす場合があります。そのため、「リード」という言葉が使われている場合は、その文脈に注意してください。
ECGとパルス酸素測定の測定値を表示した患者モニタ
大部分のECGでは、生体信号のほか、2つの人工的な信号も検出します。このうち最も重要なものは、埋め込まれたペースメーカから発信された信号で、これは単に「ペース」と呼ばれます。ペース信号は数10μs~2ms程度の比較的短い信号で、その振幅は数mV~1V程度の範囲です。多くの場合、ECGはペース信号の存在を検出すると同時に、ペース信号による心信号の歪みを防ぐ必要があります。
2つめの人工信号は、「リードオフ」を検出するためのものです。リードオフは、電極の電気的接触が悪いときに発生します。多くのECG装置では、接触が悪い場合に警報を発する必要があります。そのため、ECG装置は、電極と人体間のインピーダンスを測定するための信号を生成することによってリードオフの発生を検出します。この測定は、AC、DC、またはその両方で行います。ECG装置の中には、リードオフ測定のインピーダンスの解析によって呼吸数を割り出すものもあります。リードオフの検出は連続的に行い、心信号の正確な測定を妨げないようにする必要があります。
フル機能のECGのファンクションブロックダイアグラム。マキシムが推奨するECG設計ソリューションの一覧については。
機能
ECGについては、信号をディジタル化するアナログフロントエンド(AFE)と、データの解析、表示、保存、および伝送を行う「装置のその他の部分」に分けて考えると、必要な電子部品を理解しやすくなります。AFEはいずれも基本的な要件は同じですが、リードの数、信号の忠実度、除去する必要がある干渉などが異なります。装置のその他の部分は、各機能が存在するかどうかによって大きく異なります。標準的な機能には、内蔵ディスプレイ、ハードコピー印刷機能、無線周波数(RF)リンク、充電式バッテリなどがあります。
リードの数
最もわかりやすい特長の1つは、リードの数です。ECGの中にはリードが1つだけのものもありますが、リードの最大数は12が普通です。最も一般的な12リードのECGは10個の電極を必要とします。それらの電極のうち9個で電気信号を検出し、10個目の右脚の電極(RL)をECGの回路で電気的に駆動してコモンモード電圧を抑制します。入力用の9個の電極は、左腕(LA)、右腕(RA)、左脚(LL)の各1個と、前胸部(胸部)の6個の電極(V1~V6)です。各リード(心臓のビュー)は、1つの電極と別の電極または電極グループの間の差動電圧です。電極をグループ化した場合は、各電極の電圧の平均をとります。リード(ビュー)のうち6つについては、RA、LA、およびLLを平均して差動ペアの一方を構成し、差動ペアのもう一方にはV1~V6を個別に使用します。他の3つのリードは、RA、LA、およびLLと、それら以外の2個の電極の平均を比較します。残りの3つのリードは、RA、LA、およびLLを個別電極のペアとして測定して得られます。RA、LA、およびLLに基づいた6つのリードは重複した情報を含みますが、表示方法が異なります。情報が冗長であるため、6つのリードすべてを測定する必要はありません。チャネルの中には、DSPで測定チャネルのデータを解析することによって計算可能なものもあります。
ここで説明した12リードの装置は最も一般的ですが、これだけでありません。また、12リードのECGは、5リード、3リード、または1リードの装置として動作させることもできます。ここでの要点は、複数のリードが必要な場合はスイッチマトリックスと平均化回路が必要だということです。
アナログフロントエンド(AFE)
AFEの主要な機能は、心信号をディジタル化することです。このプロセスは、強力なRFソース、ペース信号、リードオフ信号、コモンモードライン周波数、他の筋肉からの信号、および電気ノイズによる干渉を除去する必要があるため、複雑になります。さらに、mVレベルのECG信号が数百mVものDCオフセットの上に乗ることがあり、チャネル間のコモンモード電圧の差は1Vを超えます。患者への電気的接続が危険な衝撃を生み出したり、患者に接続される他の医療機器に干渉することは防ぐ必要があります。ECGで使用する周波数範囲はアプリケーションによっていくらか変わりますが、通常は0.05Hz~100Hzの近辺です。
AFEの副次的な機能として、ペース信号、リードオフ、呼吸数、および患者のインピーダンスの検出があります。これらはすべて複数のチャネルで同時またはほぼ同時に行います。さらに、大部分のECG装置では、除細動イベントから迅速に回復する必要があります。除細動を実行すると、フロントエンドやチャージコンデンサが飽和する場合があります。そのため、容量結合した回路で回復に長い時間がかかります。
各種ECGアプリケーションのAFE機能
機能 | 患者 モニタ |
診断 | テレメトリ | ホルター | AED | 個人使用 |
高RF耐性 | U | U | S | S | S | N |
最低周波数(Hz) | 0.05 | 0.05 | 0.1 | 0.1 | 0.5 | 0.5 |
最高周波数(Hz) | 500 | 500 | 50 | 150 | 40 | 40 |
ADCサンプルレート(sps) | 1k ~ 100k | 1k ~ 100k | 1024 | 1024 | 250+ | 250+ |
ADC分解能(ビット) | 12 ~ 20 | 12 ~ 20 | 12 ~ 20 | 12 ~ 20 | 12 | 10 ~ 12 |
右脚駆動 | A | A | S | S | N | S |
ペース | A | A | U | U | U | S |
リードオフ検出 | A | A | U | U | A | S |
呼吸 | U | S | S | S | S | N |
インピーダンス | S | S | S | S | U | N |
除細動 | A | U | A | U | A | S |
A = 常にあり、U = 通常はあり、S = 場合によってあり、N = なし |
AFEのアーキテクチャ
AFEのアーキテクチャは、ECGの機能に大きな影響を与えます。後述する最高機能アーキテクチャでは、高分解能、高変換レートのADCによって、広い周波数範囲にわたって高い忠実度が得られます。容量結合がなく、RLの駆動にDACを使用するため、除細動イベントやRFイベントから急速に回復することができます。ペース信号をディジタル化すると、ペースの解析で誤ったペース表示の数を抑制し、ペースメーカやその接続の障害を検出することもできます。不利な面として、最高機能の装置では高価な部品が必要になり、消費電力も大きくなります。対照的に、最低機能のAFEは低コストで長いバッテリ寿命を持ちますが、他に特長はほとんどありません。
最高機能のDSP AFE。ECGの測定要件は、高性能ADCの最高機能によって、9個すべての電極の信号を200kspsのレートで約20ビットのノイズフリー分解能に同時にディジタル化することで満たすことができます。さらに、ディジタル信号プロセッサ(DSP)によって各リードの信号を計算し、ペース信号を分離し、リードオフ/呼吸信号を分離して、不要な周波数を除去することができます。DSPでは、RL電極を駆動するディジタル-アナログコンバータ(DAC)用の値も計算します。このAFE方式では、アナログ-ディジタル(ADC)チャネルを厳密に整合させる必要があり、ADCのサンプリング容量を相対的にハイインピーダンスの電極から分離するためにバッファリングが必要になる場合もあります。この方式は測定要件を満たすことはできますが、大部分のアプリケーションのコストや消費電力の要件には合致しません。
最低機能のAFE。AFE機能のレベルで対極にあるのは、個人用の1リードECGです。この装置のAFE回路は、10ビット、120sps ADCの前にあるローパス差動アンプへの入力信号を容量結合します。入力の容量結合によってDCオフセットの問題を解消し、ローパスフィルタリングによってペース信号を除去します。この装置はバッテリ駆動式でチャネルが1つしかないため、コモンモード電圧はありません。
標準的なECG AFE。大部分のECG装置の回路は、上記の両極端の中間に位置します。計装アンプ(IA)によってコモンモード電圧を抑制し、ライン周波数などのコモンモードノイズを解消して、ADCのサンプリング容量のバッファを提供します。IAのあとのフィルタでペース信号とリードオフ信号を除去してから、ADCによって心信号をディジタル化します。場合によっては、高分解能のADCで心信号とそのDCオフセットを直接ディジタル化します。また、ハイパスフィルタリングまたはDACでDCオフセットを除去することによって、より低分解能(通常は12ビット)のADCで心信号を増幅し、ディジタル化することができるようにする場合もあります。リードごとに別々のADCを使用したり、1つのADCを多重化して複数のリードをディジタル化することが可能です。ADCを多重化すると、チャネル間で若干のタイムスキューが発生する場合があります。このスキューが問題化する度合いは、アプリケーションに依存します。ペースの検出が必要な場合は、ハイパスフィルタでペース信号をピックオフし、増幅してからコンパレータ回路で検出します。
DC結合した高分解能ADC
AC結合したADC
ECG装置の種類
テレメトリ装置
ECGテレメトリ装置は、診療の中で外来患者を継続的に監視するために使用します。これらの装置は、患者が装着するRF搭載のECG測定ユニットと、多数の患者からデータを収集して分析する中央のRF受信局で構成されます。テレメトリ装置の中には、血中酸素濃度などの追加的なデータが得られるものもあります。収集したデータは、治療の有効性を検証または変更したり、問題が差し迫っていることを警告したりするために使用します。
全12リードを備えたECGでは患者の歩行が困難になるため、多くのテレメトリ装置は5リードに限られます。患者は通常、数日間継続して装置を使用します。これらの装置では、使い捨てのバッテリがよく使用されます。その他のECGもテレメトリ機能を備えていますが、「ECGテレメトリ」という用語は、特に病院内で装着して院内の受信局にデータを送信する携帯型装置を指します。テレメトリ装置の設計における主な考慮事項は、低電力、低ノイズ、および小型です。
ホルターモニタ
ホルターという名前は、別のシステムにアップロードして分析することができるようにデータ収集用の携帯モニタを発明したNorman Holter博士に由来します。テレメトリ装置とは異なり、これらのモニタは中央の受信局が不要であり、屋内、屋外を問わず、どこででも使用することができます。全12リードを備えたECGでは歩行が困難になるため、ホルターECGモニタでは、通常、5リードが最大です。データはメモリカードを取り外すことによってモニタから回収するのが一般的ですが、USBなどを使用する場合もあります。ほとんどの場合、患者を監視する期間は1~2日間だけです。治験に参加している患者には特別な長期監視用モニタを使用し、1人の患者が1年またはそれ以上にわたって装置を使用します。ホルターECGモニタの設計における主な関心事は、低電力、低ノイズ、および小型です。
個人用ECG
これらのローエンドのECGは手のひらに十分収まり、自宅で自分のECG検査を行う人が使用します。この装置はデータを蓄積し、搭載されたディスプレイに表示します。このデータはコンピュータに転送したり、電話回線を介して医療機関に送ることができます。これらの装置には、導線に複数の電極が付いているものや、2個の電極が筐体に組み込まれているものがあります。電極が筐体に組み込まれている場合は、2つの電極を胸に押し付けたり、左右の手を各電極の上に置くなどして測定します。得られるECGは最高の品質ではないかもしれませんが、この装置があれば、異常が発生しているときに自身をモニタして自分の心臓のデータを取得することができます。個人用ECGの設計で焦点となる問題は、低コストと小型です。
自動体外式除細動器(AED)
これらの装置は、訓練を受けていない一般の人が非常時に使用することを想定して、ショッピングモール、ジム、オフィスなど、多くの人が集まる場所によく設置されています。
AED装置のファンクションブロックダイアグラム。
これらの装置は、心臓発作の直後または最中に、胸部に高エネルギーの電気パルスを加えることによって心臓を始動させ、その自然なリズムを取り戻すために使用します。このパルスは、不適切な場合に使用すると死につながることもあります。こうしたことが起きないようにするには、ECG機能が必要です。AEDは、通常1リードであり、高エネルギーパルスを胸部に送るのと同じ電極対によって心信号を検出します。
AEDは数カ月、あるいは数年間も使われないまま置かれたあとに、問題が存在したとしても気付きそうにない未熟練者によって使用されることになります。装置が必要になった場合、電源をオンにすると、完全セルフチェックによって全機能に問題がないことが確認され、比較的短時間の間に動作します。ECGのデータと除細動の情報は、すべて分析用に記録する必要があります。不具合のあるAEDを使用すると、むしろ害を与える可能性があります。そのため、AEDの設計では、信頼性と自己診断が極めて重要な考慮事項になります。
;診断用ECG
これらの装置は、病院や診療所で高品質のECG検査を行うために使用します。これらの装置は、全12リードのECG検査を実施し、ハードコピーのプリントアウトを作成する機能を備えています。これらの装置では、通常、利得調整や各種フィルタ選択のオプションを備えた高性能のAFEによってECG測定の品質を向上させます。これらの装置は、比較的大型で携帯性が低い分、内蔵プリンタ、複数の通信ポート、大型ディスプレイ画面など、より多くの機能を搭載する余裕があります。これらの装置は電源ラインで給電しますが、充電式のバックアップバッテリを内蔵しているのが普通です。診断用ECGの設計における主な考慮事項は、低ノイズ、干渉除去、および柔軟性です。
患者モニタ
これらの装置は、バイタルサイン(脈拍数、呼吸数、血圧、体温)を監視します。さらに、ECG機能や、血中の酸素濃度と二酸化炭素濃度を監視する機能を搭載している場合もあります。これらすべての機能を1つの装置に統合すると、手術室の整頓に役立ち、監視機を接続したまま患者を部屋から部屋 へ移動する手順も簡単になります。
患者モニタに使用されるAFEは、診断用ECGで使用されるAFEに似ていますが、RF除去の要件を満たす必要があります。これらの装置は手術中に使用され、電気メスやアルゴンプラズマ凝固(APC)機器から強いRF信号を受ける可能性があるからです。除細動イベントからの迅速な回復も不可欠です。
患者モニタは電源ラインで給電しますが、バックアップバッテリが内蔵されているため、消費電力が重要な問題になります。筐体は防沫処理を施し、クリーニングが容易であることが必要です。したがって冷却用の通気口を設けることができないため、電力損失が考慮事項の1つになります。消費電力と電力損失のほか、患者モニタの設計ではRF耐性と低ノイズも主な考慮事項です。
各種ECGアプリケーションの一般的特長
特長 | テレメトリ | ホルター | 個人使用 | AED | 診断 | 患者モニタ |
電源 | ||||||
ライン | N | N | N | N | A | A |
充電式 | S | S | S | S | U | A |
使い捨て | U | U | U | U | S | S |
通信 | ||||||
RF | A | S | S | S | S | S |
RS-232/RS-485 | N | S | S | S | S | S |
イーサネット | S | S | S | S | S | S |
USB | N | S | S | S | S | S |
モデム | N | S | S | S | S | S |
データカード | N | U | S | S | S | S |
グラフィックディスプレイ | S | U | A | S | S | A |
プリンタ | N | N | N | N | A | S |
A = 常にあり、U = 通常はあり、S = 場合によってあり、N = なし |
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