DS2786の開放電圧(OCV)残量ゲージに関する解説

2007年05月07日
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要約

DS2786はLi+ (リチウムイオン)セルに蓄積された総エネルギを通知する開放電圧(OCV)をベースとした残量ゲージです。OCVは、通常の温度で動作するLi+セルの蓄積エネルギを知る良い方法です。しかし、セルのインピーダンスは温度で変化するため、アプリケーションに実際に供給可能なエネルギ量はセルに蓄積されたエネルギとは異なります。このアプリケーションノートは、さまざまな温度と負荷に対してアプリケーションに供給可能なエネルギ量を正確に推定するためのDS2786をベースにした残量ゲージの補強について説明します。

はじめに

DS2786のスタンドアロンOCVベースの残量ゲージは緩和期間中に開放状態でのセル電圧に基づく充電可能Li+バッテリの使用可能容量を推定します。開放電圧はIC内に格納されたルックアップ表をベースとして相対的なセル容量を決定するために使われます。この能力によってバッテリパックを挿入した直後に正確な容量情報の使用が可能になります。

しかし、セルのインピーダンスは温度で変わるため、供給可能な容量は、温度と負荷に依存して、DS2786から通知される残容量とは異なります。このアプリケーションノートは、DS2786のOCVをベースとした残量ゲージの読取り値の解釈、および特定の温度と負荷に供給可能なエネルギをさまざまな温度と負荷に対してアプリケーションに供給可能なエネルギ量を正確に推定する方法を説明します。

セルの特性を知る

OCVベースの残量ゲージを補強する方法を示すために、このアプリケーションノートはダラスセミコンダクタによって特性を測定された1100mAhのセルに対するOCVプロファイルを用いる例を提供します。セルは950mAの定電流で、20℃で、セル電圧が4.2Vに達するまで、充電されました。セルはその後、4.2Vの定電圧で充電されました。充電電流が50mAまで低下したとき、セルの充電がフル(100%)であると考えました。セルは、その後、セル電圧が2.5Vに達するまで、220mA (0.2C)の負荷で放電しました。この点で、セルはエンプティ(0%)であると考えました。

そのプロファイルはDS2786に格納可能な8セグメントの線形近似に要約されました。表1はこの特定のセルの容量と開放電圧ペアを示し、図1はそれをOCVプロファイルの図を示しています。

表1. 実例セルのOCVプロファイル

  容量 (%) OCV (V)
ブレークポイント 8
100
4.177
ブレークポイント 7
85
4.040
ブレークポイント 6
55
3.832
ブレークポイント 5
45
3.799
ブレークポイント 4
25
3.755
ブレークポイント 3
15
3.693
ブレークポイント 2
10
3.687
ブレークポイント 1
5
3.593
ブレークポイント 0
0
3.213

Figure 1. This illustration charts the OCV profile for the data in Table 1.
図1. この図は表1のデータのOCVプロファイルを示しています。

充電のさまざまな状態でのOCVを決定するために、さらに温度を変化(0°C、10°C、および20°C)させて、セルの特性がとられました。本アプリケーションノートでは、プロファイルは20℃を超えると変化しないと仮定されています。

上述のようにセルはフルに充電されました。セルはその後、600mA、275mA、100mA、および5mAにおける負荷で3.2Vまで放電されました。これらの放電率は、ワイヤレスハンドヘルド機器に関して、おのおの、マルチメディアモード、通信モード、バックライトモード、およびスタンバイモードを表しています。

フル充電およびエンプティポイントに達すると、セルは1時間休止してOCVが記録されました(表2)。図2はセル温度に対するセルのOCVプロファイルの図を提供します。

表2. フルおよびエンプティポイントにおける開放電圧

 
開放電圧(V)
 
0°C
10°C
20°C
フル
4.141
4.166
4.176
エンプティ 600mA
3.703
3.633
3.472
エンプティ 275mA
3.609
3.431
3.308
エンプティ 100mA
3.413
3.290
3.242
エンプティ 5mA
3.229
3.215
3.211

Figure 2. Data from Table 2 charts the OCV profile of the example cell relative to cell temperature.
図2. 表2からのデータはセル温度に対する実例セルのOCVプロファイルを示しています。

DS2786は表1に示されたプロファイルが負荷され、この実験の期間中、セルに取り付けられました。表3に示すように、DS2786は最大およびエンプティポイントで残容量を推定しました。図3は表3のデータを図示したものです。

表3. DS2786によって通知された残りのエネルギ

 
残容量(%)
 
0°C
10°C
20°C
フル
96.5
99.0
100.0
エンプティ 600mA
16.5
5.0
2.5
エンプティ 275mA
4.5
3.0
1.5
エンプティ 100mA
2.0
1.5
1.0
エンプティ 5mA
0.5
0.5
0.5

Figure 3. This chart shows the remaining capacity reported by the DS2786 relative to cell temperature. Because the impedance of the cell varies with temperature, the cell is unable to deliver all of its stored capacity.
図3. この図はセル温度に対してDS2786によって通知される残容量を示しています。セルのインピーダンスは温度で変化するため、セルは蓄積されたすべての容量を使用することはできません。

DS2786の通知容量のディレーティング

表3にはさまざまな温度と負荷ではLi+セルに蓄積されたエネルギをすべてアプリケーションに供給することができないことが示されています。DS2786によって通知される容量をディレーティングするためには、現在の温度と負荷では提供不可能なエネルギを減算してください。

例えば、通信モードのアプリケーションで消費される電流が275mAであると仮定しましょう。表3によると、20℃ではセルに蓄積されたエネルギの1.5%はアプリケーションに提供することができません。もし、DS2786がOCVに基づいて、セルに20%のエネルギが残っていると通知した場合、アプリケーションはエンプティポイントとして1.5%を基準にしてセルの全体容量の18.5% (20% - 1.5%)がこのモードでは提供可能であると通知しなければなりません。温度が0℃であった場合は、セルに蓄積されたエネルギの4.5%が同じ負荷では提供不可能です。この場合、アプリケーションは、セルの総容量の15.5% (20% - 4.5%)がアプリケーションに提供不可であると通知しなければなりません。

結論

DS2786のOCVベースの残量ゲージの増強によって、特定の温度と負荷においてLi+セルに蓄積されたエネルギがどのくらいアプリケーションに供給可能であるかをアプリケーションに示すことができます。簡単な表を作ることで、線形補間によってさらに容量の通知を増強することができます。ダラスセミコンダクタはデータ収集と表の構築をお手伝いすることができます。

付録A:クーロンカウンティングの比較

ダラスセミコンダクタのクーロンカウンティング残量ゲージはさまざまな温度および負荷条件でアプリケーションに渡すことができるエネルギ量を通知する方法を提供します。残量ゲージのこの方法の詳細はアプリケーションノート131 (英文)を参照してください。

表4は表1に示されたmAhで表したエンプティ(0%)ポイントに対するフルおよびエンプティポイントが示されています。表4の値はダラスセミコンダクタのクーロンカウント残量ゲージで使われている値であり、セルの供給可能な残りの容量を推定するために使われます。表5は20℃におけるフル容量の1108mAhの%として同じデータを示しています。これらの積算電流レジスタ(ACR)がさまざまなエンプティレベルと比較され、特定の温度と負荷のアプリケーションに渡すことができるエネルギとしてデルタが返されます。

DS2786 (表6)によって通知される残りのエネルギは表5の正規化されたフルおよびエンプティポイントと比較することができ、これはDS2786がクーロンカウンティング法と同様に各ポイントにおける残りの容量を通知することを示しています。

表4. mAhで表したフルおよびエンプティポイント

 
供給可能な容量(mAh)
 
0°C
10°C
20°C
フル
1061
1096
1108
エンプティ 600mA at 3.2V
156
58
27
エンプティ 275mA at 3.2V
56
24
11
エンプティ 100mA at 3.2V
27
12
7
エンプティ 5mA at 3.2V
14
8
6

表5. 20℃に正規化されたフルおよびエンプティポイント
 
供給可能な容量(%)
 
0°C
10°C
20°C
フル
95.74
98.87
100.00
エンプティ 600mA at 3.2V
14.10
5.19
2.43
エンプティ 275mA at 3.2V
5.08
2.14
1.02
エンプティ 100mA at 3.2V
2.41
1.09
0.66
エンプティ 5mA at 3.2V
1.24
0.73
0.51

表6. DS2786によって通知された残りのエネルギ
 
残りの容量(%)
 
0°C
10°C
20°C
フル
96.5
99.0
100.00
エンプティ 600mA at 3.2V
16.5
5.0
2.5
エンプティ 275mA at 3.2V
4.5
3.0
1.5
エンプティ 100mA at 3.2V
2.0
1.5
1.0
エンプティ 5mA at 3.2V
0.5
0.5
0.5

付録B:フル充電のスケーリング

セルが0℃で充電されるとき、フルポイントには少ない容量で到達します。0℃では1061mAhがセルに蓄積されますが20℃での充電では1108mAhを蓄積することができます。その時点ではDS2786はセルの総容量の96.5%がセルに蓄積されたとOCVに基づいて通知します。275mAのエンプティポイントを説明するために、さらに4.5%が減算されると、275mAの電流負荷では、セルの総容量の91.5%しか0℃のアプリケーションに対して供給されません。

これが総容量に比べて供給可能な容量を正確に説明したものですが、フル充電の後、いつ100%の残量を示さなくなるかとエンドユーザーに対して惑わせる結果となります。1108mAhの91.5%のみが使用可能であるため、表示される容量は0℃で蓄積可能な100%のエネルギを現在使用可能であるとスケール変換することは可能です。

これを達成するために、アプリケーションに供給可能な容量を適切な負荷で現在の温度で供給可能な総パーセントで除算してください。この例では、0℃の通信モードの場合に供給可能な91.5%は100%の表示を行うために91.5% (フル - アクティブエンプティ)によって除算されます。DS2786が20%残っていると通知するとき、フル容量の15.5% (20% - 4.5%)が、0℃では供給可能でないことを知ります。0℃での供給可能容量を決定するためには15.5%を91.5%で除算すると、除算結果の17%が得られます。すなわち、0℃ではセルの容量の17%がアプリケーションに供給可能です。このことによって、使用者が遭遇する問題が解決されます。

Equation 1

ここで、
CapacityDS2786 = ICによって通知される相対容量値
Empty = 温度と負荷に基づく特性化したエンプティポイント
Full = 温度に基づく特性化したフルポイント。

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