エッジのインテリジェンス化 PART 3: エッジ・ノードとの通信

2018年01月02日
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エッジのインテリジェンス化

はじめに

IIoT(Industrial Internet of Things)に対応するアプリケーションでは、産業用機器をネットワークに接続して運用することになります。そのような形態でシステムを構築することにより、重要な意思決定を行うためのさまざまな情報を収集することが可能になります。エッジ・ノードで稼働するセンサーは、データが集約される場所から遠く離れたところに配置されることが少なくありません。その場合、エッジ・ノードは、ネットワークにデータを送信するためのゲートウェイを介して、データが集約される場所に接続されます。IIoT のエコシステムにおいて、フロントエンド・エッジは複数のセンサーによって形成されます。また、計測というのは、検出した情報を、圧力、変位、回転といった定量化が可能なデータに変換する処理だと言うことができます。得られたデータに対してふるい分けを実施することにより、最も重要な情報だけを処理用のノードに送信することが可能になります。ネットワーク接続に伴う遅延が小さければ、主要なデータを取得した後、直ちに重要な判断を下すことができます。

検出、計測、解釈、接続

エッジ・ノードとネットワークの接続方法は 2 つあります。1 つは、有線で接続する方法です。もう 1 つは、ワイヤレス・センサー・ノードの形態で接続するというものです。シグナル・チェーンの構成要素であるエッジ・ノードにおいても、データの完全性は非常に重要です。検出、計測の結果として最良のデータが得られたとしても、通信の安定性が低く、データの喪失/破損が生じてしまうようでは、ほとんど価値のないデータしか収集できないということになります。システムのアーキテクチャを設計する際、堅牢な通信プロトコルについて事前に十分な検討が行われていることが理想です。何を選択するのが最良であるかは、通信範囲、帯域幅、消費電力、相互運用性、セキュリティ、信頼性など、接続に関する各種の要件によって異なります。

有線デバイス

接続の堅牢性が何よりも重視される場合には、EtherNet/IP、KNX、DALI、PROFINET、Modbus TCP など、産業用の有線通信プロトコルが重要な役割を担います。遠くに配置されたセンサー・ノードからゲートウェイまでの間には、ワイヤレス・ネットワークが存在することがあります。その場合でも、それ以降の通信は有線インフラを使用して行われることが多いでしょう。IoT 対応のノードで使われるデバイスのほとんどは、ワイヤレス接続に対応しています。有線通信しか利用されないケースは比較的まれだとも言えます。IIoT を利用する場合、ネットワーク接続について適切な戦略を立案することが必須になります。重要な情報を検出するために、通信用/給電用のインフラが配備されていない場所にセンサーが設置される可能性があります。

センサー・ノードは、ネットワークとの通信手段を有していなければなりません。有線の接続方法としてはイーサネットが主流になっています。実際、IIoT 向けのフレームワークでは、有線接続に対して高いレベルのプロトコルを割り当てています。イーサネットをベースとするプロトコルとしては、10 Mbps から 100 Gbps 以上のデータ・レートのものが使われています。一般に、高速なプロトコルは、サーバー群をクラウドに接続するために使用されています1

KNX などを採用した低速な産業用ネットワークでは、30 Vの電源、ツイストペアの銅線ケーブルを使用した差動伝送が使われます。その場合の総帯域幅は 9600 bps 程度です。セグメント当たりのアドレス数(256 個)に制限はありますが、6 万 5536 個のデバイスに対してアドレスを指定することが可能です。セグメント長は最大で 1000 m です。ライン・リピータを使用すれば、最大 4 セグメントに対応できます。

産業用のワイヤレス通信における課題

IIoT に対応するワイヤレス・システムを設計する場合、通信技術やネットワーク技術としてどれを採用するか検討を行うことになります。その際には多くの課題に直面することになるでしょう。そのような状況に備え、以下のような要件について十分に確認しておく必要があります

  • 通信範囲
  • 断続的な接続か、連続的な接続か
  • 帯域幅
  • 消費電力
  • 相互運用性
  • セキュリティ
  • 信頼性

通信範囲

ここで言う通信範囲とは、ネットワークに接続された IIoT 対応デバイスによるデータの伝送距離のことです。PAN(Personal Area Network)の場合、通信範囲は m(メートル)単位です。そのため、設備のコミッショニングについては Bluetooth Low Energy(BLE)による通信が適しています。例えば、同一の建造物内にオートメーション用のセンサーが設置されているケースがあります。そのような場合には、通信範囲が数百 m までのLAN(Local Area Network)が適しています。さらに、大規模な農場において広範に設置されたセンサーなどには、通信範囲が km 単位に及ぶ WAN(Wide Area Network)を適用するとよいでしょう。

図 1. 短距離のワイヤレス通信

図 1. 短距離のワイヤレス通信

ネットワーク・プロトコルとしては、構築するシステムに求められる通信範囲に対応するものを選択する必要があります。例えば、伝送距離が数十 m の屋内 LAN に対しては、複雑さと消費電力の面で 4G(第4世代移動通信システム)のネットワークは不適切です。伝送距離の面ですべてのデータを送信するのが難しい場合には、代替策としてエッジ・コンピューティングの利用を検討するとよいでしょう。つまり、処理を行うために別の場所にすべてのデータを伝送するのではなく、ある程度のデータ処理をエッジ・ノードで実行し、その結果だけを送信するということです。無線で送信される電波は、電力密度の逆 2 乗の法則に従います。つまり、信号の電力密度は、無線電波の伝送距離の 2 乗に反比例します。伝送距離が 2 倍になると、無線電波の電力は元の 1/4に低下します。送信出力電力を 6 dBm 高めるごとに、通信可能な範囲は 2 倍に広がります。

理想的な自由空間では、伝送距離に影響を与える要因は逆 2 乗の法則だけです。しかし、実際の通信範囲は、壁、フェンス、農作物といった障害物によって狭くなる可能性があります。大気中の湿度は、RF エネルギーを吸収する可能性があります。また金属は無線電波を反射し、それによって 2 次的な信号が生成されます。それらが異なるタイミングでレシーバーに到達し、干渉によって電波の強度が下がる可能性もあります。

信号の伝送経路で生じる損失をどれだけ許容できるのかは、無線レシーバーの感度によって決まります。例えば、2.4 GHz のISM(産業科学医療用)バンドにおけるレシーバーの最小感度は -85 dBm です。RF の放射エネルギーは全方位に均等に伝搬します。つまり、A = 4πR2 という式に従い、球状に広がるということです。ここで R は、トランスミッタからレシーバーまでの距離(単位: m)を表します。フリスの伝達公式に基づき、自由空間の伝搬損失(FSPL)は、トランスミッタからレシーバーまでの距離の 2 乗と、無線信号周波数の 2 乗に比例します(以下参照)2

数式1a

ここで、Pt は送信電力(単位: W)、S は距離 R における電力です。

数式1b

ここで、Pr は受信電力(単位: W)、λは送信波長(単位: m)です。λは以下の式で決まります。

c = 3 × 108〔m/s2〕/f〔Hz〕 = 300/f〔MHz〕

ここで c は光速です。

FSPLは以下の式で求まります。

数式1c

ここで、f は送信周波数です。

送信周波数と必要な伝送距離がわかれば、対象とする送信/受信ペアの FPSL を計算することができます。リンク・バジェットは、以下の式で表されます。

数式1

帯域幅と接続性

ここで言う帯域幅とは、一定の時間内にどれだけのデータを送信できるかという指標のことです。つまりはデータ・レートのことを意味します。これにより、IIoT に対応するセンサー・ノードによって収集され、下流へと伝送されるデータ・レートが制限されます。帯域幅に関しては、以下の項目について検討する必要があります。

  • 各デバイスで時間の経過に伴って生成されるデータの総量
  • 1 つのゲートウェイが対象としているノードの数
  • バースト・データ(一定のストリームまたは断続的なバーストとして送信される)の量がピークになる期間に対応するために使用可能な帯域幅

ネットワーク・プロトコルのパケット・サイズは、送信データのサイズと理想的なレベルで整合している必要があります。空データを使ってパディングしたパケットを送信するのは効率的ではありません。とはいえ、大きなデータの固まりをあまりにも多くの小さなパケットに分割してしまうとオーバーヘッドが大きくなります。IIoT に対応するデバイスは、常にネットワークに接続されているとは限りません。消費電力や帯域幅を節約するために、定期的に接続するといったことも行われる可能性があります。

消費電力と相互運用性

IIoT に対応するデバイスは、バッテリで駆動するケースが多くなります。その場合、消費電力を抑えるために、アイドル時にはそれらのデバイスをスリープ・モードで使用することになるでしょう。デバイスの消費電力は、ネットワークのさまざまな負荷条件の下でモデル化できます。それによって、デバイスの電源とバッテリの容量を、必要なデータ送信で消費される電力に対して確実に適合させることができます3

ネットワーク内にはさまざまな異なる種類のノードが存在する可能性があります。そのため、それらの相互運用性が課題になる場合があります。インターネット上で相互運用性を維持するために従来から用いられてきた方法は、標準的な有線/無線プロトコルを採用することでした。新しい技術が急速なペースで提供されるので、それに合わせて IIoT 向けの新たなプロセスを標準化するのは容易ではないかもしれません。対象とするアプリケーションに最も適した技術を取り巻く IIoT 対応のエコシステムを採用できないかどうか検討してください。広く使われている技術であれば、長期的な相互運用性が得られる可能性が高くなります。

セキュリティ

ネットワーク・システムには、機密性、完全性、真正性という3つの重要な側面があります。IIoT に対応するネットワークでも、セキュリティの確保という言葉は、これらを確保するという意味で捉えることができます。機密性は、ネットワーク上のデータが外部のデバイスに漏れたり傍受されたりすることなく、既知のフレームワーク内だけにとどまることによって確保できます。データの完全性は、情報が改変されたり、一部欠落したり、追加されたりすることなく、送信時とまったく同じ状態でメッセージのコンテンツが維持されることで確保されます45。真正性は、予期される情報源のみからデータを受信することによって確保することができます。例えば、なりすましを行っている相手と誤って通信してしまうと、偽認証が生じてしまいます。

保護されたワイヤレス・ノードと保護されていないゲートウェイの間で通信が行われていたとします。それこそが、不正行為を招く典型的なセキュリティ・ホールとなります。データに付加されたタイムスタンプは、サイド・チャンネルにホッピングして再送信された信号が存在しないかどうかを検出するうえで役に立ちます。非同期で動作している多数のセンサーから、タイムスタンプ付きのデータが伝送されているとします。その場合、順序がばらばらになったタイム・クリティカルなデータの再構築にもタイムスタンプを利用できます。

IEEE 802.15.4 は、セキュリティ確保の手段として AES-128 による暗号化をサポートします。一方、IEEE 802.11 は、AES-128/256 をサポートしています。キーの管理、暗号化に利用できるレベルの乱数生成(RNG: Random Number Generation)、ネットワークのアクセス制御リスト(ACL: Access Control Lists)は、いずれも通信ネットワークにおけるセキュリティ対策の強化につながります。

周波数帯

IoT に対応するワイヤレス・センサーでは、携帯電話システムのインフラに対応する免許取得済みの周波数帯を使用することができます。ただ、その場合、デバイスが大量に電力を消費してしまうことになります。また、車載テレマティクスは、モバイル機器で情報を収集するものの、短距離のワイヤレス通信は利用可能な選択肢とはならないアプリケーションの一例です。このような背景もあり、免許が不要な ISM バンドは、消費電力が少ない数多くの産業用アプリケーションで利用されています。

IEEE 802.15.4 は、IIoT に対応する多くのアプリケーションにとって理想的な低消費電力のワイヤレス規格です。2.4 GHz、915MHz、868 MHz の ISM バンドで動作し、複数の RF チャンネル・ホッピング用に計 27 のチャンネルが提供されています。物理層は、世界中の地域に対応する免許不要の周波数帯をサポートします。欧州では 868 MHz の周波数帯で帯域幅が 600 kHz のチャンネル 0、北米では 915 MHz の周波数帯で帯域幅が 2 MHzのチャンネルが 10 種提供されています。全世界で利用できるのは、2.4 GHz の周波数帯で帯域幅が 5 MHz のチャンネル 11 からチャンネル 26 までです。

BLEは、消費電力を大幅に低減可能なソリューションです。ファイル転送にとって理想的だとは言えませんが、小さなデータの転送には適しています。最大のメリットは、携帯型の端末に広く採用されているので、競合する技術よりも普遍性に富んでいることです。Bluetooth 4.2 は、2.4 GHz の ISM バンドで動作します。そのコア仕様では、通信範囲は 50 ~ 150 m、データ・レートは 1 Mbps と規定されています。変調方式としては、ガウス周波数偏移変調を使用します。

表 1. IEEE 802.15.4 の周波数帯とチャンネル構成

周波数帯〔MHz〕
868.3 902-928 2400-2483.5
チャンネル数 1 10 16
帯域幅〔MHz〕 0.6 2
データ・レート〔kbps〕 20 40 250
シンボル・レート〔kbps〕 20 40 62.5
免許不要地域 欧州 米国 全世界
周波数偏差 40 ppm 

IIoTのソリューションに対する最適な周波数帯を選定するには、2.4 GHz の ISM バンドの利点と欠点について検討する必要があります。主な利点と欠点を以下に挙げます。

利点


  • ほとんどの国で免許がなくても使用できる
  • あらゆる地域の市場に対して同一のソリューションを適用可能
  • 83.5 MHz の帯域幅により、個々のチャンネルを高速のデータ・レートで使用できる
  • 100 % のデューティ・サイクルを達成可能
  • 1 GHz 未満の帯域と比べて、アンテナを小型化できる

欠点


  • 出力電力が同じである場合、1 GHz 未満の帯域と比べて通信距離が短い
  • 広く普及していることから、多くの干渉信号が生成される

通信プロトコル

通信システム内のデータのフォーマティングとデータ交換の制御には、一連の規則や規格が適用されます。OSI(Open Systems Interconnection)モデルでは、スケーラブルで相互運用が可能なネットワークの実装を容易にするために、通信機能を階層に分割しています。OSI モデルには、物理(PHY)層、データ・リンク層、ネットワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層という 7 つの階層があります。

図 2. OSI モデルと TCP/IP モデル

図 2. OSI モデルと TCP/IP モデル

IEEE 802.15.4 と 同 802.11(Wi-Fi)は、データ・リンク層に含まれる MAC(メディア・アクセス制御)副層と物理層に位置します。IEEE 802.11 の場合、近接する 2 つのアクセス・ポイントは、干渉の影響を最小限に抑えるために、それぞれ重複しない 1 つのチャンネルを使用する必要があります(図 3)。IEEE 802.11 g では、同 802.15.4 の変調方式よりも複雑な OFDM(直交周波数分割多重方式)が使われます。

リンク層では、無線信号(電波)とビット・データの間の変換が行われます。データをフレーム化して信頼性の高い通信を確保するとともに、対象となる無線チャンネルへのアクセスを管理します。

ネットワーク層では、ネットワークにおけるデータのルーティングとアドレッシングの処理を行います。ここで、IP(InternetProtocol)に即して IP アドレスが付与されます。そして、IP ベースのパケットがノード間で伝送されます。

トランスポート層は、ネットワークの 2 端点で実行されるアプリケーションのセッションの間に、通信のセッションを生成します。これにより、複数のアプリケーションが、それぞれ独立した通信チャンネルを使用しつつ、1 つのデバイス上で実行されます。インターネットに接続されているデバイスの大多数は、優先すべきトランスポート・プロトコルとしてTCP(Transmission Control Protocol)を使用しています。

アプリケーション層では、データのフォーマッティングと管理を行います。それにより、ノードが備えるセンサーに対するフローをアプリケーション向けに最適化します。TCP/IP スタックに含まれるアプリケーション層のプロトコルの中で非常によく使われているものがあります。それが HTTP(Hypertext Transfer Protocol)です。HTTP は、インターネットを介したデータ転送用に開発されました。

FCC Part 15 では、ISM バンドのトランスミッタの実効電力が 36dBm までに制限されています。ただし、2.4 GHz 帯を使用するポイント・ツー・ポイントの固定リンクについては例外が設けられています。その例外については、利得が 24 dBiで送信電力が 24 dBm のアンテナを使用し、総 EIRP(Equivalent Isotropic Radiated Power)は 48 dBm と定められています。送信電力は、少なくとも 1 mW に対応できなければなりません。パケット誤り率を 1 % 未満にするには、レシーバーの感度として、2.4GHz 帯で -85 dBm、868 MHz 帯 と 915 MHz 帯で -92 dBm の信号を受信できるレベルが求められます。

図 3. IEEE 802.15.4 の物理層チャンネル 11 ~ 26 と IEEE 802.11g のチャンネル 1 ~ 14

図 3. IEEE 802.15.4 の物理層チャンネル 11 ~ 26 と IEEE 802.11g のチャンネル 1 ~ 14

ブラウンフィールドとグリーンフィールド

IIoT を実現するには、多くの有線/無線規格に対応可能な接続性が必要です。しかし、既存のネットワーク・システムを利用して導入を図る場合、選択肢はそれほど多くないかもしれません。ネットワークに適合するように、IIoT ベースのソリューションに変更を加えなければならない可能性があります。

まったく新しい環境に対して、ゼロから構築したシステムを導入することを「グリーンフィールド(Greenfield)」と呼びます。この場合、既存の設備によって生じる制約は何もありません。例えば、新しい工場や倉庫を建設する場合、最適な性能を達成するための計画の段階で IIoT 対応のソリューションについて検討し、計画に盛り込むことができます。

一方、既存のインフラをベースとして IIoT 対応のネットワークを配備することを「ブラウンフィールド(Brownfield)」と呼びます。ブラウンフィールドの場合、グリーンフィールドと比べて多くの課題に直面することになります。既存のネットワークは理想的なものであるとは限りません。そうだとしても、IIoT ベースの新たなシステムを、既存の RF 信号からの干渉に耐えられるように設計しなければならないからです。ハードウェア、組み込みソフトウェア、以前に行われた設計上の判断を引き継ぎつつ、制約のある状況下で開発を進める必要があります。その作業は、細部にわたる解析、設計、テストを要する難易度の高いものになります6

ネットワーク・トポロジ

IEEE 802.15.4 のプロトコルには、ネットワーク上のデバイスについて 2 つのクラスが設けられています。1 つは FFD(Full Function Device)です。FFD は、任意のトポロジで使用でき、PAN におけるコーディネータとして他の任意のデバイスと通信することが可能です。一方の RFD(Reduced Function Device)は、ネットワークのコーディネータにはなれません。そのため、対応可能なトポロジはスター型に限定されます。RFDは、IEEE 802.15.4 のシンプルな実装におけるネットワーク・コーディネータとしか通信できません。ネットワーク・トポロジについては、アプリケーションごとに、ピア・ツー・ピア型、スター型、メッシュ型、マルチホップ型などを使い分けることになります。

図 4. さまざまなネットワーク・モデル。ピア・ツー・ピア型、スター型、メッシュ型、マルチホップ型の各トポロジの形態を示しています。

図 4. さまざまなネットワーク・モデル。ピア・ツー・ピア型、スター型、メッシュ型、マルチホップ型の各トポロジの形態を示しています。

ピア・ツー・ピアのネットワークでは、2 つのノードを単純に接続します。ネットワークの通信範囲を延長するためのインテリジェンスは一切活用しません。迅速に導入できますが、冗長構成もとれないので、一方のノードが機能できない場合には対処の方法がありません。

スター型のモデルでは、複数の RFD と通信するマスターとしてFFD を使用することにより、2 つのノードの伝送距離をベースとして放射範囲を拡大することができます。ただし、上述したように各RFDはルーターとしか通信できません。そのため、FFD 以外は、単一障害点になる可能性があります。

メッシュ・ネットワークでは、任意のノードから他の任意のノードに対して通信を行ったりホップしたりすることができます。冗長性を実現する通信パスを設けられるので、ネットワークの耐性が高まります。インテリジェントなメッシュ・ネットワークであれば、ホップ数が最小になるように通信のルーティングを行い、消費電力と遅延を抑えることができます。アドホックに自己組織化を行うトポロジでは、環境の変化に適応し、ネットワーク環境に対してノードの追加や削除を行うことが可能です。

信頼性

IIoT の利用を考えている顧客は、信頼性とセキュリティを、発注先を決定する際の最重要項目として位置づけます。データの分析のために大規模で複雑なクラスタを使用する組織は少なくありません。ただ、そのことが、データの転送、インデックスの付加、抽出だけでなく、変換や読み込みの処理におけるボトルネックになる可能性があります。下流のクラスタがボトルネックになることを防ぐには、各エッジ・ノードで効率的な通信を実現することが必須です5

産業分野では、システムの稼働環境が厳しい条件にさらされるケースが少なくありません。また、RF 帯の電波を効果的に伝搬できない可能性があります。例えば、工場の設備として、不ぞろいな形状の金属製の機器が密集して配置されているといったことがありえます。加えて、コンクリート、パーティション、金属製の棚などは、いずれもマルチパスの電波の伝搬が生じる原因になります。マルチパスが生じるというのは、送信アンテナから全方位に放射された電波に対し、レシーバーに到達する前に、環境的な要因によって変化が加わるということを意味します。レシーバーで観測される入射波は、反射波、回折波、散乱波の 3 つに分類されます。マルチパスの電波では振幅と位相が変化します。レシーバーでは、干渉(強め合うまたは弱め合う)を伴う複合波が観測されることになります。

CSMA/CA によるチャンネルへのアクセス

CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance: 搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式)は、データ・リンク層のプロトコルです。このプロトコルでは、ネットワークのノードにより搬送波の検知が行われます。各ノードは、チャンネルが空いていることを検知した場合だけパケット・データの全体を送信します。それにより、衝突の回避を試みます。他のノード集合の通信範囲外にあるノードのことをワイヤレス・ネットワーク内の隠れノードと呼びます。図 5 において、通信範囲の遠端にあるノードからでも、アクセス・ポイント Y は確認することができます。しかし、通信範囲の反対側の端にある隠れノード X、Z は確認できない可能性があります。

図 5. 隠れノードの例。X、Z に対しては直接通信することはできません。

図 5. 隠れノードの例。X、Z に対しては直接通信することはできません。

RTS/CTS を使うハンドシェイクでは、WLAN に対する短い送信要求(RTS: Request to Send)と送信可(CTS: Clear to Send)のメッセージによって、仮想的な搬送波の検知を実現します。IEEE 802.11 では主に物理的な搬送波の検知を使用します。それに対し、IEEE 802.15.4 では CSMA/CA を使用します。隠れノードの問題(隠れ端末問題)に対処するために、RTS/CTS のハンドシェイクは CSMA/CA とともに実装されます。可能である場合に限りますが、隠れノードの送信電力を大きくすることによって対応可能な距離を延ばすことができます。

プロトコル

高度な変調方式では、帯域幅を拡大するために、位相、振幅、または周波数に対する変調が行われます。例えば、QPSK(4 位相偏移変調)は、4 つの位相を使って 1 つのシンボルで 2 ビットの情報を符号化する変調方式です。また、直交変調では、信号帯域幅の要件を緩和するために位相シフトを実施するミキシング用のアーキテクチャが使用されます。バイナリ・データは、2 つの連続するビットにさらに分割され、搬送波 ωc について直交位相の関係にある sinωct と cosωct で変調されます。

図 6. オフセット QPSK の変調器のアーキテクチャ

図 6. オフセット QPSK の変調器のアーキテクチャ

2.4 GHz の ISM バンドで動作する IEEE 802.15.4 のトランシーバーでは、オフセット QPSK(OQPSK)またはスタガ QPSK と呼ばれる変調方式が使われます。これは、QPSK の物理層を改変したものです。この方式では、1 データ・ビット分のオフセット時間定数(Tb)がビット・ストリームに適用されます。それにより、データが 1/2 シンボル分ずれて、ノード X、Y において波形が同時に遷移することがなくなります。連続位相ステップが ±90°を超えることはありません。オフセット QPSK の欠点の 1 つは、差動型の符号化に対応できないことです。それでも、同期検波という難易度の高い処理が不要になることには大きなメリットがあります。

IEEE 802.15.4 で採用された変調方式により、データを送受信するためのシンボル・レートが引き下げられます。オフセットQPSK では、2 つの符号化ビットを同時に送信します。それにより、シンボル・レートはビット・レートの 1/4 になります。つまり、62.5 キロシンボル/秒のシンボル・レートにより、250 kbpsのデータ・レートが得られます。

スケーラビリティ

IoT に対応するすべてのノードに外部 IP アドレスが必要になるというわけではありません。専用通信を使用する場合、センサー・ノードには一意的に識別可能な IP アドレスを付与できるようにすべきです。IPv4 は 32 ビットのアドレス指定方式をサポートしています。ただ、それは 43 億台のデバイスしかサポートできないということを意味します。それでは、拡大するインターネットの規模には対応できません。このことは、数十年も前に明らかになっていました。そこで、IPv6 では、アドレスのサイズが 128 ビットに拡張されました。これにより、240 アンデシリオン(10の36乗)に達する GUA(Globally Unique Address)を実現可能になりました。それだけの数のデバイスをサポートできるということです。

IPv6 と IEEE 802.15.4 のそれぞれに対応するネットワークが存在した場合、2つの異なるドメインからのデータのマッピングとアドレスの管理を実現する必要があります。このことが、設計上の課題になります。6LoWPANでは、カプセル化とヘッダ圧縮のメカニズムが定義されており、IPv6 のパケットを、IEEE802.15.4 をベースとするネットワークを介して送受信することができます。Thread は、クローズド・ドキュメンテーションでロイヤリティ・フリーのプロトコルをベースとする規格の例です。この規格は、6LoWPAN をベースとしたオートメーションを実現するために策定されました。

アナログ・デバイセズは、あらゆる種類のワイヤレス・トランシーバーを、「ADuCx ファミリー」のマイクロコントローラと「Blackfin® ファミリー」の DSP 向けの有線プロトコルとともに提供しています。例えば、低消費電力のトランシーバー IC である「ADF7242」は IEEE 802.15.4 をサポートします。データ・レートと変調方式をプログラムすることができ、ISM バンドを使って 50 kbps ~ 2000 kbps のデータ・レートを実現します。また、FCC(米連邦通信委員会)と ETSI(欧州電気通信標準化機構)の規格に準拠しています。「ADF7023」は、433 MHz、868 MHz、915 MHz の ISM バンドを使用して1 kbps ~ 300 kbpsのデータ・レートを実現します。アナログ・デバイセズは、カスタムのソリューションを設計するためのものとして、ワイヤレス・センサー・ネットワーク用の開発プラットフォームを提供しています。「RapID® Platform」は、産業用ネットワーク・プロトコルを組み込むためのモジュールと開発キットで構成されるファミリー製品です。また、ワイヤレス・センサー・ネットワーク向けには「SmartMesh®」を提供しています。これは、IC とメッシュ・ネットワーク用ソフトウェアを備える認証取得済みのプリント基板モジュールから構成される製品です。これを利用すれば、IIoT の過酷な運用環境でも高い信頼性でセンサー間の通信を実現することができます。

図 7. オフセット QPSK の概念図。左は ±90 °の位相遷移、右は I/Q 信号のダイヤグラムです。

図 7. オフセット QPSK の概念図。左は ±90 °の位相遷移、右は I/Q 信号のダイヤグラムです。


インダストリアル IOT のセンシングと計測: エッジ・ノード

判断に要する時間を短縮:インダストリアル IOT におけるエッジ・ノード・プロセッシング

著者について

Ian Beavers
Ian Beaversは、アナログ・デバイセズ(ノースカロライナ州、ダーラム)の航空宇宙および防衛システム・チームのフィールド・アプリケーション・エンジニアおよびカスタマ・ラボ・マネージャです。1999年以来、アナログ・デバイセズで勤務しています。半導体業界で25年以上の経験を積んでいます。ノースカロライナ州立大学で電気工学の学士号を、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校でM.B.A.の学位を取得しました。

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