自動車用および工業用センサー・アプリケーション向けの集積化された高性能 24 GHz FMCW レーダー・トランシーバー・チップセット

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ADF5904 は高度に集積化された 4 チャンネル 24 GHz のレシーバー・ダウンコンバータ MMIC で、低ノイズ性能、高い直線性、低消費電力など、業界でもきわめて優れた特長を兼ね備えています。ADF5904 集積化マルチチャンネル・レシーバー・ダウンコンバータは 10 dB というノイズ指数を達成しており、これは競合デバイスの値を 3 dB 上回るものです。また、消費電力を 50 %削減する一方で、小型でコスト効果の高い 5 mm × 5 mm LFCSPプラスチック・パッケージにまとめられています。デバイスに組み込まれている 4 つのオンチップ受信チャンネルのそれぞれが、簡素なシングルエンド接続を使用して個別に 4 個のアンテナに接続されているので、RF 伝送線路設計や PCB レイアウトが簡潔になり、ボードサイズを小さくすることができます。レシーバー・ダウンコンバータが 4 つの 24 GHz 受信信号の増幅と変換を同時に行い、高品質で高振幅のベースバンドまたは低周波の信号を直接生成します。この信号は、アナログ・デバイセズの 4 チャンネル A/D コンバータまたはアナログ・フロントエンド(AFE)の 1 つに、容易に接続することができます。また、ADF5904には温度センサーも内蔵されており、ディスクリートの検出部品を使用する必要がありません。ディスクリート部品を使用すると、システムのアセンブリとテストの際に、キャリブレーションのための時間とリソースがさらに必要になる場合があります。

ADF5904 は、デジタル・ビーム・フォーミングを使用する高周波アプリケーションのマルチチャンネル・レシーバー用に設計されています。このようなアプリケーションの例としては、自動車用 ADAS レーダー、マイクロ波レーダー・センサー、そしてエネルギー効率がシステムレベルの設計で重要な検討事項となってきている工業用レーダー・システム環境などがあります。ADF5904 24 GHz レシーバーは、クラス最高レベルのレシーバー感度を提供しながら、全体の消費電力を競合する他のRFIC 技術よりも低く抑えることによって、これらのアプリケーションやその他のセンサー・アプリケーションの実現を可能にします。

ADF5904 レシーバー・ダウンコンバータの主な特長

  • 4 つの受信チャンネル、Rx チャンネル・ゲイン: 22 dB
  • ノイズ指数: +10 dB、P1db: –10 dBm
  • 消費電力: 560 mW(4 チャンネルすべてがパワーオンの場合)
  • LO 入力範囲: –8 dBm ~ +5 dBm
  • Rx と IF のアイソレーション: 30 dB
  • RF 信号帯域幅: 250 MHz
  • アナログ出力のオンチップ温度センサー: ±5°

図 1. ADF5904、4 チャンネル、24 GHz レシーバー・ダウンコンバータ MMIC

技術的詳細

ADF5904 は 4 チャンネルの 24 GHz Rx MMIC で、4 つの RF チャンネルで周波数をダウンコンバートして差動ベースバンド信号を生成し、この信号を特別なマルチチャンネル ADC に直接入力して、受信アナログ・レシーバー信号をデジタル化します。これらのデジタル信号は、システム・マイクロプロセッサ上で実行する高速フーリエ変換(FFT)をはじめとする高度なレーダー検出ソフトウェア・アルゴリズムを使って解析でき、これによってレーダー・センサー・システムの前方に出現するターゲットを検出して、そのターゲットの速度、距離、位置を計算することが可能になります。

ADF5904 は、トランスミッタと組み合わせて使用する IC(ADF5901)が生成する局部発振器入力信号、すなわち LO ソースを使って、レシーバー信号をダウンコンバートします。ADF5904 のすべての RF 入力は簡素なシングルエンド入力で、これらの入力は Rx信号を差動信号に変換するために使われる内蔵バランに内部で接続されており、より高性能の増幅処理とダウンコンバージョン処理を実現します。このシングルエンド RF インターフェース接続により、プリント回路基板(PCB)アンテナに IC の RF ポートの接続を設計する際の PCB 設計タスクがかなり容易になります。この場合必要になるのは 50 Ω の PCB 配線パターンだけで、マッチング用の外付け受動部品が不要なので、ボード・スペースを大幅に節約できます。ADF5904 には多くの優れた特長がありますが、その 1 つが、低コストのプラスチック・パッケージにこのような高集積化を図りながら、30 dB というワールドクラスの Rxチャンネル間アイソレーション性能を実現していることです。この 30 dB という優れた Rx-Rx アイソレーション性能を維持するには、Rx 入力ピン周辺の RF レイアウトを慎重に行う必要があります。

4 つの Rx 信号パスのそれぞれには低ノイズ・アンプ(LNA)が組み込まれており、その後に低ノイズ・ミキサーと差動出力アンプが配置されています。これら 4 チャンネルは、いずれも ADF5901チップが生成する LO 信号を使用します。全体的な Rx チェーンの固定ゲインは 22 dB で、P1dB は -10 dBm です。また、低ノイズ設計によって Rx シグナル・チェーンのノイズ指数を 10 dB とする一方で、4 つの Rx チャンネルすべてを同時にパワーオンにした場合でも、560 mW という非常に低い消費電力を実現しています。電源は 3.3 V 単電源です。システム全体の消費電力は、システムのパワーオンのデューティ・サイクルを調整することでさらに低減でき、未使用の Rx チャンネルは個別にパワーダウン可能なので、消費電力をいっそう削減して温度管理を容易にすることができます。ADF5904 には温度センサーが内蔵されていますが、これはアナログ電圧として A テストピンに接続されており、システム温度をモニタリングできるようになっています。ADF5904 は DOUT ピンを通じて 4 線 SPI の簡単な制御を行う機能を備えており、チップ制御レジスタへの正しい書込みをチェックするために、レジスタの内容をリードバックすることができます。

ADF5901、2 チャンネル、24 GHz 送信 MMIC

ADF5901 は 24 GHz の Tx MMIC で、24 GHz から 24.25 GHz までの 250 MHz ISM 帯域を使用する 24 GHz VCO を内蔵しており、この VCO は 8 dBm の出力を供給できる 2 個の Tx PA に接続されています。また、ADF5904 Rx MMIC をドライブする LO 出力や、ADF4159 ランプ生成 PLL によるクローズドループ制御を可能にする差動補助出力も備えています。これらを組み合わせることで、このチップセットは 24 GHz ISM レーダー・システムに必要なものをすべて備えた RF シグナル・チェーンを構成します。

このデバイス上の Tx 出力をドライブするオンチップ VCO は、周波数と電力が補正されており、ISM 帯域内で確実に動作するとともに、最適な VCO 電力レベルを維持して、1 MHz オフセットで108 dBc/Hz という優れた位相ノイズ性能を確保しています。また、Tx 出力電力を補正して電力を許容電力レベルの制限範囲内に保てるように、Tx 出力電力キャリブレーション回路も組み込まれています。このキャリブレーション回路は、REFIN ピンに供給される外部リファレンス・クロックによって動作します。このリファレンス・クロックは、ADF4159 PLL のリファレンス入力にも使用される場合があります。

電力キャリブレーションに対応するために TX 出力にはオンチップ・パワー・ディテクタがあり、Tx 出力ピンにおける電力を測定することができます。このパワー・ディテクタは、出力電力を制御するキャリブレーション・エンジンの一部として使われます。出力電力のキャリブレーションは、温度や電源に対して正確に行われます。

VCO の周波数キャリブレーションは、オンチップの R(リファレンス)分周カウンタと N(RF)分周カウンタを使用して行われ、これらのカウンタは、分周された RF 信号と、リファレンス・クロックから得られる既知の周波数信号を比較するために使われます。

また、この N カウンタ・ブロックは、MUOUT ピンへの入力に使用して、オープンループ周波数識別システムでチップを使用できるようにすることもできます。この場合は、分周した VCO 周波数を測定する外部モニタリング回路を追加し、さらに、デバイスの動作を ISM 帯域で確実に動作するようデバイスの Vtuneピンを調整する D/A コンバータが必要となります。 また、このオープンループ法を使用して周波数が ISM 帯域から外れないようにする場合は、温度変化を考慮する必要もあります。これらを実行するにあたっては、いずれも、キャリブレーションを行うために DSP が介在する必要があります。クローズドループ PLLは周波数を正確に保ち、温度や電源電圧による変動もないので、ADF4159 によるクローズドループ・システムを使用すれば、DSP を使用するというこの特別な手間を省くことができ、デバイスの堅牢性が向上して、より使いやすくなります。

ADF5901 の 2 つの Tx 出力は個別に制御され、レーダー・センサーの仮想アンテナや MIMO 動作を可能にします。

ADF5901 の Tx 出力と LO 出力はシングルエンド出力で、デバイスへの RF インターフェースの扱いを容易にして、PCB 設計タスクを減らします。この場合、PCB 設計に必要なのは 50 Ω の PCBパターンだけです。

ADF5901 の LO 出力は固定出力電力を提供しますが、これは、ADF5904 RX チップの LO 入力を駆動するために使われます。電力レベルは複数の ADF5904 レシーバー・デバイスを駆動できるだけの十分なものですが、Rx チャンネル数の増加に対してスケーラブルなシステムとするには、外付け部品が必要です。

差動補助出力を使用すれば、VCO の基本周波数から 2 分周出力や 4 分周出力を得ることができます。したがって 12 GHz または6 GHz の出力を使用でき、これによって、フィードバック・パスに ADF4158 または ADF4159 ランプ生成 PLL を使用して ADF5901の VCO をロックし、必要とされる高い直線性の FMCW 変調ランプを生成することが可能になります。

さらに、ADF5901 は温度センサーを内蔵しており、ATEST ピンにアナログ信号を出力することも、オンチップの 8 ビット ADCを使ってアナログ信号をデジタル変換した後に、そのデジタル・ワードを DOUT デジタル・ピンにリードバックすることもできます。DOUT ピンは、レジスタをリードバックして、デバイスの制御レジスタへの書込み操作が正しく行われていることを確認するのに使うこともできます。AD5901 の電源をオフにすると、3.3 V 単電源は 100 % デューティ・サイクルで 700 mW の電力供給を停止します。つまり、デューティ・サイクルを調整すれば、全体的な消費電力を減らすことができます。

ADF4159 ― 13 GHz フラクショナル N FMCWランプ生成 PLL

ADF4159 PLL は、FMCW 動作用のフレキシブル・ランプ変調方式によって、クラス最高レベルの位相ノイズ性能(–224 dBc/Hzの正規化位相ノイズ FOM)を提供します。つまり、最大 PFD 周波数が 110 MHz の場合、このデバイスは低速ランプ(1 ms ~ 10 ms)と高速ランプ(20 μs ~ 1 ms)の両方に対応できます。最大 RF 入力周波数が 13 GHz の場合は、トランスミッタ IC ADF5901 の補助出力と容易にインターフェースすることができ、クローズドループ FMCW の生成を完了させることが可能です。ADF4159フレキシブル・ランプ生成エンジンは、弾力的な時間変動および周波数変動を持つさまざまな三角波状および鋸波状のランプ・プロファイルをサポートしています。また、高速ランプ・プロファイルもサポートしており、これにより、RF 帯域幅の掃引周波数を最大にするランプのリトレース時間内のオーバーシュートやアンダーシュートを最小限に抑え、レーダー・システムにおける高精度の測距分解能を実現します。ADF5901 と ADF5904 間のインターフェースに外付け受動部品は不要なので、高価な高周波コンデンサを使用する必要がありません。ADF5901 と ADF4159 間の補助信号に、カップリング・コンデンサは不要です。これら 3 つの IC はいずれも優れた ESD 性能を備えているうえ、AECQ100 規格にすべて適合しているので、より堅牢なセンサー設計を実現できます。

レーダー・システムの利点

このチップセットが提供する高性能仕様の組み合わせは、図 2 に示すように、レシーバー感度と検出距離における dB 値のわずかな違いも問題となるようなレーダー・センサー・アクチュエータの構築において重要になります。IC ベースのレーダー・システムの多くはトランスミッタ(位相ノイズ)とレシーバーのノイズに制限され、これによって全体のレシーバー S/N 比(SNR)も制限されます。これは一般に、大きい物体が存在する場合やその近傍では、レーダー・システムによる小さい物体やターゲットの検出が制限されるという結果を招きます。多数のターゲットや外乱が存在する実際のレーダー・アプリケーションでは、グラウンド・クラッターを含むさまざまなターゲット・シナリオが存在し、これらすべてが重なってシステムの位相ノイズが増大する結果、レーダー・レシーバーの感度が低下する可能性があります。システム・ノイズ・マスクのレベルを上げたり、小さいターゲットを除外して検出しないようにしたりすると、センサーに関する安全上の問題を引き起こすおそれがあります。例えば、自動車用の検出アプリケーションに使用する場合は、子どもを隠してしまうような防音壁や駐車車両のような非常に大きいターゲットが存在しても、小さいターゲット(子どもや低いポールなど)を正確に検出できなければなりません。

図 2. インテリジェント信号機のレーダー・センサー。3 次元物体を追跡。

図 3. アナログ・デバイセズの 24 GHz フル・シグナル・チェーン製品群の構成

ADF5904 の優れた低ノイズ指数(競合品より 3 dB 良好)と、一緒に使う IC である Tx ADF5901 チップおよび ADF4159 PLL の高性能位相ノイズ、出力電力、高速ランプ能力を組み合わせることで得られる性能と出力により、このデバイスは、センサー向けにより低いノイズ・フロア性能を提供します。したがって、レシーバー・システムの S/N 比を向上させることが可能で、より迅速に最終的なパラメータを予測して、信頼性の高い確実な検出を実行できます。この集積化されたチップセットの高い性能によって、レーダー・システムの設計者は少なくとも 2 倍のシステム感度と最大 1.5 倍の検出範囲をはるかに低い総消費電力で実現し、結果として、設計が容易な小型センサーを使って、より堅牢で安定した性能を得ることができます。

著者について

John Morrissey
John Morrisseyは、1984年にアナログ・デバイセズに入社しました。以後、1998年までにわたり、D/Aコンバータ、A/Dコンバータ、ミックスド・シグナルICを担当する設計者として産業用/通信用アプリケーション向けの製品開発に従事。1999年~2007年には、通信分野で用いられるRF/マイクロ波設計へと業務の幅を広げ、設計スキルを蓄積していきました。2007年以降は、設計、マーケティングを網羅する形で技術/営業分野の経営管理業...
Patrick Walsh
アイルランドのダブリン工科大学で電気/電子工学の工学士号を取得・卒業し、1998 年にアナログ・デバイセズ入社。1998 年~ 2001 年、設計技術者として RF PLL シンセサイザを担当。2011 年以降は、アプリケーション・エンジニアとして自動車用および工業用レーダーの RF およびマイクロ波部品と 24 GHz MMIC を担当。

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