レーダーの探知距離を延ばす方法、GaNパワー・アンプのパルス・ドループを最小限に抑える

この記事では実際のレーダー性能の非理想的なGaN PAパルス・ドループに焦点を当て、探知距離への悪影響を低減するために何ができるかについて説明します。

2023年09月20日
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要約

最新のフェーズド・アレイ・レーダーでは、窒化ガリウム(GaN)ベースのパワー・アンプ(以下、GaN PA)が使われるケースが増えています。それにより、旧世代のフェーズド・アレイ・レーダーと比べて性能を大幅に高められるからです。実際、電力密度が高いGaN PAを採用すれば、かさばる上に損失の多い結合回路の必要性が低下します。ただ、GaN PAは、レーダーの性能に対して理想的ではない性質も示します。それがパルス・ドループです。パルス・ドループは、レーダーによって探知可能な距離(探知距離)を制限するという悪影響を及ぼします。本稿では、その影響を軽減するために何をすべきなのかを明らかにします。多くのレーダーでは、RF対応のシグナル・チェーンの出力段に高度なソリッドステート・エレクトロニクスが挿入されます。それにより、システム技術者は、探知距離、分解能、検出能力の向上を達成するための仕様を設定することができます。本稿では、この点について詳しく説明します。また、パルス・ドループを最小限に抑え、高性能のフェーズド・アレイ・レーダーに求められる要件を満たすことが可能なGaN PA製品を紹介します。

背景

最新のレーダーの多くは、何らかのパルス圧縮手法を採用しています。それにより、距離分解能とS/N比を向上させています。そうした手法を活かすには、シグナル・チェーン全体にわたり、送信パルスの完全性を維持することが非常に重要です。パルス圧縮を採用することで、レーダーは密集している複数のターゲットを識別できるようになります。長距離に対応するロング・パルス・レーダーでは、レシーバーにおいてリターン・パルスに重なりが生じます。その結果として、複数の物体がひと固まりになり、ぼやけてしまう可能性があります。また、ターゲットに到達したレーダーのパルスは様々な形で反射します。レーダーが捉えているものを受信用のアルゴリズムによって適切に識別できるようにするためには、送信パルスを予測可能な形状で維持しなければなりません。レーダーには様々な用途があります。航空機を探索するレーダーもあれば、天候のパターンを監視するためのレーダーも存在します。各レーダーの用途に応じ、検出において目標となる事柄は異なります。結果として、レーダーのパルスについては、あらゆる側面が重要な意味を持つことになります。

図1. 一般的なRFパルス。オーバーシュート、セトリング時間、ドループなどの指標によって形状が規定されます。
図1. 一般的なRFパルス。オーバーシュート、セトリング時間、ドループなどの指標によって形状が規定されます。

図1は、レーダーの代表的なパルス形状と各種の指標についてまとめたものです。立ち上がり時間/立下がり時間、ピーク振幅、パルス幅、デューティ・サイクルなどが指標として用いられます。これらを組み合わせることにより、レーダーの探知距離、感度、熱、電力に関する設計上の目標を決定することができます。これまで、レーダーのパルスについては、より顕著な課題が順に克服されてきました。その結果、パルス・ドループが次なる課題として浮上することとなりました。パルス・ドループとは、パルスが立ち上がってから立下がり始めるまでの間(パルスがハイの期間)に振幅が減少する現象のことです。通常、その大きさはdB単位で表されます。レーダーのパルスにドループが生じると、本来のパルスの長さに応じた探知距離よりも実際の探知距離が短くなります。レーダーの探知距離は、パルスの振幅と幅に基づく積分電力のレベルとして定義されるからです。

次式は、レーダー方程式として知られているものです。

数式 1

ここで、Prは予想される受信電力、Ptは送信電力、Gtはアンテナのゲイン、Grは受信ゲイン、λはレーダーの動作波長、σはターゲットの有効断面積、Rはアンテナからターゲットまでの距離です。この式は、受信電力とそれに関連するトレードオフ項目の関係を表しています。レーダーの性能を決める要因と実際の影響の関係が表現されているため、この式を使うことによって性能の近似値を得ることができます。レーダー方程式を見ると、送信電力に何らかの負の要因が加わった場合、レーダーの性能に悪影響が及ぶことがわかります。分母に4乗の項があることから明らかですが、特に距離による損失が支配的になります。つまり、パルスの往復に伴う減衰量が大きくなるということです。距離に依存する損失を抑えるには、利用可能な電力をすべて使い切らなければなりません。

レーダー方程式は、対象範囲内にあるターゲットに応じた受信電力を概算する際に役立ちます。但し、この式では、ターゲットのエコーに対する妨害要因を無視しています。つまり、多くのノイズ源が考慮されていないということです。ここで言うノイズの電力は次式で与えられます。

数式 2

ここで、kはボルツマン定数、Tsは絶対温度、Bnはレシーバーのノイズ帯域幅です。この式を使えば、S/N比を得ることができます。つまり、レーダー方程式に組み込めば、レーダーのS/N比を表現することが可能になります(以下参照)。

数式 3
数式 4

上記のS/N比は、ある距離だけ離れた場所に位置するターゲットを探知するレーダーの能力を、レーダーが内在するノイズ源を含めた形で表します。S/N比という観点からパルス・ドループの影響を見た場合、送信電力が減少するとS/N比が低下するという問題が生じます。結果として、レーダーが遠距離にある物体を探知する能力が低下します。図2は、航空機が搭載するパルス・レーダーの例です。図に示したように、パルス・ドループによって探知距離が短くなると、感度が低下します。

図2. 航空機が搭載するパルス・レーダーの例。パルス応答が理想的なものである場合と探知距離が低下した場合のそれぞれについて、レーダーで取得される画像がどのようになるのか示してあります。
図2. 航空機が搭載するパルス・レーダーの例。パルス応答が理想的なものである場合と探知距離が低下した場合のそれぞれについて、レーダーで取得される画像がどのようになるのか示してあります。

GaN PAのパルス・ドループ

パルス・レーダーの用途に向けた大出力のGaN PAでは、真空管を利用した従来品と同様のパルス・ドループが生じることが確認されています。電流密度と電界の積である自己ジュール発熱によってPAが内蔵するトランジスタのチャンネルの温度が上昇すると、PAの出力電力は低下します。図3は、パルスがハイになる100マイクロ秒の間、GaNトランジスタのアクティブ・チャンネルが自己発熱している様子を表したものです。このグラフは、ベンチトップ型の電源を使用して電圧と電流を駆動し、サーモリフレクタンス・システム(Microsanj製)によってバルクGaNのチャンネルの温度を測定した結果です。ドレイン電流の量は、パルスがハイの期間、自己発熱の影響によって減少していきます。大規模なアレイでは、大電流が流れる負荷条件の下で電源バンクが放電することになり、電源電圧にサグ(低下)が生じることが少なくありません。一般に、電圧のサグを軽減するためには、PAの近くにバイパス・コンデンサ(セラミック・コンデンサやタンタル・コンデンサ)を配置することに加え、バイアス・ラインに沿って電荷を蓄積するための大容量のコンデンサ(以下、蓄電コンデンサ)を挿入することになるはずです(図4)。しかし、そうするとパルスの形状に歪みが生じることになるでしょう。また、アレイのサイズ、重量、コストが増加するという問題も生じます。つまり、蓄電コンデンサを適用するのは理想的な解決策だとは言えないということです。

図3. GaNトランジスタのチャンネルの温度。パルス幅が100マイクロ秒という条件における評価結果です。ドレイン電流とドレイン電圧の値もプロットしてあります。
図3. GaNトランジスタのチャンネルの温度。パルス幅が100マイクロ秒という条件における評価結果です。ドレイン電流とドレイン電圧の値もプロットしてあります。

パルス・ドループに関連する仕様はシステムによって異なります。ただ、レーダーの性能について考えた場合、ドループを最小限に抑えることは間違いなく重要です。レーダー・アプリケーション向けのものとしては、パルス・ドループが0.5dB以下のPAが最適です。また、システム設計者はパルス・ドループが0.3dB以下に抑えられているものを強く望むはずです。

図4. GaN PA(ADPA1106)の評価用ボード(左)とパルサ・ボード(右)。パルサ・ボードには、蓄電コンデンサが実装されています。そのため、幅の広いパルスに対応して電力のレベルを維持することができます。また、評価用ボードについては、PAの近くにデカップリング・コンデンサが実装されています。
図4. GaN PA(ADPA1106)の評価用ボード(左)とパルサ・ボード(右)。パルサ・ボードには、蓄電コンデンサが実装されています。そのため、幅の広いパルスに対応して電力のレベルを維持することができます。また、評価用ボードについては、PAの近くにデカップリング・コンデンサが実装されています。

パルス・ドループを管理する

パルス・ドループに関連する性能については、システムの稼働現場でパルスの状態を管理することで対処することも可能でしょう。ただ、それは現実的な方法の1つに過ぎません。例えば、PAのゲート用電源とドレイン用電源の両方に外付けのバイパス・コンデンサを付加すれば、立ち上がり時間と立下がり時間の性能が向上します。その際には、PAに対するデカップリング・コンデンサの相対的な位置、方向、材料の選定などに注意しなければなりません。こうした要素も、パルスの忠実度に影響を及ぼす可能性があるからです。RF回路を設計する場合、インピーダンスは単なる部品の容量の関数として決まるわけではないということに注意しなければなりません。一般に、寄生容量と寄生インダクタンスの影響は周波数が高くなるに連れて大きくなります。

パルス・ドループを低減する方法は他にもあります。PAから離れた位置にある電源の近く、あるいは近くに位置する電源制御ボードに蓄電コンデンサを設けるという方法も考えられます。蓄電コンデンサを使えば、パルスがハイの期間中に電源で生成された電圧を維持できます。それにより、スイッチング・レギュレータは電源に対する負荷の増大に対処しなくて済みます。パルスがオフになる(ローになる)たびに蓄電コンデンサが再充電され、次のオンのパルス(パルスがハイになる)をサポートする準備が整います。先述したように、蓄電コンデンサにはサイズ、重量、コストの面で問題があります。それでも、多くのレーダー・システムでは、各パルスの条件に対応して出力電力を均一にするために蓄電コンデンサが使われています。

実験室で使用するベンチトップ型の電源は、パルスを駆動する際の反力に耐えられるように設計されています。それに対し、現場で使用されるレーダー用の電源は、通常はきれいなパルスを駆動することを前提として設計されています。そのため、レーダー・システムに求められる電流の大きさによっては、電源の出力電圧にサグが生じます。結果として、それがパルス・ドループのもう1つの発生源になります。

上記のような課題を受け、電源システムの設計者らは、ドループの補償回路とソフトウェア・ベースのパルス変調方式によって電圧のサグを管理する新しい技術を考え出しました。例えば、デジタル・フィードバックによるパルスの整形、プリディストーション技術、フィードフォワード電源といった方法は、いずれも相応の成功例として評価されてきました。但し、これらの技術は実装するのが難しいという欠点を抱えています。それによって得られるパルス関連の性能向上の度合いは、ハードウェアやソフトウェアの複雑さに起因するオーバーヘッドの増加に見合ったものではありません。

GaN PAの出力パルスの実測結果

ADPA1106」は、アナログ・デバイセズが提供するGaN PA製品です。Sバンドに対応するレーダー向けのものとして設計されました。本稿では、この製品を例にとり、具体的な評価結果を示すことにします。特に注目していただきたいのは、パルス幅とデューティ・サイクルを変化させた場合にパルス・ドループがどのような状態になるのかということです。

評価環境は、ベンチトップ型の電源をトリガする任意波形ジェネレータと、PAに入力するパルスDC/RFパワー信号を生成するためのRFパルス発生源を使用して構築しました。PAの出力はKeysight Technologies製のパワー・センサー「N1924A」に接続し、その出力を同社製のピーク・パワー・アナライザ「8990B」に入力しました。ベースプレートの温度は、25°Cに設定した冷却プレートを使用して制御しました。

図5. ADPA1106(GaN PA)の代表的なパルス波形。緑色のトレースは同PAのドレイン電圧、黄色のトレースは同PAのRF出力です。ピーク・パワー・アナライザ(8990B)によって取得しました。
図5. ADPA1106(GaN PA)の代表的なパルス波形。緑色のトレースは同PAのドレイン電圧、黄色のトレースは同PAのRF出力です。ピーク・パワー・アナライザ(8990B)によって取得しました。

図5に示したのが、ADPA1106の出力パルスの評価結果です。緑色のトレースは同PAのドレイン電圧、黄色のトレースは同PAのRF出力を表しています。これを見ると、ADPA1106の代表的なパルス形状は、パルス・レーダー・システムでの使用に非常に適していることがわかります。つまり、立ち上がり時間/立下がり時間が短く、オーバーシュートがほとんど発生せず、パルス・ドループが許容範囲である0.3dB以内に抑えられています。

パルス幅を変更する

ADPA1106を様々なパルス幅やデューティ・サイクルで動作させると、どのような結果になるのでしょうか。以下、それについての知見を得るための評価結果を示します。その評価では、まずパルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)を一定にした状態で、パルス幅を変化させてPAの出力を観測しました。続いて、パルス幅を一定に維持した状態でデューティ・サイクルを変化させました。パルス・ドループを適切に評価するためには、最初のオーバーシュートの影響を排除するべきです。そこで、パルス幅の2%に当たる時間が経過した時点から、パルスが終了するまでを測定の対象としました。パルスのオーバーシュートは、主としてパルス信号に対するフィルタリングとシステムの電源ソリューションが原因で引き起こされるものです。つまり、PA本来の性能を示すものではありません。これに関する研究結果を見ると、ドループの測定にあたってはオーバーシュートとリップルの影響を除去するために、パルス幅の10%から90%まで、あるいは25%から75%までを測定の対象とするという提案が行われています。但し、リップルまで除去しようとすると、直線的なドループのかなりの部分が無視されてしまうことになります。そのため、本稿で示す評価結果では、ドループの計算において最初のオーバーシュートの部分だけを除外しています。

図6. パルス幅を変化させた場合の出力パルスの評価結果。ADPA1106を対象とし、PRFは固定(1ミリ秒)という条件で評価を実施しました。
図6. パルス幅を変化させた場合の出力パルスの評価結果。ADPA1106を対象とし、PRFは固定(1ミリ秒)という条件で評価を実施しました。
表1. パルス幅とパルス・ドループの関係。PRFは固定(1ミリ秒)という条件で評価を実施しました。
PRF パルス幅〔マイクロ秒〕 パルス・ドループ〔dB〕 平均出力電力〔dBm〕
1ミリ秒 10 0.11 47.63
50 0.24 47.24
100 0.29 47.13
200 0.36 47.03
300 0.39 47.02
400 0.43 46.97
500 0.46 46.87

図6と表1は、パルス幅を変更した場合の評価結果をまとめたものです。これらは、最初のオーバーシュート、パルス形状のセトリング、パルス・ドループなど、代表的なパルスの性質を示すものとなっています。予想のとおり、PRFを一定にした場合、パルス幅を広げるとパルス・ドループは増大しており、両者の間に強い相関があることがわかります。この評価における最大のパルス幅では、パルス・ドループが0.5dBに近づいています。つまり、システムで許容できるドループの最大レベルの値に達します。また、熱の影響により、パルス幅が増加するに連れてピーク出力電力と平均出力電力がわずかに低下することもわかります。加えて、パルス幅が最大の場合、テールの最後の部分では下向きの傾きがわずかに増加しています。これは、パッケージやその下のヒートシンクの熱管理ソリューションに自己発熱の影響が及び始めていることを示している可能性があります。

デューティ・サイクルを変更する

次に、パルス幅を100マイクロ秒に固定した状態でデューティ・サイクルを変更し、ADPA1106の評価を実施しました。先述したように、パルス・ドループを適切に評価するためには、最初のオーバーシュートの影響を排除するべきです。そこで、パルス幅の2%に当たる時間が経過した時点から、パルスが終了するまでを測定の対象としました。

図7. デューティ・サイクルを変化させた場合の出力パルスの評価結果。ADPA1106を対象とし、パルス幅を100マイクロ秒に固定して評価を実施しました。
図7. デューティ・サイクルを変化させた場合の出力パルスの評価結果。ADPA1106を対象とし、パルス幅を100マイクロ秒に固定して評価を実施しました。
表2. デューティ・サイクルとパルス・ドループの関係。パルス幅は100マイクロ秒で固定しています。
パルス幅 デューティ・サイクル〔%〕 パルス・ドループ〔dB〕 平均出力電力〔dBm〕
100マイクロ秒 0.02 0.45 47.89
0.4 0.39 47.77
2 0.33 47.49
10 0.29 47.11
50 0.28 47.03
91 0.23 46.58

パルス幅が一定の状態でデューティ・サイクルを増加させていくと、パルス間でPAがオフになっている時間が減少することになります。これは、パルス間でPAが冷却される時間が短くなり、後続のパルスの立ち上がりエッジでは高温の状態になっているということを意味します。デューティ・サイクルが100%(連続波)という極端な条件では、PAを冷却する時間がなく、その温度は最大値で一定になります。このように、デューティ・サイクルが高くなるに連れてPAの平均温度は上昇しますが、パルスがハイの期間の温度上昇量は減少します。結果としては、PAの絶対温度が高くなることから、ピーク出力電力と平均出力電力が低下するということになります。このことは、パルス幅全体をわたるドループが低減されるということを意味します。なぜなら、パルスがハイの期間におけるPAの温度の変化が抑えられるからです。デューティ・サイクルを変化させた場合の評価結果を図7、表2にまとめました。

GaNデバイスであれば大電力の出力を生成できます。また、効率は比較的高いのですが、それでも電力変換の際に一部は熱として失われます。従って、最良の結果を得るには効果的な熱管理を適用しなければなりません。この評価では、液冷式の温度制御用ベースプレートを使用して温度の上昇を管理しました。レーダー・システムの利用現場でも、熱を管理するために同様のソリューションが使用されています。熱管理が不十分で極端な状態に陥ると、出力パルス波形の忠実度が低下します。結果としてレーダーの感度も低下します。

レーダーに最適なGaN PA製品

アナログ・デバイセズは、防衛分野や民間分野で用いられるレーダー、電子戦(EW:Electronic Warfare)のアプリケーションをターゲットとして高性能のGaN PAを提供しています。一般に、レーダー・システムは用途に応じた周波数帯(バンド)によって分類されます。例えば、Sバンドに対応するレーダーは長距離を対象とする追跡アプリケーションでよく使用されます。具体的には、航空管制、気象レーダー、陸上追跡レーダーといった用途が挙げられます。一方、Xバンドに対応するレーダーは、海洋レーダーや火器管制レーダーなどでよく用いられます。いずれの用途でも、パルス・ドループを小さく抑えることが求められます。

本稿でドループの評価に使用したADPA1106は、そうしたニーズを満たすGaN PAの一例です。同製品は、2.7GHzから3.5GHzの帯域幅にわたり、56%の電力付加効率(PAE:Power Added Efficiency)で46dBm(40W)の電力を出力できます。表3は、いくつかのGaN PAの代表的な性能をまとめたものです。

表3. GaN PAの代表的な性能
  ADPA1105 ADPA1106 ADPA1107 ADPA1122
IEEEの無線バンド Lバンド Sバンド Cバンド Xバンド
周波数 0.9GHz~1.7GHz 2.7GHz~3.5GHz 4.8GHz~6GHz 8.2GHz~11.8GHz
リニア・ゲイン 36dB 34dB 30dB 33dB
パワー・ゲイン 19dB 25dB 20dB 21.5dBm
PSAT 46dBm 46dBm 45dBm 43dBm
PAE 60% 56% 57% 46%

まとめ

レーダー・システムについては、より高い性能を実現することが求められています。それに伴い、システムを構成するコンポーネントに求められる性能のレベルも高まっています。アナログ・デバイセズが提供するGaN PAの製品ラインは、需要のカーブの一歩先を行っています。ADPA1106は、Sバンドに対応する高効率、大出力電力のGaN PAです。本稿では、パルスの条件を様々に変更して同製品の評価を実施した結果を示しました。同製品であれば、0.3dB未満という卓越したパルス・ドループ性能を実現することが可能です。

著者について

Michael Gurr
Michael Gurrは、アナログ・デバイセズのプロダクト・ライン・マネージャです。航空宇宙/防衛ビジネス・ユニットに所属しています。2018年に入社して以来、RF分野で設計やマネージメントの職務を担当。それ以前は、RaytheonでGaN/GaAsベースのアンプの開発に携わっていました。2013年にボストン大学で電気工学の学士号、2016年にノースイースタン大学で電気工学の修士号、2021年にマサチューセッツ大学アマースト校で経営学の修...

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