SPoEを活用し、遠隔地に電力を伝送する

2024年04月19日
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要約

本稿では、シングルペアのデータ線を利用して電力を伝送する方法を紹介します。SPoE(Single-pair Power over Ethernet)を採用すれば、電力とデータを長距離にわたって伝送することができます。本稿では、そのためのシステム構成と、電力をケーブルに供給する方法を示します。また、そうしたSPoE対応のソリューションをサポートするアーキテクチャや必要なICを紹介します。

工場内などにおいて、電気エネルギーを長距離にわたって伝送するのは容易なことではありません。もちろん、電気技術者であれば製造施設内の任意の個所に送電網に接続する手段を設けることができるでしょう。しかし、それは時間とコストのかかる作業になります。

送電網に個別に接続する方法に代わる手段としては、PoE(Power over Ethernet)が広く使われています。PoEを採用すれば、最大71Wの電力を最長100m離れた場所にあるデバイスに供給することができます。PoEでは、Cat 5またはそれ以上のツイスト・ペア・ケーブルを使用することが可能です。そのため、PoEはイーサネットのケーブルが既に敷設されている数多くのアプリケーションで使われるようになりました。

本稿で取り上げるSPoEは、PoEの一種です。PoEと同じく2線式のケーブルを使用しますが、PoEとは異なる新たな選択肢だと言えます。SPoEでは、1本の2線式ケーブルを使うことで最大52Wの電力を伝送できます。伝送距離は最長1kmです。多くの産業プラントでは、4~20mAの電流ループを利用するために、既に2線式ケーブルが使われているはずです。それらのケーブルは、SPoE用のものとしても簡単に使用できます。2線式ケーブルが使われていない現場にSPoEを導入するのも難しくはありません。2線式ケーブルは、電気技術者の助けを借りることなく新たに配備できます。

PoEの場合と同様に、SPoEでもデータと電力の両方を伝送することができます。通常、遠隔地にある電子機器にデータと電力を伝送するには、そのための接続が必要です。したがって、1本のケーブルでデータと電力の両方を伝送できることには大きなメリットがあります。図1に、10BASE-T1Lの物理層(PHY)の間をSPoEによって接続する例を示しました。

図1. SPoEを採用したシステム。最大52Wの電力を伝送できます。

図1. SPoEを採用したシステム。最大52Wの電力を伝送できます。

ところで、エネルギーの伝送にはなぜSPoE技術を採用すべきなのでしょうか。その理由としては、SPoEがIEEEによって標準化された技術であることが挙げられます。SPoEに対応するハードウェアについては、異なるメーカーが提供しているものであっても互換性が得られます。また、エネルギー伝送の状態を監視するための包括的なシステム・テレメトリ機能が提供されます。加えて、障害を検出する機能も用意されます。更に、過電圧保護とグラウンド・ループの絶縁にも対応しているはずです。

SPoEに対応するソリューションには、2つのコントローラが必要です。1つはPSE(Power Sourcing Equipment)コントローラです。これは、2線式ケーブルを介して電気エネルギーを送信する役割を果たします。もう1つはPD(Powered Device)コントローラです。こちらは、2線式ケーブルから電気エネルギーを受信するために使用されます。図1の例は、ポイントtoポイントで接続を行う場合の構成を表しています。ただ、実際にはスター型の接続やデイジーチェーン接続も利用可能です。そのため、既存のケーブルを使用する場合には、回路の再配線に必要なコストと作業量を削減できます。

多くの場合、PSEコントローラは複数のチャンネル(ケーブル)に対応するように設計されています。このことは、遠隔地にある複数のデバイス(センサー)に給電しなければならないシステムにとっては重要です。例えば、PSEコントローラとしてアナログ・デバイセズの「LTC4296-1」を使えば、最大5つの負荷に対してエネルギーを伝送できます(図2)。給電用の各ケーブルの長さは最長1000mです。

図2. PSEコントローラとしてLTC4296-1を使用する例。このICは、最大5チャンネルの駆動に対応できます。

図2. PSEコントローラとしてLTC4296-1を使用する例。このICは、最大5チャンネルの駆動に対応できます。

図3は、PDコントローラとして「LTC9111」を使用する場合のブロック図です。この場合にも、エネルギーは2線式ケーブルによって供給されます。PD側の回路は、ライン伝送のクラス分けと監視を実施します。クラス分けとは、エネルギー伝送の電力クラスを規定する処理のことです。PD側で稼働する電気デバイスに24V/55V以外の電圧が必要な場合には、DC/DCコンバータを追加して対応します。

図3. PD側の回路の構成。DC/DCコンバータも活用しています。

図3. PD側の回路の構成。DC/DCコンバータも活用しています。

SPoEとよく似た技術に、PoDL(Power over Data Line)があります。SPoEは、24Vまたは55Vの電圧と最長1000mの伝送距離に対応します。それに対し、PoDLは、伝送距離が15mまたは40mと短いシステムで使用されます。また、12V、24V、48Vの電圧に対応します。PoDLの主な用途は、自動車やそれに似たアプリケーション(建設機械など)です。それに対し、SPoEは産業環境での使用を前提として設計されています。

本稿で説明したとおり、2線式ケーブルによって安全に電力を伝送するための技術は複数存在します。それらを利用すれば、エッジにおけるインテリジェンスのような大電力を必要とするアプリケーションを実現できます。また、産業施設の既存の配線を使用すればコストも抑えられます。

著者について

Frederik Dostal
Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーショ...

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