ハイサイド電流検出アンプの過電流を高精度で計算する方法
要約
最近、あるエンジニアが5%以内の高精度の過電流検出スレッショルドを備えた20A負荷のハイサイド監視を提供するソリューションを求めていました。容易に利用可能な既製品のソリューションで、精度が5%以下で低い値の検出抵抗を使用することができるものはありません。なぜ5%なのか? 10%ではだめなのか? 20Aの負荷の場合、10%の電流制限によるトリップスレッショルドの範囲は18A (min)から 22A (max)になり、これは許容可能な範囲より大幅に広いマージンになります。5%をそこまで困難にしている要因は何でしょう?このアプリケーションノートでは5%の精度を達成するための課題について解説し、ハイサイド電流検出アンプの過電流保護方式で必要とされる精度を提供するソリューションを示します。
概要
電流検出アンプ(CSA)は各種のトポロジーを使って設計することが可能で、その中の2つを図1および図2に示します。図1で、オペレーショナルアンプ(オペアンプ)は電流検出シャント抵抗の両端に生じる差動電圧の増幅に使用される差動アンプとして構成されています。ローサイド電流検出を制限付きで使用することができるアプリケーションもありますが、それらの場合についてこのアプリケーションノートでは解説しません。ローサイド電流検出とハイサイド電流検出の比較の詳細については、マキシムのアプリケーションノート746 「High-Side Current-Sense Measurement: Circuits and Principles」を参照してください。
差動アンプトポロジーの主な制限は、差動利得およびコモンモード利得誤差を設定するR1とR4の抵抗比の組み合わせです。2つの式によって回路の精度誤差の主な原因が規定されます。式1は図1の利得を表す式で、式2はコモンモード利得誤差を詳細に示します。式3は図1のVOUTの計算に使用します。
![]() | (Eq. 1) |
![]() | (Eq. 2) |
VOUT = Gd × ILOAD × RSENSE + Vcm × Gcm | (Eq. 3 V supply in Figure 1 represents VCM) |
R1~R4に1%抵抗を使用し、ワーストケースの許容範囲で誤差を計算した場合、電流測定値の全体的誤差は5%以上になります。結果として、より高コストで許容誤差の少ない抵抗が必要になります。この方式の主な欠点は、より高いコモンモード電圧に対する誤差感受性を克服するために、厳格な許容誤差を備えた高精度の抵抗を使用してR4/R3とR2/R1の比の値を設定する必要があることです。
図1. オペアンプベースの差動アンプ
図2は、CSAを設計するためのもう1つの一般的なトポロジーを示します。この方式の場合も、やはり電流検出シャント抵抗を使用して負荷電流を検知します。その後、検出抵抗の両端に生じる電圧がR1の両端に反映され、この電流がROUTに伝達されます。この場合のCSA電圧出力は、次のようになります。
![]() |
この式を変形すると、以下が得られます。
![]() |
この構成では、利得は単純にROUT/R1の比です。製造工程での調整によって、比の誤差を容易に除去することが可能です。このトポロジーは、図1に示した差動アンプ方式で重要になる、厳密にマッチングされた抵抗比の要件を大幅に緩和します。その結果、前述の方式で問題となったコモンモード電圧誤差を大幅に低減することができます。誤差を最小限に抑える上で、R2 = R1であることは入力バイアス電流から生じるオフセット誤差の相殺に役立ちます。
図2. マキシムの電流検出トポロジー
ソリューション設計へのステップ
ハイサイドCSAの全体的測定誤差を最小限に抑えるソリューションの設計は、図3に示すような基本的回路図から始まります。
図3. 過電流検出回路
同じ問題を解決するための回路の設計には、さまざまな方法があります。図3に示すソリューションは、2つのICを使用します。しかし、2チップソリューションの設計手順に取り組む前に、必要な電流検出機能のほとんどを内蔵したMAX4373について解説します(図4)。
図4. MAX4373/MAX4374/MAX4375ファンクション回路ダイアグラム
MAX4373は、CSA、0.6V内部リファレンス、およびラッチ出力を備えたシングルコンパレータを内蔵し、全体的実装面積の小型化に対応します。ラッチ内蔵コンパレータ出力およびそのリセット入力によって、外部pチャネルMOSFETの制御が可能であるため、図3のブロック図に示したソリューションと比べて実装が容易です。図5は、標準的な過電流保護回路図を示します。5V以上の電圧入力の場合は、COUT1とMOSFETのゲート間にレベルシフト回路が必要です。COUT1のプルアップ電圧は5V (max)であるため、外部MOSFETの制御にこれが必要です。
図5. MAX4373の過電流保護回路
MAX4373は興味深い選択肢ですが、最適なソリューションを決定するには対照比較を行うのが一番です。必要なすべてのパラメータをスプレッドシートに入力すると、MAX4373のソリューションは5%のワーストケース精度より良い結果を提供しないことが明らかです。同様の作業をMAX9938について行うと、この選択肢は精度誤差を最小限に抑える上でさらに良いソリューションを提供することがわかります。
表1. MAX9938/MAX9053AとMAX4373の比較Specification | MAX9938/MAX9053A | MAX4373 |
---|---|---|
CSA input offset over temp | 600µV | 2mV |
CSA gain error over temp | ±0.6% | ±2.7% |
CSA -3dB BW G = 100 | 30kHz | 110kHz |
Comparator reference initial accuracy (+25°C) | ±10mV | ±10mV |
Reference tMIN - tMAX | 2.495V min/2.5045V max | 0.586V min/0.614V max |
Worst-case comparator input offset voltage | ±7mV | N/A |
Comparator propagation delay | 450ns | 4µs typ |
このアプリケーションノートは過電流検出の精度が主なテーマであるため、MOSFETおよびMOSFETドライバ/フォルトロジック回路の設計と選択については詳しく解説しません。MOSFETを制御する技法については、マキシムのアプリケーションノート4501、265、4415、および2015を参照してください。
このソリューションの設計要件は、以下の通りです。
- 電源電圧 = 12V ±10% (10.8V min/13.2V max)
- 負荷電流 = 20A (max)
- 20Aでの電流制限精度 = ±5% (max)または±1A (max)
精度および回路保護の信頼性に影響するため、応答時間も非常に重要です。このソリューション用に選択したコンパレータは、表1に示すように非常に高速な応答時間を備えていることに注意してください。
電流検出シャント抵抗の選択
電流検出抵抗(RSENSE)の最適な値を決定することは非常に重要です。RSENSEの値が大きいほど、直列IRの電圧降下と電力損失が増大します。しかし、表2に示すように、これにはオフセット電圧誤差の影響を最小化する効果もあります。電圧および電力損失の最小化が要求される設計の場合は、全体的な精度の目標を維持しつつ、可能な限り最も低いRSENSEの値を使用します。表2は、CSAオフセット電圧およびRSENSEの値によって生じるCSA電圧出力誤差の概要を簡単に示しています。しかしここで、利得の増大と引き換えにより小さい電流検出抵抗を選択することと、入力オフセット電圧の影響を最小化する大型で大電力の電流検出抵抗(RSENSE)の使用と引き換えにより大きい値の電流検出抵抗を選択することの間にトレードオフが存在します。この例のような大電流検出アプリケーションでは、RSENSEでかなり大きいI2R電力損失が発生します。この設計の場合、0.00125Ωの検出抵抗とCSA利得100によって、消費電力と出力誤差の間の良好な妥協点が提供されます。表2は所望の出力電流である20A (max)を使って作られており、電圧トリップレベルは2.5Vのコンパレータリファレンス電圧によって設定されることに注意してください。MAX9938の場合、CSA利得のオプションは25、50、100、および200です。1.25Vリファレンスの場合、同じ検出抵抗を使用したときに必要な利得が2分の1に低下する可能性があることに注意してください。この例では、2.5Vリファレンスを使用しました。
表2. 電流検出抵抗の選択肢CSA gain | VSENSE (F.S) (2.5V/gain) |
RSENSE (RS) (VSENSE/ILOAD) |
PD(RS) (W) | CSA VOUT error due to MAX9938 VOS (±600V over temp) with ideal CSA gain (%) |
---|---|---|---|---|
25 | 0.100 | 0.005 | 2 | 0.6 |
50 | 0.050 | 0.0025 | 1 | 1.2 |
100 | 0.025 | 0.00125 | 0.5 | 2.4 |
200 | 0.0125 | 0.000625 | 0.25 | 4.8 |
前述のように、検出抵抗両端での電圧降下と電力損失を最小限に抑えるためにCSA利得100で開始します。最高の精度と小型実装面積を備えた回路を設計するために、高精度リファレンス内蔵コンパレータのMAX9053Aと高精度CSAのMAX9938を使用しています。MAX9938は、図2に示したものと同様のトポロジーを使用しています。他にもさらにDC誤差の少ない多数の適切なCSAをこの設計に使用することができます。たとえば、MAX44284はもう1つの優れた選択肢と考えられ、入力オフセット電圧が±27µV (max)で、利得誤差が0.26% (max)です。0.00125ΩのRS値を使用すると、CSAの理想的線形応答は125mV/Aで、20A負荷に対して2.5VのCSA出力になります。入手可能な標準値の電流検出抵抗は、表2で生成されたものとは異なる場合があることに注意してください。これらの値は単に調整なしの20Aの理想的トリップポイントとして使用します。デザインスプレッドシートを使って他の値を入力すると、新しいトリップポイントを迅速に再計算することができます。表3および表4は、CSAおよびコンパレータのデータシート記載の誤差を示しています。これらのパラメータは、誤差バジェットスプレッドシートで使用しています。
表3. MAX9938電流検出アンプの誤差Sense resistor tolerance (%) | 1 |
Sense resistor temperature drift (ppm) | 10 |
Current-sense amp gain error over temp (%) | ±0.6 |
Current-sense amp offset error over temp (µV) | ±600 |
表4. MAX9053Aコンパレータのスレッショルド誤差
Reference temperature coefficient (ppm) | 30 |
Initial reference tolerance error (V) | ±0.010 |
Comparator offset error (V) | ±0.007 |
以下の式は、スプレッドシートで使用しています。CSAの電圧出力は式4で定義されます。
VOUT = (Gain ±GE × VSENSE(temp) ±(Gain × VOS) | (Eq. 4) |
さらに、CSAを基準とする総誤差の計算では、電流検出抵抗の許容誤差および温度によるドリフトを考慮する必要があります。
![]() | (Eq. 5) |
![]() | (Eq. 6) |
VSENSE(temp) = Load Current × RSENSE(temp) | (Eq. 7) |
式8~10は、リファレンス内蔵コンパレータに起因する誤差の計算に必要です。
VREF(25°C) = VREF + ±Initial Reference Tolerance | (Eq. 8) |
![]() | (Eq. 9) |
ACTUAL CURRENT LIMIT THRESHOLD ERROR (Vtrip) = Vref(temp) + Voffset | (Eq. 10) |
式11は、実際のコンパレータのトリップレベルとCSAの誤差を考慮に入れて、実際の電流制限トリップポイントを計算します。
![]() | (Eq. 11) |
デザインスプレッドシートによる時間の節約
スプレッドシートを使って誤差を計算すると、特に変更が必要な場合に、貴重な時間を節約することができます。図6は、データシートから引用したワーストケース誤差に基づいて総誤差を計算するために使用されるスプレッドシートを示しています。個々の誤差を二乗して合計した値の平方根を総誤差とする二乗和平方根(RSS)分析は使用していません。RSSは、ランダムな(正規分布またはガウス分布の)測定値の2つの分布を加算するとき、結果の分布の標準偏差は、当初の分布の標準偏差の二乗の和の平方根に等しくなるという考えに基づいています。個々の誤差の発生源には相関関係がないため、RSS方式は(CSAの場合のような)ワーストケース方式より現実に近い可能性があります。このスプレッドシートでは、ワーストの利得誤差、オフセット誤差、検出抵抗の許容誤差、および温度によるドリフトに基づいてCSAの電圧出力を計算します。次に、ワーストケースのコンパレータトリップレベルを計算し、これらの2つの値に基づいて誤差計算を実行します。理論上、この誤差はRSS方式の場合より大きくなります。この例で計算された誤差はワーストケース誤差を使用して5%以下のため、実際の現実の誤差は計算されたワーストケースの誤差より小さくなります。データシートの調査に基づくと、CMRR (Common Mode Rejection Ratio)に起因する誤差は大きくないため、これらの誤差は含まれていないことに注意してください。マキシムのアプリケーションノート5095 「DC誤差バジェット計算器で最適な電流検出アンプの選択を簡素化」は、RSS方式を使ってCSAのDC誤差バジェットを計算する、もう1つの優れたドキュメントを提供します。図6のスプレッドシートは、過電流トリップポイントの決定に使用されるコンパレータに起因する誤差も含んでいます。アプリケーションノート5095は便利なオンラインスプレッドシートを提供しており、https://www.maximintegrated.com/jp/design/tools/calculators/current-sense-error/でアクセス可能です。
Comparator Accuracy | ||
---|---|---|
Enter in These Values for Comparator | ||
Delta Temp for Drift | 40 | C |
Reference | 30 | ppm |
NOMINAL | 2.5 | V |
Worst-Case Initial Tolerance | 0.0008 | V |
±Worst-Case Comparator Offset | 0.0007 | V |
Calculated Comparator Measurement Errors | ||
Drift Error | 0.12 | % |
Comparator with Threshold | 0.72 | % |
Comparator Trip Point | 2.518 | V |
Comparator Trip Level Error (referred to as the I-sense output) | -0.018 | V |
Current Amp Accuracy | ||
Enter in These Values for CS Amp | ||
Current-Sense Resistor RS | 0.00125 | Ohms |
Current-Sense Resistor Tolerance | -1 | |
Current-Sense Resistor Temp Co | 50 | ppm |
Delta Temp for Drift | 40 | |
Actual Current-Sense Resistor (RS) Value | 0.0012500750 | |
Calculated Resistor Power Dissipation | 0.50399 | W |
Ideal Current-Sense Amplifier Gain | 100 | V/V |
Load Current | 20.00000 | Amps |
Current-Sense Amplifier Datasheet Gain Error | 0.6 | %s |
Current-Sense Amplifier Datasheet Offset Error | 600 | µV's |
Calculated CS Amp Measurement Errors | ||
Current-Sense Ideal Vout | 2.5 | Volts |
Current-Sense Actual Vout = Act Vsense × Act G ± Act G x Vosh | 2.5644703 | Volts |
Current-Sense Vin (Vsense) Ideal | 0.025 | Volts |
Current-Sense Vin (Vsense) Actual = Act RS × Load Current | 0.0251995 | |
Current-Sense Actual Gain | 99.4 | V/V |
Total Current Amp Voltage Error (referred to as I-sense output) | 0.06289545 | V |
Actual Current Limit = Vtrip - (G x Vos)/G/Rsenseh | 19.6289545 | A |
Trip Point Error | 1.8552 | % |
要約
CSAは、広範なアプリケーションで使用することができます。全体的な測定誤差を最小限に抑えるには、CSAを使用する設計に当たってアプリケーションのトレードオフに対する理解が不可欠です。このアプリケーションノートでは、電流制限回路の誤差の発生源を定義し、それらを使いやすいスプレッドシートの形に構成しました。
著者について
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