要約
セルラのトランスミッタは、高性能のRF変調器に依存してリニアリティとダイナミックレンジを維持しています。マルチキャリアのトランスミッタの増大に伴い、RF変調器は低ノイズフロアを維持しながら、ハイレベルのパフォーマンスを提供することが必要になっています。このレベルは通常、2次または3次のインターセプトポイントによって決まります。以下の項では、これらの要件について述べ、MAX2022がどのようにして標準的な4キャリアWCDMAトランスミッタアーキテクチャの要件を満たしているかについて説明します。
概要
スーパーへテロダインアーキテクチャを採用してRF信号を送受信しています。このアーキテクチャでは、2つ以上のアップ/ダウンコンバージョン段、中間フィルタリング、およびアナログ信号処理が必要です。図1は、一般的なデュアルコンバージョンのセルラ基地局の送信ブロック図を示しています。これらのトランスミッタの多くはシングルキャリアシステムとして実装されています。マルチキャリアトランスミッタは、複数のシングルキャリアトランスミッタを使用しています。このため、数多くのシステムハードウェアを導入しています。トランスミッタのコストを削減するため、多くのシステム設計者がマルチキャリアトランスミッタとダイレクトコンバージョンのRFアーキテクチャに取り組むようになっています。
図1. 標準的なスーパーヘテロダイン送信アーキテクチャ
マルチキャリアアーキテクチャの課題
マルチキャリアアーキテクチャは、送信チャネル数を削減します。またダイレクトコンバージョンアーキテクチャは、RF信号をベースバンドからじかにアップコンバートすることによって各チャネル内の部品数を削減します。両方のアーキテクチャによってすべてのシステム要件を満たすためには、より広範囲のダイナミックレンジと高リニアリティを備えた部品が必要です。図2は、ダイレクトコンバージョンのトランスミッタアーキテクチャの標準ブロック図を示しています。このダイレクトコンバージョンのアーキテクチャでは、段数が大幅に削減されていることがわかります。多数のミキサ、アンプ、およびIFとRFのフィルタがすべて単一の統合ソリューションに置き換えられています。
図2. ダイレクトコンバージョンアーキテクチャ
最近まで、ディジタル-アナログコンバータ(DAC)とダイレクトコンバージョン変調器の性能は、3Gマルチキャリアとセルラ基地局の厳しい要件に十分に対応していませんでした。現世代の通信基地局のトランスミッタの設計には、低コストで柔軟性に優れたソリューションが求められます。RF変調器の選択がコストと柔軟性に大きく影響し、またこれによってトランスミッタの基本アーキテクチャが確定します。
シングルトランスミッタのアーキテクチャの問題を解決
マキシムは、このマルチキャリアトランスミッタのニーズに応えるため、直交RF変調器MAX2022を市場に投入しました。このデバイスは、ひときわ優れたダイナミックレンジを備えているため、トランスミッタの設計者は、極めて自由にシステムの性能を制御することができます。
極めて大きなOIP2とOIP3を組み合わせることによって、さらに-174dBm/Hzに達する優れた出力ノイズフロアによって、関連するすべてのシステム仕様に対してかなりの余裕を持った真のマルチキャリア性能が実現します。シングルトランスミッタアーキテクチャは現在、最大9つのキャリアを用いて、CDMA2000からWCDMAやOFDMなど、複数の変調タイプをサポートしています。この変調器は非常に高性能であるため、トランスミッタの設計でこれを利用することによって、ハードウェアの要件とコストを大幅に低減することが可能となり、また製品ラインナップの柔軟性を大幅に向上することができます。
MAX2022直交変調器は、SiGeプロセスを利用して1500MHz~2500MHzの周波数範囲に対応しています。図3は回路の内部アーキテクチャを示しています。
図3. MAX2022のブロック図
MAX2022は、内部的に50ΩにマッチングされたシングルエンドLO入力を備え、-3dBm~+3dBmの入力LO駆動を受け入れます。LOは直交スプリッタで分割され、2つの極めて高性能なパッシブミキサに加えられます。デバイスの直交I/Q入力は差動入力で、入力インピーダンスは44Ωです。1GHzを超える優れた入力帯域幅によって、デバイスは、ベースバンドのダイレクトRF変調器として、または直交IF入力を備えたイメージ除去ミキサとして利用することができます。直交入力は、電流出力DACにじかにインタフェース接続されるよう特別に設計されています。この機能があるため、性能の制限やコスト増大の原因となる中間バッファアンプが不要となります。ミキサの出力は結合されて、内部的に50ΩにマッチングされたシングルエンドRF出力に加えられます。
MAX2022 RF変調器の性能
RF変調器の性能はいくつかの独立したパラメータによって決まります。MAX2022は、あらゆる重要な領域において他に勝っています。OIP3は+22dBmで、P1dBは+12dBmです。複数キャリア間の相互変調生成出力は、OIP3に依存しています。つまり、大きなOIP3の値によって相互変調歪みは低いレベルに保たれます。OIP2はゼロIFアプリケーションの場合のもう1つの重要パラメータです。MAX2022のOIP2は、UMTS帯域で+50dBmです。OIP2はベースバンド信号にとっても重要です。ベースバンド信号内の第2高調波の影響で、RF出力のスペクトルが拡散され、ACLR性能が損なわれることになります。このため、大きなOIP2の値によってACLRの歪みは低いレベルに保たれます。図4は、1500MHZ~2500MHzの周波数範囲にわたる、OIP2、OIP3、および出力電力に関するデバイスの性能変動を示しています。
図4. OIP2、OIP3、POUT対周波数(MAX2022を使用)
MAX2022のノイズフロア性能は、変調機能としてパッシブミキサを利用することによって大幅に向上します。これらのデバイスは余分なノイズを生成しないため、デバイスは、標準の出力信号レベルに対して-174dBm/Hzという出力ノイズレベルにほぼ等しくなります。-10dBmを超える信号レベルでは、LOバッファの位相ノイズが重要になります。これらのバッファは-164dBc/Hzという優れた低ノイズを実現するように設計されています。
図5. ノイズフロア 対 出力電力
RF変調器の性能比較に有効な測定値として、デバイスのダイナミックレンジがあります。これは、実際の信号レベルの最大値(P1dBで表す)とノイズフロアの差になります。MAX2022のダイナミックレンジは186dBであり、他の統合RF変調器のダイナミックレンジを大幅に超えています。
LOリークレベルは、PCSとUMTSの帯域で-40dBm未満、側波帯抑制は同じ帯域で45dBを超えています。ディジタルプリディストーション制御ループによって、このレベルはさらに低減され、LOリークは-80dBm未満、側波帯抑制は60dBを超えます。RF通過域の平坦性は100MHz以上で0.5dBを超え、ブロードバンドシステムの製品を利用することが可能です。
UMTS帯域でマルチキャリアWCDMAの生成
上述した多数の性能パラメータの究極の利点は、実際のキャリアを生成するときの相互作用です。MAX2022が真に優れている点はここにあります。
実例として、WCDMA変調で4つのキャリアを生成するという問題を考えてみましょう。最新のトランスミッタの設計では、20MHzに等しいWCDMAキャリアの帯域幅に対応する必要があります。さらに、システムは、伝送信号のディジタルプリディストーションに必要な帯域幅をサポートし、パワーアンプによって生じるその後の歪みを修正する必要があります。この帯域幅は100MHzを超える可能性があります。図6は、このような信号のスペクトラムを示しています。
図6. 4キャリアのUMTSのスペクトラム
異常なまでの広帯域幅によって、UMTS帯域の限界を超えて送信出力のスペクトラムが広がっていることがわかります。つまり、トランスミッタシステムのノイズ性能は、スプリアス信号とノイズレベルを削減するためのRFフィルタを用いることなく、帯域エッジを超えて、トランスミッタのマスク要件に準拠しなければならないということです。この要件は、RF変調器にとって極めて厳しい要求となります。しかし、MAX2022の広帯域幅と広ダイナミックレンジによって、このようなシステム設計が可能となります。
図7は、UMTS帯域で1、2、および4キャリアのWCDMAを生成する場合のACLR性能を表しています。MAX2022の広ダイナミックレンジによって、広範囲の出力電力レベルにわたって非常に優れたACLR値が維持されています。この、広範囲にわたって出力電力を使用できるということは、システム設計上、極めて有効です。ノイズフロア性能は、選択したACLR性能に対して利用可能な全ダイナミックレンジを示すために表示しています。たとえばキャリア当り-28dBmの4キャリアWCDMA信号の場合、ACLRが66dBで、出力ノイズフロアは-173.5dBm/Hzとなります。
図7. 1、2、および4キャリアWCDMAのACLRとノイズフロア
この並外れて高度な性能は、OFDMやQAMなど他の変調の生成にも同様に適しています。CDMA2000とTD-SCDMAは、9つのキャリアに対してサポートすることができます。1つのハードウェア構成によって、これらの変調のいずれかまたはすべてを生成することができます。
システムレベルの設計
MAX2022のインタフェースは、補助回路の要件が最小限となるように設計されています。この設計によって、システム全体のコストが大幅に削減されます。インピーダンスマッチングされた内蔵のLOバッファとバランによって、-3dBm~+3dBmの低LO電力レベルにて、シングルエンドのLOインタフェースを利用することができるようになります。また内蔵のRFバランによって、50ΩにインピーダンスマッチングされたシングルエンドRF出力が可能になります。ベースバンドI/Q入力は、内部インピーダンスが44Ωの差動インタフェースを提供します。これらの入力は、バッファアンプを介在せずに、高性能の電流出力DACの出力にじかに接続することが可能です。極めて高性能なMAX2022のレベルでは、デバイスの性能を大きく低下させることのない外付けのベースバンドアンプを見つけることはかなり困難です。幸いなことに、この設計ではベースバンドアンプを必要としません。図8は、推奨されるMAX2022へのDAC終端インタフェースを示しています。グランドへの50Ωの抵抗器がDACを適切に終端し、20mAP-Pの標準フルスケール電流がMAX2022のベースバンド入力に0dBmを供給しています。
図8. ベースバンド入力へのDACインタフェース
MAX2022に潜在的に備わっている固有の性能を実現するには、十分に考慮したシステムレベルの設計を採用する必要があります。図9に、ディジタルプリディストーション機能を備えた4キャリアのWCDMA変調を生成する場合にお勧めする構成を示します。各段の出力端におけるカスケード構成の信号レベル、ノイズレベル、およびACLRが示されています。
図9. Txの構成と信号解析
DACを始めとして、「帯域幅が50MHzであること」、「ACLRがこの設計の目標値65dBよりもはるかに優れていること」、さらに「ノイズフロアとスプリアスフロアが低いこと」を満たした信号を生成することができる製品が必要です。MAX5895のデュアル補間DACは、これらの要件を満たす製品の一例として推奨されます。DACが高い出力サンプルレートと比較的低い入力データレートで動作することができるようにするため、このアプリケーションには補間DACをお勧めします。このため、補間フィルタの減衰が重要になります。DACの後に続くローパスフィルタでは、近接する補間イメージはあまり減衰されないからです。補間DACは、ベースバンドの入力データレートの各倍数にてベースバンド信号のイメージを生成します。これらのイメージは、変調器の入力から適切に除去されなければ、変調器RF出力に大きな側波帯を生成します。MAX5895による補間イメージの減衰量95dBは、この目的に理想的です。これによって、DACの後のベースバンドのローパスフィルタの複雑性が大幅に緩和され、DACの設計が簡略化され、さらに広帯域信号用のシステム全体の位相応答に対する影響が最小限になります。
次に変調出力を見てみましょう。出力信号レベルがキャリア当り-28dBm、合計で-22dBmであることがわかります。ACLRは、+66dBでの変調器の性能によって規定されます(DACの性能はここでは制限事項ではありません)。ただし、ノイズフロアは、変調器単独の-174dBm/Hzから-170dBmに悪化します。これはDACの、カスケード接続ノイズレベルが原因です。ここでは、総合的に最高レベルの性能を達成するため、すべての構成要素を慎重に選択する必要があります。
カスケード接続ACLRの劣化を回避するため、低ノイズ指数と適切なOIP3を備えたRFアンプを選択する必要があります。利得が12dBの場合、この段には+30dBmを超えるOIP3を推奨します。高OIP3の出力段を選択することでカスケード接続ACLRの劣化を回避することができます。MAX2057 RF VGAを使用すれば、構成の全体利得を調整することによって、出力レベルをキャリア当り-6dBm、合計で0dBmに設定することができます。OIP3が+37dBmであれば、カスケード接続ACLRは+65dBに保たれます。
このカスケード接続されたトランスミッタの設計によって、+65dBという優れたACLRが実現すると同時に、ノイズフロアは各キャリアのそれぞれを基準として-139dBc/Hzに維持されます。ノイズフロアとスプリアスレベルの性能はRFフィルタを使わずに達成されます。これによって、複数の帯域で同じハードウェア実装を変更することなく使用することができるようになります。さらに、デバイスをほとんど使用することのないこの設計の簡易性によって、高性能のトランスミッタでありながら極めて小型でコスト効率に優れたソリューションを得ることができます。
結論
この新しい変調器MAX2022はトランスミッタのアプリケーションにおいて他に例を見ない性能レベルを実現します。これによってゼロIFとイメージ除去ミキサの両方のアーキテクチャが可能になります。このデバイスによって、高度に効率化され、コスト効率に優れた柔軟性の高いトランスミッタアーキテクチャを実現することが可能になります。トランスミッタの設計者は、これによって設計効率を向上することができます。
この記事に類似した内容が2005年4月号の「Microwaves & RF」誌に掲載されました。
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