デジタル・パワーシステム・マネージメントと1mΩ 未満のDCRによる検出および高精度のPolyPhase負荷シェアリングを組み合わせた降圧比の高いコントローラ

2014年10月01日
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電子機器(特に大規模コンピューティング・システム)の複雑さが増加することにより、電源に対して、効率、トランジェント応答、モニタ機能、通知機能、およびデジタル制御の性能を向上する必要性が高まってきました。高効率は分散システムでの最重要事項です。分散システムでは、中間電圧バスから高い降圧比を用いて、大電流を供給するローカルの低電圧電源を生成します。高感度の低電圧サブシステムでは、高精度の出力電圧レギュレーションと単一サイクルの負荷ステップ応答が必要です。こうしたニーズは、多くの場合、PolyPhase® 設計回路を負荷点のすぐ近くに配置することによって満たされます。

システムの複雑さが増すと、従来とは異なる機能が電源サブシステムに要求されるようになります。ホスト・システムは、広範囲の電力レベルを供給する数十ものローカル電圧レールが必要になります。電源サブシステムは重要な動作パラメータを正確に通知し、迅速で自律的なフォルト応答を実現できる必要があります。

LTC3882は、現代の電源に対する幅広い要求を満たします。このデバイスは、PMBus準拠のシリアル・インタフェースを備えたデュアル・チャネルDC/DC同期整流式降圧PWMコントローラです。各チャネルからは、出力電圧を0.5V~5.25V の範囲で個別に発生できます。最大4つのLTC3882を並列接続して交互に動作できるので、最大8相で構成されるシングル出力レールを生成できます。電力または信頼性の要求により位相数を増やすことが必要な場合は、6または8の倍数の位相設計回路を開発することもできます。内蔵のEEPROMを1度プログラミングすると、LTC3882は、フォルト状態時でもホストのサポートなしで自律的に動作できます。LTC3882 は40ピン6mm× 6mm QFNパッケージで供給されます。標準的な解決策を図1に示します。

図1.DrMOSを使用して90Wを超える出力電力を発生するデュアル出力アプリケーション

図1.DrMOSを使用して90Wを超える出力電力を発生するデュアル出力アプリケーション

高性能負荷ステップ応答およびレギュレーションに対応するアーキテクチャ

高降圧比と高速の負荷トランジェント応答をサポートするため、LTC3882は固定周波数の立ち上がりエッジ変調電圧モード・アーキテクチャを採用しています。このアーキテクチャは、オフセットが非常に低く帯域幅の広い電圧エラーアンプおよび独自の内部フィード・フォワード補償回路と組み合わされています。高精度の電圧アンプは出力インピーダンスが小さいので、柔軟なタイプIII のループ補償を実装できます。内部フィード・フォワード補償回路は、デューティ・サイクルを瞬時に調整して入力電圧の変化に対応し、出力オーバーシュートまたはアンダーシュートを大幅に低減します。また、入力電圧に依存しない一定の変調器利得も得られるので、トランジェント応答の向上と合わせてより積極的なループ補償を実現できます。

両チャネルともリモート出力電圧検出機能を備えています。チャネル0には、グランド・オフセットに対応する負の検出入力があります。チャネル1の負のリモート検出入力は、パッケージのグランド・パドルです。制御ループが別になっているので、きわめて優れたPolyPhase 負荷シェアリング(DC/ダイナミック)が可能です。この高性能アーキテクチャは、優れた負荷トランジェント応答を実現できます。LTC3882電源の標準的な出力トランジェント応答を図2に示します。

図2.図1の回路の負荷ステップ応答

図2.図1の回路の負荷ステップ応答

立ち上がりエッジ変調によって出力負荷ステップに対する高速の単一サイクル応答が可能なので、最小デューティ・サイクルが制限されません。この方式ではPWM出力制御パルスを無視できるほど小さくすることが可能なので、最小オン時間は通常はコントローラではなく電力段の設計によって制限されます。このこととフィード・フォワード補償を組み合わせることにより、高降圧比での堅牢な動作が容易になります。LTC3882は3V~38Vの入力電源バス電圧で動作します。25:1 に近い降圧比でパルス飛び越しのない安定した動作が可能であり、スイッチング周波数がさらに高くなっても動作します。

小型ソリューションにする場合は、セラミック出力コンデンサだけを使用することにより、安定動作が可能です。また、LTC3882はプログラム可能なアクティブ電圧ポジショニング(AVP)機能を備えているので、ESRをさらに最適化して出力コンデンサのサイズを縮小することができます。AVP動作の代表的な例を図3に示します。

図3.AVPをイネーブルにした場合のトランジェント応答

図3.AVPをイネーブルにした場合のトランジェント応答

アプリケーションの要求によっては、最適な動作周波数を選択することにより、ピーク効率とソリューション・サイズのどちらかを優先させることができます。LTC3882 の250kHz~1.25MHzのプログラム可能なスイッチング周波数は、インダクタ・サイズおよび出力電流リップルの最適化をサポートします。LTC3882は、共有PWMクロックのマスタとして動作することや、外部クロック入力を受け付けて別のシステム・タイムベースへの同期に対応することもできます。インダクタの実装面積を非常に小さくしたい場合は、高周波数バージョンを供給可能です。詳細については、弊社にお問い合わせください。

図4に示すように、LTC3882は、ソフトスタート・パラメータのプログラミングまたはインダクタ電流の動作モード(連続または不連続)に関係なく、プリバイアス状態の出力を乱さずに起動できる能力を備えています。

図4.出力をプリバイアスした状態での連続導通モードの起動

図4.出力をプリバイアスした状態での連続導通モードの起動

低DCR検出による大電力対応

出力電流が比較的大きい場合は、変換効率を最大限に高めて熱の発生を制限し、導通損失に対する冷却コストを最小限に抑える必要があります。出力過負荷の検出やその他の機能に使用される電流検出素子には、一定の導通損失が発生します。降圧回路構成では、検出素子が全DC負荷電流に加えて付加的な電流リップルが継続的に流れるので、検出素子が効率の鍵となります。

LTC3882は、従来の検出抵抗回路構成だけでなく、わずか数十mVのフルスケール電圧を発生できる低DCR検出方式もサポートしています。内蔵の自動ゼロ調整済み利得アンプにより、高速で高精度の出力過電流状態のスーパーバイザ検出が維持されます。従来の固定ランプ電圧モードPWMアーキテクチャでは、デューティ・サイクルの大信号制御が可能であり、電流ベースの制御方式を使用した低DCR設計において生じる可能性があるノイズの懸念が解消されます。Fairchild 社製FDMF5820A DrMOSデバイスを使用して構築したLTC3882電源の標準的な効率および損失を図5に示します。

図5.DrMOS電力段としてFDMF5820Aを使用した場合の2チャネルの効率および損失

図5.DrMOS電力段としてFDMF5820Aを使用した場合の2チャネルの効率および損失

デジタル機能の拡張による出力精度の向上

LTC3882はオプションのデジタル出力サーボ機能を内蔵しています。この機能をイネーブルすると、チャネル電圧に対応する16ビットのA/Dコンバータ出力により、目的の平均出力値へのサーボ制御が行われます。この場合、コンバータの標準出力誤差はわずか±0.2%と優れており、全温度範囲でのワーストケースの誤差は±0.5%です。これらの許容差は600mV~5Vの出力電圧範囲で保証されます。

高精度の負荷電流シェアリング

PolyPhase 動作では、LTC3882は高精度の負荷平衡化を実現する個別の電流シェアリング・ループを特長としており、従来の電圧モード・コンバータより機能が向上しています。チャネルはピン配線によって制御マスタまたはスレーブと指定されます。マスタ・チャネルのIAVGピンは、その瞬間的な出力電流のアナログ電圧を示します。このラインには100pf~200pfのフィルタ・コンデンサが追加され、その後すべてのスレーブ位相に配線されます。スレーブは、この情報と、マスタからの主要なCOMP制御電圧を使用して、スレーブ自体の出力電流をマスタの出力電流と一致させます。スレーブ位相の標準的な電流検出オフセットの累積データを図6に示します。低DCR検出では、これが標準のDC電流になり、その値は全出力電力時に2%より優れた精度で一致します。この一致が高速負荷ステップを通じて動的に維持される様子を図7に示します。

図6.スレーブのISENSEの理想(マスタ)までの標準的なオフセット

図6.スレーブのISENSEの理想(マスタ)までの標準的なオフセット

図7.出力トランジェント時の動的な負荷平衡化

図7.出力トランジェント時の動的な負荷平衡化

電力段の幅広い選択肢

LTC3882の各PWMチャネルには、選択可能な5つのPWM制御プロトコルが用意されており、3.3V互換の制御入力を備えた電力段設計回路とのインタフェースをとることができます。ユーザーは設計要件に合わせて最適な種類の電力段(FETドライバ、DrMOSデバイス、またはパワー・ブロック)を選択できます。これらはチャネルごとに混在させることができるので、各レールの電力供給の必要性に応じて、電源サブシステムの分割、サイズ、およびコストを最適化することができます。

動作パラメータの高精度遠隔測定

LTC3882は、内蔵の16ビットA/Dコンバータを使用して重要な電源パラメータをモニタします。入力電圧、出力電圧、出力電流、デューティ・サイクル、および温度については、PMBusを介したデジタル読み出しが可能です。LTC3882は、これらのパラメータのピーク値を追跡し、維持して出力します。

LTC3882は、基本的な電源パラメータ遠隔測定の範囲を越えて、内部および外部の広範なステータス情報をPMBusを介してシステム・ホストに通知することができます。

プログラム可能な高速フォルト応答

フォルトを検出して通信するには、LTC3882間、ならびに他のリニアテクノロジーPSMファミリ・メンバー(LTC3880など)間の共有フォルト・バスを使用します。LTC3882はARA応答に準拠した標準のオープンドレインALERT出力を備えているので、 広範囲のフォルト状態をバス・ホストに通知できます。LTC3882は、重大なフォルトに対する低水準の高速ハードウェア応答を実装して、電力段と下流のシステム負荷を保護します。その後、PMBusコマンドを使用して、より高水準の応答を構成し、システムに対するフォルトをマスクして、どのフォルトを共有フォルト・バスに伝播するかを決定できます。これにより、ハードウェアの設計後や製造後であっても、システム・レベルでフォルト処理を動的に管理する柔軟性が得られます。

LTC3882は、フォルト直前のコンバータの動作状態を記録する広範囲なログ記録機能を内蔵しています。このログを有効にして内蔵のEEPROMに保存することにより、異常事象のシステム内診断やその後のリモート・デバッグに対するブラック・ボックス・レコーダ機能を実現できます。

デジタル・プログラミング性の有効活用

パワーシステム・マネージメント(PSM)コントローラの使用を検討する理由は数多く存在します。PMBusコマンドをLTC3882に出すことにより、出力電圧、余裕電圧、スイッチング周波数、出力オン/オフ・シーケンス、およびその他の動作パラメータを設定できます。LTC3882は、標準およびカスタムの両方で、合計100を超えるPMBusコマンドをサポートします。このプログラミング性の主な利点は、設計コストが減少して商品化までの時間が短くなることです。

基本ハードウェアのマクロ設計が完了すると、LTC3882コントローラ内部のデジタルでプログラム可能なパラメータを調整するだけで、多くのバリエーションを迅速に作成して、動作させ、必要に応じて検証できます。電源レールの完全同期再シーケンシング/リタイミングなど、調整は量産開始以降も継続できます。この種の柔軟性があることにより、外付け抵抗による重要な電源パラメータのオプションのプログラミングと組み合わせると、リスキーかつ高価なPCBの設計変更、締め切り直前での要件あるいはシステム用途の変更に対する手配線による修正を回避することができます。

最終的な構成は、カスタムの出荷時プログラミングなど、さまざまな手段によって内蔵のEEPROMに保存することができます。構成をいったん保存すると、コントローラはその状態まで自律的に起動するので、追加のプログラミングによってホストに負担がかかることはありません。ただし、最終のEEPROM構成が読み込まれた後であっても、オプションの外付けプログラミング抵抗を使用して、いくつかの重要な動作パラメータ(出力電圧、周波数、位相、バス・アドレス)を変更することができます。

設計が完了すると、LTC3882がサポートする同報方式では、デバイスとシステムが、制御要件とモニタ要件に応じて、レール、デバイス、または個々のチャネルのレベルで全体的または選択的に通信できます。PMBusは、エネルギー効率の良いアプリケーション負荷平衡化、ローカル位相制限、フォルト抑制/ 冗長性確保、または対話型の予防保全などの精巧な高水準のシステム動作を実現します。大型のシステムに対し、従来の電源部品でこれらの機能を構成することは、コストが非常にかかるか、場合によっては不可能ですらあります。

設計開発サポート

リニアテクノロジーは、LTC3882ベースの電源の設計、開発、およびデバッグを支援する数多くのフリー・ソフトウェア・ツールを用意しています。LTpowerCADは、部品の推奨値を示し、ターゲット・アプリケーションに固有の性能評価を行うことができます。このPCベースのツールは、PWM設計工程全体をユーザーに示し、開発労力を削減してサイクル・タイムを短縮します。このツールは、帰還ループ安定性のリアルタイム結果を表示します。また、設計回路をLTspice®にエクスポートして、追加の設計検証に対応できます。PCBレイアウトの例を示すこともできます。

LTpowerPlay は、広範なリニアテクノロジーPSM製品とその組み合わせをサポートする、GUIを備えたPCベースのツールです。LTC3882のPMBusコマンドと機能セットはリニアテクノロジーのPSMファミリの他のデバイスと一致しています。パワー・マネージメント設計の柔軟性とシステムレベルの最適化を確保するため、このコマンドはこれらのデバイスによらず同じ動作をします。LTpowerPlayは、完全な構成、内部EEPROMのプログラミング、フォルト・ログ機能、およびリアルタイムの遠隔測定データ/グラフ表示を備えた包括的なPMBus開発環境を提供します。これは、大型で複雑な電源サブシステムをすぐに立ち上げる必要がある電源設計者に特に役立ちます。このツールは、カスタム設計回路やDC1936Aなどの標準のデモ回路と通信できます。これらのツールやその他の設計参考資料は、www.analog.comで入手できます。

LTC3882と組み合わせて使用する実績のあるファームウェアの例については、特定のお客様限定で供給可能です。詳細については、弊社にお問い合わせください。

まとめ

LTC3882は、非常に高精度の出力電圧レギュレーションが可能な高性能PSM電圧モード降圧コントローラで、最大8相をサポートし、十分にバランスのとれた電流シェアリング機能を備えています。このデバイスは、ディスクリートのFETドライバ、DrMOSデバイス、またはパワー・ブロックと組み合わせて使用できます。内蔵の16ビットA/Dコンバータは、すべての重要な動作パラメータの正確な遠隔測定を実現します。その特長は、高度なフォルト管理、通知、共有、および保存です。内蔵のEEPROMを設定とオプションの外付け抵抗構成に使用することにより、LTC3882は独立して動作することも、管理された複雑なパワー・サブシステムではPMBusバス制御下で動作することもできます。アプリケーションは、大電流の分散電源システム、サーバー、ネットワーク記憶装置、インテリジェントな高効率電力レギュレーション、および産業用システム(ATEや通信機器など)があります。

著者について

James McKenzie

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