バッテリ残量ゲージIC「ModelGauge m5」で正確なSoC測定を実現

2023年09月28日
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はじめに

電子デバイスの利便性を高める上では、バッテリ残量を正確に把握して表示することが欠かせません。しかし、一般的なバッテリ残量ゲージではさまざまな要因で誤差が発生するため、設計に当たって困ったことのあるエンジニアも多いと思います。

本記事では、そんな問題を解決するアナログ・デバイセズの高精度バッテリ残量ゲージIC「ModelGauge m5」をご紹介します。

 

バッテリ残量ゲージICの必要性

そもそも、バッテリ残量ゲージはなぜ必要なのでしょうか。その理由は、主にユーザー側の利便性向上にあります。機器を使用する際にバッテリの残量が分からないと、ユーザーは常にバッテリの残量を気にしなければなりません。例えば、パソコンの作業中に突然シャットダウンされては困ります。バッテリ残量ゲージの精度は使い勝手に非常に大きな影響を与えるのです。

また、システム設計側にとっても高精度な残量測定により、電力の余力を見込んだ設計が最小限ですみます。バッテリをぎりぎりまで使用可能なので動作時間を延ばせるというメリットがあります。

 

主な残量ゲージの方式

バッテリ残量を測定する従来の方式として大きく2つあり、クーロン・カウンタ方式と電圧方式があります。

 

クーロン・カウンタ方式

図1.残量ゲージ方式(1)クーロン・カウンタ方式
図1.残量ゲージ方式(1)クーロン・カウンタ方式

クーロン・カウンタ方式は、最も初期に採用された残量ゲージ方式です。電源回路にセンス抵抗(電流検出抵抗)を取り付け、バッテリに流入した電流を積算し、バッテリから放出された電流量を求めることで、バッテリ内に残存する電荷量を把握することで残量を推定します。

クーロン・カウンタ方式は、高精度なセンス抵抗を取り付けておけば、短期的には簡単に高精度な残量測定が行えるというメリットがあります。一方で、内部のカレントセンスアンプのオフセットエラーも積算してしまうため、長期的には精度が低下してしまうという問題があります。

図2.クーロン・カウンタ方式のオフセットエラー
図2.クーロン・カウンタ方式のオフセットエラー

実際に誤差がどのように発生するか、上記の模式図を基に説明しましょう。薄紫色の真のSOCに対し、負荷電流が増加しているところではオフセットドリフトが生じ、実測値は濃い紫色のようにずれます。

1回のオフセットドリフトであれば大きな誤差要因にはなりませんが、満充電や充電残量ゼロにならないまま充放電を繰り返すと誤差が累積し、長期的には大きな誤差の要因となります。

そのため、クーロン・カウンタ方式で高精度を維持するためには、定期的にOCVを測定し、誤差をキャンセルするといった工夫が求められます。

 

電圧方式

図3.残量ゲージ方式(2)電圧方式
図3.残量ゲージ方式(2)電圧方式

電圧方式は、μCのADCなどでセルの出力電圧を測定し、バッテリ残量を推定する残量ゲージ方式です。電圧方式ではセル電圧を測定するだけでよく、センス抵抗も不要なので、非常に簡単に測定できるメリットがあります。

一方、リチウムイオンバッテリの場合は他のバッテリよりも平坦な放電曲線を示す分、端子電圧とバッテリ充電残量は必ずしも比例しないという問題があります。

図4.セル電圧だけでは正確な残量を測定することはできない
図4.セル電圧だけでは正確な残量を測定することはできない

上図は充放電におけるセル電圧(Vcell)と充電残量(SOC)を測定したグラフですが、同じセル電圧(3.8V)でも充電残量が異なることが分かります。また、経年劣化や動作温度など、さまざまな条件によってセル電圧が変化するため、高精度に充電残量を測定するのは難しいと言えます。

そのため、電圧方式では時間、OCV、負荷、温度、経年変化などを考慮した複雑なテーブルを用意することで、充電残量の精度を担保する必要があります。システム設計者にとってはテーブル作成に多くの時間を費やし、バッテリが変更される度に再作成する必要があるため、大きな負担となります。

 

アナログ・デバイセズの残量ゲージ方式

このように、基本的なバッテリ残量ゲージは高い精度を得ることが難しいのですが、アナログ・デバイセズでは独自のアルゴリズムを開発することで、これらの課題を解決しています。ここからはアナログ・デバイセズが独自に開発した「ModelGauge方式」とそれを応用した「ModelGauge m5」「ModelGauge m5 EZ」という3つを紹介します。

 

ModelGauge方式

「ModelGauge」は、OCVを基に充電残量を予測する「OCV方式」を採用した残量ゲージ方式です。

図5.残量ゲージ方式(3) ModelGauge式
図5.残量ゲージ方式(3) ModelGauge式

上図のように、OCVはセル電圧と違って、充電残量に比例して変化するため、OCVが分かれば、充電残量を一意に決定できます。ただ、動作中は常に負荷に接続されているため、一般的にはOCVを直接測定することはできません。アナログ・デバイセズの独自ModelGaugeアルゴリズム(特許取得済み)では、セル電圧からOCVを推定できます。

この方式では、クーロンカウント方式のようなオフセットドリフトが起きないため、長期的に高精度に残量を推定できます。また、次に紹介するModelGauge m5と比べると精度などは劣るものの、センス抵抗は不要で回路がシンプル、かつICも小さいというメリットもあり、数多くの採用実績があります。

 

ModelGauge m5方式

「ModelGauge m5」は、クーロン・カウンタ方式とModel Gauge方式を組み合わせ、より高精度な測定を実現した方式です。下図で示すように、クーロン・カウンタ方式は短期的には高精度を実現できますが、長期的にはオフセットエラーで精度が悪化します。一方、ModelGaugeは短期的な精度こそクーロン・カウンタ方式に劣るものの、長期的にはエラーが収束する方向に向かいます。

図6. ModelGauge m5 はOCVアルゴリズムを使ってクーロン・カウンタのオフセットエラーを周期的にキャンセルすることでトータルの精度向上を実現
図6. ModelGauge m5 はOCVアルゴリズムを使ってクーロン・カウンタのオフセットエラーを周期的にキャンセルすることでトータルの精度向上を実現

そこで、ModelGauge m5は短期的にはクーロン・カウンタ方式のデータを利用しつつ、積算されていくオフセットエラーをOCVのデータによりその都度補正することで、高精度を実現しています。

この方式は、クーロン・カウンタ用のセンス抵抗が必要になるため、ModelGauge方式より実装面積は少し大きくなりますが、より高精度な測定を行いたい場合に有効です。下図は、競合製品とModelGauge m5の測定精度をさまざまな環境下で比較した結果です。各種放電パターンにおける競合製品の誤差が7.8%に対して、ModelGauge m5の誤差が2.8%と高精度にバッテリ残量を測定していることが分かります。

図7. ModelGauge m5は業界最高の残量ゲージ精度
図7. ModelGauge m5は業界最高の残量ゲージ精度

なお、ModelGauge m5は低自己消費電流でパッケージサイズが小さいメリットもあります。また、ディスクリート部品の集積化も実現しており、周辺回路の設計も最低限で済むため、実装面積の低減にも貢献します。

 

ModelGauge m5 EZ方式

ModelGauge m5では、OCV方式とクーロン・カウンタを合わせることで高精度を実現しました。しかし、一般的にリチウムイオンバッテリは化学的性質が多様で電気的特性のばらつきが大きいため、高い精度を得るためにはバッテリの特性評価が必須となります。

特性評価やデータ分析は2~3週間かかるため、開発スケジュールに余裕がないプロジェクトではこれらに時間を割けないことも多く、採用における大きな課題となっていました。

そこで、アナログ・デバイセズでは、2000件以上の評価事例で得たノウハウによって、特性評価が不要な「ModelGauge m5 EZ」方式を開発しました。ModelGauge m5 EZなら、バッテリの特性評価なしですぐにデバイスに搭載しても高い精度を実現します。

図8. バッテリ特性評価不要のModelGauge m5 EZアルゴリズム
図8. バッテリ特性評価不要のModelGauge m5 EZアルゴリズム

図8では、300個以上のバッテリで確認した結果を示しています。充放電を一回行うことで、97%のバッテリに対し、誤差3%以下の精度で充電残量を推定できていることが分かります。さらに、特性評価を行えば残量ゲージの誤差を1%以下にまで抑制できることも確認しており、より高い精度が必要になった場合にも対応できます。

 

ModelGauge m5が持つ便利な機能

ModelGauge m5は、全体として高精度な充電残量の測定が可能なだけでなく、誤差が顕在化しやすいシーンでも適切に残量を表示する、便利な機能も有しています。ここでは、そうした機能を3つ紹介します。

 

負荷の増減による突然の残量増減を抑制

クーロン・カウンタ方式は負荷電流によってバッテリ残量を推定するため、バッテリ負荷が増減すると、それに合わせてバッテリの推定残量が突然変動することがあります。モーター始動時に残量が突然減少する、バッテリを休ませると充電していないのに残量が突然増加するといった現象が発生するため、ユーザーにとっては使い勝手が悪くなります。

図9. 不愉快な残量増減を除去
図9. 不愉快な残量増減を除去

ModelGauge m5 は主に 3 つの値を使い残量増減のフィルタリングを行う。

RemCapMix:クーロン・カウンタ+ OCV 方式で測定した残量

RemCapAv:電池から引き出せない電荷量を RemCapMix から引いた結果。つまり今の条件で使える残量。

RemCapRep:ユーザーに表示する残量。直観に反する残量のジャンプを除去するが、今の負荷でのエンプティポイントは一致。

そこで、ModelGauge m5では、上図のようなフィルタリングを行うことで、負荷の変動による残量増減を表示上、マスクします。この機能により、エンドユーザーに違和感を持たせません。

 

エンプティ電圧近傍での残量と電圧のずれを抑制

2つ目の機能は、バッテリ電圧がエンプティ電圧になった場合は、充電残量がちょうど0%になるようにしていることです。ModelGauge m5の誤差は小さいものの、エンプティ電圧近傍のクリティカルな領域においては、その誤差が原因でエンプティ電圧と充電残量0%がずれてしまうことがあります。

図10. バッテリのエンプティ電圧と同時にSOCも0%に収束し製品の動作時間を最適化
図10. バッテリのエンプティ電圧と同時にSOCも0%に収束し製品の動作時間を最適化

そこで、ModelGauge m5では、エンプティ電圧に近づくと充電残量を適切に調整し、エンプティ電圧に達すると同時に充電残量が0%になるような調整をします。必要なところで誤差を補正することにより、確実にエンプティ電圧と残量0%を一致させることができ、違和感のある表示にならないよう工夫しています。

 

満充電で確実な残量100%を実現

最後に紹介するのは、満充電時に残量表示が100%になるようにする機能です。満充電は、充電電流とOCV電圧をモニターすることで検出しています。しかし、充電量の測定誤差は必ず発生するため、満充電時に残量表示が100%を超えてしまうことがあります。

そこで、ModelGauge m5では、平均電流と実電流を同時に測定し、両方が満充電の条件を満たしたときに初めて満充電と検出します。また、満充電を検出するまでは充電残量99%を維持し、満充電検出後100%にするようにアルゴリズムを設計することで、見た目の違和感をなくしています。

 

ModelGauge m5製品紹介

それでは、ModelGauge m5方式を搭載した主な製品の仕様と特長を紹介します。全てModelGauge m5 EZアルゴリズムを搭載しており、バッテリ評価不要で使える製品です。

 

MAX17260

図11. 5.1µA 1セル残量ゲージ、ModelGauge m5 EZ、ハイ/ローサイド電流検出内蔵 MAX17260
図11. 5.1µA 1セル残量ゲージ、ModelGauge m5 EZ、ハイ/ローサイド電流検出内蔵 MAX17260

まず紹介するのは、ハイ/ローサイド電流検出内蔵型の残量ゲージ「MAX17260」です。通常、クーロン・カウンタ方式を利用する場合はローサイド側にセンス抵抗を入れる必要がありますが、回路構成上ローサイド側に抵抗を入れるのが難しい場合もあります。

MAX17260であれば、電流検出用の抵抗をハイサイド、ローサイドどちらにも使用可能なので、このような課題を解決できます。また、15μA (アクティブ)、5.1μA(低電力モード)という低自己消費電流です。

 

MAX17262

図12. 電流検出抵抗を内蔵した最小BOM/実装面積の残量ゲージ MAX17262
図12. 電流検出抵抗を内蔵した最小BOM/実装面積の残量ゲージ MAX17262

続いて、センス抵抗内蔵型の残量ゲージ「MAX17262」を紹介します。センス抵抗を内蔵しているため、実装面積を大幅に削減できるメリットがあります。IC自体も1.5mm×1.5mmで、0.4mmピッチの9ピンWLPパッケージと小型です。さらに電流検出機能も内蔵しており、最大3.1Aのパルス電流まで検出できます。

 

MAX17261

図13. 5.1µAマルチセル残量ゲージ、ModelGauge m5 EZ内蔵 MAX17261
図13. 5.1µAマルチセル残量ゲージ、ModelGauge m5 EZ内蔵 MAX17261

次に、マルチセル対応型の残量ゲージ「MAX17261」です。その名の通り、外付けのレジスタを設置することで複数のバッテリを同時にモニタリングできます。他の製品と同様15μA (アクティブ)、5.1μA(低電力モード)の低自己消費電流を実現しており、複数バッテリを使用したときの消費電流を大幅に抑制することが可能です。

MAX1730x/MAX1731x ファミリー

図14. 1セルModelGauge m5 EZ残量ゲージ、プロテクタおよびSHA256認証内蔵 MAX1730x/MAX1731x
図14. 1セルModelGauge m5 EZ残量ゲージ、プロテクタおよびSHA256認証内蔵 MAX1730x/MAX1731x

最後に紹介するのが、保護回路内蔵型の残量ゲージ「MAX1730x/MAX1731x」です。これらの製品群は保護回路のコントローラーを内蔵しており、外付けFETにより過充電、過放電、短絡電流などからバッテリを保護できます。

また、SHA-256によるバッテリ認証機能を内蔵しており、さまざまなプロテクションをIC単体で実現しているため非常に汎用性が高い製品です。さらに、FETイネーブル時において24µA(アクティブ時)、18µA(ハイバネート時)と自己消費電流を低く抑えているのも特長です。

 

まとめ

表1. ModelGauge とModelGauge m5 の特長
表1. ModelGauge とModelGauge m5 の特長

この記事ではバッテリ残量を高精度に測定する残量ゲージ「ModelGauge m5」を紹介しました。ModelGauge m5はクーロン・カウンタ方式、ModelGaugeアルゴリズムを組み合わせたアナログ・デバイセズ独自の残量ゲージです。業界最高精度のSOC測定精度を誇ります。

また通常、高精度を求める場合はバッテリの特性評価が必要となりますが、特性評価なしでも高い精度を実現する「ModelGauge m5 EZ」方式も取りそろえています。要望に沿った最適なプロダクトを選択できるので、バッテリ残量表示の設計において有力な選択肢になるのではないでしょうか。

著者について

長谷川 諒汰
デジタルインフラストラクチャグループ
アプリケーションエンジニア

最新メディア 20

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