高精度(±1℃)の温度センサによるシステム性能と信頼性の向上

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高性能、高密度実装のシステムが増えてくるにつれて、熱の問題をどのように処理するかがこれまでになく重要になってきました。多くのシステムでは、冷却システムの能力が全体の性能の向上を大きく制約するようになってきています。通常の冷却用部品、たとえば場所を取るヒートシンク、電力を消費し、騒音を発生する(あるいは静かだが高価な)ファンによって、高密度実装システムのサイズ削減が思うように進められないことが多くなっています。システムの性能を最大限に上げ、必要以上の冷却を避けつつも電子機器の安全性を確保するための最善の方法は、システム全体を通じた正確な温度監視を行うことです。

このことを念頭に置いて、リニアテクノロジーは、システム全体に容易に展開できる高精度温度モニタ・ファミリを開発しました。このファミリのラインナップは以下のとおりです。

  • LTC2997は、デバイス自体の温度または外付けダイオードの温度を正確に測定します。
  • LTC2996は、測定した温度を上限、下限のしきい値と比べ、オープンドレインのアラート出力を介して異常の発生を伝える機能を追加しています。
  • LTC2995は、LTC2996と2つの電源電圧モニタを組み合わせることにより、温度の測定、しきい値と温度の比較、さらに2つの電源電圧の監視が可能です。

LTC2997:小型の高精度温度センサ

2mm×3mmの6ピンDFNパッケージに収められたLTC2997は、図1に示すようにFPGAまたはマイクロプロセッサの温度測定に最適です。

図1.リモートCPU温度センサ

図1.リモートCPU温度センサ

温度測定のために、LTC2997はFPGAまたはマイクロプロセッサの温度監視用ダイオードに測定用の電流を流し、ダイオードの温度に応じた電圧をVPTAT 端子に出力します。LTC2997はVREF 端子から1.8Vの基準電圧も出力します。これは、FPGAまたはマイクロプロセッサに内蔵されたA/Dコンバータの基準電圧として使用できます。外部の温度監視用ダイオードを用いた場合の測定誤差は、0°C~100°Cおよび40°C~125°Cという広い温度範囲で、それぞれ±1°Cおよび±1.5°C以下であることが保証されています。標準的な温度測定誤差は、図2に示すように良好です。

図2.温度誤差と温度(リモート・ダイオードと同じ温度のLTC2997)

図2.温度誤差と温度(リモート・ダイオードと同じ温度のLTC2997)

また、D+ピンをVCCピンに接続すれば、LTC2997に内蔵したダイオードを温度センサとして使用することができます。VPTATの電圧には4mV/Kの勾配があり、3.5msごとに更新されます。

動作原理

LTC2997は、複数のテスト用電流を流してダイオードの電圧を測定し、それらの結果からプロセス依存の誤差や直列抵抗による誤差を取り除くことにより、見事な高精度を実現します。

ダイオードに関する等式は、Tについて次のように解けます。ここで、Tはケルビン温度、ISは10–13A程度のプロセス依存係数、ηはダイオードの理想係数、kはボルツマン定数、qは電子の電荷です。

数式 1

この等式では、温度と電圧の間に相関があり、プロセス依存変数ISに依存します。ISの値が同じダイオードを2つの異なる電流で測定して解くことにより、ISに依存しない式が得られます。自然対数の項の値は2つの電流の比率となり、プロセスには依存しません。

数式 2

外部のダイオードと直列に入る抵抗成分は、各テスト電流での測定電圧を増やす方向に働くので測定誤差の要因になります。合成された電圧は次のとおりです。

数式 3

ここで、RSは直列抵抗成分です。

LTC2997 は、キャンセル電圧を差し引くことにより、センサ信号からこの誤差項を除去します(図3a を参照)。抵抗抽出回路は、1つの追加測定電流(I3)を使用して測定経路の直列抵抗を求めます。抵抗値が正しく決まると、VCANCELはVERRORに等しくなります。これで、温度/ 電圧コンバータの入力信号には抵抗成分による誤差がなくなりますので、電流I1 およびI2を用いてセンサ温度を求めることができます。

図3.直列抵抗のキャンセル

図3.直列抵抗のキャンセル

図3bに示すように、最大1kΩの直列抵抗によって通常発生する温度誤差は1°C未満です。このためLTC2997は、温度管理システムから数m離れたダイオード・センサの値を読み取るデバイスとして最適です。実際には、最大距離は配線抵抗よりも配線容量によって制限されます。

容量が1nFより大きくなると、検出電流を変えた際のセンサ電圧のセトリングに時間がかかり、温度測定誤差が生じます。たとえば、長さ10mのCAT 6ケーブルの容量は約500pFです。

多くのリモート・ダイオード・センサとは異なり、LTC2997は更新時間が3.5msと短く、測定間隔の間の温度変動にも対応できる堅牢な温度測定アルゴリズムを備えているので、急速に変化する温度にも正確に追従します。LTC2997デバイス全体を氷水につけた直後に沸騰水につけた際のLTC2997の内部センサのステップ応答を図4に示します。

図4.LTC2997の内部センサの熱ステップ応答

図4.LTC2997の内部センサの熱ステップ応答

温度制御ループに応用した場合、LTC2997にはデジタルの相当品より多くの利点があります。応答速度が速いアナログ出力により、デジタル・システムで要求される複雑さの多くを取り除くことができます。たとえば、75°Cに安定化するヒーターに組み込まれたLTC2997を図5に示します。この用途では、基準電圧出力と分圧抵抗を用いて1.392V (= [75 + 273.15]K • 4mV/K)の目標電圧を生成しています。

図5.75℃のアナログPWMヒーター・コントローラ

図5.75°CのアナログPWMヒーター・コントローラ

初段のマイクロパワー・レール・トゥ・レール・アンプ(LTC6079)は、LTC2997のVPTAT出力と目標電圧の差を積分します。積分誤差信号はPWM発振器によってパルス幅変調信号に変換され、この信号がPMOSのスイッチを駆動して、加熱用抵抗に流れる電流を制御します。

LTC2997は、摂氏温度計(図6)、華氏温度計(図7)冷接点補償付きの熱電対温度計(図8)を始め、正確で高速な温度測定が要求される、あらゆるアプリケーションで使用することができます。

図6.摂氏温度計

図6.摂氏温度計

図7.華氏温度計

図7.華氏温度計

図8.冷接点補償付きの熱電対温度計

図8.冷接点補償付きの熱電対温度計

LTC2996温度モニタ

LTC2996ではLTC2997にしきい値入力VTHおよびVTLが追加されており、高温異常(OT)または低温異常(UT)を検出するために、しきい値とVPTATとを常に比較します。図9に示すように、しきい値の電圧は内蔵の基準電圧に分圧抵抗を接続することにより簡単に設定できます。

図9.温度超過しきい値と温度低下しきい値を備えたリモート温度モニタ

図9.温度超過しきい値と温度低下しきい値を備えたリモート温度モニタ

図9のリモート・ダイオードの温度が70°Cより高くなると、VPTATピンの電圧はVTHピンの高温しきい値を超えます。LTC2996 はこの温度超過状態を検出し、OTピンを“L” にすることにより、温度制御システムにアラートを通知します。同様に、温度が-20°Cより低くなると、UTピンを介して通知します。LTC2996は、温度が対応するしきい値を超える状況が、3.5msごとの更新間隔換算で連続5回に達すると、オープンドレインのアラート出力をプルダウンします。OTピンおよびUTピンには、VCCピンとの間に弱い400kの内部プルアップ抵抗が内蔵されてるので、多くのアプリケーションでは外付け抵抗は不要です。

図10に示すように、LTC2996を使用して、電池など異常な温度に弱いデバイスを、決められた範囲内の温度に維持するヒステリシス制御を実現できます。

図10.バンバン・コントローラによる0℃~100℃の温度の維持

図10.バンバン・コントローラによる0°C~100°Cの温度の維持

このアプリケーションでは、低温側しきい値が100°Cに設定されているのに対して、高温側しきい値は0°Cに設定されています。この設定は一見すると上下逆のようですが、しきい値を超えるとOTおよびUTがプルダウンされることを積極的に利用したものです。この設定では、温度が決められた範囲内に収まっている間は、UTとOTの両方がNMOSのゲートをプルダウンすることにより、加熱用抵抗および冷却ファンはオフになります。温度が100°Cを超えると、低温側のオープンドレイン出力UTが内部プルアップによりNMOSのゲートを駆動し、ファンがオンになります。同様に、温度が0°Cより下がるとヒーターがオンになります。

バッテリ関連では、LTC2996はいくつかの異なる電池で構成された大型バッテリの温度を監視する目的にも使用できます。損傷した電池、短絡した電池、または使い古した電池は発熱する場合があり、最悪の場合は発火することがあります。LTC2996は、図11に示すように、追加の配線を最小限に抑えながら各電池の温度を個別に監視します。

図11.バッテリ・スタック内の電池の温度の監視

図11.バッテリ・スタック内の電池の温度の監視

実際、電池を積み重ねて直列に接続した場合、いずれかの電池の温度が目的の動作範囲から外れたかどうかをモニタするのに必要な追加の配線はわずか3本(VCC、GND、およびアラート出力)に過ぎません。電池を並列に接続し、端子電圧が2.25V~5.5Vのバッテリ、たとえばリチウムイオン電池をモニタする場合は、各電池の温度を監視するのに配線を1 本(アラート出力)追加すれば十分です。

温度モニタとデュアル電圧モニタ/スーパーバイザを兼ね備えたLTC2995

ほぼすべての電子システムでは、温度モニタに加えて複数の電源の電圧監視が要求されます。この要求を満たすため、LTC2995はLTC2996とデュアル電圧スーパーバイザを組み合わせて、図12に示すように2本の電源ラインの過電圧状態および低電圧状態をモニタします。

図12.±10%のデュアルOV/UV電源と75℃ /125℃のOT/OTリモート温度モニタ

図12.±10%のデュアルOV/UV電源と75°C /125°CのOT/OTリモート温度モニタ

LTC2995 にはチャネルごとに2つの高電圧入力および低電圧入力が増設されており、これらは500mVの内部リファレンスと常に比較されます。VH1またはVH2 のいずれかの電圧が500mVより低くなると、LTC2995はUV出力ピンを“L” にすることにより、低電圧状態を警告します。同様に、VL1またはVL2のいずれかの電圧が500mVより高くなると、OVピンを“L”にすることによって過電圧状態を示します。

モニタしている電源電圧のノイズによる不必要なリセットを防止するため、LTC2995 のローパス・フィルタは、UVまたはOVをアサートする前にコンパレータの出力を時間積分しています。コンパレータが出力ロジックを作動させるためには、コンパレータに入力されるトランジェントが十分に大きく、ある程度の時間継続する必要があります。さらに、LTC2995には、すべてのフォルトが解消された後、UVおよびOVのアサート状態を保持するための調整可能なタイムアウト期間(tUOTO)があります。この遅延により、周波数が1/tUOTOを超えるノイズの影響が最小限に抑えられます。さまざまなアプリケーションに対応するためにTMRピンとグランドの間にコンデンサ(CTMR)を接続することによってタイムアウト期間(tUOTO)の調整が可能です。

LTC2995は、LTC2997やLTC2996よりも柔軟性の高い温度測定機能およびモニタ機能を備えています。後者のデバイスは、外付けダイオードが接続されると必ず外部モードに切り替わるので、D+をVCCに接続して内部ダイオードを測定する必要がありますが、LTC2995 にはダイオード選択(DS)ピンが追加されているので、動作中に内部ダイオードと外付けダイオードを切り替えることができます。DSピンをフロートのままにすると、LTC2995は「ピンポン」モードになり、内部ダイオードと外付けダイオードの測定を約20ms の周期で交互に行うようになります。

最後に、LTC2995は極性選択(PS)ピンを使用して、2つの温度しきい値を両方とも超過温度の制限値または両方とも低下温度の制限値に設定できます。この機能により、システムは温度の変化のレベルに合わせて対応することができます。たとえば図12に示すように、温度が75°Cより高くなったら(たとえばファンをオンに切り替えるために)注意の信号を受け取り、125°Cより高くなったら(システムをオフに切り替えるために)アラートを受け取るようにすることなどが考えられます。

まとめ

リニアテクノロジーの高精度温度センサ/モニタの新ファミリは、内部ダイオードまたは外付けダイオードをセンサとして使用して、測定した温度に比例するアナログ出力を発生することができます。このファミリは、小型の温度センサから、範囲外の状態を通知できる複合型の温度およびデュアル電圧スーパーバイザに及んでいます。これらのデバイスを用いることにより、複雑さを最小限に抑えつつ、アナログ温度制御ループの構築や、温度(および電圧)のモニタを簡単に行うことができます。

著者について

Gerd Trampitsch
Christoph Schwoerer
Christoph Schwoerer holds diplomas in Electrical Engineering from the University Karlsruhe (Germany) and the INP Grenoble (France) and obtained a Ph.D. degree from the INPG in 2000 for his work on Delta-Sigma ADCs. From 2...

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