バックアップ電源により、給電の途絶を回避する
今日では、あらゆるものがネットワークに接続された状態で維持されています。多くの電子システムは、その外部環境や動作条件にかかわらず、常に稼働していることが当たり前であるかのように捉えられています。これに対応するには、一瞬、数秒間、あるいは数分間にわたり、電源に異常が生じたケースを考慮してシステム設計を行わなければなりません。このような要件を満たすための最も一般的な方法は、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)によってダウンタイムに対処することです。そうすれば、システムの信頼性と連続した動作を確保することができます。例えば、今日では多くの非常用スタンバイ・システムが、ビル内のシステム向けのバックアップ電源として使用されています。それにより、何らかの原因で停電が発生した場合でも、安全システムや重要な装置の動作を維持できるということが保証されています。
私たちの日常生活では、携帯型の電子機器が至るところで使われています。そうした機器にも、上述したような仕組みが盛り込まれています。生活に欠かせないものであることから、軽量な電源によって、正常な条件下であれば正常な動作を維持できるよう慎重に設計されているのです。しかし、どれだけ慎重に設計したとしても、人間によるすべての操作に対して、正常な動作を保証するのは不可能です。例えば、工場の作業員が手に持ったポータブル・スキャナを落とし、バッテリが外れてしまったとします。このような状況は十分に起こり得ることです。ただ、そのような事態を電子的に予測するのは不可能であり、何らかの対策を講じておかなければ、揮発性メモリに格納されていた重要なデータが失われてしまいます。つまり、スタンバイ電力を供給できるだけのエネルギーを蓄積しておき、バッテリを交換するまで、あるいはデータを永続メモリに保存するまでの短い時間だけ電源を維持することを可能にする、何らかのシステムが必要になります。
この例は、主電源が一時的に遮断された場合に備えて、電子システムには代替電源を用意しておかなければならないということをはっきりと示しています。
例えば、車載電子システムの中には、駐車時(エンジンの停止時)にも連続的に電力を供給し続けなければならないものがいくつかあります。リモート・キーレス・エントリ・システム、セキュリティ・システム、インフォテインメント・システムなどです。また、多くの車両は、GPSによる位置検索やナビゲーション、緊急通報などの機能も搭載しています。これらの機能を実現するシステムは、車両が動いていないときも起動していなければなりません。GPS機能は、セキュリティの確保や緊急時の対応に備えて、常に動作している必要があります。これは、必要に応じて車外にいるオペレータが、基本的な制御機能を起動できるようにするための必須の要件です。
ここで、eCallシステムについて考えてみましょう。これは、欧州が発祥の緊急通報システムです(米国の主な緊急通報システムの例としてはGeneral MotorsのOnStar®が挙げられます)。eCallシステムは、新車を対象として各国で普及が進んでいます。既に、多くの自動車メーカーが、様々な自社製品に同システムを搭載しています。欧州では、2018年3月31日以降に新たに発売されるすべての乗用車および軽トラックに、eCallシステムを搭載することが義務付けられています。eCallシステムの機能は至ってシンプルです。衝突が起きて車両のエアバッグが開いたら、救急サービスに対して自動的に通報するというものです。GPSを利用して、時刻、現在地、車種、使用燃料を当局に通知します。システムが起動している間は、車内に取り付けられたマイクを介して、電話オペレータと直接会話を行うことができます。eCallシステムでは、事故が発生した際の走行方向の情報も通知可能なので、当局は、高速道路のどちら側を通って衝突現場に向かえばよいのか把握できます。救急隊員、警察官、消防隊員は、最大限の情報に基づいて、できる限り迅速に事故現場に到着します。eCallシステムによる通報はボタンを押すことでも実行可能なので、病人が出た場合(または衝突時にエアバッグが開かずに怪我をした場合)でも、簡単に救助を求めることができます。
ストレージ・メディア
上述したように、バックアップ電源を必要とするシステムはたくさんあります。では、バックアップ電源用のストレージ・メディアとしては、どのような選択肢があるのでしょうか。これについては、従来からコンデンサまたはバッテリが使われています。
コンデンサは数十年にわたり、送電と給電において重要な役割を担ってきました。例えば、従来の薄膜コンデンサやオイル・コンデンサは、力率補正や電圧バランス制御など、様々な機能に使われてきました。加えて、ここ10年の間に研究開発が大きく進み、コンデンサの設計と能力には著しい進化がもたらされました。そうした高度なコンデンサは、スーパーキャパシタと呼ばれています(ウルトラキャパシタとも呼ばれます)。これは、バッテリからのエネルギーを貯蔵する用途に非常に適しています。つまり、バックアップ電源を構築したい場合にも、有力な選択肢になります。スーパーキャパシタには、貯蔵可能な総エネルギー量という面では制約があります。ただ、高いエネルギー密度を備えるという大きな特徴があります。また、高レベルのエネルギーを素早く放電し、急速に再充電することが可能です。
スーパーキャパシタはコンパクトであるだけでなく、高い堅牢性と信頼性を備えています。その面で、短期的に電力を失った場合に利用するバックアップ電源システムの要件に合致します。また、並列に接続したり、直列に接続して積層したり、それらを組み合わせたりすることも可能です。そのようにすれば、アプリケーションにおける需要に応じて、必要な電圧と電流を供給することができます。スーパーキャパシタは、他のコンデンサと比べて容量が非常に大きいという特徴を持ちます。ただ、その長所はそれだけではありません。同程度のフォーム・ファクタと重量という条件下で、標準的なセラミック・コンデンサや、タンタル・コンデンサ、電解コンデンサと比べると、スーパーキャパシタはより高いエネルギー密度と容量を提供できます。データ・ストレージのアプリケーションの中には、短時間だけ多くの電流を流せるバックアップ電源を必要とするものがあります。そうしたケースにおいて、特別な配慮が必要にはなるものの、バッテリを増補したり、バッテリの代わりに使用したりすることも可能です。
更に、スーパーキャパシタは、UPSシステムに代表されるような、大電流のバースト出力や一時的なバッテリ・バックアップに対応可能なシステムを必要とする、ピーク電力の大きい多様なポータブル・アプリケーションでも使用できます。スーパーキャパシタは、バッテリよりも小さなフォーム・ファクタで大きなピーク電力をバースト出力することができます。また、充電については、広い動作温度範囲に対応しつつ、長いサイクル寿命を達成することが可能です。スーパーキャパシタの寿命は、コンデンサのトップオフ電圧を引き下げ、高温(50°C以上)を避けることで、最大限に引き延ばせます。
一方のバッテリは、大量のエネルギーを貯蔵できることを特徴とします。ただ、電力密度と供給電力の面で制約があります。また、バッテリ内で生じる化学反応が原因で、寿命にも限りがあります。このような性質を持つことから、ある程度の量の電力を長時間にわたって供給したいケースに最も適しています。大量の電流を急速に引き出すと、動作寿命が急激に短くなるからです。表1に、スーパーキャパシタ、コンデンサ、バッテリの長所と短所をまとめました。
表1. アナログ・デバイセズのシリコン・スイッチ製品パラメータ | スーパーキャパシタ | コンデンサ | バッテリ |
エネルギーの貯蔵量 | Wsecのレベル | Wsecのレベル | Whのレベル |
充電方法 | 端子間に電圧を印加(バッテリなどを使う) | 端子間に電圧を印加(バッテリなどを使う) | 電流と電圧 |
電力の供給 | 急速に放電。電圧は線形的/指数的に低下 | 急速に放電。電圧は線形的/指数的に低下 | 長時間にわたり一定の電圧を供給 |
充電/放電時間 | ミリ秒~秒のレベル | ピコ秒~ミリ秒のレベル | 1時間~10時間 |
フォーム・ファクタ | 小 | 小~大 | 大 |
重量 | 1g~2g | 1g~10kg | 1g~10kg以上 |
エネルギー密度〔Wh/kg〕 | 1~5 | 0.01~0.05 | 8~600 |
電力密度〔W/kg〕 | 高い(4000以上) | 高い(5000以上) | 低い(100~3000) |
動作電圧 | 2.3V~2.75V/セル | 6V~800V | 1.2V~4.2V/セル |
寿命 | 10万サイクル以上 | 10万サイクル以上 | 150~1500サイクル |
動作温度〔°C〕 | -40~85 | -20~100 | -20~65 |
新たなバックアップ電源管理向けソリューション
上述したように、スーパーキャパシタ、バッテリ、またはそれらの組み合わせたものは、あらゆる電子システムのバックアップ電源に利用できます。では、それらのストレージ・メディアを実際に使用するためのソリューションとしては、どのようなものが存在するのでしょうか。以下では、ICをベースとするソリューションについて説明します。
まず、リチウムイオン・バッテリ用の完全なバックアップ電源管理システムを実現したい場合、ICをベースとするソリューションは、主電源の故障時に必ず3.5V~5Vの電源レールを維持できるものでなければなりません。バッテリを使えば、スーパーキャパシタよりもはるかに大量のエネルギーを供給できます。そのため、長時間にわたってバックアップを必要とするアプリケーションに対しては、バッテリの方が適しています。そのためのソリューションで中核をなすICは、バックアップに使用するバッテリを効率的に充電するために、双方向/同期整流方式のDC/DCコンバータを搭載している必要があります。また主電源が一時的に途切れた場合に、下流にある負荷に対して、大電流のバックアップ電力を供給する能力も必要です。主電源(入力電源)を利用できる状況では、ICは、システムの負荷への給電を優先しつつ、シングルセルのリチウムイオン・バッテリまたはリン酸鉄リチウム(LiFePO4)イオン・バッテリ用の降圧型バッテリ・チャージャとして動作します。ただし、入力電源の電圧がパワーフェイル入力(PFI)の閾値(調整可能)未満まで急に低下した場合には、ICは昇圧レギュレータとして動作し、バックアップ用のバッテリからシステムに数Aの電流が供給されるように機能する必要があります。また、主電源に障害が発生した場合には、電力の経路を制御して逆流を防ぎ、主電源とバックアップ電源の間をシームレスに切り替える必要があります。このようなICが適した標準的なアプリケーションとしては、フリートやアセットの追跡、車載GPS用のデータ・ロガー、車載テレマティクス・システム、自動料金収受システム、セキュリティ・システム、通信システム、工業用バックアップ・システム、USBで給電/充電できる機器などが挙げられます。図1は、このような用途向けの標準的なアプリケーション回路例です。この回路では、リチウムイオン・バッテリに対応するバックアップ・マネージャIC「LTC4040」を使用しています。これは、アナログ・デバイセズのPower by Linear™製品です。

図1. LTC4040によって構成したバックアップ電源回路。PFIの閾値は、ユーザが設定することができます。
LTC4040は、外付けのFETを使って、60Vを超える入力電圧から自身を保護するための過電圧保護(OVP)機能に対応します(オプション)。また、入力電流の制限機能(調整が可能)も備えており、バッテリの充電よりもシステムの負荷への給電を優先しながら、電流の供給量に制約がある主電源に対応して動作することができます。バックアップ動作が働く際には、外付けの遮断用スイッチによって、システムから主電源を切り離します。LTC4040を使用し、2.5Aに対応するバッテリ・チャージャを構成する場合、リチウムイオン・バッテリやLiFePO4イオン・バッテリ向けに最適化された8種類の充電電圧の中から、必要なものを選択可能です。その他にも、入力電流の監視機能、入力電源の喪失を通知するインジケータ、システムの電源喪失を通知するインジケータなどを備えています。
スーパーキャパシタも、バッテリと同様の役割を果たします。ただし、長時間にわたる電源の喪失ではなく、短い時間だけ大電力を供給できればよいシステムに適しています。通常、このようなバックアップ電源向けのICには、主電源が一時的に遮断された場合に、2.9V~5.5Vの電源レールを維持する能力が求められます。先述したように、スーパーキャパシタでは、バッテリよりも高い電力密度が得られます。そのため、短時間だけ大きなピーク電力を供給する必要のあるバックアップ・システムに対して、適切な選択肢となります。この用途に向けたチャージャICとしては、「LTC4041」が挙げられます。これも、アナログ・デバイセズのPower by Linear製品です。LTC4041は、双方向/同期整流方式のDC/DCコンバータを内蔵しています。これにより、高い効率で降圧を行い、スーパーキャパシタを充電することができます。また、高い効率で昇圧を行うことも可能であり、大電流を供給できるバックアップ電源としての機能も提供します。主電源を利用可能な状況では、同ICは、システムの負荷に対する給電を優先しつつ、1個または2個のスーパーキャパシタ・セルに対応する降圧型バッテリ・チャージャとしても機能します。入力電源が、PFIの閾値(調整が可能)を下回った場合、LTC4041の動作は昇圧モードに切り替わります。それにより、スーパーキャパシタからシステムの負荷に対して、最大2.5Aの電流を供給します。また、電源に障害が発生した場合には、同ICが備えるPowerPath™制御の機能によって逆流を防ぎ、主電源とバックアップ電源の間をシームレスに切り替えます。LTC4041の標準的なアプリケーションとしては、電源断通知に対応するライドスルー電源、3V~5V/大電流に対応するライドスルーUPS、電力計、工業用アラーム、サーバ、SSD(Solid State Drive)などが挙げられます。図2に、LTC4041を使用して構成した標準的なアプリケーション回路例を示しました。

図2. LTC4041を使用して構成したスーパーキャパシタ用のバックアップ回路
LTC4041は、外付けのFETを使って、60Vを超える入力電圧から自身を保護するためのOVP機能に対応します(オプション)。また、スーパーキャパシタ用のバランス回路も内蔵しています。これは、各スーパーキャパシタへの印加電圧を均等に保ちつつ、それぞれの最大電圧を所定の値以下に制限するというものです。入力電流の制限機能(調整が可能)も備えており、スーパーキャパシタの充電よりもシステムの負荷への給電を優先しながら、電流の供給量に制約がある主電源に対応して動作することができます。バックアップ動作が働く際には、外付けの遮断用スイッチによって、システムから主電源を切り離します。その他にも、入力電流の監視機能、入力電源の喪失を通知するインジケータ、システムの電源喪失を通知するインジケータなどを備えています。
まとめ
システムの中には、主電源が故障したり、一時的に給電が途絶えたりした場合でも、動作し続けることを求められるものがあります。そうしたシステムには、バックアップ電源を用意すべきです。LTC4040/LTC4041をはじめ、バックアップ・システムの管理というニーズに向けたICは、数多く存在します。それらのICを使用すれば、ストレージ・メディアがスーパーキャパシタ、電解コンデンサ、バッテリのうちいずれであっても、主電源の中断/喪失に対応して、バックアップ用の電力を簡単に供給することができます。システムには、一時的にバースト電力が必要になるものもあれば、長時間にわたるバックアップ電力を要するものもあります。LTC4040/LTC4041を採用すればどちらの要件にも対応でき、必要に応じて適切なバックアップ電力をシステムに確実に供給することができます。
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