クランプ、バイアス、およびAC結合されたビデオ信号について

2005年02月17日
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要約

このアプリケーションノートではクランプ、バイアス、およびAC結合されたビデオ信号について、またそれぞれに適した信号、デュアル電源と単一電源の長所と短所、および特定のアプリケーションには特定の回路が本質的に適している理由について説明します。

なぜビデオ信号をAC結合する必要があるのか

一度はこの疑問について考えてみるべきです。その答えが政府の指令、お客様の仕様、または業界のプロトコルであるならば、それで問題はないでしょう。たいてい、その理由は「アプリケーションが単一電源であるためAC結合が必要であると思われる」というものです。もしかすると、「単一電源を実装するとビデオのAC結合が必要になってビデオの画質が損なわれる」という理由で、依然としてデュアル電源を採用している可能性もあります。

そこで、話を進める前にいくつかの事項について考えてみましょう。単一電源回路はディジタル-アナログコンバータ(DAC)のような単一電源によって供給されます。DACの出力をレベル変換(DC動作)することによって出力端にてグランド以上のダイナミックレンジを確保することができます。この手法を個別に実装するときによくある間違いは、オペアンプはグランド未満の信号を検出することができるため、出力端でその信号を再生できると考えてしまうことです。しかしそれは間違いです。単一電源を組み込むというソリューションが正しい答えです。ただし業界が、オフセットされたDCレベルをビデオ出力として受け入れる必要があります。SCARTはこれとよく似たことをヨーロッパで行っています(SCARTはオーディオビジュアル機器を相互接続する業界標準であり、フランスのPeritel社によって開発されました)。

当然ですが、ビデオ信号をAC結合すると問題が生じます。画像の輝度を設定するため、および信号が次段の線形領域内に含まれるようにするため、結合の後に信号のDC電圧レベルを再設定する必要があります。「バイアス処理」と呼ばれるこの処理では、ビデオ信号の波形、およびバイアス点で必要な精度と安定性に応じて、さまざまな回路を使用します。オーディオなどの正弦波信号は、抵抗器-コンデンサ(RC)結合を使用して安定したバイアス電圧を確保しています。

残念なことに、正弦波に実際に近似しているのはSビデオのクロマ信号(C)だけです。Luma (Y)、コンポジット(Cvbs)、およびRGBはリファレンスレベルから片側に変化する複合信号であり、リファレンスレベルの下側では同期波形が付加される可能性があります。このような信号には、クランピングと呼ばれるビデオ特有のバイアス手法が必要になります。クランピングによって、信号の片側の極値をリファレンス電圧まで「クランプ(制限)」し、もう片側の極値はそのまま変動させることができます。クライアントクランピングの代表的な形態はダイオードクランプで、ビデオの同期信号によってダイオードが作動します。ダイオードクランプ以外の形態もあります。

たとえば、色差信号(PbとPr)とグラフィックRGBは「キークランプ」によって、より良好に処理することができます。この回路はダイオードの代わりにスイッチを利用し、外部(キー)信号を使用してビデオをクランプする場所を外部から制御することができます。バイアス処理の最後の方法は「DC復元」と呼ばれるもので、フィードバックをキークランプに追加して、アナログ-ディジタルコンバータ(ADC)の前のバイアス点の精度を向上します。

ビデオ信号のAC結合

信号をAC結合すると、カップリングコンデンサは(信号の)平均値の合計、およびソースと負荷の間のDC電位差を蓄積します。これが各信号のバイアス点の安定性に及ぼす影響については、図1を参照してください。図は、接地された抵抗負荷にAC結合したときの正弦波とパルス間の差異を示しています。

図1. 正弦波とパルスの単純なRC結合によって生じるバイアス点の差異

図1. 正弦波とパルスの単純なRC結合によって生じるバイアス点の差異

最初は、どちらの信号も同じ電圧付近で変化します。ただし、コンデンサを通過した後には違いが生じます。正弦波は振幅の半分の点付近で変化し、一方パルスはデューティサイクルの関数となる電圧付近で変化します。つまり、AC結合を行った場合、可変デューティサイクルパルスの方が、同じ大きさの正弦波の場合よりも広いダイナミックレンジが必要であるということです。このため、パルスが印可されるアンプはすべてDC結合することでダイナミックレンジを維持しています。ビデオはパルスとまったく同じであり、DC結合の方が適しています。

発生する可能性のあるビデオ信号を、ビデオインタフェースに見られる標準振幅とともに図2に示します(EIA 770-1、2、および3を参照)。SビデオのクロマおよびコンポーネントビデオのPbとPrは、上記に示したリファレンス点の付近で変化する正弦波に似ています。Luma (Y)、コンポジット、およびRGBは、0V (「ブラック」または「ブランク」レベルと呼ばれます)から+700mVへの正の方向にのみ変化します。これは業界内での暗黙の同意によるものであり、規格によるものではありません。これらはすべて、定義されたものかどうか、あるいは使用されるものかどうかさえわからない同期間隔を備えた複合波形です。たとえば、図2は、NTSCとPALの形式で使用される同期を備えたRGBを示していますが、PCの(グラフィック)アプリケーションでは、同期は別信号であり、RGBには同期信号は付随しません。DAC出力などの単一電源のアプリケーションでは、同期間隔中の休止レベルは異なる場合があります。これは、バイアス方法の選択に影響します。たとえば、デュアル電源アプリケーションにおいて同期間隔中のクロマの休止レベルが0Vでない場合、これは正弦波よりもパルスに近くなります。

図2. RGB (a)、コンポーネント(b)、Sビデオ(c)、およびコンポジット(d)ビデオの各信号の、同期間隔、アクティブビデオ、同期チップ、およびバックポーチを示しています。

図2. RGB (a)、コンポーネント(b)、Sビデオ(c)、およびコンポジット(d)ビデオの各信号の、同期間隔、アクティブビデオ、同期チップ、およびバックポーチを示しています。

上記の厄介な問題があるにもかかわらず、ビデオ信号は電圧領域が変化する点でAC結合する必要があります。異なる2つの電源を、DC接続を通じて接続することは危険であり、通常は安全規制によって禁止されています。この結果、ビデオ機器の製造業者は、機器の入力をAC結合して出力をDC結合するということを暗黙的に同意しています。このため、DC成分を再設定するための次段が必要となります(PAL/DVB [SCART]についてはEN 50049-1、NTSCについてはSMPTE 253Mセクション9.5を参照してください。これらはDC出力レベルを受け入れています)。このようなプロトコルが確立されていないと、2つのカップリングコンデンサが直列に存在した場合に「二重結合」が発生したり、コンデンサがない場合に短絡が発生したりします。この唯一の例外は、カムコーダやスチールカメラのようなバッテリ駆動の機器であり、出力をAC結合することでバッテリの消耗を最小限に抑えています。

次の問題は、必要となるカップリングコンデンサの大きさです。図1において、コンデンサが信号の「平均電圧」を蓄えるという仮定は、RC成分が信号の最小期間よりも大きいことを前提としています。このため、正確な平均化を行うには、RCネットワークの低い方の-3dBポイントが信号の最低周波数よりも6~10倍低くなければなりません。ただし、この結果として容量値の範囲が広くなります。

たとえば、Sビデオのクロマは位相変調された正弦波ですが、その最低周波数は約2MHzです。75Ω負荷でも、水平同期間隔を渡す必要がない限り、0.1µFしか必要としません。一方、Y (luma)、Cvbs (コンポジット)、およびRGBの周波数応答は、ビデオのフレームレート(25Hz~30Hz)以下にまでおよびます。75Ω負荷、および3Hz~5Hzで-3dBポイントを想定すると、これには1000µF以上が必要になります。あまりにも小さなコンデンサを使用すると、表示画像が左から右、および上から下にかけて暗くなり、画像が空間的に歪む可能性があります(コンデンサの大きさによって異なります)。ビデオでは、これはラインドループ(line droop)またはフィールドの傾き(field tilt)と呼ばれます。目に見える画質劣化を避けるために、これらのレベルは1%~2%未満でなければなりません。

ビデオ用の単一電源バイアス回路

図3aに示すように、RC成分が十分な大きさである限り、どのようなビデオ信号でもRC結合は機能します。また、それに続くオペアンプへの電源は、信号の平均値の前後において負と正の偏位を処理できるだけの範囲が必要です。以前は、オペアンプに対してデュアル電源を使用することでこれを実現していました。RSがRiと同じグランドを基準とし、Rfと並列なRiに等しいと仮定すると、オペアンプは、最小オフセット電圧にてあらゆるコモンモードノイズを排除することができます(つまり、コモンモード除去比(CMRR)が高いということです)。低い方の-3dBポイントは1 / (21RSC)です。また、カップリングコンデンサの大きさにかかわらず、回路は電源電圧変動除去比(PSRR)、CMRR、およびダイナミックレンジを保持します。ほとんどのビデオ回路は従来この方法で製作され、AC結合されたほとんどのスタジオアプリケーションは、今もこの方法で製作されています。

ディジタルビデオとバッテリ駆動デバイスの出現によって、負の電源は、コストと電力の面で負担となりました。RCバイアスでの初期の試みは図3bのようなもので分圧器を使用していました。図3aにおいて、R1 = R2で、VCCがVCCとVEEの合計に等しいと仮定すると、2つの回路はほぼ同じになります。ただし、AC性能は異なります。図で説明すると、図3bでは、VCCを変更すると、分圧器の比によってオペアンプの入力電圧が直接変化しますが、図3aでは、変更分はオペアンプの電源ヘッドルームによって吸収されます。R1 = R2の場合、図3bのPSRRはわずか-6dBです。このため、電源をフィルタリングして十分に調整する必要があります。

より安価な代案として、断路抵抗器(RX)を挿入してACのPSRRを向上する方法があります(図3cを参照)。ただし、RfとRiの並列抵抗値に一致していないと、この手法はさらなるDCオフセットを引き起こします。RxC1とC2Riによって生成される成分が3Hz~5Hz未満でなければならないという上記の要件がこのことをさらに悪化します。この回路のバイパスコンデンサ(C3)が大きいほど、小さなRXが可能となってオフセット電圧が低減されますが、同時にC1も大きくなります。この手法は、電解コンデンサを使用した低コスト設計で見られる方法です。

別の案を図3dに示します。ここでは、分圧器を3端子レギュレータに置き換えて、PSRRをDC以下にまで拡大しています。レギュレータの低出力インピーダンスによって、RXはRfとRiの並列結合に近づき、回路のオフセット電圧が低減します。C3の目的はレギュレータのノイズを低減し、周波数を関数とするレギュレータの出力インピーダンス(Zout)を補足することだけであるため、値は図3cの値より小さくなります。ただし、それでもC1とC2は大きくなる場合があり、RiC1によって生成される成分以下の周波数でCMRRが問題となります。これは安定性の場合と同様です。

図3. RCバイアス手法には、デュアル電源(a)、分圧器(b)を使用する単一電源、オフセットがより低い分圧器(c)、およびPSRRを向上させた電圧レギュレータ(d)が含まれます。

図3. RCバイアス手法には、デュアル電源(a)、分圧器(b)を使用する単一電源、オフセットがより低い分圧器(c)、およびPSRRを向上させた電圧レギュレータ(d)が含まれます。

結局のところ、コモンモード除去と電源電圧変動除去という点を見れば、アプリケーションにかかわらず、デュアル電源によるAC結合の方が単一電源の手法より優れています。

ビデオクランプ

Luma、コンポジット、およびRGB信号は、ブラック(0V)のリファレンスレベルから同期(-300mV)付きの最大レベル(+700mV)まで変化します。ただし、図1の可変デューティサイクルパルスのように、これらの信号がAC結合されると、バイアス電圧はビデオ成分(平均画像レベル(APL)と呼ばれます)とともに変化して輝度情報は失われます。必要なものは、ビデオや同期振幅にかかわらずブラックレベルを一定に保持する回路です。

図4aの回路はダイオードクランプと呼ばれ、抵抗器をダイオード(CR)に置き換えることでこれを実行しています。ダイオードは一方向のスイッチとして機能します。従って、ビデオ信号の最大負電圧、つまり水平同期波形のチップ(先端部)は強制的に接地されます。このため、この回路は同期チップクランプとも呼ばれます。これによってリファレンス(0V)は一定に保持されます(同期電圧(-300mV)は変化せず、またダイオードの導電電位はゼロであると想定した場合)。同期レベルを制御することはできませんが、オペアンプのフィードバックループにクランプダイオードを配置して「アクティブなクランプ」を設けることで導電電位を低減することができます。この場合の主な問題として、終端処理を誤ると発振しやすいということがあり、ディスクリート設計ではめったに使用されません。集積型は補正が可能であり、信頼性も向上します。(例としてMAX4399およびMAX4090などがあります。)

同期レベルが変化する場合、あるいは存在しない場合は、ダイオードはスイッチで代用することができます。このスイッチは通常、外部信号で制御されるFET (図4b)です。これはキークランプで、制御信号はキー信号です。キー信号が同期パルスに一致した場合、これは同期チップクランプになります。ただし、ダイオードクランプと違い、同期チップクランプは同期チップ中だけでなく同期間隔のどこででも作動させることができます。ビデオがブラックレベルのときにキー信号が発生すると(図4c)、「ブラックレベルクランプ」が得られます。この手法は汎用性があって実用的で、ほぼ理想のモデルに近いものとなります。スイッチにはダイオードの導電電圧はないので、実際にブラックレベルのクランプを実装することができます。

DC電圧源(Vref)を加えることで、コンポジットとlumaだけでなくクロマ、Pb、およびPrのような信号にもバイアスを設定することが可能になります。この欠点は、キー信号を得るために同期分離回路が必要になるということであり、特定のアプリケーションで精度が十分でなくなるということです。ビデオをディジタル化する場合、ブラックレベルの変動が最下位ビット(LSB)で±1ビット未満、すなわち約±2.75mV未満であることが望まれます。クランプでは、このレベルの精度を達成することはできません。

ビデオ信号のバイアスに使用する最後の手法はDC復元と呼ばれるもので、±1 LSBに近いブラックレベル精度を達成することができます。図4dで最初にわかることは、この回路にはカップリングコンデンサがないということです。その代わりにU2が、段(U1)のDC出力と電圧(Vref)とを比較し、入力電圧とは関係なく、負のフィードバックをU1に適用して出力にそれを追跡させます。当然ですが、ループが連続して動作している場合、取り出せるのはDCだけです。代わりにスイッチがフィードバックループに挿入されます。また、各水平ラインの間の、Vrefに設定したい点(同期チップまたはブラックレベル)において、ほんのしばらくの間だけスイッチは閉じます。電圧はコンデンサ(C)に蓄えられますが、コンデンサは入力と直列ではなく、フィードバックのスイッチによって形成されるサンプル&ホールド(S/H)内にあります。

図4. いろいろなタイプのビデオクランプ。a)ダイオードまたは同期チップクランプ、b)同期チップクランプとして使用される、リファレンス電圧を備えたキークランプ、c)ブラックレベルクランプとして使用されるキークランプ、d) DC回復

図4. いろいろなタイプのビデオクランプ。a)ダイオードまたは同期チップクランプ、b)同期チップクランプとして使用される、リファレンス電圧を備えたキークランプ、c)ブラックレベルクランプとして使用されるキークランプ、d) DC回復

図5に示す実際の実装では、2個のコンデンサ(CholdとCx)、2個のオペアンプ(U1とU2)、およびS/Hを使用しています。実際の比較と信号の平均化は、Rx、Cx、およびU2によって行われます。ノイズの平均化のためにRC成分を選択しています。16msフィールド(NTSC/PAL)では、RC成分が200nsを上回っている必要があります。つまり、U2は、低オフセットの電圧/電流、および安定性のために選択した低周波デバイスであり、周波数応答のために選択したものではありません(このアプリケーションではMAX4124/25が適しています)。一方、U1は周波数応答のために選択したものです(オフセット用に選択したものではありません)。S/HとCholdそのものは漏洩のために選択しています。漏洩は、水平ラインの間に電圧の変化(ドループ)を引き起こします。図に示した回路はデュアル電源を使用していますが、精密なレベル変換を使用すれば、単一電源の形態でも実現することができます。

図5. DC復元回路の実際の実装では、2個のコンデンサ、2個のオペアンプ、およびS/Hを使用

図5. DC復元回路の実際の実装では、2個のコンデンサ、2個のオペアンプ、およびS/Hを使用

DC復元での最大の問題は、復元したレベル(ブラックビデオからVref)がアナログであり、ディジタル領域の値と互いに関連していないということです。この問題を修正するため、ほとんどの場合、DACを使用してVrefを生成しています。キークランプと同様、DC復元は(同期の有無にかかわらず)あらゆるビデオ信号で使用することができ、波形のどこででも作動させることができます(アンプとS/Hが十分追従できる速度であると想定した場合)。



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