精度の高いA/Dコンバータの駆動方法

2020年12月01日
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産業用アプリケーションでは、ほとんどの場合、データ・アクイジション・システム(以下、DAQシステム)が重要な要素になります。DAQシステムでは、まず温度や流量、充填レベル、圧力といった物理量に相当する信号が測定されます。測定された信号(アナログ量)は、分解能の高いA/Dコンバータ(ADC)によってデジタル・データに変換されます。得られたデータは、ソフトウェアによる処理を適用するためにプロセッサ回路に転送されます。このようなシステムには、より高い精度とより高速な処理性能が求められます。当然のことながら、DAQシステムの性能はADCの性能に大きく左右されます。しかし、システムの精度に大きな影響を及ぼす要素はADCだけではありません。ADCに入力信号を供給するドライバ回路も同じように重要です。ADC用のドライバは、入力信号をバッファリングしたり増幅したりする役割を担います。また、ADCの入力電圧範囲やコモンモード電圧の条件に適合させるために、入力信号をシフトしたり完全差動信号を生成したりするためにも使われます。このような処理の過程で、信号の質を落とすようなことがあってはなりません。ADC用のドライバとしては、ゲインをプログラムすることが可能な計装アンプ(PGIA:Programmable Gain Instrumentation Amplifier)がよく使用されます。本稿では、ADCとドライバを組み合わせた回路例を紹介します。その回路は、極めて正確な変換結果が得られるよう調整されています。これを採用すれば、高精度のDAQシステムを構築することが可能になります。

ここでは、高精度のDAQシステムに適したPGIAとして「LTC6373」を例にとります。同ICは、DC精度、ノイズ性能、歪み性能が優れていることを特徴とします。また、ゲインが16という条件で4MHzの帯域幅に対応できます。完全差動出力に対応しており、差動入力型のADCを直接駆動することが可能です。そのため、多くのアプリケーションにおいてシグナル・コンディショニングを実現するために使われています。

図1に示したのは、LTC6373を使用して高精度のADCを駆動する回路の例です。ADCとしては、分解能が20ビットでサンプリング・レートが1.8MSPSの逐次比較型(SAR)ADC「AD4020」を使用しています。

図1. 高精度のADCとPGIAを組み合わせた回路

図1. 高精度のADCとPGIAを組み合わせた回路

この回路において、LTC6373は入力、出力ともにDCカップリングされています。そのため、ADCの駆動用にトランスを使用する必要はありません。ゲインは、A2/A1/A0ピンによって0.25V/V~16V/Vの範囲で設定できます。LTC6373には±15Vの対称な電源電圧を供給しており、差動入力、差動出力の構成が実現されています。差動出力が求められている場合、非対称の入力を使用することも可能です。

出力コモンモード電圧は、VOCMピンによってVREF/2に設定されています。これにより、LTC6373の出力のレベル・シフトが実現されます。LTC6373の各出力は、0V~VREFの間(逆位相)で変化します。そのため、ADCの入力には振幅が2×VREFの差動信号が供給されます。LTC6373の出力とADCの入力の間のRC回路は、単極のローパス・フィルタとして機能します。これにより、ADCが内蔵するコンデンサのスイッチング動作に伴い入力部に発生するピーク電流が低減されます。また、このローパス・フィルタは広帯域のノイズを制限する役割も果たします。

図2に示したのは、この回路のS/N比と全高調波歪み(THD)の評価結果です。LTC6373によって、(高インピーダンス・モードの)AD4020をフル・レンジの入力電圧(10Vp-p)で駆動するという条件で測定しました。ご覧のように、ADCのスループットが1.8MSPS、フィルタの抵抗RFILTERが442Ωの場合に最高の性能が得られます。スループットが1MSPS/0.6MSPSの場合には、RFILTERの値を887Ωに設定するとよいでしょう。

図2. LTC6373でAD4020を駆動した場合のS/N比(左)とTHD(右)

図2. LTC6373でAD4020を駆動した場合のS/N比(左)とTHD(右)

LTC6373を使えば、差動入力を備えるほとんどのSAR ADCを駆動できます。そのため、ADCドライバ製品を別途適用する必要はありません。但し、アプリケーションによっては、LTC6373でシンプルな過渡応答が得られるようにし、シグナル・チェーンとしての直線性を向上させたいこともあるでしょう。そのような場合には、LTC6373と高精度ADCの間に別のADC用ドライバを適用することをお勧めします。

まとめ

図1の回路は、高速、高精度のDAQシステム向けに最適化されています。この回路を使用すれば、LTC6373の優れた性能により、同ICに接続されたセンサーの性能をフルに引き出すことができます。アナログ・デバイセズは、「ADI Precision Studio」というオンラインの設計サポート・ツールを提供しています。これに含まれる「ADCドライバ」を活用すれば、本稿で例にとったようなアンプ段、フィルタ、線形回路の設計が容易になります。詳細については、https://tools.analog.com/jp/precisionstudio/をご覧ください。

著者について

Thomas Brand
Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門...

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