皮膚電気活動の情報を取得するシステムの設計/開発/評価
活動量計(アクティビティ・トラッカー)をはじめとし、ウェアラブル型の電子機器が一般的に使われるようになってきました。フィットネスや健康に関連するさまざまな指標をリアルタイムにモニタリング/測定/トラッキングしたいというニーズが高まっているためです。測定の対象となるのは、歩数、心拍数、心拍変動(HRV: Heart Rate Variability)、体温、動き、ストレス・レベルなどです。なかでも、ストレス・レベルを判定するためには、従来から皮膚電気活動(EDA: ElectrodermalActivity)をモニタリング/測定/トラッキングする手法が使われてきました。これは、皮膚のインピーダンスまたはコンダクタンスを測定することで実現されます。各種の研究結果から、皮膚のコンダクタンスは、環境的、心理的、または生理的な刺激に反応して増加することが判明しているからです。皮膚のインピーダンスまたはコンダクタンスを測定して経時変化を確認することにより、ユーザの活動レベル、ストレスのレベル、痛みのレベルなど、その時点での心理的/生理的な状態に関連する情報を取得することができます。そうした情報に基づいて、ユーザや医師は、そのときの状態に対する適切な処置を実施します。本稿の目的は、人間のストレスのレベルを確認し、最終的にはそのレベルを評価/定量化することが可能なシステムについて理解していただくことです
はじめに
ストレスは、身体的、精神的な緊張を引き起こす、身体的、精神的、感情的な要因です。ストレスには、外的なもの(環境や心理、社会的状況に起因)と、内的なもの(病気や、医療処置に起因)があります。ストレスは、神経/内分泌系の複雑な反応である闘争/逃走反応を引き起こす可能性があります。
闘争/逃走反応とは、心的外傷後ストレス障害、過覚醒、または急性ストレス反応などによって、戦う、逃げる、すくむ、へつらうといった状態を示すことです。有害な事象、攻撃、生存に対する脅威を認識することで生じる生理的な反応だと説明することもできます。
この反応が扁桃体で生じると、視床下部で神経反応が引き起こされます。この初期反応が生じた後、脳下垂体が活性化されて副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌されます。それとほぼ同時に副腎が活性化され、アドレナリンが分泌されます。
化学伝達物質が放出されると、コルチゾールが生成されます。そして、血圧と血糖値が上昇して免疫系が抑制されます。初期反応とそれに続く一連の反応は、活力を高めようとするために生じるものです。肝細胞に作用するアドレナリンと、続いて生成されるグルコースによって、活力は一層高まります。また、脂肪酸を利用可能なエネルギーに変換するためのコルチゾールの循環により、体中の筋肉がいつでも反応できるような態勢になります。アドレナリン(エピネフリン)やノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などのカテコールアミンが、激しい筋肉運動に備えた迅速な身体反応を促進します。
この状態が常に求められるようになると、ストレス系が慢性的に活性化された状態になります。そうなると、その人の健康状態に悪影響が及ぶ恐れがあります。ストレスに起因して身体と精神の両方に影響を与える病気は何種類も存在します1。これについては、本稿の後半で触れます。
検出手段
ストレスのレベルは、さまざまな方法で検出して判定することができます。それらの中でも重要なものとしては、コルチゾールのレベルの測定、HRV の取得、EDA の取得が挙げられます。
コルチゾールのレベルの測定
コルチゾールは、糖質コルチコイドの一種であるステロイド・ホルモンです。副腎皮質によって体内で生成されます。ストレスに反応して分泌されるので、コルチゾールのレベルの測定は、ストレスのレベルを定量化するための究極の手段だと考えられています2。しかし、この方法には 2 つの重要な問題があります。1 つは、脅威が生じてからコルチゾールのレベルが変化するまでには、最大で 15 分もの時間がかかることです。さらに重要な問題は、この方法はあまりにも複雑かつ高額で、万人にとって使いやすい手段にはなり得ないということです。ユーザの日常生活において、脅威やストレスの原因になる状況を検出するには、ストレスのレベルを継続的に取得する必要があります。そのような面からも、コルチゾールの測定を一般的な手段とするのは現実的ではありません。
HRV の取得
HRV は、心拍の間隔が変動する生理現象です。その変動を測定することで、HRV の値を取得します3。
現在では、心拍数を測定するためのデバイスが多数提供されています。そうしたデバイスの精度は、最も高いもので 1 bpm(1分当たりに 1 回の心拍数)です。多くのアプリケーションではこの精度でも十分です。しかし、ストレスの評価には、それよりも 10 ~ 100 倍高い精度が必要になります。つまり、サンプリング周波数を上げて、さらに複雑なアルゴリズムを適用する必要があります。そのため、システムの消費電力が増加します。結果として、ウェアラブル製品や、常時稼働させる必要のある用途には適用できない可能性があります。
EDA の取得
EDA は、汗腺の活動に対する神経の調停機能に及ぶ影響を表す間接的な測定値です。小さな電流に対する皮膚の抵抗値の変化、または皮膚の異なる部分の間の電位差として観測されます4。
EDA の測定には、消費電力、人間工学的な観点、回路のサイズの面で、他の方法に勝るメリットがあります。
システムの説明
本研究の目的は、人間のストレスのレベルを測定して評価するための有効な手段を開発することです。人間のストレスのレベルは一定ではなく、その人が認識する脅威に応じて変化します。脅威の受け止め方は人それぞれであり、ある人にとっては何でもない事象なのに、別の人にとってはとてつもない脅威に感じられることもあります。人間のストレスのレベルを判定するための手段として、病院でテストを実施するのは良い方法ではありません。本来の脅威は、患者の日常生活に現れるものだからです。そこで、日常生活においてストレスのレベルを評価可能なシステムが必要になります。そのシステムは非侵襲的で、使いやすく、ウェアラブルなものでなければならないでしょう。また、バッテリを交換したり、充電したりすることなく数日間にわたって動作可能なものでなければなりません。
このようなシステムに求められる要件は、以下のようになります。
- ウェアラブルな機器として実現するので、バッテリで駆動できるものでなければなりません。
- 数日間にわたってモニタリングできるようにするために、消費電力を抑える必要があります。
- ウェアラブルで使いやすいものにするために、小型化を図らなければなりません。
- 民生用の機器にふさわしいレベルまでコストを低く抑える必要があります。
- 安全性を確保するための各種規制に適合させる必要があります。
非侵襲的なシステムにするには、どこで信号を取得するのかということについて考慮する必要があります。電極を配置する場所として最適なのは、手首の外側です。そうすれば、非侵襲的で、使いやすく、機械的な観点からもシンプルな機器になります。ただし、その場合、人差し指や中指の中節骨など、別の部分で EDA の信号を取得する場合よりも高い信号品質を得ることはできません5。
EDA の信号を取得するための電極の位置に依存して、最終的なシステムがスマートウォッチのような形態になるか否かが決まります。次に決定しなければならないのは、EDA の信号を取得するための回路(以下、EDA 回路)に許容される占有面積です。このパラメータを決定するために、いくつかのスマートウォッチを解析し、さまざまなベンダーに相談しました。その結果、EDA 回路の面積は 5 mm × 5 mm 未満でなければならないという結論に達しました。
次に決定すべきパラメータは、EDA 回路の消費電力です。このパラメータは、バッテリを交換/充電することなく数日間にわたって EDA の信号を記録可能なシステムを実現するために極めて重要です。そこで、複数のスマートウォッチのバッテリ容量と、いくつかの商用システムにおける消費電力のバジェットについて調べました。この調査に基づき、消費電力については、平均消費電流が最大で 200 µA という目標を定めました。
最後に決定しなければならないのは、コストです。しかし、この段階ではコストを明確に定めることはできませんでした。複数の要因によって最終的なコストが左右される可能性があったからです。最終的なソリューションのコストが妥当なレベルになるように、回路のトポロジとコンポーネントを選択しました。
ハードウェアの設計
このセクションでは、回路のトポロジ、測定範囲、精度を決定した過程について説明します。
回路のトポロジは、決定すべき主要な要素です。インピーダンスを測定する手段は、基本的には 2 種類あります。1 つは電流を印加してインピーダンスの両端の電圧を測定する方法です。もう 1 つは、電圧を印加してインピーダンスの両端の電流を測定するというものです。また、測定の対象になるのは DC 信号の場合と AC 信号の場合があります6。それぞれの方法の利点と欠点を分析することが重要です。
AC 信号を測定する回路は多数存在し、それぞれに利点と欠点があります。性能、コスト、面積の制約を満たすためには、以下のソリューションが最適であると判断しました。
最終的に選択した方法は、AC 電圧源を励起源として使用し、患者の体を流れる電流を測定して、皮膚の導電率を判定するというものです。このソリューションでは、1 つの汗腺に高い電圧が印加されることがありません。そのため、汗腺に損傷を与える恐れがなく、IEC 6060-1 に準拠することができます。なお、AC信号を使用すれば、電極の分極の問題を回避することが可能です7。
電流を測定したら、その値をデジタル化して保存し、解析する必要があります。つまり、回路には A/D コンバータ(ADC)が必要になります。ほとんどの ADC は電流ではなく電圧を変換の対象とします。そのため、患者の体を流れる電流を電圧に変換する必要があります。この変換はトランスインピーダンス・アンプ(TIA)によって行います。TIA の実装に使用するオペアンプを選択するうえでは、ノイズ、サイズ、消費電力の 3 つが重要な指標になります。
システムのトポロジを決定したら、続いて、開発するシステムの測定範囲と精度を決定します。
広い測定範囲と高い精度が求められる場合、EDA の信号の増幅に関する問題が生じる可能性があります。一般に、皮膚のコンダクタンスの測定に使用するデバイスに対しては、0 µS ~ 100µS の測定範囲に対応し、0.05 μS の変動を検出可能であることが求められます。このような精度を達成するには、分解能が少なくとも 12 ビットの ADC が必要になります。このプロジェクトの場合、目標とする精度は 0.01 µS なので、分解能が 14ビットまたは 16 ビットのADCが必要です8。
100 µS までの測定範囲で 0.05 µS の精度を達成しつつ、安全性に関する規制に準拠するには、以下のようなブロックが必要になります。
- AC 電圧源
- IEC 6060-1 との適合性を確保するための保護用の要素
- 患者の体を流れる電流を測定するための電子回路
EDA の信号は、周辺温度と皮膚の温度の変動によって変化する可能性があります9。そのため、周辺温度と皮膚の温度も取得することが望ましいということになります。これは、簡単なサーミスタといくつかのディスクリート部品に ADC を組み合わせることで実現できます。
もう 1 つの重要な項目が消費電力です。測定が必要になったときだけシステムが起動するようにして消費電力を抑えるには、パワー・マネージメント・ユニットが必要になります。このブロックは、EDA 回路の全体を網羅する必要があります。ただ、その制御は、メインのマイクロコントローラによって簡単に実現できます。図 1 に全体のブロック図を示しました。

以下の各セクションでは、このアプリケーションに最適なコンポーネントとそれらを選択した理由について説明します。
パワー・マネージメント・ユニット
この例では、アナログ・デバイセズの「ADP151」を使用してパワー・マネージメント・ユニットを実装することにしました。この製品を選択した理由は、非常に良好な性能を備えているからです。また、パッケージとノイズのレベルがこのアプリケーションに非常に適していたことも大きな要因でした10。
レベル・シフタ
レベル・シフタは、さまざまな種類の IC をさまざまに使用して実装することができます。しかし、検討した IC は、いずれも占有面積とコストの面で、このプロジェクトの制約を満たすものではありませんでした。そこで、ディスクリート部品を使ってレベル・シフタを実装することにしました。基本的には、トランジスタ「DMN2990UFZ」11と抵抗で構成しています。
ローパス・フィルタと TIA
ローパス・フィルタと TIA の実装には、オペアンプ「ADA4505-2ACBZ」を使用しました。消費電力が極めて少なく、小型で、入力バイアス電流が非常に少ないことが決め手です12。
ADC
システムのすべての要件を満たす ADC を探したところ、「AD7689BCBZ」が該当しました。この強力な ADC は、電圧リファレンス回路を内蔵しています。同回路は、使用していないときにはオフにして、消費電力を低減することができます13。
最後に、占有面積の制約を満たすために、コンポーネントと機能の数を最小限に抑えました。また、選択したすべてのコンポーネントはできるだけ小さなパッケージに収めました。図 2に、EDA 回路の基板レイアウトとサイズを示しました。

ソフトウェアの設計
先述したとおり、皮膚の導電率を測定するには、励起信号を生成する必要があります。この励起信号は AC 信号です。AC 信号の測定によって抽出できるパラメータは、信号の振幅と、励起信号と取得した信号の間の位相差の 2 つです。より重要なのは振幅であり、AC 信号からは、いくつかの方法でこのパラメータを取得することができます。なかでも、このシステムで振幅を取得するために最良だと言えるのは、DFT(離散フーリエ変換)の処理を実装する方法です14。
DFT は、フィルタ・バンクのようなものだと見なすことができます。減衰レベルはサンプルの数に直接的に比例し、最大値の位置は励起信号に依存します。
サンプル数 N を大きくとるように DFT を実装すれば、S/N 比が高くなります。ただし、(直接実装した場合には)DFT による消費電力はサンプルの数に比例します。つまり、より多くのサンプルを取得するほど、より多くの電力を消費します。つまり、サンプルの数と消費電力の間には、重要なトレードオフが存在するということです。
もう 1 つの重要なパラメータがあります。それはサンプリング周波数と励起周波数の比率です。例えば、サンプリング周波数が励起周波数の 4 倍といった条件であれば、DFT の処理を実装するための式は非常に単純になります。その場合、浮動小数点数の乗算を含む複雑な式を、足し算の式で表すことができます。DSP や「Cortex® -M4」ベースのプロセッサを使用できるのであれば、複雑な乗算にも耐えられます。しかし、Cortex-M0ベースのプロセッサでその計算を実現しなければならないとしたら、そのことが重要な問題になってしまう可能性があります。式(1)は、周波数ビン FCENTER が 100 Hz という条件において、シングルポイントの DFT 演算をフィルタに相当する式として表したものです。なお、サンプリング周波数 FS が 400 Hz の場合と 500 Hz の場合を比較して示してあります。

適用する手法、励起周波数とサンプリング周波数の比率を決定したら、続いては励起周波数を決定します。
励起周波数は、電流が患者の皮膚を流れて体内を貫通することがないように、できるだけ低くしなければなりません15。具体的には、1 kHz 未満に設定する必要があります。また、このアプリケーションでは、主電源に起因する 50/60 Hz のノイズが主なノイズ源になります。この点にも注意が必要です。

式(2)は、DFT の各要素である X(k) において、n × FS/N(n =0、1、2、…、N - 1)の形の周波数成分の寄与がゼロになることを表しています(N = k の場合を除きます)。励起周波数を適切に定義すれば、50 Hz のノイズ源の影響をキャンセルできる可能性があります。ただし、先述したとおり、高い周波数を使用することはできません。そこで、100 Hz が適切なトレードオフのポイントになります。その場合、主電源の干渉による高調波成分が混入する可能性はあります。
励起周波数を 100 Hz、サンプリング周波数を 400 Hz に設定した場合、ゼロが 50 Hz に現れるのは N が 8、16、32 のときです。ここで、消費電力を抑えるためには、サンプルの数をできるだけ少なくしなければなりません。そこで、サンプルの数を16 とする DFT を実装することにします。必要であれば、サンプルの数を大きくすることによって S/N 比を高めることができます。当然のことながら、ノイズの主成分が 50 Hz でなく 60 Hzである場合には、サンプリング周波数は 480 Hz、励起周波数は120 Hz に設定します。図 3 に示したのが周波数応答です。また、足し算で構成される演算式を式(3)に示しました。


機械的な設計
この EDA 回路のテストを実施し、その有用性を実証するために、評価用のシステム(プラットフォーム)も開発しました。そのプラットフォームは、EDA の測定に必要なメインのセンサーと、いくつかの必須の機能で構成されています。動きと温度は、皮膚のインピーダンスの測定に影響を及ぼす可能性があります9、16。そこで、動きと温度を把握するための信号も取得するようにしてします。
この評価用プラットフォームでは、24 時間データを取得できるようにすることを目標としています。そのため、大容量のバッテリが必要です。そこで、同プラットフォームには、リチウム・イオン・ポリマー二次バッテリを充電するためのバッテリ・チャージャも実装しました。インピーダンス、温度、加速度の測定データは、ファイルに保存して microSD カードに格納することができます。あるいは、Bluetooth® Low Energy を介してタブレット端末や PC に送信することも可能です。図 4に、この評価用プラットフォームの外観を示しました。

結果
S/N 比
選択したコンポーネントのノイズとシステムの帯域幅の情報を基にして、数学的な解析を行った段階では、必要な精度を達成できることが確認できていました。しかし、この解析結果に近い結果が得られることを、実際の測定によって確認しなければなりません。そこで、評価用プラットフォームを使用し、複数の抵抗回路を対象として測定を行い、システムの機能を確認しました。また、同じ抵抗回路を対象として複数回の測定を行うことにより、再現性を確かめました。つまり、システムの精度を確認したということです。各回路に対して 100 回の測定を実施し、得られた結果の最大値から最小値を引くことによって、最大誤差を取得しました。その結果、誤差は必ず 0.01 µS 以下になることが確認できました。
EDA 回路の精度を検証したところで、続いては同回路の直線性を確認しました。この実験を行うために、プラットフォームにプログラマブルな可変抵抗を接続しました。そして、10 kΩ ~500 kΩ の範囲を 1 kΩ ステップで変化させて評価を実施しました。その結果、システムの R2 は 0.9999992 でした。
消費電力
この EDA 回路は、患者の皮膚の導電率を取得しつつ、消費電力を最小限に抑えるために、複数の異なるステータスを持つステート・マシンによって構成しています。最初のステータス 1(S1)では、システムの AFE はオフになり、マイクロコントローラと加速度センサーだけがオンになっています。その際の平均消費電流は 139 µA です。約 150 ミリ秒後に AFE がオンになり、マイクロコントローラによって方形波が生成されます。その信号は、ローパス・フィルタによってフィルタリングされます。この時点では、信号がまだ安定していないので、ADC のリファレンスはこのステージ(S2)ではオフになっています。信号が安定するまでには 6 サイクルが必要で、S2 における平均消費電流はワーストケースで 230 µA です。ADC のリファレンスは S3 でオンになります。システムはリファレンスが確実に安定するまで 10 ミリ秒待機します。このステージの平均消費電流は730 µAです。S4 では、4 サイクルで 4 サンプルずつ、計 16 サンプルを取得して DFT の実行に備えます。このステージの平均消費電流は 880 µA です。S5 では DFT が実行されます。加速度センサーのデータもこのステージで取得されます。このステージの消費電流は約 8 mA に達します。図 5 は、このシステムの消費電力の変遷を示したものです。この解析結果から、システムの AFE で必要な平均消費電流は 170 µA 未満であることが実証されました。

実用レベルのテスト
ここまでで、評価用プラットフォームを使用して、EDA 回路の電子的な評価を完了することができました。続いては、このプラットフォームと、リファレンスになり得る他のプラットフォームの相関をとってみます。ここでは、優れた性能を備えていることから、Empatica のプラットフォーム「E4」をリファレンスとして使用することにしました。
続いて、EDA の信号の変動を確認するために、どのようなテストを実施するのかを決定しました。選択したのは、リラクセーション‐ストレス・テストです。このテストは、リラクセーション活動を行う第 1 ステップと、ストレス活動を行う第 2 ステップで構成されます。
リラクセーション活動とは、リラックスした状態を作り出すことです。リラックスした状態に達するために、10 分間にわたって一定のペースで呼吸を行うことにしました。一方、ストレス活動というのは、ストレスがかかっている状態を作り出すことです。それは、色と単語(文字)と音声を使うゲームを行うことによって実現することにしました。被験者は、音声で色の名前を聞き、文字でも色の名前を目にします。また、文字には色がついています。音声が示す色、文字が示す色、視覚的に示された文字の色は、同じ場合もあれば異なる場合もあります。図6 に示すように、次のいずれかの文が表示されます。
- Choose Color(色を選択)
- Choose Sound(音声を選択)
- Choose Word(単語を選択)
その文の指示と、音声、文字、色に応じて、被験者は正しいボタンを押すことを目指します。また、進捗バーが終了するまでに回答しなければなりません。
その時間内に回答できないか、回答が誤っていた場合には、スコアが減少します。正しければスコアは増加します。最後に、ボタンの位置の入れ替えも行います。
このアプリケーションでは、複数の設定を変えることにより、実験のレベル(ストレスのレベル)を変更することができます。

理論的には、皮膚のコンダクタンスはリラックスしているときに低下し、ストレスがかかったときに高くなります。また、ストレスがかかっているときには、ピークやスパイクが観測されるはずです。DC レベルの変動は、ストレスの発生要因に対する緊張性の反応に対応して生じます。ストレスがかかっているときに観測されるピークは、相性反応だと考えられます。リラックスしているときには観測されません。
ここまでで、EDA の信号と期待される反応の明確な変化を取得するための手順が明らかになりました。そこで、当社の評価用プラットフォームと Empatica の E4 の性能を比較するための実験を行いました。その実験では、被験者に両方のデバイスを同時に装着してもらいました。E4 を右手に、当社の評価用プラットフォームを左手に装着します。それぞれ異なる腕に装着されることに加え、EDA の信号を取得する場所が E4 では手首の内側、当社の評価用プラットフォームでは手首の外側になります。
このような理由から、取得される信号はまったく同じにはなりませんが、似たものにはなるはずです。実際、図 7 に示すように、非常に似通った信号が取得できました。当社の評価用プラットフォームの検証を行うために、この実験を複数の患者に対して複数回繰り返しました。

まとめ
本稿で紹介した EDA 回路は、皮膚の導電率を測定するためのスマートなソリューションです。平均消費電流が少なく小型なので、スマートウォッチやそれに類似する任意のプラットフォームに組み込むことができます。期待どおりの性能を達成しており、広い測定範囲と高い精度で皮膚の導電率を測定することが可能です。この EDA 回路は、分極とハーフセル電位の影響を排除するように設計されています。そのため、任意の種類の電極に対応できます。また、IEC 6060-1の要件も満たしています。
この EDA 回路の機能を確認するために、評価用プラットフォームも設計しました。このプラットフォームでは、EDA の信号に加えて、皮膚の温度、周辺温度、動きを 24 時間連続で取得することができます。その間に、バッテリを充電する必要はありません。取得したデータは保存するか、またはワイヤレスでリアルタイムに転送することができます。したがって、このプラットフォームを使用すれば、複数の人を対象として、それぞれの生活におけるさまざまな状況下の任意の瞬間に、EDA のデータを取得することが可能です。収集した情報は、人間のストレスのレベルを検出/評価/予測するためのアルゴリズムの開発に利用することができます。
著者について
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