通信機器メーカーが求める高出力と小型のソリューション・フットプリント
はじめに
多くの通信システムでは、48Vバックプレーンを介して電源が供給されています。通常この電圧は、システム内のラックに取り付けられたボードに電源を供給するために、12V、5V、またはそれ以下の中間バス電圧に降圧されます。ただし、これらのボードに組み込まれているサブ回路やICを動作させるには、3V台から0.5Vに至る範囲の電圧が必要で、その電流範囲は数十ミリアンペアから数百アンペアに及びます。結果として、これらの高いバス電圧からサブ回路やICが必要とする低い電圧に降圧するには、ポイントオブロード(PoL)DC/DCコンバータが必要です。そのこと自体はさほど難しくないかのように思われていますが、これらのレールにもシーケンシング、電圧精度、マージニング、監視について、考慮すべき厳しい要求事項があります。
通信機器に使われるPoL電圧レールは恐らく数百種類に上り、システム設計者は、出力電圧、シーケンシング、最大許容電流などに関してこれらのレールを管理するための簡単な方法を必要としています。今日のディープ・サブミクロンICのデジタル・プロセッサにおいては、コア電圧の前にI/O電圧を上げることが求められます。一方、多くのDSPではI/Oよりも先にコア電圧を上げることが求められます。更に、パワーダウン・シーケンシングも必要です。このようなことから、システム設計者は、設計に変更を加えてシステム性能を最適化すると共に、各DC/DCコンバータ用に特定の構成を保存して設計プロセスを簡略化するための簡単な方法を必要としています。
更に、ほとんどの通信機器メーカーには、そのシステムのデータ・スループット・レートや性能を向上させたり、機能や特長を追加したりすることが求められています。同時に、システム全体としての消費電力を減らす必要もあります。例えば、ワークフローのスケジューリングを見直して利用度の低いサーバーにジョブを移動し、それにより他のサーバーをシャットダウンできるようにして全体的な消費電力を減らす、というのが代表的な試みです。これらの要求を満たすには、エンドユーザ機器の消費電力を知ることが不可欠です。したがって、適切に設計されたデジタル・パワー・マネージメント・システム(DPSM)を使用すれば消費電力データをユーザに提供することができ、それによって、スマート機能を利用してエネルギー管理上の決定を下すことが可能となります。
DPSMの主な利点は、設計コストを削減できることと、製品を市場に投入するまでの時間を短縮できることです。複雑なマルチレール・システムも、分かりやすいグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)を備えた統合開発環境を使用して効率的に開発することができます。これらのシステムでは、ハンダ付けによる配線変更ではなく、GUIを介した変更を可能にすることによって、インサーキット・テスト(ICT)やボードのデバッグも容易になります。もう1つの利点は、リアルタイムのテレメトリ・データを使用できることから、電源システム故障を予測して予防措置を講じられる可能性があることです。そして、恐らく最も重要な点は、デジタル管理機能を備えたDC/DCコンバータを使用することにより、設計者がPoL、ボード、ラック、更には設備レベルでの消費電力を最小限に抑えて目標性能(計算速度やデータ・レートなど)を満たす、環境優先型の電力システムを開発できるということです。このことは更に、インフラストラクチャ・コストと製品寿命の全期間にわたる総所有コストを削減することになります。結局、データ・センターの最大の運用コストは、データ・センター内部の温度を規定の最適運用温度以下に保つための冷却システムに使用する電力の料金となります。
更にシステム設計者は、ボード上にある他の様々な電力レールの要求を満たしながらも、ますます縮小化するボードにそれを組み込むために、よりシンプルなパワー・コンバータを使用することが依然として求められています。その理由の1つは、回路基板の裏側にこれらのコンバータを取り付けられないことにあります。これは複数のボードが1つのラックに横並びに取り付けられる構成となっており、コンポーネントの最大高が2mmに制限されているためです。設計者が真に求めているのは、プリント回路基板(PCB)上に取り付け時の高さが2mmを超えない、フォーム・ファクタの小さいフル機能電源です。幸いにも、そのようなソリューションは存在します。以下ではそれらのソリューションについて詳しく述べます。
コンバータ・ソリューション
アナログ・デバイセズのPower by Linear™ μModule®レギュレータは、設計時間を最小限に抑え、通信システムに付きもののボードスペースと電力密度に関する一般的な問題を解決する、フル機能のシステムインパッケージ(SiP)ソリューションです。これらのµModule製品は、コンパクトな表面実装BGAまたはLGAパッケージにDC/DCコントローラ、パワー・トランジスタ、入力および出力コンデンサ、補償コンポーネント、インダクタを組み込んだ全機能内蔵型のパワー・マネージメント・ソリューションです。Power by Linear µModule製品を使用することで、設計の複雑さに応じて、設計プロセス完了までに要する時間を50%も短縮することができます。このµModuleレギュレータのファミリは、コンポーネントの選択、最適化、レイアウトなどに要する設計上の負担を設計者からデバイスへ移すことにより、設計とトラブルシューティングに要する合計時間を短縮し、最終的に、より短期間で製品の市場投入を可能にします。
これらのµModuleソリューションでは、電源、シグナル・チェーン、絶縁などのディスクリート設計に一般的に使われている重要コンポーネントが、コンパクトなIC状のフォーム・ファクタでまとめて組み込まれています。Power by Linearの厳格なテストと高信頼性プロセスに支えられたµModule製品のポートフォリオは、パワー・マネージメントおよび電力変換ソリューションの設計とレイアウトを容易にします。この製品ファミリは、PoLレギュレータ、バッテリ・チャージャ、DPSM製品(PMBusデジタル管理電源)、絶縁コンバータ、LEDドライバを含む幅広いアプリケーションに対応しています。どのデバイスでもPCBガーバー・ファイル付きの高集積化ソリューションを利用できるので、これらのµModuleパワー・レギュレータは、高い効率と信頼性を実現しながら時間とスペースの制約を解決します。更に、アナログ・デバイセズの新しい製品群は、EN55022クラスBの規格に適合する低EMIソリューションを実現可能にします。エンド・システムはノイズ耐性に関する多くの業界標準に準拠する必要がありますが、低EMIソリューションを実現できることは、それらの業界標準を満たすために必要とされる厳しいノイズ性能基準をエンド・システムがクリアできるという自信をシステム設計者に与えます。
一方、システムの更なる複雑化と設計サイクルの短縮によって設計リソースの範囲が拡大されるにつれ、システムの鍵となる知的財産の開発に焦点が当てられるようになっています。このことは多くの場合、開発サイクルの後半になるまで電源に関する作業が保留されることを意味します。設計チームは、少ない時間で、恐らくは電源スペシャリストの数が限られた設計リソースの下で、PCBの裏面も使ってスペースを最大活用しながら、できるだけ小さいフットプリントで高効率のソリューションを作り出すという大きなプレッシャーにさらされています。
これは、µModuleレギュレータが最適なソリューションを提供できる重要な領域です。概念は内面的には複雑ですが、外面上はシンプルです。つまり、スイッチング・レギュレータの効率と、リニア・レギュレータのシンプルな設計です。スイッチング・レギュレータの設計では慎重な設計が求められ、PCBレイアウトとコンポーネント選択が非常に重要となります。経験豊富な設計者の多くは、経験の浅い時代に回路基板が燃える独特の臭いを嗅いだことがあるはずです。使える時間が短い場合、また電源設計の経験を積んだスタッフが限られている場合は、既製のµModuleレギュレータを使用することで、時間とスペースを節約できるだけでなく、プログラムのリスクを軽減することができます。
最近の超薄型µModuleソリューションの一例がLTM4622です。これは、デュアル2.5A出力またはシングル2相5A出力の降圧パワー・レギュレータで、6.25mm×6.25mm×1.8mmの超薄型LGAパッケージで提供されます。この超薄型パッケージはハンダ付けされた1206ケース・サイズのコンデンサとほぼ同じ高さなので、ボードの上面にも取り付け可能です。この薄型プロファイルにより、図1に示すように、組み込みコンピューティング・システムにおけるPCIeや拡張メザニン・カードなどの高さに関する厳しい制約を満たすことが可能となります。
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図1. LTM4622AはPCBの裏面に取り付け可能
これに加えて最近リリースされたのが、LTM4622Aです。LTM4622の派生型であるこのAバージョンの出力電圧は、非Aバージョンの0.6V~5.5Vより高い1.5V~12Vとなっています。これによりシステム設計者は、必要に応じてエンド・システムの出力電圧範囲の上限を広げることができます。いずれの場合も入力電圧範囲は3.6V~20Vです。Power by Linear μModule DC/DCレギュレータは、高出力とDPSM機能の両方を実現する簡単な方法も提供します。負荷電流が大きい場合は、正確な電流マッチング(公称値で互いに1%以内)を行うことによって多数のµModuleレギュレータを並列に使用できるので、ホットスポットが発生する可能性を低減できます。また、DPSM機能を持たせる必要があるのはこれらのµModuleレギュレータのうちの1つだけです。これは、並列に接続したµModuleの残りすべてにDPSM機能が組み込まれていなくても、1個だけでデジタル・インターフェース全体に電源を供給できるからです。
DPSMデバイスを使用することで、システム設計者は以下を含む、様々なことを実行することができます。
- 電圧の設定、複雑なオン/オフ・シーケンシング設定の定義、X0V制限やUV制限などの故障条件の定義、および重要電源パラメータ(デジタル通信バスに関わるスイッチング周波数や電流制限値など)の設定。
- 同じ通信バスに関して、入力電圧と出力電圧、入力電流と出力電流、入力電力と出力電力、内部温度と外部温度などの重要動作パラメータをリードバックでき、更に一部の製品では消費電力の測定も可能です。
- 個々の設計者がその設計に対して非常に正確なクローズドループ・マージン・テストを行ったり、電源電圧を極めて高い精度でトリミングしたりすることができます。
- これらのデバイスは自律的に動作するよう設計されています。設定を完了して入力電源を接続すると、電源のシーケンシングを行ってPoLの電圧を高い精度で調整し、ユーザ設定可能な障害管理スキームを確立しながら電圧と電流を継続的に管理して、障害検出時に電源システムに関する情報を保存する不揮発性障害レコーダを使用できるようにします。
- DPSMデバイスは、カスケード接続してコヒーレントな大型電源システムを構成することができます。これは、ワイヤライン速度で動作するチップ間調整バスによって実現されます。
- これらのデバイスは、デバイス設定および障害ロギング機能用のNVMを内蔵しています。
- これらのデバイスはI2C/PMBus通信ポートを備え、業界標準のPMBusコマンド・セットを使って電源システムの制御と管理を行います。
- 一般によく使われるLTpowerPlay® GUIは、これらすべてのPSMデバイスに対応しています。LTpowerPlayは、パワー・システムの設計とデバッグ、およびリモート・カスタマ・サポートを念頭に開発されたエンジニアリング・レベルGUIです。
以上に基づきLTM4677(36A DPSM μModuleレギュレータ)1個をLTM4650(50A μModuleレギュレータ)3個と並列に接続した、180A+DPSM PoLソリューションの回路図を図2に示します。
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図2. LTM4677 DPSM µModuleデバイス1個とLTM4650 µModuleレギュレータ3個の組み合わせにより、公称12Vの入力から186A/1Vの出力が得られます。
まとめ
DPSM機能と超薄型プロファイルの電力変換デバイスを今日の通信機器に使用することで、電源設計者は温度に対する最大DC出力誤差を±0.5%に抑えながら、わずか0.5Vのコア電圧に高出力を供給するシンプルかつ強力な方法を手にすることができます。最新のサブ20nmプロセスを採用したASIC、GPU、FPGAでは、このような形態の電力供給が必要となります。プロファイル上の制約がある場合は、ボード上に取り付けた場合の高さが2mm未満というLTM4622Aのような超薄型プロファイルのµModuleレギュレータを使用することで、通常ほとんど使われることのないボード裏面のスペースを利用可能となります。これは貴重なPCB上のスペースを節約するだけでなく、全体的な効率向上によって冷却能力に関する要求を緩和することにもなります。
最後に、µModuleレギュレータを通信機器に使用することが有効な理由は、デバッグ時間を大幅に減らせると共に、より広いボード面積を利用することができるからです。これにより、インフラストラクチャ・コストと製品寿命の全期間にわたる総所有コストを削減できます。このことは、装置の設計および製造を行う企業と、データ・センターに装置を導入して使用する企業の双方に利益をもたらします。
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