HART に有効な4 MA ~ 20 MA 入力での最適な回路設計
HART(Highway Addressable Remote Transducer) プロトコルでは、従来の 4 mA ~ 20 mA アナログ電流ループを介して双方向の 1.2kHz/2.2 kHz FSK(Frequency Shift Keying)の変調デジタル通信を行えます。これにより、センサー/アクチュエータに対する交信を確立し、機器の設置、監視、およびメンテナンス時に多大なメリットを実現することができます。HART は、携帯型のセカンダリ・デバイスを使用してセンサー/アクチュエータとの交信を行うメンテナンス担当者にメリットをもたらしますが、HART のすべてのメリットを実現するには、HART 対応の電流入力または出力を使用してセンサー/アクチュエータを制御システムに接続する必要があります。この資料では、HART 対応の電流入力と、すでにスペースの制約がある 4 mA ~ 20 mA 入力の設計に HART 機能を追加する際の課題について説明します。
まず、HART FSK 伝送回路について見ていきましょう。図 1 に、HART FSK 伝送回路の従来の方法を示します。この回路について説明した後に、スペースとコストを削減できる、改善後の回路設計を示します。

図 1 で、R センス抵抗は 4 mA ~ 20 mA の信号を、ADC が読み取れる 1V ~ 5V の信号に変換します。HART FSK 伝送回路は、±500 mVの HART FSK 信号を、C1 を介して 4 mA ~ 20 mA ループに AC 結合します。これらの信号は、正弦波または台形の波形です。R センス抵抗は低インピーダンスであり、電流ループ配線に大きい容量成分が存在する可能性もあるため、HART モデムの出力では駆動能力の高い良好なバッファが必要です。HART を伝送していない場合、バッファ出力はループに対して低インピーダンスを示すので、4 mA ~ 20 mA 信号を劣化させる可能性があります。このため、スイッチ(SW1)をバッファ出力に直列接続して、伝送を実施していないときは高インピーダンスを生成します。
SW1 が開いている場合、4 mA ~ 20 mA ループの振幅は 1 V ~ 5 Vの範囲にあります。この変化は SW1 に AC 結合されているため、スイッチの入力側で最大±4 V が観測されます。このため、スイッチには ±5 V 以上のバイポーラ電源が必要になります。代わりに、光スイッチを使用することもできます。別の方法としてトライステート・バッファを使用することもできますが、このバッファもバイポーラ電源を必要とします。また、トランス絶縁を使用する方法もあります。HART 信号の周波数が原因で、オーディオ・トランスが必要になります。このコンポーネントはかさばる可能性が高く、多くの基板面積を必要とします。
図 2 に、スペースおよびコスト削減のメリットがある、改善後の HART FSK 伝送回路の設計図を示します。この回路で、AD5700 HART モデムには、外部バッファを使用せずに±500 mV の FSK 信号を電流ループで直接駆動するための十分な駆動能力があります。

モデムが伝送を実施していないときに AD5700 の FSK 出力は、0.75V にバイアスされ、インピーダンスは 70k Ω になります。R2と R3 は、R2 および R3 = 1.7 k Ω の AC インピーダンスを通じて、0.75V という大きめのバイアスを生成します。この 1.7 k Ω と C1により形成されるハイパス・フィルタにより、HART モデムの FSK出力が 0V~ 1.5V の間で駆動された場合のみ、4mA ~ 20mA の最大入力信号(200 Ω の R センス抵抗の両端で ±16mA @ 25Hz)が発生します。これは入力全体をわずか 1.62 V のユニポーラ電源から実現できることを意味します。1.62 V は HART モデムの最小電源です。
入力インピーダンスも考慮するべき事項の 1 つで、230Ω より大きくする必要があります。これは、250 Ω の入力抵抗がすでに 50Ω と 200Ω に分割されているため、十分に大きい入力インピーダンスを確保することを目的としています。AC 入力インピーダンスは R1 + (R センス抵抗 || R2 || R3) 230Ω です。必要な場合は、0.75V のバイアスを生成する抵抗である R2 および R3 の値を大きくしてこのインピーダンスを増やすことができます。FSK 伝送パスにある加算された 50Ω は FSK 信号をある程度減衰しますが、電圧は HART 仕様の要件を満たします。
電流ループのスルーが実施されると、C1、R2、R3 に電流が流れます。4 mA ~ 20 mA のアナログ信号に多大な影響を与えないことを確認する必要があります。許容誤差が 0.1 % 未満とすると、時定数(τ)の 7 倍という値に等しくなります。このため、7 τ= 7 × R × C = 7 × (R2 || R3) × C1 = 30 ms になります。4 mA ~ 20 mAのアナログ信号の周波数は 25 Hz に制限されます。つまり、周期は 40 ms になります。この値は時定数の 7 倍より長いため、追加される電流測定誤差は常に 0.1 % 未満になります。
この改善された回路(図 2)では、バッファとスイッチは不要で、バイポーラ電源も必要ありません。これらの 3 つの要素により、従来の HART FSK 伝送回路と比べてシステムのスペースとコストを大幅に節約できます。
HART FSK の入力回路を図 3 に示します。この回路はバンドパス・フィルタを実現し、低周波アナログ信号を除去するとともに高周波干渉源に対する耐性を発揮します。ここで示しているフィルタは、AD5700 向けに特別にカスタマイズしたもので、実際に使用する HART モデムごとに異なります。このバンドパス・フィルタの特長の 1 つは、R1 によって実現される 150 k Ω 入力インピーダンスで、これは過渡現象に対して高い保護レベルを提供します。

4 mA ~ 20 mA の電流測定回路を図 4 に示します。200 Ω という高精度の R センス抵抗は、ADC が変換を実行できるように、4 mA~ 20 mA の電流信号を 0.8 V ~ 4 V の電圧信号に変換します。HART FSK 信号を除去できるように、この後段に 2 極ローパス・フィルタ R2、C1、R3、C2 を接続します。その後、この信号は ADC に入力して変換されます。

この記事で説明している回路は作成およびテスト済みで、HARTと互換性のある PLC/DCS クワッドチャンネルの電圧および電流入力(CN0364)のリファレンス回路として使用できます。この資料で説明している回路は、この基板に完全に実装されています。基板は 4 つの入力チャンネル間での HART のマルチプレクスもサポートしています。該当チャンネルをテストする場合、FSK 伝送スイッチは開いた状態、または閉じた状態のままにすることができます。開いた状態の場合、回路は図 2 の回路と等しくなります。このリファレンス設計のドキュメントは www.analog.com/jp/CN0364から無償で入手できます。ハードウェアも購入可能です。
この記事では、HART 対応のアナログ入力向けハードウェアを実装する方法について説明しました。また、AD5700 HART モデムを使用して改善された HART FSK 伝送回路についても説明しました。この改善された回路では、外部バッファやスイッチが不要で、基板スペースとコストを節約できます。また、バイポーラ電源も不要なので、スペースとコストを節約でき、電源の複雑さを軽減できます。
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