アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート2、主なレギュレータ制御方式

2017年06月19日
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要約

このアプリケーションノートは、パワーレギュレータに関する3部構成のシリーズのパート2で、主なレギュレータ制御方式であるパルス周波数変調(PFM)、ヒステリシス、および固定オン時間トポロジー(COT)について解説します。その後、スキップモードなどの2次的な制御について簡単に解説します。

概要

パート1:デューティサイクルと負荷ユーセージの重要性について簡単に概説します。主として、レギュレータの制御方式、それらのタイプ、重要なパラメータ、および補償方式に焦点を当てます。最後に、内蔵FETと外付けFETの違いについて簡単に説明します。

パート2:固定オン時間、ヒステリシス、およびパルス周波数変調(PFM)トポロジーを取り入れた、電圧モード(VM)と電流モード(CM)制御以外のトポロジーについて解説します。また、アプリケーション用にこれらのレギュレータタイプを選択する方法を説明します。

パート3:締めくくりとして、アプリケーションに最適なレギュレータの選択とシミュレーションの方法を説明します。

はじめに

1つの製品ですべてに対応することはできません。その正反対です。半導体企業は個々の市場セグメントを対象として、最終製品の要件に応じてレギュレータのパラメータを調整します。明らかに、レギュレータの適切な選択の決定にはアプリケーションに対する理解が役立ちます。

「アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート1」では、電流モード(CM)と電圧モード(VM)という、パルス幅変調(PWM)コンバータ用の2つのレギュレータ制御方式について解説しました。また、これらの制御モード間の重要な違いについても解説しました。そのアプリケーションノートで、適切なレギュレータの選択にとって製品アプリケーションが非常に重要であることを説明しました。

パート2では、一般的に使用されている他のレギュレータ制御トポロジーについて検討し、それぞれのアプリケーションの利点を説明します。VMおよびCM PWM制御以外に、最近のレギュレータはその他の主な制御方式であるパルス周波数変調(PFM)、ヒステリシス、および固定オン時間トポロジー(COT)を取り入れています。それぞれについて解説したあと、スキップモードなどの2次的な制御方式について簡単な説明を付け加えます。

その後、パート3では、設計者がアプリケーションに最適なレギュレータを選択し、周囲の部品を最適化するために役立つ基本的な式を提供します。

より優れた全体的効率を提供するPFMコンバータ

PFMコンバータ1は、代替となるDC-DCアーキテクチャの1つです。この制御方式は、コンバータの負荷に直接関連してコンバータのスイッチング周波数を変化させます。そのため、このアーキテクチャはPFMと呼ばれます。PFMコンバータは軽負荷時にPWMベースのコンバータより大幅に効率的であるため、多くのポータブルアプリケーションはPFMモードを使用してバッテリ寿命を最大化します。

電磁干渉(EMI)は、PWMまたはPFMコンバータを選択する場合の重要な考慮事項です。PWMモードではスイッチング周波数は固定のため、コンバータのスイッチングによるEMIは予測可能かつ一定であり、多くの場合はフィルタ可能です。また、多くのPWMコンバータは、多くの場合アプリケーションボード上に存在する他の重要な信号周波数との衝突の緩和に役立つ、外部の、周波数同期入力も提供します。アプリケーションが2つ以上の電圧を必要とする場合、すべてのスイッチングコンバータを同一周波数で動作させることができます。この方式は、複数のコンバータが同一の周波数でスイッチングせず、位相が完全に一致していない場合に本質的に発生するビート周波数を除去します。PWMトポロジーと対照的に、PFMの場合はスイッチング周波数が可変のため、EMIの制御が大幅に困難です。そのため、敏感なオーディオまたはRF低ノイズ回路に給電する場合、PFMモードは最適な選択肢ではない可能性があります。しかし、広範囲の出力負荷にわたって効率を最適化する必要がある場合、PFMは優れた選択肢になります。

最後に注意すべき点として、多くのコンバータはPFMまたはPWMのいずれかのモードでの動作を条件としています。ロジック制御のモード端子で、または内部の回路が自動的にこれらの2つのモードを負荷電流に基づいて切り替えます。

PFMコントローラの動作

ステップアップPFMコントローラ1では、2つのワンショット回路がDC-DCコンバータの出力からの負荷電流に基づいて動作します。PFMは2つのスイッチング時間(最大オン時間と最小オフ時間)および2つの制御ループ(電圧安定化ループと最大ピーク電流、オフ時間ループ)に基づいています。また、PFMは可変周波数の制御パルスによっても特長付けられます。コントローラの2つのワンショット回路は、TON (最大オン時間)およびTOFF (最小オフ時間)を定義します。TONのワンショット回路は、第2のワンショットであるTOFFをアクティブ化します。VOUTが安定化の範囲外であることを電圧ループのコンパレータが検出すると、TONのワンショット回路がアクティブ化されます。パルス時間は最大値に固定されています。図1に示すように、電流制限を超えたことを最大ピーク電流ループが検出した場合、このパルス時間を短縮することができます。PFMコントローラの自己消費電流(IQ)の消費量は、そのリファレンスおよびエラーコンパレータのバイアスに必要な電流(数十µA)のみに限られます。これと極めて対照的に、PWMコントローラの内部発振器は継続的にオンにする必要があり、数mAの消費電流につながります。

図1. パルス周波数変調(PFM)制御回路。このトポロジーでは、電流制限を超えたことを最大ピーク電流ループが検出した場合、パルス時間を短縮することができます。 図1. パルス周波数変調(PFM)制御回路。このトポロジーでは、電流制限を超えたことを最大ピーク電流ループが検出した場合、パルス時間を短縮することができます。

同期整流ステップダウンコンバータはデュアルモード動作を備えており、設計者はPWMまたはPFMモードを選択して広範囲の負荷電流にわたって効率を最適化することができます。2つのコンバータの例であるMAX17503およびMAX17504は、代替のPFM制御方式を使用しますが、より軽負荷での効率を向上させる好例でもあります。たとえば、図2はPFMおよびPWMモードの効率のグラフを示します。PFMモードで負荷電流が100mA以下の場合、同じ負荷電流のPWMモードに対して大幅に効率が向上することがわかります。12Vの電圧入力および+5Vの電圧出力の場合、効率はPWMモードの81%に対してPFMモードでは92%に近くなることに注意してください。

図2. MAX17503ステップダウンコンバータのPWMとPFMの効率のグラフ。PFMモード(右)で負荷電流が100mA以下の場合、同じ負荷電流のPWMモードに対して大幅に効率が向上することに注意してください。 図2. MAX17503ステップダウンコンバータのPWMとPFMの効率のグラフ。PFMモード(右)で負荷電流が100mA以下の場合、同じ負荷電流のPWMモードに対して大幅に効率が向上することに注意してください。

PFMの利点をまとめると、以下のとおりです。

  • 非常に優れた低電力変換効率
  • ループ補償回路が不要
  • より低いソリューションコスト

PFMの欠点は、以下のとおりです。

  • 可変周波数のため、放射のフィルタがより困難な可能性があります。低ノイズの、敏感なアナログ回路がある場合、このモードは適切でない可能性があります。
  • 出力リップルがPWMモードより高くなる場合があります。

予測可能な動作を提供するヒステリシスコンバータ

ほとんどのコンパレータベースの回路と同様、ヒステリシスは予測可能な動作を維持し、スイッチのチャタリングを防止するために使用されます。図3のヒステリシスコンバータ2は、コンバータによって検出された出力電圧の変化に基づいてパワーFETをオンまたはオフにします。このアーキテクチャは、「リップルレギュレータ」または「バンバンコントローラ」と呼ばれることもあり、理想的設定ポイントのすぐ上または下に向けて出力電圧を継続的に往復させます。ヒステリシスアーキテクチャは変化するため、パワーFETへの駆動信号は回路の動作状態に基づきます。スイッチング周波数は一定ではありません。したがって、ヒステリシス方式はPFMアーキテクチャの一種です。

図3. ヒステリシス制御コンバータは、コンバータによって検出される出力電圧の変化に基づいてパワーFETをオンまたはオフにします。 図3. ヒステリシス制御コンバータは、コンバータによって検出される出力電圧の変化に基づいてパワーFETをオンまたはオフにします。

ヒステリシス制御の利点は、以下のとおりです。

  • ループ補償は不要です(PFMトポロジーと同様)。ループ帯域幅はスイッチング周波数自体に近くなります。
  • クロックまたはエラーアンプが不要のため、動作電流が非常に低くなります。このタイプのレギュレータは、バッテリ給電アプリケーションに最適です。
  • ヒステリシスコンバータは低コストです。

ヒステリシス制御の欠点は、以下のとおりです。

  • 固定クロックがないため、PWM制御に比べてスイッチング周波数の予測が困難です。このタイプのレギュレータは、敏感なアナログ回路を備えたアプリケーションには適しません。
  • より低ESRの出力コンデンサを使用する場合、フィードバック端子の電圧リップルを増大させるために図3のR1の両端にフィードフォワードコンデンサが必要になる場合があります。

周波数を一定に保つヒステリシス固定オン時間(COT)制御

ヒステリシスコンバータの主な欠点は可変周波数だということを思い出してください。ヒステリシスを備えたコンパレータを使用するため、安定したスイッチングを確保するにはフィードバック端子に十分な電圧リップルが存在する必要があります。基本的に、コンパレータのフィードバック端子のリップル電圧は、コンパレータのヒステリシス幅より大きい必要があります。さらに、出力リップル電圧を高めるためにより高ESRのコンデンサが必要になる可能性があり、または図3のもののようなフィードフォワードコンデンサを追加する必要があります。周波数を可能な限り一定に維持するために、固定オン時間(COT)発生器が追加されます。図4に示すように、このCOT制御モードでは、TONの時間は入力電圧に反比例します。

COT発生器は、このタイプのコンバータを大幅に拡張し、広範囲の入力電圧にわたって一定の周波数を維持することを可能にします。しかし、この発生器では、コンパレータのスイッチに寄与するためにフィードバック端子にリップルを追加する必要があることは解決しません。ヒステリシス制御にCOTを追加することで、設計エンジニアはスイッチング周波数をより正確に予測することが可能になります。また、COT制御によってEMIに対するフィルタをより最適化することが可能になり、低コストおよび優れた過渡応答という利点が提供されます。COT制御を備えた最新のコンバータは、ローサイドMOSFETの電流を検出することによってリップル電圧も生成します。COT制御は次にこの電圧を内部フィードバック電圧または内部電圧リファレンスに足します。COT制御技術によって生じる利点は重要です。リップル電圧に対する要件がなくなり、低ESRのセラミックコンデンサを使用することが可能になります。

図4. 固定オン時間(COT)ヒステリシスコンバータは、周波数をできる限り一定に維持します。 図4. 固定オン時間(COT)ヒステリシスコンバータは、周波数をできる限り一定に維持します。

最新の同期整流ステップダウンコンバータには、ヒステリシスPWM制御方式に最小オン時間制御を採用しているものがあります。図3の場合と同様に、やはりヒステリシスコンパレータが使用されます。この制御方式の動作は、非常に簡素です。出力電圧が安定化スレッショルド以下の場合、エラーコンパレータはハイサイドスイッチをオンにすることによってスイッチングサイクルを開始します。このスイッチは、最小オン時間が経過し、出力電圧が安定化スレッショルド以上になるかまたはインダクタ電流が電流制限スレッショルド以上になるまでオンのままです。ハイサイドスイッチがオフになると、最小オフ時間が経過し、出力電圧が再び安定化スレッショルドを下回るまでオフのままです。オフ時間には、ローサイドの同期整流器がオンになり、ハイサイドスイッチが再びオンになるかまたはインダクタ電流がゼロに近づくまでオンのままです。図5に示すように、内蔵の同期整流器によって外付けショットキーダイオードが不要になり、効率の向上に貢献します。

図5. MAX8640Y/MAX8640ZステップダウンコンバータのヒステリシスPWM制御 図5. MAX8640Y/MAX8640ZステップダウンコンバータのヒステリシスPWM制御

軽負荷時の効率を最適化するスキップ/パワーセーブモード

パルススキップモードは、一部のPWMコンバータアーキテクチャとともに使用される2次的な制御モードで、パワーセーブモードとも呼ばれます。このモードは、ポータブルまたは低電力アプリケーションでの軽負荷時の効率の最適化に特に有効です。

PWMコンバータが中~大負荷電流で動作する場合、臨界コンダクションモードでの動作になり、インダクタ電流がゼロに達することはありません。負荷電流が減少すると、コンバータは断続コンダクションモードに切り替わり、インダクタの電流はインダクタの値に応じてゼロまで減少します。さらに、非常に軽負荷では、コンバータはスキップまたはパワーセーブモードに移行します。この場合、コンバータは内部発振器を断続的にオフにし、出力安定化の維持に必要な場合にのみ再イネーブルします。そのため、「スキップ」およびパワーセーブと呼ばれます。この動作によってスイッチング周波数がさらに変調されるため、スキップまたはパワーセーブモードはPFMモードの1つの形式とされる場合もあります。

最新のDC-DCコンバータには、PWMまたはスキップモードをユーザーが選択し、消費電流を削減して軽出力負荷での効率向上を実現することができるものがあります。スキップモードでは、インダクタ電流がスキップモード電流スレッショルドを下回るとハイサイドおよびローサイドMOSFETがオフになります。そのため、インダクタ電流が負になることはありません。クロックサイクルのオフ時間にインダクタ電流がこのスレッショルドを下回った場合、ローサイドMOSFETがオフになります。次のクロックサイクルで、出力電圧がセットポイント以上の場合、PWMロジックはハイサイドとローサイドの両方のMOSFETをオフのままにします。出力電圧が設定ポイント以下の場合、PWMロジックは最小固定オン時間にわたってハイサイドMOSFETをオンにします。こうしてサイクルがスキップされ、スイッチは必要に応じて負荷に給電するように制御されます。

図6の効率のグラフは、200mA以下でのスキップモードの効率が、同じ条件下のPWM動作モードに比べて向上することを示しています。

図6. MAX15053ステップダウンスイッチングレギュレータのPWMとスキップモードの効率のグラフ。スキップモードの効率は200mA以下でPWMモードより向上することに注意してください。 図6. MAX15053ステップダウンスイッチングレギュレータのPWMとスキップモードの効率のグラフ。スキップモードの効率は200mA以下でPWMモードより向上することに注意してください。

まとめ

最適なレギュレータの選択に関するシリーズのこの第2のアプリケーションノートでは、複数の制御トポロジー(PFM、ヒステリシス、COT、およびスキップモード)について解説し、比較しました。これらのトポロジーにはさまざまな違い、利点、および欠点がありますが、バッテリ動作時間と低電力を最適化する必要があるポータブル機器で明確な利点を提供することわかりました。

パート1でも述べたように、電源に関して非常に詳しく検討する記事や教科書が数え切れないほど存在します。また、このアプリケーションノートシリーズの範囲を超えるその他の制御トポロジーも数多く開発されてきました。ポイントオブロードパワーマネージメントを設計しようとするエンジニアにとって、パート1とこのパート2のアプリケーションノートが良い出発点となるよう願っています。コンバータに関する最後のアプリケーションノートも、興味深いものになると思います。

次のアプリケーションノート「アプリケーションに最適なレギュレータの選択:パート3」では、設計者が最適なレギュレータを選択し、周囲の部品を最適化して全体的レギュレータソリューションを実現するために役立つ基本的な式を提供します。また、上記の両方のアプリケーションノートで解説した内容を示す、製品の選択およびシミュレーションの例も提供します。

参考文献
  1. Javier Monsalve Kägi、Jose Miguel de Diego (工学高等技術学校、ビルバオ、スペイン)、Jose Ignacio Garate (工学高等技術学校、ビルバオ、スペイン)、Maxim Integratedアプリケーションノート4326 「超低消費電流の絶縁型パルス周波数変調(PFM) DC-DCコンバータによる待機電力の削減」 (https://www.maximintegrated.com/jp/AN4326)
  2. Upal Sengupta、「PWM and PFM Operation of DC/DC Converters for Portable Applications」 (http://www.energie-und-technik.de/fileadmin/media/whitepaper/files/PWM_andf_PFM_operation_of_DC-DC_converters_for_portable_applications_.pdf)

このアプリケーションノートは、2015年2月にHOW2POWER.comに掲載されました。

著者について

Don Corey

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