ADC用のドライバに、電圧リファレンスから給電することは可能なのか?

2013年07月11日
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LTC2378ファミリ」は、分解能が16/18/20ビットの逐次比較型A/Dコンバータ(SAR ADC)です。これらの製品は、最大5Vの外部リファレンス電圧を使用することで動作します。リファレンス電圧が5Vである場合、ADCのアナログ入力ピンに印加できる最大電圧も5Vになります。そして、アナログ入力信号をADCに入力するためのドライバとしては、電源電圧が5Vでレールtoレールの出力に対応するオペアンプ(例えば差動型の「LTC6362」など)の使用を想定することになるでしょう。そうすれば、ADCの入力をオーバードライブしたり、入力部を損傷させたりすることはありません。したがって、この選択は理に適っているように思われます。ただ、具体的な回路構成については検討の余地があります。

まず、ADCのコア部には2.5Vの電源が必要です。また、電圧リファレンス(「LTC6655-5」など)には5Vよりも高い電源電圧が必要になります。実際の設計では、電源レールの数をなるべく少なく抑えたいケースが多いでしょう。その場合、オペアンプ(ADC用のドライバ)に給電するために、もう1つのアナログ電源レールを用意するのは避けたいはずです。電圧リファレンスの5V出力をオペアンプの給電にも使用できれば、このニーズを満たすことができます。すぐ近くにちょうどよい電圧を生成する電圧リファレンスが存在するのですから、そのように考えるのは当然のことです。しかも、電圧リファレンスとしてLTC6655などを選択すれば、ノイズ性能が非常に優れた出力が得られることになります。

図1に示したのは、上記のような考えに基づいて構成した回路です。LTC6655-5には、ボードの入力電圧(この場合、9Vに設定した実験用の電源)から給電します。LDOレギュレータ「LT1763」は、ADCのコア部に2.5Vの電圧を供給するために使用しています。差動オペアンプであるLTC6362には、5Vのリファレンスから電力を供給しています。結論として、この回路は正常に機能します。入力部で何か問題が起きたとしても、ADCがリファレンス電圧を超える電圧で駆動されることはありません。S/N比としては、想定どおりの102dBという値が得られます。20ビットのADCの理論値をわずかに下回りますが、その原因はオペアンプと抵抗からある程度のノイズが生成されることにあります。なお、オペアンプとADCの間の抵抗とコンデンサの値を調整すれば、S/N比と帯域幅のトレードオフを実施することが可能です。

図1. ADC用ドライバに電圧リファレンスから給電する回路

図1. ADC用ドライバに電圧リファレンスから給電する回路

アプリケーションによっては、1Mbps、20ビットに対応するデータ・アクイジション用の回路が必要なケースがあるでしょう。図1の回路は正にこのニーズに対応するものであり、小型かつ低ノイズで適切な機能を提供します。ただ、この20ビットのADCは驚くほど優れた性能を提供します。その積分非直線性(INL)誤差は、最大でも2ppmです。この性能をフルに活かしたい場合には、図1の回路についてより詳しく検討する必要があります。LTC6362は、電圧リファレンスから電源電流を引き込みます。その電流の大きさは、アナログ電圧信号に応じて変化します。なぜなら、電流は主として1kΩの帰還抵抗を通って流れるからです。その電流の大元は、オペアンプの電源ピン、つまりは電圧リファレンスの出力です。ここで電圧リファレンスの出力インピーダンスはゼロではありません(データシートでは負荷レギュレーションとも呼ばれています)。信号に依存する電源電流がリファレンスの出力インピーダンスと結びつくと、リファレンスの電圧が信号に依存して変化することになります。一方、ADCはリファレンス電圧に対する入力電圧の比率を検出してデジタル化を行います。この回路では、入力電圧が高くなるとリファレンス電圧が低くなるので、その比率は非線形に変化してわずかな歪みが生じるはずです。そこで、2kHzの正弦波入力を使用してこの回路のINLを測定してみました。その結果、INLの最大値は約±16ppmとなりました。上述したように、LTC2378-20のINLは最大±2ppmなので、それと比べれば大きな値です。しかし、16ビットのアプリケーションの大半では、ほとんど目立たない値だと言えます(±1LSB)。また、入力周波数を200Hzまで下げると、LTC6655の出力インピーダンスは低下し、INLは±4ppmまで向上します。

上述した内容をまとめます。入力信号の周波数が中程度で、16ビットまたは18ビットの性能が求められる場合には、リファレンス電圧から直接オペアンプに電源を供給することができます。それにより、電源レールの数を削減することが可能になります。しかし、20ビットのADCの直線性性能をフルに活用したい場合、特に入力周波数がやや高い場合には、リファレンス電圧が信号源によって変調されないようにしなければなりません。つまり、オペアンプにはリファレンスとは別の電源を用意する必要があります。

著者について

Kris Lokere
Kris Lokereは、シグナル・チェーン製品の戦略的アプリケーション・マネージャで、リニア・テクノロジーの買収に伴いアナログ・デバイセズに入社しました。複数の製品ラインの技術を組み合わせるシステムを設計することに取り組んでいます。過去20年間に、オペアンプの設計、エンジニアリング・チームの構築、製品ライン戦略の管理に従事してきました。複数の特許を保有し、また、ルーヴェン・カトリック大学でM.S.E.E、バブソン大学でM.B.Aの学位を取...

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