要約
冷却ファンは、CPUやFPGA、GPUなどのハイパワーチップやハイパワーシステムの温度管理に欠かせない重要部品です。一方、冷却ファンから、ユーザーが気になるほどの騒音が発生してしまうこともあります。温度を計測しそれに応じてファンの回転速度を調節するため、低温時はファンの回転速度とノイズレベルを最小にすることができますが、最悪条件下では損傷を防ぐため増大します。このアーティクルでは、冷却ファンの回転スピードを自動的に制御する手法を2つ紹介します。
一般に高速チップの温度は高くなります。高速になるほど温度が高くなるのです。最新の高速ディジタルチップはプロセス幅が小さく低電圧で動作可能で、温度という面では若干の助けになっている面もありますが、電源電圧の低下よりもトランジスタ数の増加のほうがはるかに速いという事実があります。つまり、消費電力は増加の一途なのです。
チップ温度が上昇すると、性能は劣化します。パラメータはシフトし、最大動作周波数は低下し、タイミングも狂ってしまいます。これをユーザーから見ると、製品が正しく動作しなくなることを意味します。つまり高速チップが冷却を必要とする理由は、できる限りさまざまな環境条件のもとで、できる限り長い時間、製品が性能を発揮できるようにするためです。このパラメータ仕様を満たす高速チップの最高許容温度は、製造プロセスとチップ設計(チップがどこまで「ぎりぎりの」動作をしているか)などによって異なります。ダイ温度の限界は、通常、+90℃~+130℃程度です。
性能が劣化し始める程度まで温度が高くなると、チップに壊滅的なダメージが発生します。ダイ温度の上限は+120℃を超えることが多く、プロセスやパッケージ、高温にさらされる時間などによっても変化します。つまり、性能が劣化したりチップが修復不可能なダメージを受ける程度の高温にならないように、高速チップを冷却する必要があるのです。
高速チップの冷却では、一つの方法だけに頼ることはほとんどなく、ふつうは複数の方法を組み合わせ、性能と信頼性を高めています。よく利用されるのは、ヒートシンクやヒートパイプ、冷却ファン、クロックスロットリングです。最後の冷却ファンとクロックスロットリングは、熱問題は解決できる一方で他の問題を引き起こすこともある方法です。
冷却ファンは高速チップの温度を大幅に下げることができますが、同時に相当な騒音が発生します。フルスピードで回転する冷却ファンのノイズを嫌う消費者も多く、政府関係機関も作業環境における長期的な騒音の影響を懸念するようになってきました。冷却ファンのノイズは、温度に応じて冷却ファンの回転スピードを調節すれば、大幅に低減することができます。低温時にはゆっくりと回し(静かになり)、温度が上昇したら回転スピードを上げればいいのです。
クロックスロットリングとは、クロック速度を下げて発熱量を減らす技術ですが、この方法ではシステム性能自体が低下します。クロックのスロットリングを行っても正常に動作しますが、動作速度は低下します。高性能システムにおけるスロットリングは、どうしても必要になったとき、つまり、機能劣化が始まる温度に近づいたときにのみ行うべきものです。
温度によって冷却ファンの回転スピードやクロックスロットリングを調整するためには、まず、高速チップの温度を測る必要があります。これは、チップに温度センサーを取りつければ行うことができます。取りつける場所は、チップに直接、すぐ横、チップ下、ヒートシンク上など、状況に応じてさまざまな場所が考えられます。このようにして計測した温度は高速チップの温度と一定の関係を持ちますが、チップ自体の温度よりはかなり低く(最大で30℃ほど低くなる)、その差は発熱量が大きくなるほど大きくなります。つまり、回路基板やヒートシンクの温度から、高速チップのダイ温度を推測する必要があります。
このような問題を解消した高速チップもあります。CPUやグラフィックス用チップ、FPGAなどの高速ICには、ダイ上に「サーマルダイオード」を持つものがあります。サーマルダイオードとはダイオード接続したバイポーラトランジスタで、これにリモートダイオード温度センサーを接続すれば、高速ICのダイ温度を直接、高精度に計測することができます。このようにすれば、測定対象ICのパッケージ外で温度を測定するときのような大きな温度勾配の影響を受けなくなるだけでなく、数秒から数分にも達する伝熱の時間定数の影響もなくなり、ダイ温度変化にすばやく対応できるようになります。
冷却ファンを制御するためには、設計段階でいろいろと決めなければならないことがあります。まず最初に、冷却ファンの回転スピードを調整する方法を決める必要があります。ブラシレスDCファンのスピードは、電源電圧を調整することがもっとも一般的な方法になります。この方法は、定格値の40%程度の電圧まで問題ありませんが欠点もあります。リニアなパスデバイスを使って、電源電圧が変化すると、パスデバイスは電力を消費し、効率が下がります。ワーストケースのパスデバイスの消費電力は、冷却ファンのフルスピードの約50%で生じ、フルスピード消費電力の約25%になります。ファン用のスイッチモード電源を使うとより良好な効率が得られますが、コストと部品数が増します。
別の方法として、30Hz程度の低周波のPWM信号を電源として冷却ファンに供給するという方法があります。デューティサイクルの変更によって冷却ファンの回転スピードを調整します。これは、小型で安価なパストランジスタ1つで実現することができます。また、パストランジスタによってスイッチ動作させるため、効率も高くなります。ところが欠点もあり、電源がパルス性となるため、冷却ファンのノイズが大きくなる傾向があります。PWM波形が持つ急峻なエッジが冷却ファンの機械的構造を動かすとき、設計の悪い拡声器のように雑音が出てしまいます。
第3の方法としては、スピード制御入力を備えた冷却ファンの使用です。このような冷却ファンは「4線」(グランド、電源、タコメータ出力、PWM速度制御入力)ファンとよく呼ばれ、ロジックレベルのPWM信号でこの速度を制御することができます。このPWM信号は通常20kHz~50kHzの範囲で、結果生じるファン速度はデューティサイクルとおよそ比例します。
もう一つのファン制御設計の選択肢は、制御のために冷却ファンの回転スピードを測定するかどうかです。電源とグランドに加え、多くの冷却ファンはファン制御回路への「タコメーター」信号を提供する3線が利用できます。タコメータ出力はファンの各回転に特定数のパルス(例えば2パルス)を生じます。ファン制御回路の中にはこのタコメータ波形をフィードバック信号として使用し、ファンの電圧やPWMデューティサイクルを所望のRPMを出すように調整することができます。同様の方法では、あらゆるタコメータ信号を無視し、単にファン駆動を調整して、速度フィードバックのない状態でスピードを上げ下げします。この方法を用いた速度制御の精度は落ちますが、低コストでフィードバックループが少なくとも1つ減る分、制御システムをシンプルにすることができます。
システムによっては冷却ファン回転スピードの変化率を一定範囲内に抑えなければならない場合もあります。これは、ユーザーがすぐ横にいるような場合に、特に問題になる点です。環境によっては、温度が変化すると冷却ファンのスイッチを単純にオンオフしたり、回転スピードを上げ下げすればいいこともあります。しかし、ユーザーがすぐ横にいるようなケースでは、冷却ファンのノイズレベルが急激に上下すると気になるものです。ファン駆動信号の変化率を一定範囲内(1%/秒など)におさえると、冷却ファン制御自体が持つ騒音効果を最小限に抑えることができます。冷却ファンの回転スピードを変化させても、ユーザーが気づかなくなります。
設計時には、冷却ファンの制御特性も十分に考慮しなければなりません。よくあるパターンでは、冷却ファンは、まず、温度が一定以下のあいだは止まっており、温度が設定値を超えるとゆっくりと回転しはじめます(フルスピードの40%など)。温度の上昇に伴い冷却ファンの駆動も温度と直線的に増加し、最後はフルスピードで回転するようになります。最適な回転スピードの増加速度は、システム要件によって異なります。傾斜をきつくすればチップ温度はより一定になりますが、発熱量が変化したときの冷却ファン回転スピードの変化は大きくなります。高性能をめざす場合には、クロックスロットリングが始まる程度にダイの温度が上がる前に冷却ファンがフルスピードとなるように、回転開始温度と制御スロープを設定する必要があります。
冷却ファン制御回路としては、さまざまな方法が考えられます。リモート温度センサーの中には、最大5チャネルのセンサーを持ち、高速チップのダイ温度を測定し、温度データをマイクロコントローラに送ることができるものも少なくありません。ファンタコメータのモニタリングが可能なマルチチャネルファン速度レギュレータで、外部マイクロコントローラからのコマンドに応じて、ファンRPMや電源電圧を高い信頼性で制御することが可能になります。シンプルで低コストな形式がよければ、温度検出と自動冷却ファン制御が一つのパッケージに収められたICもあります。センサー/コントローラはクロックスロットリングやシステムシャットダウンに使える過昇温度検出機能を持つものが多く、過熱による高速チップの破壊を防止することができます。
代表的なファン速度制御ICの例を図1、図2、図3にいくつか示します。図1のMAX6620は、外付けパストランジスタを使って最大4つのファン用のDC電源電圧を生成することでファン速度を制御します。MAX6620はタコメータフィードバックを使ってファン速度を選択された値に強制します。図2では、MAX6653は低周波PWM信号でファンの電源を変調することで単一ファンを制御します。MAX6653も温度を検出し、PWMデューティサイクルをこの温度に従って調整します。図3では、温度を測定し、温度に従って最大2つのファンを制御するMAX6639を紹介しています。MAX6639のPWM出力周波数は、25kHzにも高くなることができ、図に示すように4線式のファンを制御することができます。MAX6639は、測定温度の関数としてファンのRPMを制御します。
図1. ここに示すMAX6620は外付けパストランジスタを使った4チャネルリニアファン速度コントローラで、ファンに可変電力を供給します。MAX6620は、ファンからのタコメータ信号を監視し、電源電圧を調整するため、所望のタコメータ周波数が得られます。
図2. PWM出力の温度センサーおよび自動冷却ファン回転スピードコントローラ。冷却ファンの回転スピードは、温度によって自動的に制御されます。クロックスロットリング出力とシステムシャットダウン出力があり、高速チップが破壊温度に達することを防止します。CRIT0ピンとCRIT1ピンを電源側またはグランド側に接続することによって、デフォルトのシャットダウン温度スレッショルドを選択することが可能で、システムソフトウェアがハングアップしてもチップを保護することができます。
図3. 2つの4線式ファンを制御するMAX6639。4線式ファンを制御する際、PWM出力は25kHzの出力周波数になります。MAX6639は温度を2つ測定し、これらの測定温度に従ってファンRPMを制御可能です。
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