アナログ乗算器がハイサイド電流検出測定の精度を向上する

2008年10月14日
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要約

このアプリケーションノートは携帯機器およびノートブックコンピュータのバッテリの充電および放電電流の測定用のハイサイド電流検出アンプに内蔵されたアナログ乗算器の使用方法を示します。提示した回路はADCのリファレンス電圧をアナログ乗算器入力の1つに供給して測定精度を高めます。

はじめに

ハイサイド電流検出アンプは信頼性と精度が重大な関心事であるような広い範囲のアプリケーションで使用されます。ノートブックコンピュータではこれらのデバイスはバッテリの充電電流と放電電流、および熱と消費電力を制御するために電源オフを必要とするUSBポートやその他の多くの電源レイルの電流を監視します。ハイサイド電流検出アンプは携帯型民生用機器においてLi+バッテリの充電および放電電流を監視するために使用されます。これらのアンプは車載用アプリケーションにおけるバッテリ電流の監視だけでなく、モータ制御またはGPSアンテナの検出を実行することも可能です。最後に、基地局ではハイサイド電流検出アンプはパワーアンプの電流を監視します。

多くのアプリケーションでは、ハイサイド電流検出アンプはアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)とじかにインタフェースします。これらのADCにはフルスケールの入力レンジの決定に外部リファレンス電圧を使用するものがあり、測定の精度はそのリファレンス電圧の精度に依存します。

本アプリケーションノートは広い範囲のアプリケーションでバッテリの充電および放電電流を測定するためにハイサイド電流検出アンプに内蔵されたアナログ乗算器を使用する方法を示します。この設計法ではADCのリファレンス電圧をアナログ乗算器入力の1つに供給して測定精度を高めます。

ハイサイド 対 ローサイドの電流測定技術

電流測定には良く知られた2つの設計法があります:ハイサイドおよびローサイド方式です。ハイサイド電流測定方式は電圧源(例、バッテリ)と負荷の間に直列に接続する検出抵抗を採用します。これに比較して、ローサイド方式で行われる測定はグランド経路と直列の検出抵抗を採用します。ローサイド方式にはハイサイド方式にはない2つの大きな欠点があります。最初に、ローサイド設計の場合は負荷が誤ってグランドに短絡されると、電流検出アンプはバイパスされて、短絡を検出することができません。2番目にローサイド方式はグランド経路に望ましくない抵抗が生じて、分割グランドプレーンが作られます。ハイサイド方式には1つの欠点があります:電流検出アンプは起こり得る高電圧のコモンモード入力に耐えることができなければなりません(高電圧電源の大きさに依存します)。オペアンプがグランド検出能力のあるコモンモード入力を備えていれば、ローサイド方式は単純なオペアンプによって実現可能です。ハイサイド方式は、通常、電流検出アンプを基本に設計されます。

ハイサイド電流検出アンプによる電力測定

MAX4211はアナログ乗算器を備えたハイサイド電流検出アンプです。図1に示すように、このデバイスは負荷に供給される電力を測定します。負荷に供給される電力は負荷電圧と負荷電流の積として定義されます。ハイサイド電流検出器は負荷の電流に比例する電圧出力を提供します。この電圧はアナログ乗算器に供給されて、乗算器の他方の入力はじかに負荷の電圧を検出します。アナログ乗算器の出力は負荷の電力に比例する電圧になります。

Figure 1. In this design the MAX4211 multiplies load current and load voltage to provide an analog output voltage proportional to the power consumed by a load.
図1. この設計では、MAX4211は負荷電流と負荷電圧を乗算して、負荷に消費される電力に比例するアナログ出力電圧を提供します。

ハイサイド電流検出アンプ内のアナログ乗算器の他の用法

アナログ乗算器には他の用法があります。アナログ乗算器の他方の入力を負荷の電圧に接続する代わりに、それをADCの外部リファレンス電圧に接続します。この設計では、アナログ乗算器は電力を測定するのではなく、電流検出アンプの電圧出力をADCリファレンス電圧に関係付けます。

図2はMAX4211がバッテリの充電および放電電流を測定するアプリケーションを示しています。電圧出力のPOUTは入力電圧レンジが0~VREFの16ビットADCに供給されます。ここで、VREFは外部の電圧レギュレータによって供給され、これは1.2V~3.8V (このアプリケーション例では3.8V)にしてください。アナログ乗算器の入力は0~1Vの電圧を受け取るため、2つの抵抗R1とR2は3.8Vのリファレンス電圧を分圧します。R2 = 1kΩでR1 = 2.8kΩと仮定すると、VIN = 1Vとなります。MAX4211の利得は25であり、したがって検出電圧範囲(VSENSE)は0~150mVになり、このためPOUTとIOUTの両方に0~3.75Vの出力電圧を発生します(負荷に流れる電流に比例)。

Figure 2. In this design the MAX4211 uses an ADC with external reference voltage to measure the battery charge and discharge currents.
図2. この設計では、バッテリの充電および放電電流を測定するために、MAX4211は外付けリファレンス電圧を備えたADCを使用します。

図3は内部電圧リファレンスを備えたADCの場合の同じアプリケーションを示します。ここに提示したアプリケーションはADCの電圧リファレンスが内部または外部の場合に適用されます。

Figure 3. In this design the MAX4211 uses an ADC with internal reference voltage to measure the battery charge and discharge currents.
図3. この設計では、バッテリの充電および放電電流を測定するために、MAX4211は内部電圧リファレンス電圧のADCを使用します。

電流検出アンプのIOUT出力ではなく、POUT出力を使用すると次の利点があります:ADCに供給される信号(これは負荷電流に比例します)はVREF電圧によってスケールされます。POUT出力を使用することは電圧リファレンスに要求される精度要件の緩和が可能であることを注目してください。電圧リファレンス要件が緩和されるのはADCによって作り出されるディジタルコードがその入力信号とそのリファレンス電圧(これはフルスケール値を表します)間の比に依存するからです。POUT出力がリファレンス電圧の直接関数であるため、ADCによる測定は原理的にはリファレンス電圧の精度に関係しません。

しかし、IOUTがADCに接続されたとしたら、ADCはリファレンス電圧のどのような誤差もフルスケール誤差と見なします。下に示す2つの式はADCのフルスケールに対するADC入力の比を表し、その概念を示しています:

POUT/VREF = ILOAD × RSENSE × 25 × VREF × R2/(R1 + R2)/VREF =
ILOAD × RSENSE × 25 × R2/(R1 + R2)
[式1]
IOUT/VREF = ILOAD × RSENSE × 25/VREF [式2]

POUTを使用する式1はVREFの精度に依存しません。IOUT出力を使用する式2はVREFの精度の逆関数の誤差を生じます。

図2と図3に示すシステムの総合精度は多くの要素に依存します:抵抗の許容差、アンプの利得誤差、電圧オフセットとバイアス電流、リファレンス電圧精度、ADC誤差、そしてこれらのすべての温度ドリフトです。図2と図3に示したソリューションはMAX4211のアナログ乗算器を使用することで、誤差原因の1つであるリファレンス電圧の不正確さを排除してシステムの精度を高めます。

VREFの精度に影響する可能性がある少なくとも3つのソースがあります:

  1. 初期DC誤差(公称値のパーセント値)
  2. 負荷接続によるVREF値の変化
  3. 温度によるVREF値の変化
図4は上に掲げた2番目の誤差源を示します:VREFに重負荷が接続されるとその値は負荷の増加に伴い3.8Vから1.2Vに低下します。POUTはVREFの低下特性に一致して、それに比例して変化します。

Figure 4. Data illustrate how VREF changes with the load. Here POUT / IOUT vs. VREF with VSENSE = 125mV.
図4. 負荷とともにVREFが変化するデータが示されています。この図はVSENS = 125mVとしたPOUT/IOUTとVREFの関係を示しています。

次の図5図6および図7は温度の変化によるVREFとMAX4211出力の変化を示しています。ここではVSENSEは100mVで一定に保たれ、VCCは5Vです。図2の回路の温度は-40℃~+85℃ (-20℃、0℃、+25℃、+45℃、および+65℃の中間ステップ)の範囲で変化しています。図5は温度変化によるVINの特性を示しています(これは温度によるVREFドリフトの結果です)。

Figure 5. VIN vs. temperature.
図5. VIN 対 温度

図6はMAX4211のIOUT 対 IOUT/VINの比の特性を示し、それはADCの入力信号/フルスケールの比(ADCがIOUTによって駆動されたと仮定したケース)に比例します。

Figure 6. IOUT vs. IOUT/VIN with VSENSE = 100mV.
図6. VSENSE = 100mVとしたIOUT 対 IOUT/VIN

IOUT/VINの比が図5のVIN特性に依存することは非常に明らかです。図5のVINが0℃から+45℃の間での低下は図6のIOUT/VIN特性で同じ温度範囲あたりのこぶ(hump)が反映されたものです。ADCの測定値は電圧リファレンスの温度による変化によって影響されます。

最後に、図7はMAX4211のPOUT 対 POUT/VINの比の特性を示しています。再び、POUT/VINはADCの入力信号/フルスケールの比に比例します。

Figure 7. POUT vs. POUT/VIN with VSENSE = 100mV.
図7. VSENSE = 100mVとしたPOUT 対 POUT/VIN

図7はPOUT/VINの比が図5に示す温度変化によるVIN特性には関係しないことを示しています。0℃~+45℃の間のVINの低下はすでにPOUT出力によって「吸収」され、POUT/VINの比には現れません。ADCの測定値は温度変化によるVREF特性に依存しません。

図8はIOUT/VINとPOUT/VINの両方を、それらの理想的な線形トレンドラインとともに示してこれらの概念を要約しています。

Figure 8. POUT/VIN vs. IOUT/VIN with VSENSE = 100mV.
図8. VSENSE = 100mVとしたPOUT/VIN 対 IOUT/VIN

結論

ハイサイド電流検出アンプに内蔵のアナログ乗算器は通常、負荷の電力の測定に使用されます。しかし、この内蔵の乗算器の他の可能なアプリケーションがあります。電流検出アンプは内蔵または外付けの電圧リファレンスのいずれかを使用するADCに接続することができます。両方の場合とも、測定の総合精度は電圧リファレンス(VREF)の精度に強く依存します。負荷電流の測定値をVREFと乗算すると、ADC測定の総合精度は電圧リファレンスの誤差には依存しなくなります。この別の設計を使用すると、低コストで精度が劣る電圧リファレンスの場合でも測定精度を高めることができます。

同様の記事が2008年3月26日の「ED」のウェブサイトに掲載されています。

著者について

Maurizio Gavardoni

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