汎用RFデバイスにおける隣接チャネル漏洩電力比(ACLR)の算出

2016年08月29日
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要約

ミキサ、アンプ、アイソレータ、その他のデバイスを問わず、あらゆる種類の汎用RFデバイスの隣接チャネル漏洩電力比(Adjacent Channel Leakage Ratio:ACLR)は、多くの場合そのデバイスの3次相互変調歪(IM3)によって大部分が決定付けられます。IM3性能については、デバイスの出力インターセプトポイント(OIP3)パラメータとの関係を導くことが可能です。以下の各項では、このIM3性能パラメータの関数としてACLR性能を予測するための公式を導きます。

ACLR/IMDモデル

RFデバイスにおけるACLR劣化の原因を調べる便利な方法の1つが、広帯域キャリアスペクトルを個々のCWサブキャリアの集合としてモデル化するというものです。それらのサブキャリアの1つ1つが、全体のキャリア出力の一部を搬送することになります。次の図に、そうしたモデルを示します。連続したRFキャリアが、この場合は4つの個別のCWサブキャリアによってモデル化され、それぞれが広帯域キャリア全体の出力の1/4に相当します。サブキャリアは、キャリアの帯域中に等間隔で分布します。

図1. 広帯域キャリア信号のサブキャリアモデル

図1. 広帯域キャリア信号のサブキャリアモデル

図1の緑色の線は、左から右に向かってサブキャリア1、2、3、4と呼ばれます。左側の2本のサブキャリア(1および2)に注目して、RFデバイスのすべてのIMD3歪によって生じる3次IMD成分について考えてみます。この3次歪は、2つのサブキャリア自体の両側に、低レベルのサブキャリアとして現れます。2本の「緑色」のサブキャリアから左に向かって1つ目の「赤い」歪み成分が、この2つのサブキャリアからのIMD3歪によって生じるものです。

サブキャリア1と3によるIMD3成分は、キャリア1からの周波数間隔が等しい位置にIMD3歪を生じます。これが、キャリア領域から左に向かって2番目の「赤い」IM成分を生成しています。同様に、サブキャリア1と4によるIMD3が、キャリア外縁からさらに外側の位置に歪成分を生成しています。

ここにはその他のIMD成分も存在していることに注意すると、理解に役立ちます。サブキャリア2と4が生成するIM3成分は、サブキャリア1と2によるIMD成分のちょうど真上に重なります。この重畳効果によって、RFキャリアの外縁に近いIMD成分の方が、RFキャリアの外縁から遠いIMD成分よりも大きくなり、ACLR歪のスペクトルに現れる特徴的な「肩」を生み出します。Leffel¹による論文が、この複数のサブキャリアによるIMD成分の重畳について詳述しています。

このアプローチを定量化して、個々のIMD3歪成分について実際のレベルを予想することが可能です。また、モデルで使用する個々のサブキャリアの数を増すことによって、このモデルを拡張して精度を高めることができます²。複数の広帯域キャリアのACLR性能は、個々の広帯域キャリアが広帯域キャリアの全帯域幅の一部分を占めるという、このモデルによるACLRに良く似たものになります。広帯域キャリアの連続的な集合における最後のキャリアに隣接したキャリアのACLRは、IMD3誘導による歪応答の高い肩に因ることになります。このため、複数キャリアの場合のACLRは、単一キャリアシステムよりも大幅に悪化します。さらに、この効果を定量化して、単一または複数広帯域キャリアのACLR性能の正確な予測に使用することができます。この基本的アプローチを使用して、OIP3の仕様のみからRFデバイスのACLR性能を予測します。

基本的な関係

あるデバイスの3次相互変調成分と、そのデバイスの3次インターセプトポイントとの関係は、次の通りです。

IMD3 = (3 × Pm) − (2 × OIP3)

ただし

Pm = 2トーンのテストケースにおけるトーン当りの電力
IMD3 = 3次IM3 (dBm、絶対電力)
OIP3 = 3次インターセプトポイント(絶対電力)

使用上の便宜を考え、この公式を相関するIMD3の形に書き直すことができます。これは、電力レベル(P)に相関したIM3性能を示します。

IMD3 = 2 × (Pm − OIP3)

ただし

Pm = 2トーンのテストケースにおけるトーン当りの電力
IMD3 = 3次IM3 (dBc、相対電力)
OIP3 = 3次インターセプトポイント(絶対電力)


例1


全出力(Ptot)が+30dBm、OIP3が+45dBmのPAを考えます。上記の公式を使って、そうしたPAに相関したIMD3を導くことができます。しかし、IM3のテストケースにおける2トーンのそれぞれの出力はPAの全出力よりも3dB低い値、すなわちそれぞれのトーンが+27dBmになります。したがって、このPAについてIMD3を計算するには、次の値を使用します。

Ptot = +30dBm (全PAに対して)
Pm = (+30dBm - 3dB) = +27dBm (トーン当り)
OIP3 = +45dBm

IMD3 = 2 × (27 − 45) = -36dBc

ACLRとIMD3の関係

広帯域キャリアのACLRは、補正要素を使って2トーンのIMD3性能に関連付けることができます。この補正は、IMD3性能によってACLR性能が劣化するという事実に起因します。この劣化自体、スペクトラム拡散キャリアのスペクトル密度によって形成される様々な相互変調成分の影響によるものです。ACLRとIMD3の間には、次のような役に立つ関係があります。

ACLRn = IMD3 + Cn

ただし、Cnは次の表から求めます。

キャリア数 1 2 3 4 9
補正Cn (dB) +3 +9 +11 +12 +13

ここで、さらにIMD3とACLRnに関する上記の関係を1つに組み合わせて、RFデバイスの基本的な性能パラメータから複数のスプレッド拡散キャリアのACLRを導くための統合化された式にすることがきます。

ACLRn = (2 × [(P − 3) − (OIP3)]) + (Cn)

ただし

Ptot = 全キャリアの合計出力(dBm)
OIP3 = デバイスのOIP3 (dBm)
ACLRn = 「n」キャリアのACLR (dBc)
Cn = 上の表から得た値


例2


先ほどの例の数値をもう一度使い、今度はこのパワーアンプでそれぞれ250mWの4キャリア、合計1Wの出力を生成しなければならないと仮定してみましょう。

P (キャリア当り) = +24dBm
Ptot = +30dBm (全体)
OIP3 = +45dBm

ACLRn = 2 × ((30 − 3) − (45)) + 12
ACLRn = −36dBc + 12dB
ACLRn = −24dBc

公式を変形して、希望のACLRを得るために必要なOIP3の条件を求める形にすることができます。書き直した公式は、次のようになります。

OIP3 = 0.5 × ([2 × (P − 3)] − [ACLRn] + [Cn])

ただし

P = 全キャリアの合計出力(dBm)
OIP3 = デバイスのOIP3 (dBm)
ACLRn = 「n」キャリアのACLR (dBc)
Cn = 上の表から得た値


例3


また同じ例を使って、今度はこのアンプの4キャリアACLRの目標を-50dBcとします。

P (キャリア当り) = +24dBm
Ptot = +30dBm (全体)
ACLRn = −50dBc

OIP3 = 0.5 × ([2 × (30 − 3)] − [−45] + [12])
OIP3 = +55.5dBm

結論

キャリアの出力レベル、OIP3仕様、および単一/複数キャリアACLR性能の間の関係を、汎用RFデバイスについて導きました。この関係は、3次の歪成分によって性能の大部分が決定されるRFデバイスに当てはまります。これには、飽和レベルのごく近くで駆動されている場合を除いて、多くの一般的RFデバイスが含まれます。このモデルの精度は、ACLRの予想に関しておよそ±2dBであることが確認されています。

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