適応型負荷レギュレーションとダイナミック消費電力制御がアナログ出力の発熱抑制設計を実現
今日の代表的なプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)には、工業プロセスや生産工程のモニタリングと制御向けに数多くのアナログおよびデジタル入出力があります。モジュール化が広がりを見せる中で、入力と出力(I/O)に関してはアナログI/OとデジタルI/Oの基本的な機能がカバーされています。このうちアナログ出力については、図1に示すように、様々に異なる負荷条件下で設定値を能動的に、しかも高精度で駆動する必要があるので、特に困難が伴います。ここではアクティブ・ドライバ段が重要で、損失をできるだけ小さく抑える必要があります。

図 1. 絶縁アナログ出力システムのブロック図
考慮すべき要素を以下に示します。
- 接続される負荷
- モジュール内外の最大許容温度
- チャンネル数とモジュールのサイズ
- デジタル・アイソレータを用いた絶縁インターフェース
- 精度
プロセス・オートメーションでは、多くの場合、個々の出力チャンネル間の絶縁バリアに関して追加的な条件が存在します。更に、チャンネルベースの診断やHART®信号のサポートなどといった条件があります。堅牢性やフォールト・トレランスも前提条件となります。
半導体の発展や継続的に改善されるミックスド・シグナル・プロセスのおかげで、集積密度の高い非常に小型の回路が使用できるようになりました。1つのアナログ出力チャンネルの機能を、すべて1つのICに組み込むことができます。したがって、AD5758の5mm × 5mmのフットプリントには、基本的なDACとドライバの機能に加えて、診断用ADC、インテリジェント・パワー・マネージメント、電圧リファレンス、逆電圧や過電圧に対する故障保護スイッチ、キャリブレーション・データ用レジスタ、SPI通信インターフェースなど、様々なアナログ機能とロジック機能がまとめられています。
AD5758(図2)は、オートメーションの世界で使われる一般的な出力範囲、つまりユニポーラ0V~10V/0mA~20mA、バイポーラ±10V/±20mAのほか、プロセス・オートメーションに使われる4mA~20mAなど、これらの範囲に含まれるすべてのサブ範囲をカバーします。各設定は20%のオーバーレンジを備えており、値は16ビットの分解能で出力されます。

図2. AD5758のブロック図
電力効率の最適化
AD5758を、温度とスペースが重視されるアプリケーションに最適なデバイスとしているものは何でしょうか。熱として生じる損失は、主にDC/DCコンバータと出力ドライバ段を含む電源セクションで発生します。ここが、インテリジェント・パワー・マネージメントが能力を発揮する部分です。AD5758は、適応型負荷レギュレーション機能やダイナミック消費電力制御(DPC)機能を備えています。DPCは電流出力モードで有効になり、一定の電流を負荷に供給するために必要なドライバ段電圧を制御します。動作条件に応じ、この電流出力に対する負荷電圧(I × RLOAD)は供給電圧の一部を占めるに過ぎません。電源電圧との差は電力損失として直列抵抗で消費する必要がありますが、これは熱を発生させます。ここで、DPCが、ドライバ電圧を実際に必要な負荷電圧より数ボルトだけ高い値に調整して(出力トランジスタ用のヘッドルーム)、発生する熱を最小限に抑えます。このような電圧の効率的な調整は降圧スイッチング・レギュレータを介してのみ可能ですが、レギュレータは既にAD5758に組み込まれており、負荷に基づいて自動的に制御されます。スイッチング・レギュレータと上流側の電源に追加的な損失が発生した場合でも、全体的な熱の抑制は非常に効果的に行われます。負荷抵抗が小さい場合は特に効果的です。表1を参照してください。これは、何よりもより小型で高密度の設計を可能にし、ボードの温度を低く保ちます。
RLOAD | VLOAD(V) | DPC未使用時の損失(mW) | DPC使用時の損失(mW) | 低減量(mW) |
0Ω | 0 | 480 | 100 | 380 |
50Ω | 1 | 460 | 80 | 380 |
1kΩ | 20 | 80 | 50 | 30 |
ディレーティングが厳密な制限を設定
ディレーティングは、定められた境界条件下で性能を制限することと定義され、パワー半導体において安全動作領域(SOA)を考慮することと似ています。前述の電力損失とそれに関連する冷却の問題から、DPCを行わない出力モジュールでは厳密な熱的制限が設定されます。現在、クレジット・カード大のモジュールで一般的なチャンネル数は2チャンネルまたは4チャンネルです。通常、モジュールの仕様は、最大60°Cの周囲温度に対して規定されます。しかしこのような環境条件下で、4つのチャンネルすべてが非常に小さい負荷を駆動できるわけではありません。DPCが無い状態では、これら4つのチャンネルがモジュール内に3W前後の電力損失を発生させ、それに伴う熱によってモジュール内部の温度が急速に上昇し、コンポーネントの最大仕様値を超えてしまう可能性があるためです。周囲温度が高い場合、モジュールのメーカーは、熱的なディレーティング(図3)によって4つのチャンネルのうち使用できるものを1つまたは2つだけに制限するので、利便性とチャンネル・コストが大幅に低下します。

図3. 代表的なディレーティング・チャート
DPCが極めて効率的に行われることから、AD5758の電力損失は負荷抵抗の影響をわずかしか受けず、合計チャンネル消費電力は0kΩ~1kΩの負荷に対して常に250mW未満に保たれます(表2)。したがって、出力モジュールの設計に応じ、最も厳しい条件下でも2W未満で8つの絶縁チャンネルを実現することができます。5mm × 5mm LFCSPパッケージのジャンクションから周囲への熱抵抗θJAは46K/Wで、電力損失が200mWのときの周囲温度の上昇は10°C未満です。AD5758は、115°Cまでの周囲温度で使用できるように仕様が規定されています。これによってマルチチャンネル・モジュール用に十分なヘッドルームが確保され、ディレーティングの必要はありません。
RLOAD | 負荷電圧(V) | PTOTAL(mW) | PLOAD(mW) | 電力損失(mW) |
0Ω | 0 | 222 | 0 | 222 |
250Ω | 5 | 296 | 100 | 196 |
750Ω | 15 | 509 | 300 | 209 |
1kΩ | 20 | 609 | 400 | 209 |
電力損失値はチャンネル全体についての数値で、ADP1031を使用するための電源絶縁とデータ絶縁による消費分も含まれています。
最適化電源
電源電圧には複数の条件があります。
- ロジック電圧:ドライバ電源(動作モードに応じてユニポーラまたはバイポーラ)とは別に、AD5758 出力 IC には内部ブロック用の3.3Vロジック電圧が必要です。これは内蔵LDOレギュレータで生成できますが、最大の効率と低い電力損失を実現するには、スイッチング・レギュレータの使用を推奨します。
- 絶縁型ドライバ電源:安全上の理由から、PLC バスは常に I/Oモジュールから電気的に絶縁されます。図 1 はこの絶縁をカラー・コーディングによって示したもので、それぞれの色はロジック(バス)側、電圧源、およびフィールド側出力の 3 つの異なる電位を示しています。
多くの場合、これら3つの部分はボード上で空間的にも分離されているので(出力は前方のコネクタ端子に向けて配置され、バックプレーン・バスは文字通り後方に置かれます)、絶縁、電源、および出力ドライバを1つのチップに組み込んでも意味はありません。
ADP1031パワー・マネージメント・ユニット(図4)は必要なすべての機能を実行し、AD5758と共に使用することにより、最小限のスペース条件と電力損失で絶縁型出力モジュールを開発することが可能になります(図5)。

図4. ADP1031パワー・マネージメント・ユニット

図5. ADP1031とAD5758を使用したフル機能の4チャンネル・アナログ出力
ADP1031は9mm × 7mmのパッケージに次の4つのブロックを内蔵しています。
- 絶縁された正電源電圧 VPOS を生成するためのフライバック・コンバータ
- バイポーラ出力用負電源 VNEG のためのインバータ
- AD5758 ロジック回路に VLOG を供給するための降圧コンバータ
- GPIO チャンネルが追加された絶縁型 SPI インターフェース
フライバック・コンバータの利点はその高い効率で、必要なのは1:1の小さいトランスだけです。このフライバック・コンバータは、最初の段で28Vまでの絶縁ドライバ電圧を生成します。インバータと降圧コンバータはこの電圧で駆動され、同じグラウンド電位を共有します。
パワー・マネージメント・ユニットの設計では、電磁両立性(EMC)と堅牢性が特に重視されます。例えば、出力電圧の位相をシフトし、フライバック・コントローラのスルー・レートを調整できるようにします。また、良好な測定を行うことができるように、3つの電圧にはソフト・スタート、過電圧保護、および電流制限の機能も追加されます。
この絶縁型SPIインターフェースはアナログ・デバイセズの実績あるiCoupler®技術に基づくもので、動作に必要なすべての制御信号を転送します。これにより、SPIデータ用の高速パス(4チャンネル)とGPIO制御用の低速パス(3チャンネル、マルチプレクサ使用)とが区別されます。考えられるアプリケーションとしては、共通制御信号によるマルチチャンネル・モジュールや複数モジュールの出力の同期アクティベーション、エラー・フラグのリード・バック、あるいは安全シャットダウンのトリガなどがあります。
システム上の利点
AD5758とADP1031を組み合わせれば、これら2つのデバイスだけで、絶縁型アナログ出力に必要なあらゆる機能を実現することができます。絶縁機能を含めて約13mm × 25mmのチャンネル・スペース条件はこの種のソリューションとしては最小のもので、現行の一般的ソリューションの半分に過ぎません。
スペースの節約に加えて、重要機能を内蔵していることと本質的な堅牢性を備えていることでレイアウトや電位の分離が容易になり、ハードウェア・コストが大幅に削減されます。アナログ・デバイセズが提供する8チャンネルのデモ設計は6層のボード1枚だけで構成されており、サイズは77mm × 86mmです(図6)。

図6. 絶縁型8チャンネルAOモジュール
主な利点:
- 最適化された電力制御を通じた高チャンネル密度の小型モジュール
- すべての負荷条件と広い温度範囲でディレーティングが不要
- 高い集積度と堅牢性による BOM コストとアセンブリ・コストの削減
- マルチチャンネル・モジュールのための拡張が容易 − 最大消費電力 2W 未満で最大 8 チャンネル
- 豊富な診断機能を備えた堅牢な設計
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