IEEE 802.1 TSN: リアルタイム対応のイーサネット

2018年08月28日
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イーサネットについては、2つのニーズに関する議論が続けられています。1つは、データ伝送をよりセキュアに行えるようにすることです。そして、もう1つが、イーサネットにおいてリアルタイム性を実現することです。実際、IEEE 802.1 Time-Sensitive Networking(TSN)タスク・グループは、IEEE 802.1TSNという規格を策定しようとしています。後述するように、このTSNという規格は、同グループによって開発された複数の下位規格から成ります。TSNの目的は、従来のイーサネットに対して、産業分野で行われる通信に必要なリアルタイム性を追加することです。つまり、リアルタイム性を実現するための仕組みを設け、産業分野のあらゆる通信の統一基盤を提供することが目標となります。それに向けては、遅延の保証と通信の確定性の2つが極めて重要になります。これらは、従来のイーサネット(特に負荷の高いネットワーク環境)では実現することができません。従来型のスイッチは、メッセージの送り先や転送時刻を確認する前に、そのメッセージをバッファリングするようになっているからです。しかし、IoT(Internetof Things)やインダストリ4.0に対応する新たなアプリケーションでは、更に高速かつ高精度で帯域の割当を制御できる技術が必要になります。将来、TSNまたはその下位規格によって、従来のイーサネットに対し、データ転送レートが最高でギガバイト・レベルに達するケースでも、リアルタイム性を付加することが可能になります。TSNは、リアルタイム性と確定性の他にも優れた技術的なメリットを提供します。例えば、10 Mbps 、100 Mbps 、1Gbps、10Gbpsといった具合にネットワークを高速化していくといったことが可能です。ただし、そうしたメリットを活用するには、きめ細かく複雑なネットワーク構成が必要になります。1Gbps以上の転送レートというのは、現在のネットワークにおいて導入されるべくして導入されたと言えます。1Gbpsの転送レートは、(IoT)アプリケーションへの新たな道を開きます。なぜなら、扱うデータの量の多いアプリケーションにおいて、性能上のボトルネックの解消に貢献できるからです。ただ、システムとして見た場合、TSNの機能は、端末とイーサネット・スイッチの両方がサポートして初めて十分に効果的なものになると言えます。図1に、TSNの各機能とそれに対応する下位規格の関係をまとめました。

図1. TSNの下位規格

図1に示した下位規格で構成される完全なTSN規格のパッケージは、まだ完成していません。図1でハイライト表示したIEEE802.1AS-REV(時刻同期)とIEEE 802.1Qcc(ストリーム予約)の2つは、現在もTSNのタスク・グループ内で検討中の段階にあります。その作業は2019年半ばまでに終了する予定になってはいますが、これらのオープンな下位規格が実際にいつ完成するのかを予測するのは困難です。また、現在TSNがそのような状況にあるにもかかわらず、IEEE 802.1をベースとする標準イーサネットの上位互換規格の開発も進められています。例えば、最近採用された下位規格では、ネットワーク全体に分配されるクロック信号の相互運用を可能にする同期方法が規定されています。同時に、それらの規格は、他のデバイスでも使用される共有伝送メディア上で、確定的なリアルタイム性を実現することを可能にします。TSNは、ISO(国際標準化機構)が策定したOSI(Open System Interconnection)参照モデルの第2層に当たるデータ通信について規定してします(図2)。

図2. OSI参照モデル

TSNは、イーサネットにおいてリアルタイム性を実現するための第2層のプロトコルです。ただ、厳密に言えば、完全なリアルタイム対応のプロトコルではありません。言い換えると、TSNは、PROFINETやEtherNet/IPあるいはこれらと同等のイーサネット・プロトコルを置き換えることはできません。しかし、これらの産業用イーサネット・プロトコルは、最終的には第2層でTSNをサポートすることが予想されます。結果として、従来から使われている産業用イーサネット・プロトコルは今後も使用され、将来的にはTSNを基にシステムが構築されるようになるでしょう。一方で、フィールドバスは完全にイーサネットに置き換えられる可能性があります。

将来、あらゆる産業用規格をサポートできるようにするためには、特定ユーザー向けのASICのような柔軟性の高い専用ハードウェアが必要です。その1つの例が、アナログ・デバイセズが提供する洗練されたマルチプロトコル対応のICソリューション「fido5000」です。このイーサネット・スイッチICは、TSNに必要なあらゆるハードウェアを既に内蔵しています。すべての下位規格の策定が完了したとき、fido5000であればファームウェアをアップデートするだけで最新の規格に適合させることができます。つまり、同ICは、TSNに盛り込まれる可能性がある機能に十分に対応できるだけの基盤をあらかじめ内蔵しているということです。

図3. fido5000がサポートするTSNの下位規格

標準的な産業用イーサネットを利用するアプリケーションからTSNを利用するアプリケーションへの移行は、段階的かつできるだけ簡単に行えるようにすべきです。そこで、いくつかの標準化団体から、既存の工場がTSNベースの新デバイスを導入する方法に関するモデルが提供されています。そうしたモデルには、OSI参照モデルの第1層、第2層、第3層を統合したものが含まれています。これを活用することにより、拡張性と性能の面で全く新たなアプローチが可能になります。ただし、それにはネットワーク全体とスイッチなどのすべてのコンポーネントが、多様な通信プロトコルをサポートしている必要があります。それによって統一された確定的なインフラが実現され、従来の標準イーサネットに勝るTSNネットワークのメリットを活用できるようになります。

このように、TSNは多くのメリットをもたらしてくれる可能性のある技術です。しかし、まだ全規格の策定が完了しているわけではないため、多くの企業は現時点ではTSNの実装に消極的です。この状況が変化するまでには、ある程度の時間がかかるでしょう。一方で、確定性とリアルタイム性は、既存のTSN対応スイッチによって既に提供され始めています。したがって、端末については既にTSN対応のネットワークからメリットを得られる状態にあります。このことからも、TSNが将来的に極めて重要なイーサネット規格になることは間違いありません。未解決の唯一の問題は、全規格の策定を完了させることです。この点が解消されれば、TSNのメリットを最大限に生かせるアプリケーションとはどのようなものなのかという知見が、産業分野を中心に広がっていくでしょう。

著者について

Thomas Brand
Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門...

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