A2Bアプリケーションと車載イーサネット・アプリケーション:何を、いつ、どのように

2019年10月01日
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はじめに

近年、自動車に搭載される電子機器は増加の一途をたどり、複雑化する一方です。その流れを推し進めているのが、インフォテインメントや先進運転支援システム向けの新しい技術(カメラ、レーダー、ライダーなど)の採用と様々な目的(安定性、速度、加速など)で複数のセンサーが使用されるようになった事実です。

このような技術は、広帯域技術と狭帯域技術に分けることができます。通常、センサーには狭帯域技術が使われます。自動車に使われる最も一般的な加速度センサーの出力データ・レート(ODR)は数kHzです。これがインフォテインメントになると、オーディオ・データやビデオ・データには数Mbpsという範囲のデータ・レートが求められます。

しかし、真にハードルを上げているのは、先進運転支援システム(ADAS)の強化を目的に採用する、パーキング・アシスト用HDマルチカメラ・システム、360°ビジョン・システム(バードアイ・ビューまたはサラウンド・ビュー・モニタ・システムとも呼ばれます)、レーダー(RFマイクロ波)、ライダー(光学)などです。自動運転車両の開発においては、これらすべてのシステムを共存させることが鍵となりますが、これはどの通信バスにとっても大きな課題です。

自動車に使用されている従来型バスには以下のものがあります。

  • LIN(Local Interconnect Network):最大速度は20kbpsで、主に低コストが必須条件で速度/帯域幅は重視されないサブシステム内で使われます。
  • CAN(Controlled Area Network):最大伝送レートは1Mbpsで、主に電子制御ユニット(ECU)とシステム内にあるセンサー(アイドリング・ストップ、パーキング・アシスト、電動パーキング・ブレーキなどの)間の通信に使われます。
  • FlexRay:CANより高速ですが(最大10Mbps)、同時に高価でもあります。これは、元々エックス・バイ・ワイヤ(ドライブ・バイ・ワイヤやステア・バイ・ワイヤ)システム向けに採用された技術で、複数のネットワーク・トポロジに対応できるように考えられています。
  • MOST(Media Oriented Systems Transport):最大速度は150Mbpsで、オーディオ、ビデオ、音声、データ信号を伝送するために設計されています。物理層からアプリケーション層に至るISO/OSIモデルの7つの階層すべてが定義されています。これはプロプライエタリなソリューションです。

このようなネットワーク技術の進化に伴い、もう1つの側面が重要になってきました。様々なサブシステムに使われている多種多様なバスには、非常に複雑な(そして高価な)配線が含まれています。車載アプリケーションにおいては、新しい環境規制に適合することは、例えばCO2の排出削減を可能にする新しいシステムの開発を意味するため、サイズと重量が新たな課題となってきます。こうした背景の下、広帯域幅、低遅延、確定性、堅牢性を備えた低価格な通信バスに対するニーズを満たすのは、容易なことではありません。

オートモーティブ・オーディオ・バス(A2B)

ケーブル配線の総重量に大きく影響するものの1つがカー・オーディオ・システムです。これは、それぞれのオーディオ・ソース/シンク(ラウドスピーカ)のアナログ配線に高価なシールド・ケーブルが必要とされるためです。更に、アクティブ・ノイズ・キャンセル(ANC)システムやロード・ノイズ・キャン セル(RNC)システムには車内に複数のマイクロフォンを設置する必要があり、オーディオ・ネットワークに多数の入力が追加される結果となります。

従来型オーディオ・システムにおける実際の車内ケーブル配線を図1に示します。

図1 従来のオーディオ・システム用車内配線

図1 従来のオーディオ・システム用車内配線

オートモーティブ・オーディオ・バス(A2B®)は、インライン・トポロジを実装できるアナログ・デバイセズの革新的技術で、1つのマスタに最大10個のスレーブをデイジー・チェーン接続することができます。50Mbpsの速度を実現するA2Bは、オーディオ・アプリケーション用に最適化されています。シールドなしツイストペア(UTP)ケーブルを使用することによって接続が大幅に簡素化されており、ハーネスの総重量を最大75%軽減します。ノード間距離は15mもの長さとすることができ、最大ネットワーク長は40mです。同じUTPが最大300mAの電源を供給しますが(ファントム電源構成)、これはデジタル・マイクロフォンに最適な値です。

マスタが提供するパワー・バジェットに不足がある場合は、いつでもスレーブ・ノードにローカル電源を提供することができます。このバスはマスタ/スレーブ間およびスレーブ/スレーブ間の双方向通信が可能で、上流側と下流側で最大32個のチャンネルに対応します(12、16、24ビット)。最も重要なのは2サイクルの遅延が確保されていることで、これによって確定的遅延に対応できるため、ANC/RNCなどの遅延に敏感なアプリケーションに使用できます。このバスはI2Cメッセージを伝送できるため、スレーブ・ノードのADC/DACを離れた場所に置く構成が可能です。

A2Bネットワークの構成設定を実際に簡略化しているのはSigmaStudio®というグラフィカル設計環境で、これはSigmaDSP®ファミリとSHARC® DSPファミリをサポートしています。A2Bトランシーバー(AD2428AD2427AD2426)は、I2SインターフェースとPDMインターフェースを備えています。通常、I2SインターフェースはADCやDACとの接続に使用し、デジタル・マイクロフォンにはPDMを使用します。

車載アプリケーションにおける主な懸念事項の1つが、電磁両立性(EMC)です。A2Bは、2線UTPケーブルだけを使用し、最も厳格な自動車用EMC試験と電磁干渉(EMI)耐性試験に合格しています。RNCアプリケーションでは、車体の各所に加速度センサーとマイクロフォンを配置する必要があります。アナログ部品を使用するには追加的な回路(A/Dコンバータ)や配線、コネクタが必要なので、非常にコストがかかります。A2B技術は、オーディオ・ソースとセンサーへの新たなアプローチによって、このアーキテクチャを簡素化します。

図2 A2B技術により簡素化されたオーディオ・システム用車内配線

図2 A2B技術により簡素化されたオーディオ・システム用車内配線

車載イーサネット

イーサネットは広く使われているネットワーク技術で、非常に大きなエコシステムを構成しています。しかし、自動車分野におけるイーサネットの使用は、現在のところ診断機能、車載インフォテインメント・システム、センサーとの接続といった一部の用途に限られています。車載アプリケーションにおいてそのライバルになると予想されているのがMOSTで、両者は速度の点で競合しています。

イーサネットは、最新技術(レーダーやライダーなど)に伴って生じる帯域幅への非常に大きな需要に対し、決定的な回答となる可能性を秘めていますが、依然として自動車への採用を制限する要素がいくつかあります。

100-Base-TXに使われる従来のイーサネット・ケーブルは2線差動ペア・ワイヤを基本とし、トランスにより絶縁されますが、車載アプリケーション用としてはコストが高すぎます。更に、Cat-5ケーブルは自動車用EMI基準を満たしていないため、診断機能やファームウェア・アップデートを除き、100-Base-TXイーサネットを車内通信に使用することはできません。

車両同士の通信(V2V)や車両と車両以外のあらゆるものとの通信(V2X)のためには、同期、トラフィック・シェーピング、固定遅延などの条件を満たす車内データ伝送がサポートされていなければなりません。新しいプロトコル・スタックが実装されていなければ、イーサネットはこの種の機能をサポートしません。

まず物理層から考えてみましょう。

重量、EMI、およびコストに関する条件を満たすことを目的に、米国電気電子技術者協会(IEEE)は802.3bwと呼ばれる新しい規格を定めました。この規格は100-Base-T1とも呼ばれています。IEEE 802.3bwはUTPケーブルに基づく100Mbps規格で、双方向性を有しており、自動車用の厳しい放射規制条件を満たしています。EMIは、重ね合わせ原理や特別なエンコーディング、スクランブリングなどの手法を使用することによって抑制されています。

重量とコストは、従来のCat-5ケーブルではなく、シールドなしの2線ケーブルを使用すれば、低く抑えられます。PoE(Powerover Ethernet)などの技術は、同じワイヤを使用してデータと共に電源を供給します。しかし、PoEでは電源を供給するために少なくとも2ペアのワイヤが必要で、これはワイヤ数を減らすという要求と明らかに矛盾します。

このような理由から、IEEEは802.3bu規格を定めました。これはPoDL(Power over Data Lines)とも呼ばれています。PoDLでは1ペアのワイヤで電源を供給できますが、トランシーバーの構成が多少複雑になります。

図3 基本的なPoDLアーキテクチャ:データと電源が同じ差動チャンネルを共有

図3 基本的なPoDLアーキテクチャ:データと電源が同じ差動チャンネルを共有

既に述べたように、イーサネットが車載アプリケーションをサポートするには、確定性を提供するスイッチを追加する必要があります。これは、ISO/OSIモデルの第2層を担当する組織であるIEEE 802.1が策定したAVB(Audio Video Bridging)プロトコルによって実現できます。

AVBは、時間同期機能とトラフィック・シェーピング機能を提供するスイッチ技術です。これらの基本的な概念により、イーサネットによるオーディオおよびビデオ・コンテンツの確実な送信が可能になります。AVBの出現により、タイム・センシティブ・ネットワーキング(TSN)として知られる一連のプロトコルが定義されました。これは工業および自動車市場に焦点を当てたもので、イーサネットによるリアルタイム機能のサポートを可能にします。

以上から、IEEE 802.3bwとTSNを組み合わせれば、自動車内の確定的通信に適したソリューションを実現して、従来のバスに置き換えることができます。更に100-Base-T1は、1Gbpsに達し得る新しい1000-Base-T1規格に発展しつつあります。しかし、これらのシステムは複雑で、その技術もまだ十分には成熟しておらず、自動車市場に広く展開するには至っていません。

考えられるシナリオ

自動車市場は車内でのオーディオ伝送にA2Bを採用し始めていますが、イーサネットのほうは、様々なバス・システムからのデータを伝送するという点では大量に実装されるには至っていません。

図4 マルチドメイン・アーキテクチャ

図4 マルチドメイン・アーキテクチャ

ANC、ハンズフリー・システム、電気自動車(EV)の車両接近通報装置、緊急通報(eCall)システムなどのアプリケーションは、A2B技術が実現する簡素化の恩恵を受ける部分です。更に、将来的には、デジタル・センサーの情報を直接A2Bへ送り、RNCシステムのアーキテクチャを簡素化することも考えられます。

しかし、A2Bにはバス速度に関係する帯域幅の制約があります。1000-Base-T1が技術的に成熟すれば、イーサネットの伝送速度は1Gbpsに達します。この帯域幅なら、センサーからオーディオ/ビデオ・ストリームまで、様々な種類のデータを容易に伝送することができます。

自動運転を実現するには、マルチギガビットのネットワーク接続へ向けて、さらなる性能の向上が求められます。では、今後の数年間にどのようなシナリオ展開を予測しておくべきでしょうか。

A2Bは実装が容易な技術で、同じUTPを使って電源とデータを伝送し、固定遅延を実現するための確定性をサポートしています。

現行の100-Base-T1規格(および将来的には1000-Base-T1)でのイーサネットは、複数のデータ・バスの集約を可能にする統合的な技術になることが予想されますが、電源(PoDL)とスイッチによる確定性(TSN)の追加によって複雑さが増すおそれがあります。

考えられるのは、A2Bに基づくオーディオ伝送およびセンサー用の混合的なソリューションと、カメラ、ライダー、レーダー用に高速ギガビット・イーサネットを実装したバックボーンが、自動車産業における今後の中期的なニーズのほとんどに適したものになるというシナリオです。

著者について

Matteo Crosio
2011年アナログ・デバイセズ入社。イタリアでフィールド・アプリケーション・エンジニアとして勤務。アナログ・デバイセズ入社前の10年間、半導体分野の様々な技術職を経験。航空宇宙および電気通信アプリケーション分野でのミックスド・シグナル技術のキャリアに加え、時間同期に焦点を当てたハードウェアおよびFPGA設計者として豊富な経験を有する。現在、ヨーロッパの販売組織の一員として、有線通信技術に関してEMEA地域をサポート。

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