5G − マイクロ波に関する展望

2015年12月01日
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5G の出現は、RF 技術者にとって刺激的な出来事です。次世代ワイヤレス通信システムである 5G 実現への道のりには、技術者にとって無数の課題と機会が横たわっています。5G は、ワイヤレス・エコシステムのさまざまなメンバーが今日までに公にしてきた高レベルの目標を実現する、モバイル技術の発展と革命を具現化するものです。

5G は、セルラ式携帯電話を全く新しい用途、事例、そして垂直市場へ拡大することを可能にする次世代のワイヤレス通信として、広く認識されています。一般に 5G は、技術的には HD や UltraHDのビデオ・ストリーミングなど、超広帯域サービスを実現するものと見なされていますが、セルラ式携帯電話の機械分野への参入を可能にするものでもあります。いくつか応用例を挙げると、この技術は自律走行車に貢献し、無数の工業用センサーや数多くのウェアラブル・コンスーマ・デバイスの接続に使用できます。

5G への発展の道のりは、従来のセルラ式携帯電話が使用していた帯域における 4G の段階的な進歩と、3 GHz ~ 6 GHz という新たな帯域への周波数拡大からなっています。Massive MIMO には業界の後押しがあり、LTE を基本とする初期のシステムから発展して、スループット、遅延、セル効率を向上させることを意図した新しい波形を採用することになるでしょう。

スペクトラムはセルラ式携帯電話産業に不可欠な要素として捉えられていますが、従来のセルラ帯域幅におけるスペクトラム(6 GHz 以下)では、今後数年間に指数的に増大する需要に対応できません。このような理由から、現在は、ワイヤレス・アクセスを 6 GHz 以上の周波数帯へ展開する可能性をテストしようという検討が行われています。6 GHz 以下で使用できるスペクトラムの合計が世界中で数百 MHz 程度であるのに対し、20 GHz 以上で使用可能と見込まれるスペクトラムの量は数十 GHz あります。真のネットワーク接続で世界を結ぶという 5G の展望を実現するには、このスペクトラムを管理することが不可欠と考えられています。

結果として、5G の一部は現在よりもはるかに高い周波数(おそらくミリ波までの範囲)での運用が予想されるので、LTE との後方互換性を持たない新しい無線インターフェース技術が採用されることになるでしょう。業界の主要企業が検討した周波数帯には、10 GHz、28 GHz、32 GHz、43 GHz、46 GHz ~ 50 GHz、56 GHz ~ 76 GHz、81 GHz ~ 86 GHz といった高周波数帯が含まれています。ただし、これらの帯域は現在提案されている段階で、無線システムの定義や標準化の検討などを行う前に、チャンネル・モデリングに関して完了させるべき作業が多数残っています。ITU は最近 5G の標準化に関する計画を発表しましたが、この計画では、第 1 世代の IMT-2020 仕様を 2020 年前後に公開するという目標が設定されています。

5G はまだ初期段階にあり、チャンネル・モデリング、無線アーキテクチャの定義、そして最終的にはチップセットの開発など、最初の商用システムを展開するまでに数多くの作業を完了させなければなりません。しかし、方向性ははっきりしており、要求事項についてはすでに合意に達している他、最終的な 5G システムを実現するために解決すべき問題も明らかになっています。

それでは、マイクロ波およびミリ波の周波数帯における 5G アクセス・システムについて考えてみましょう。マイクロ波周波数における無線アクセスを実装するうえで大きなハードルの 1 つとなるのが、好ましくない伝搬特性を克服することです。これらの周波数での無線の伝搬は、大気による減衰、雨、障害物(建築物、人、樹木)、反射などに大きく影響されます。マイクロ波による 2 点間リンクはこれまで長年にわたって展開されてきましたが、これらは一般に見通し範囲で使用するシステムでした。リンクが固定されているという事実によってこれらのリンクが管理可能なものになっていることから、近年これらのシステムが発展してきましたが、これらのシステムは高次の変調方式を使用して非常に高いスループットを実現しています。この技術は発展を続けており、5G アクセスにはこれらのマイクロ波リンク技術が利用される見込みです。

サイクルの初期段階では、アクセス・システムに関わる伝搬上の課題を克服するために、アダプティブ・ビームフォーミングが必要となることが確認されています。2 点間システムと異なり、ユーザにペイロードを届けるには、ビームフォーミングをユーザと環境に合わせて調整する必要があります。一般に業界では、マイクロ波帯と低ミリ波帯ではハイブリッド MIMO システムを使用することが合意されていますが、帯域幅が豊富な V バンドと E バンドでは、必要なスループット目標を達成する目的でのみビームフォーミングを採用する傾向があります。

図 1. ハイブリッド・ビームフォーミング・トランスミッタのブロック図

図 1. ハイブリッド・ビームフォーミング・トランスミッタのブロック図

ハイブリッド・ビームフォーミング・トランスミッタの概略ブロック図を図 1 に示します。レシーバーはこの逆と考えることができます。MIMO コーディングは、標準的なデジタル無線処理とともにデジタル・セクションで行われます。デジタル・セクション内では、アンテナ・システムに送られるさまざまなデータ・ストリームからの数多くの MIMO パスが処理されることもあります。それぞれのデータ・ストリームについて、DAC は選択されたアーキテクチャに応じ、ベースバンドまたは IF 周波数で信号をアナログに変換します。信号はアップコンバートされて構成要素である複数の RF パスに分割され、それぞれのアンテナに送られます。各 RF パスでは、ゲインと位相を設定してアンテナから発射するビームを形成するために、信号が処理されます。

ブロック図は単純に見えますが、システムが対応すべき課題とトレードオフは複雑です。ここでは紙面が限られているのでいくつかの問題に限って取り上げますが、アーキテクチャと無線に関する課題に焦点を当てていきましょう。このシステムを設計するにあたっては、システムを実現するために、電力、サイズ、コストに当初から留意することがきわめて重要です。

このような無線装置は、アナログ・デバイセズとそのパートナーのディスクリート・デバイス(主に GaAs デバイス)を使って 5Gのプロトタイプ・システム用に作成可能で、実際に作成されていますが、セルラ方式の無線に実装されているように、マイクロ波領域でも同じ高水準の集積化を行う必要があります。高集積化と高性能は、業界にとって解決困難な問題を解決可能にします。

しかし、集積化だけでは業界が直面しているこの問題の解決策にはなりません。集積化はスマート機能を備えたものであることが必要です。集積化について考えるときは、まず、集積化の利点を生かすためのアーキテクチャとパーティションを考えなければなりません。また、回路レイアウトと基板は相互に関係があるので、この場合は機械的設計と熱設計について考慮することも必要です。

まず何よりも必要なのは、集積化に有利なアーキテクチャを決定することです。セルラ式携帯電話の基地局用の高集積化トランシーバー IC の例を考えると、その多くが、信号パス内でのフィルタリングをなくすために、あるいはフィルタリングを最小限に抑えるために、ゼロ IF(ZIF)アーキテクチャを使用しています。特にマイクロ波周波数では、RF 電力の生成にコストがかかるので、RF フィルタ内の損失を最小限に抑える必要があります。ZIF はフィルタに関する問題を減らしますが、LO 抑制がトレードオフとなるのは言うまでもありません。しかしここでは、この問題を物理的な構造の問題から信号処理とアルゴリズムの問題にシフトします。ここではムーアの法則を利用できますが、それによって受動的マイクロ波構造が同じスケーリング・ダイナミクスに従うわけではありません。アナログとデジタルを同時に最適化して目標を実現する能力を生かす必要があります。セルラ式携帯電話の周波数に採用されてきた数多くのアルゴリズムと回路手法にも、マイクロ波の領域に利用できるものが存在します。

次に、半導体技術に関わる要求事項を考えます。すでに述べたように、通常、最先端のマイクロ波システムは GaAs コンポーネントを使って実装されます。GaAs は多年にわたりマイクロ波産業の主役の座を占めてきましたが、SiGe プロセスが高周波動作における障害を克服して、多くの信号パス機能において GaAs のライバルとなりつつあります。高性能マイクロ波 SiGe Bi CMOS プロセスは、シグナル・チェーンの大部分と補助的な制御機能を包含するこれらのビームフォーミング・システムに必要とされる、高レベルの集積化を可能にします。

各アンテナにおいて必要とされる出力によっては、GaAs PA が必要になることもあります。しかし、GaAs PA は一般に線形領域でバイアスされるので、マイクロ波周波数では GaAs PA でも効率的ではありません。マイクロ波 PA の線形化は、これまでにも増して、5G 時代になって検討の機が熟したと言えます。

CMOS についてはどうでしょう。やはり検討に値するデバイスでしょうか。CMOS が大規模なスケーリングに適していることはさまざまな資料に示されており、このことは 60 GHz の WiGig システムで実証されています。開発の初期段階であることと用途が確定されていないことを考え合わせると、この時点で CMOS が5G 無線向けの技術となり得るかどうか、なり得るとしたらいつ頃になるかを予測するのは困難です。無線仕様を決定し、将来的なシステムにおけるマイクロ波 CMOS の用途について結論を下すには、最初にチャンネル・モデリングおよび用途に関して多くの作業を完了させる必要があります。

5G システムで最後に検討すべきことは、機械的設計と RF IC パーティショニングの相互依存性です。損失を最小限に抑えるという課題を考えると、IC は、パーティションを最適化するために、アンテナと基板を考慮して設計する必要があります。50 GHz 以下ではアンテナが基板の一部となり、配線と一部の受動構造が基板に組み込まれることが予想されます。基板集積導波路(Substrate Integrated Waveguide: SIW)の分野では一連の研究が進められていますが、これは、上記のような組み込み構造にとっては有効なものになると思われます。このような構造では、RF 回路の大部分を積層基板の一方の面に実装して、フロント面にあるアンテナと配線でつなぐことが可能になるでしょう。RF IC は、この積層板にダイ形式で取り付けるか、表面実装パッケージとすることができます。このような構造に関する業界の各種文献には、その他の用途の好例がいくつか示されています。

50 GHz 以上ではアンテナ素子と各種要素間の間隔を十分に小さくできるので、アンテナ構造をパッケージ内、あるいはパッケージ上に組み込むことができます。これも、5G システム実現のための研究が進められている分野です。

いずれの場合も、配線を対称形にして損失を最小限に抑えるために、RF IC と機械的構造を同時に設計する必要があります。これらのどの作業も、その設計に必要とされる広範なシミュレーションが可能な、強力な 3D モデリング・ツールなしでは行うことはできません。

以上、5G がマイクロ波産業にもたらす課題について、おおまかな展望を示しましたが、今後数年間で RF 関連のイノベーションが生まれる機会は無数にあります。上述したように、厳密なシステム・エンジニアリングのアプローチは、シグナル・チェーン全般を通じて最良の技術を利用することによって、最適なソリューションを実現します。プロセスや材料の開発から設計の手法、モデリング、さらには高周波試験や製造に至るまで、業界として行うべき作業は数多くあります。5G の目標を達成するにあたっては、すべての分野がそれぞれ重要な役割を果たします。

アナログ・デバイセズは、マイクロ波機能に関するその比類のない能力によって、5G マイクロ波関連の取り組みに大きく貢献します。アナログ・デバイセズの広範な技術的ポートフォリオと継続的な RF 技術の進歩、そしてそれらと無線システム・エンジニアリングにおける豊富な経験を組み合わせることで、アナログ・デバイセズは、新たな 5G システム用のマイクロ波およびミリ波周波数において、お客様のために新しいソリューションを開拓するリーディング・カンパニーとしての地位を占めています。

本稿の冒頭に述べたように、現在は、ワイヤレス産業の RF 技術者にとって刺激に満ちた時期です。5G は端緒についたばかりであり、2020 年までに商用の 5G 無線ネットワークを実現するには、成すべきことが山積しています。

著者について

Thomas Cameron
アナログ・デバイセズの通信ビジネス・ユニット担当CTO。この職務の下で、無線基地局およびマイクロ波バックホール・システム用の集積回路に関し、業界をリードするイノベーションの実現に貢献。現在は、セルラ式携帯電話およびマイクロ波周波数帯の 5G システム用無線技術の研究開発に従事。現職以前は、通信ビジネス向けシステム・エンジニアリング部門の責任者を務める。セルラ式携帯電話基地局、マイクロ波無線、ケーブル・システムを含む電気通信ネットワーク用技術...

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