LTspice:ISO 7637-2/ISO 16750-2で定義されたトランジェントのモデル

2017年04月05日
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はじめに

車載向けの製品を設計する際には、初期の段階でISO 7637-2、ISO 16750-2で規定されたトランジェントに関するシミュレーションを実施すべきです。そうすれば、潜在的な問題を早い段階で正確に特定することができます。仮にそうしたシミュレーションの実施を怠ると、電磁環境適合性(EMC)のテストの段階で、そうした問題が発覚することになります。その場合、まず間違いなくハードウェアの修正が必要になります。その結果、スケジュールの面でプロジェクトに大きな支障が生じます。それだけでなく、修正後のハードウェアについて繰り返しテストを実施することによる余分なコストが発生することになります。LTspiceによって保護用回路のシミュレーションを実施するために要する時間は数分から数時間程度です。その労力を早い段階で費やすことにより、EMCに関連する不具合を解消するためにハードウェアを再設計しなければならなくなるという事態を回避することが可能になります。

ISO 7637-2とISO 16750-2は、車載電子回路を設計する場合には必ず考慮すべき規格です。いずれも、電子機器に損傷を及ぼす可能性があるトランジェントの性質や、電子機器が適切に保護されていることを確認するために推奨されるテストの手順について定めています。これらの規格の詳細については、

「Low Quiescent Current Surge Stopper: Robust Automotive Supply Protection for ISO 7637-2 and ISO 16750-2 Compliance(自己消費電流の少ないサージ・ストッパ、ISO 7637-2/ISO 16750-2に準拠した車載電源の保護を実現する)」

をご覧ください。また、両規格に準拠して実際に設計を行う場合には、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)またはANSI(American National Standards Institute:米国国家規格協会)から規格書(コピー)を購入することをお勧めします(以下参照)。

ISO 7637-2:2011 Road vehicles - Electrical disturbances from conduction and coupling - Part 2: Electrical transient conduction along supply lines only(ISO 7637-2:2011 路上走行車 - 伝導及び結合による電気的妨害 - 第2部:電源線だけに沿う過渡電気伝導)

ISO 16750-2:2012 Road vehicles - Environmental conditions and testing for electrical and electronic equipment - Part 2: Electrical loads(ISO 16750-2:2012 路上走行車 - 電気・電子機器の環境条件及び試験 - 第2部:電気的負荷)

ISO 16750-2とISO 7637-2では、各トランジェントの条件に対する動作を「クラス」によって分類しています。クラスには、最も要件の厳しい「クラスA」から最も要件の緩い「クラスE」までが存在します。各クラスの詳細についてはISO 16750-1:2006に定義されています。本稿末に示した付録「ISO 16750-1:2006 セクション6で定義された機能の状態の分類」も参照してください。

トランジェントのシミュレーション

上述したように、ISO 7637-2/ISO 16750-2で定められたトランジェントのシミュレーションは、なるべく早く実施することが推奨されます。つまり、できるだけ早期に潜在的な問題の存在を明らかにすることが肝要です。それにより、両規格に関するテストの段階になって障害の発生源が見つかるという事態を回避することが可能になります。言い換えれば、余計なコストの発生を抑えられるということです。LTspiceには、ISO 7637-2/ISO 16750-2で定義されたトランジェントに対応するほぼ完全なモデルやシンボルが用意されています。それらを利用することにより、シミュレーションの作業を簡素化することができます。

LTspiceで上述したシンボルを使用するには、回路図上で対象とするシンボルを右クリックします。「SpiceModel」のフィールドをダブルクリックすると、以下に示すようなドロップダウン・メニューが開きます。

Component Attribute Editor Model Select

このメニューにより、シミュレーション/テストの条件を設定することができます。なお、12Vの電源で動作するデバイスと、24Vの電源で動作するデバイスとでは要件が異なります。そのため、それぞれの条件に対応する個別のモデルが用意されています。12Vの電源に対応するモデルの名前の末尾は「_12V」となっています。一方、24Vの電源に対応するモデルの名前の末尾は「_24V」となっています。

なお、多くの自動車メーカーは、ISOの規格をベースとしつつ、それとは異なる独自の仕様を採用しています。そうした仕様に対応するために、各シンボルは「Value」フィールドによってカスタマイズできるパラメータを使って作成されています(以下参照)。

Component Attribute Editor Modify Value

以下では、各種のトランジェント波形を生成するために使用されるパラメータについて詳しく説明していきます。なお、以下で取り上げる多くの波形には、それぞれの条件がシミュレーションにおいてどのタイミングで適用されるのかを表すt0というパラメータが使われています。このパラメータは、ISO 7637-2/ISO 16750-2の規格では使われていません。LTspiceのモデルにだけ存在するパラメータです。

パルス1

ISO 7637-2:2011のPulse 1(以下、パルス1)は、電源への接続が遮断された際、誘導性の負荷に並列に接続された電子回路(機器)で観測される負のトランジェントを表します。

パラメータ

ISO 7637-2: 2011

公称12V

ISO7637-2: Pulse1 12V

(LTspiceのデフォルト)

ISO 7637-2: 2011

公称24V

ISO7637-2: Pulse1 24V

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 13.5±0.5 13.5 27±0.5 27
Us〔V〕 -75~-150 –150 -300~-600 –600
Ri〔Ω〕 10 10 50 50
td〔秒〕 2ミリ 2ミリ 1ミリ 1ミリ
tr〔秒〕 0.5マイクロ~1マイクロ 1マイクロ 1.5マイクロ~3マイクロ 3マイクロ
t1〔秒〕 0.5より大 0.5 0.5より大 0.5
t2〔秒〕 200ミリ 200ミリ 200ミリ 200ミリ
t3〔秒〕 100マイクロ未満 50マイクロ 100マイクロ未満 50マイクロ
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ
ISO 7637-2 Pulse 1

【要件】パルス1は最低500回繰り返す必要があります。クラスAからクラスEの動作については、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。テストの実行中には電源が事実上遮断されます。電源が再投入された後に、ユーザが介入することなく機器が通常の動作に戻る場合には、一般的にはクラスAと定義されます。

このリンクから、パルス1のトランジェント波形を生成する回路の例(ファイル)をダウンロードすることができます。

パルス2a

ISO 7637-2:2011のPulse 2a(以下、パルス2a)は、正の電圧スパイクを表します。そのスパイクは、テストの対象となる電子回路(機器)に並列に接続された回路に対する電流が遮断された場合に発生する可能性があります。例えば、ワイヤ・ハーネスに電流が流れている状態で機器が電流のシンクを突然停止したとします。その場合、ワイヤ・ハーネスのインダクタンスに蓄えられたエネルギーによって電圧スパイクが発生するといった具合です。この正のスパイクのエネルギーは、直列抵抗によって制限されます。

パラメータ

ISO 7637-2: 2011

公称12V

ISO7637-2: Pulse2a 12V

(LTspiceのデフォルト)

ISO 7637-2: 2011

公称24V

ISO7637-2: Pulse2a 24V

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 13.5±0.5 13.5 27±0.5 27
Us〔V〕 37~112 112 37~112 112
Ri〔Ω〕 2 2 2 2
td〔秒〕 0.05ミリ 0.05ミリ 0.05ミリ 0.05ミリ
tr〔秒〕 0.5マイクロ~1マイクロ 1マイクロ 0.5マイクロ~1マイクロ 1マイクロ
t1〔秒〕 0.2~5 0.2 0.2~5 0.2
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ
ISO 7637-2 Pulse 2a

【要件】パルス2aは最低500回繰り返す必要があります。クラスAからクラスEの動作については、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。通常はクラスAです。

このリンクから、パルス2aのトランジェント波形を生成する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

パルス2b

ISO 7637-2:2011のPulse 2b(以下、パルス2b)は、イグニッション・スイッチが切られ、DCモータが発電機として機能する場合に発生する状況を規定したものです。例えば、ドライバが車のエンジンをオフにする際、ヒータが作動していたとします。その場合、送風モータは回転数が下がるまでの短い時間に、システムに対してDC電力を送出する可能性があります。

パラメータ

ISO 7637-2: 2011

公称12V

ISO7637-2: Pulse2b 12V

(LTspiceのデフォルト)

ISO 7637-2: 2011

公称24V

ISO7637-2: Pulse2b 24V

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 13.5±0.5 13.5 27±0.5 27
Us〔V〕 10 10 20 20
Ri〔Ω〕 0~0.05 0.05 0~0.05 0.05
td〔秒〕 0.2~2 0.2 0.2~2 0.2
t12〔秒〕 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ
tr〔秒〕 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ
t6〔秒〕 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ 1ミリ±0.5ミリ 1ミリ
trep〔秒〕 0.5~5 5 0.5~5 5
ton〔秒〕 1 1
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ
ISO 7637-2 Pulse 2b

【要件】パルス2bは最低10回繰り返す必要があります。クラスAからクラスEの動作については、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。テストの実行中には電源が事実上遮断されます。電源が再投入された後に、ユーザが介入することなく機器が通常の動作に戻る場合には、一般的にはクラスAと定義されます。

このリンクから、パルス2bのトランジェント波形を生成する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

パルス3a

ISO 7637-2:2011のPulse 3a(以下、パルス3a)は、スイッチやリレーによるアーク放電を含め、スイッチング処理の結果として発生する可能性がある負のスパイクを表します。このモデルにおいて、エネルギーは50Ωの直列抵抗によって制限されます。

パラメータ

ISO 7637-2: 2011

公称12V

ISO7637-2: Pulse3a 12V

(LTspiceのデフォルト)

ISO 7637-2: 2011

公称24V

ISO7637-2: Pulse3a 24V

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 13.5±0.5 13.5 27±0.5 27
Us〔V〕 -150~-300 –300 -112~-220 –220
Ri〔Ω〕 50 50 50 50
td〔秒〕 150ナノ±45ナノ 150ナノ 150ナノ±45ナノ 150ナノ
tr〔秒〕 5ナノ±1.5ナノ 5ナノ 5ナノ±1.5ナノ 5ナノ
t1〔秒〕 100マイクロ 100マイクロ 100マイクロ 100マイクロ
t4〔秒〕 10ミリ 10ミリ 10ミリ 10ミリ
t5〔秒〕 90ミリ 90ミリ 90ミリ 90ミリ
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ
ISO 7637-2 Pulse 3a

【要件】パルス3aは1時間にわたって繰り返し印加する必要があります。クラスAからクラスEの動作については、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。通常はクラスAです。

このリンクから、パルス3aのトランジェント波形を生成する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

パルス3b

ISO 7637-2:2011のPulse 3b(以下、パルス3b)は、スイッチやリレーにおけるアーク放電を含め、スイッチング処理の結果として発生する可能性がある正のスパイクを表します。このモデルにおいて、エネルギーは50Ωの直列抵抗で制限されます。

パラメータ

ISO 7637-2: 2011

公称12V

ISO7637-2: Pulse3b 12V

(LTspiceのデフォルト)

ISO 7637-2: 2011

公称24V

ISO7637-2: Pulse3b 24V

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 13.5±0.5 13.5 27±0.5 27
Us〔V〕 75~150 150 150~300 300
Ri〔Ω〕 50 50 50 50
td〔秒〕 150ナノ±45ナノ 150ナノ 150ナノ±45ナノ 150ナノ
tr〔秒〕 5ナノ±1.5ナノ 5ナノ 5ナノ±1.5ナノ 5ナノ
t1〔秒〕 100マイクロ 100マイクロ 100マイクロ 100マイクロ
t4〔秒〕 10ミリ 10ミリ 10ミリ 10ミリ
t5〔秒〕 90ミリ 90ミリ 90ミリ 90ミリ
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ
ISO 7637-2 Pulse 3b

【要件】パルス3bは1時間にわたって繰り返し印加する必要があります。クラスAからクラスEの動作については、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。通常はクラスAです。

このリンクから、パルス3bのトランジェント波形を生成する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

直流電源電圧

ISO 16750-2:2012のセクション4.2には、最小電源電圧と最大電源電圧が規定されています。そして最小電源電圧については、複数の「コード」が定義されています。電源電圧のコードとしてどれが適切なのかは、車両のメーカーと機器のサプライヤの間で取り決められます。このモデルは単なる定電圧を表すものなので、LTspiceのモデルは提供されていません。その概要を把握できるようにするために、以下の表を示しておきます。

パラメータ

ISO 16750-2: 2012

公称12V

ISO 16750-2: 2012

公称24V

Usmin〔V〕

コードA:6V

コードB:8V

コードC:9V

コードD:10.5V

コードE:10V

コードF:16V

コードG:22V

コードH:18V

Usmax〔V〕 16 32

【要件】クラスA(連続動作)です。

過電圧

ISO 16750-2:2012のセクション4.3では、過電圧の要件について規定しています。1つ目の要件としては、60分間にわたり、電圧レギュレータが故障した状況をシミュレートすると定められています。電源が12Vのシステムには18Vを印加し、同24Vのシステムには36Vを印加します。アプリケーションの中には、テストの実行中に機器が正常に動作する必要がないものがあります。ただ、テストの条件が解除されたら正常な動作に復帰しなければなりません。

2つ目の要件は、電源が12Vのシステムだけを対象としています。その内容は、24Vの電圧を60秒間印加してジャンプスタートのシミュレーションを行うというものになります。これについても、アプリケーションによってはテストの実行中に機器が正常に動作する必要はありません。

この条件は単なる電圧源として実現できます。そのため、LTspiceのモデルは用意されていません。

【要件】ISO 16750-2:2012を参照してください。

交流電圧の重畳

ISO 16750-2:2012のセクション4.4では、直流電源に残留する交流電流をシミュレート/テストするための条件を規定しています。このテストでは、直列インピーダンスが50mΩ~100mΩのAC電圧源において、50Hz~25kHzで複数回の周波数掃引を行います。上側のピーク電圧の値は、電源が12Vのシステムでは16V、同24Vのシステムでは32Vです。ピークtoピーク電圧は、以下の表に示す「厳しさ」のレベルによって規定されます。また、対数、三角波、10分間という条件で周波数を5回掃引します。

パラメータ

ISO 16750-2: 2012

公称12V

ISO16750-2: 4-4 12V
交流電圧の重畳

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2: 2012

公称24V

ISO16750-2: 4-4 24V
交流電圧の重畳

(LTspiceのデフォルト)

Umax〔V〕 16 16 32 32
Upp〔V〕

厳しさ1:1V

厳しさ2:4V

厳しさ3:非適用

厳しさ4:2V

4

厳しさ1:1V

厳しさ2:4V

厳しさ3:10V

厳しさ4:非適用

10
Ri〔Ω〕 50ミリ~100ミリ 50ミリ 50ミリ~100ミリ 50ミリ

【要件】クラスAです。

このリンクから、交流電圧の重畳に対応する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

電源電圧の緩やかな下降/上昇

ISO 16750-2:2012のセクション4.5では、電源電圧の緩やかな下降/上昇について規定しています。バッテリが緩やかに放電し、次に再充電される状況をシミュレートするためのものです。このテストは最小電源電圧Usminで開始し、その後0.5V/分の速度で0Vまで放電します。0Vに達した後、電源電圧は同じ速度でUsminまで戻ります。

ISO 16750-2において、最小電源電圧Usminはセクション4.2のコードAからコードEによって識別されます。参照しやすいように、これらのコードに関する表を以下にまとめておきます(再掲)。このテストでは、もちろんハードウェアは連続動作する必要はありません。このような条件下でも、ハードウェアに故障が生じないことを検証します。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-5 12V
電源電圧の緩やかな下降/上昇

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-5 24V
電源電圧の緩やかな下降/上昇

(LTspiceのデフォルト)

Usmin〔V〕

コードA:6V

コードB:8V

コードC:9V

コードD:10.5V

6

コードE:10V

コードF:16V

コードG:22V

コードH:18V

10
t0〔秒〕 1ミリ 1ミリ

【要件】ISO 16750-2:2012を参照してください。

このリンクから、電源電圧の緩やかな下降/上昇に対応する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

電源電圧の不連続性

ISO 16750-2:2012のセクション4.6.1では、電源電圧の不連続性について規定しています。ある回路の障害により、他の回路のヒューズが溶断するまで電源電圧が低下する状況をシミュレートするためのものです。このテストは、電源電圧がその最小値であるUsminの状態から開始されます。その後、電源電圧は100ミリ秒間低下して、最終的にUsminまで回復します。低下と回復の立上がり時間と立下がり時間は10ミリ秒以下です。電源が12Vのシステムではその電圧が4.5Vまで低下し、同24Vのシステムでは同9Vまで低下します。シミュレーションにおいて、電源電圧は10秒の時点で低下します。

ISO 16750-2において、最小電源電圧Usminはセクション4.2のコードAからコードEによって識別されます。これらのコードについては以下の表を参照してください。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-6-1 12V
電源電圧の一次的な低下

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-6-1 24V
電源電圧の一次的な低下

(LTspiceのデフォルト)

Usmin〔V〕

コードA:6V

コードB:8V

コードC:9V

コードD:10.5V

6

コードE:10V

コードF:16V

コードG:22V

コードH:18V

10

【要件】クラスBです。車両のメーカーと機器のサプライヤは、リセットを許容することに合意する場合があります。

このリンクから、電源電圧の一次的な低下に対応する回路例(ファイル)をダウンロードすることができます。

電圧が低下した際のリセット動作

ISO 16750-2:2012のセクション4.6.2では、電圧が低下した際のリセット動作について規定しています。5秒間にわたり電源電圧が低下する場合について定められており、各パルスの電圧は前のパルスの電圧よりも低い値に設定されます。このテストの目的は、電源が低下した後に機器が適切にリセットされるか否かを検証することです。テストを実行する際には、5秒間ずつ電源電圧を低下させます。その際には、前の低下量よりも5%低下させていきます。また、電源電圧が低下する間隔は少なくとも10秒間確保します。最終的にはUsminまで回復させます。

ISO 16750-2において、最小電源電圧Usminはセクション4.2のコードAからコードEによって識別します。各コードについては以下の表をご覧ください。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-6-2 12V
電圧低下時のリセット動作 

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-6-2 24V
電圧低下時のリセット動作

(LTspiceのデフォルト)

Usmin〔V〕

コードA:6V

コードB:8V

コードC:9V

コードD:10.5V

6

コードE:10V

コードF:16V

コードG:22V

コードH:18V

10

【要件】クラスCです。

始動時のプロファイル

ISO 16750-2:2012のセクション4.6.3では、車両における始動時のプロファイルを規定しています。代表的な波形が示されており、それらをテストの対象となる機器に10回印加すると定められています。電圧と継続時間の値については、アプリケーションに応じて決まるレベル(I~IV)ごとに定められています。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-6-3 12V
始動時のプロファイル 

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-6-3 24V
始動時のプロファイル

(LTspiceのデフォルト)

Ub〔V〕

12±0.2

12

24±0.2

24
Us6〔V〕

レベルI:8V

レベルII:4.5V

レベルIII:3V

レベルIV:6V

6

レベルI:10V

レベルII:8V

レベルIII:6V

6
Us〔V〕

レベルI:9.5V

レベルII:6.5V

レベルIII:5V

レベルIV:6.5V

6.5

レベルI:20V

レベルII:15V

レベルIII:10V

10
tf〔秒〕 5ミリ±0.5ミリ 5ミリ 10ミリ±1ミリ 10ミリ
t6〔秒〕 15ミリ±1.5ミリ 15ミリ 50ミリ±5ミリ 50ミリ
t7〔秒〕 50ミリ±5ミリ 50ミリ 50ミリ±5ミリ 50ミリ
t8〔秒〕

レベルI:1000ミリ±100ミリ

LレベルII:10000ミリ±1000ミリ

レベルIII:1000ミリ±100ミリ

レベルIV:10000ミリ±1000ミリ

10000ミリ

レベルI:1000ミリ±100ミリ

レベルII:10000ミリ±1000ミリ

レベルIII:1000ミリ±100ミリ

1000ミリ
tr〔秒〕

レベルI:40ミリ±4ミリ

レベルII:100ミリ±10ミリ

レベルIII:100ミリ±10ミリ

レベルIV:100ミリ±10ミリ

100ミリ

レベルI:40ミリ±4ミリ

レベルII:100ミリ±10ミリ

レベルIII:40ミリ±10ミリ

40ミリ
Ri〔Ω〕 10ミリ 10ミリ
t0〔秒〕 1 1ミリ
ISO 16750-2 4-6-3 Startup Profile

【要件】ISO 16750-2:2012を参照してください。

集中型ロード・ダンプ抑制を備えていない場合のロード・ダンプ(テストA)

ISO 16750-2:2012のセクション4.6.4.2.2では、集中型ロード・ダンプ抑制(Centralized Load Dump Suppression)を備えていない場合のロード・ダンプ(テストA)について規定しています。これは、オルタネータがバッテリを充電する際、バッテリに対する接続が失われた場合に発生するトランジェントについて定めたものです。集中型ロード・ダンプ抑制を備えていない場合というのは、オルタネータがクランプ・ダイオードを備えていないということを意味します。クランプ・ダイオードを備えているオルタネータでは、テストAではなくテストBを使用します。両者の違いについては、「Low Quiescent Current Surge Stopper: Robust Automotive Supply Protection for ISO 7637-2 and ISO 16750-2 Compliance(自己消費電流の少ないサージ・ストッパ、ISO 7637-2/ISO 16750-2に準拠した車載電源の保護を実現する)」を参照してください。 

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-6-4 12V
抑制を備えていない場合のロード・ダンプ 

テストA(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-6-4 24V
抑制を備えていない場合のロード・ダンプ

テストA(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 14±0.2 14 28±0.2 28
Us〔V〕 79~101 101 151~202 202
Ri〔Ω〕 0.5~4 0.5 1~8 1
td〔秒〕 40ミリ~400ミリ 100ミリ~350ミリ
tr〔秒〕 5ミリ~10ミリ 5ミリ~10ミリ
t0〔秒〕
1
1
ISO 16750-2 4-6-4 Test A

【要件】1分間隔で10回のパルスを印加。クラスCです。

集中型ロード・ダンプ抑制を備えている場合のロード・ダンプ(テストB)

ISO 16750-2:2012のセクション4.6.4.2.3では、集中型ロード・ダンプ抑制を備えている場合のロード・ダンプ(テストB)について定めています。これも、オルタネータがバッテリを充電する際、バッテリに対する接続が失われた場合に発生するトランジェントについて規定したものです。集中型ロード・ダンプ抑制を備えている場合というのは、オルタネータにクランプ・ダイオードが適用されているということを意味します。クランプ・ダイオードを備えていないオルタネータでは、テストBではなくテストAを使用します。両者の違いについては、「Low Quiescent Current Surge Stopper: Robust Automotive Supply Protection for ISO 7637-2 and ISO 16750-2 Compliance(自己消費電流の少ないサージ・ストッパ、ISO 7637-2/ISO 16750-2に準拠した車載電源の保護を実現する)」を参照してください。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-6-4 12V
抑制を備えている場合のロード・ダンプ 

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-6-4 24V
抑制を備えている場合のロード・ダンプ 

テストB(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 14±0.2 14 28±0.2 28
Us〔V〕 79~101 101 151~202 202
UsClamp〔V〕 35 35 (58が標準) 58
Ri〔Ω〕 0.5~4 0.5 1~8 1
td〔秒〕 40ミリ~400ミリ 100ミリ~350ミリ
tr〔秒〕 5ミリ~10ミリ 5ミリ~10ミリ
t0〔秒〕 1 1
ISO16750-2 4-6-4 Test B

【要件】1分間隔で5回のパルスを印加。クラスCです。

逆電圧

ISO 16750-2:2012のセクション4.7では、逆電圧について規定しています。逆電圧というのは、自動車にかかわる多くの技術者が「逆バッテリ」と呼んでいる状態のことです。つまり、ヒューマン・エラーによってバッテリが逆極性で接続されてしまったケースを想定しています。「ケース2」のシミュレーションでは、すべての入力に対してテスト用の逆電圧を60秒間印加します。そのようにしても、システムが損傷なく耐えられることを確認します。

電源が12Vのシステムについては、別の条件である「ケース1」の使用も認められています。これは、ヒューズがオルタネータに直列に挿入されていないケースを想定したものです。つまり、オルタネータの整流ダイオードが逆接続されたバッテリから供給される大きな電流を流すことによって電圧を制限する場合を対象としています。ケース1では、4Vの逆電圧を60秒間印加します。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-7 12V
逆電圧(ケース2) 

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-7 24V
逆電圧(ケース2) 

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 14 14 28 28

【要件】溶断したヒューズのリンクを交換した後はクラスAです。

オープン・サーキットのテスト

ISO 16750-2:2012のセクション4.9では、配線の遮断について規定しています。具体的には、接続が切り離され、復旧した後で機器が正常な動作に復帰することを確認するための手順について定めています。このテストでは、回路を10秒間オープンの状態にし、その後復旧させます。セクション4.9には複数の配線が遮断した場合に関する要件も含まれていますが、本稿では説明を割愛します。

パラメータ

ISO 16750-2:2012

公称12V

ISO16750-2: 4-9-1 12V
単一の配線の遮断 

(LTspiceのデフォルト)

ISO 16750-2:2012

公称24V

ISO16750-2: 4-9-1 24V
単一の配線の遮断 

(LTspiceのデフォルト)

Ua〔V〕 14 14 28 28
t0〔秒〕 1 1

【要件】クラスCです。

その他のセクションのテスト

LTspiceのシミュレーション・モデルは、ISO 16750-2:2012のセクション4.8、4.10、4.11、4.12、4.13で規定されたテストをサポートしていません。これらのテストの性質が、定義済みの単一のモデルで対応できる範囲を超えているからです。特に注意が必要なものとしては、セクション4.10の短絡保護のテストが挙げられます。このテストでは、各入出力を最大電源電圧とグラウンドに60秒間接続する必要があります。これらは特に困難なものであり、広範な条件のシミュレーション/テストを実施することをお勧めします。

  • ISO 16750-2:2012 セクション4.8:グラウンド基準と電源オフセット
  • ISO 16750-2:2012 セクション4.10:短絡保護
  • ISO 16750-2:2012 セクション4.11:耐電圧
  • ISO 16750-2:2012 セクション4.12:絶縁抵抗
  • ISO 16750-2:2012 セクション4.13:電磁両立性

まとめ

LTspiceには、ISO16750-2/ISO7637-2に対応するシンボルが用意されています。それらは、両規格で定義されているトランジェントのシミュレーション・モデルを提供します。車載製品などを設計する場合には、ぜひこれらを活用し、なるべく早い段階で保護用回路のシミュレーションを実施してください。それにより、EMCに関するハードウェアのテストにおいて初めて問題が発覚するという事態を回避することができます。最終的なEMCのテストで問題が発覚すると、多大なコストが発生することになります。そのことを考慮すれば、事前のシミュレーションに労力を費やす価値があることは明らかです。

【付録】ISO 16750-1:2006 セクション6で定義された機能の状態の分類

ISO 16750-1:2006では、クラスAからクラスEまでの動作を以下のように規定しています。

クラスA 機器/システムのすべての機能が、テストの実行中もテストの実行後も設計したとおりに動作する。
クラスB 機器/システムのすべての機能が、テストの実行中にも設計したとおりに動作する。但し、1つ以上の機能が規定された許容範囲を超えてもよい。すべての機能は、テストの実行後には自動的に正常な動作範囲に復帰する。メモリの機能はクラスAのままとする。
クラスC 機器/システムの1つ以上の機能が、テストの実行中には設計したとおりに動作しないが、テストの実行後には自動的に正常な動作に復帰する。
クラスD 機器/システムの1つ以上の機能が、テストの実行中には設計したとおりに動作せず、テストの実行後も「オペレータ/使用」の簡単な操作によってリセットされるまで正常な動作に復帰しない。
クラスE 機器/システムの1つ以上の機能が、テストの実行中にもテストの実行後にも設計したとおりに動作せず、機器/システムを修理または交換しなければ適切な動作に復帰することができない。

著者について

Dan Eddleman
Dan Eddlemanは、Linear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)のアナログ技術者です。ICの設計者、シンガポールのIC設計センターのマネージャ、アプリケーション・エンジニアとして15年の経験を有しています。

Linear Technologyでのキャリアは、電源トラッキング・コントローラ「LTC2923/LTC2925」、高電圧に対応するデュアル理想ダイオードOR「LTC4355」...

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