入出力がそれぞれ1端子のバイポーラ電源
はじめに
「LT8714」は、4象限に対応するDC/DCコントローラICです。これを使用すれば、正と負の電圧を単一の出力端子で供給可能な2象限の電源(バイポーラ電源)を容易に構成することができます。極性を変えるとクリスタルの粒子の配列が変わって色が変化する窓やテスト/計測装置など、本稿で紹介する2象限の電源を使用すれば、多様なアプリケーションを実現できます。
LT8714のデータシートには、2象限電源の動作について記載されています。正入力/正出力の第1象限と、正入力/負出力の第3象限の動作についてです。第1象限、第3象限では、構成した電源回路から電流が供給されます。つまり、電力のシンクではなく、電力のソースである点に注意してください。一方、第2象限と第4象限では、電源回路はシンクとして機能します。
回路図と機能
図1は、LT8714を使用して構成した2象限の電源回路の例です。パワートレインは、NMOSであるQN1とQN2、PMOSのQP1とQP2、インダクタL1とL2、カップリング・コンデンサCC、入力フィルタ、出力フィルタで構成されています。L1とL2は、2個の独立したインダクタです。この方法を採用することで、DC/DCコンバータ回路に必要なコストを抑えられます。
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図1. LT8714を使って構成した電源回路。2つの象限の動作に対応します。入力電圧VINは12V、出力VOは±5V/6Aです。
能動部品と受動部品を適切に選択するには、各象限における電圧ストレスと電流レベルについて理解しなければなりません。そのために、ここでは、正出力用の機能的なトポロジについて見てみます(図2)。
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図2. 正出力を備える2象限動作のトポロジ
電圧と時間のバランスの面で安定した状態にある場合、デューティ・サイクルは次式によって求められます。
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この設計について検証を行うために、LT8714のデモ用ボード「DC2240A」に変更を加えて、図1に示した回路を構成しました。入力電圧は12V(公称値)、出力電圧は5V、-5Vで、いずれの場合も最大出力電流は6Aです。
図3に示したのは、この回路の効率を測定した結果です。正の電圧を出力する場合の効率は、負の電圧を出力する場合を上回ります。また、理論値とも一致しています。負の電圧を出力する場合、部品に対する電圧ストレスと電流がかなり大きくなります。それにより、損失が増加し、効率が低下します。
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図3. 図1のDC/DCコンバータの効率。VINが12Vで、VOが5V、-5Vの場合の効率を示しています。出力電流の最大値は6Aです。
図4は、制御電圧VCTRLに対する出力電圧の直線性を示したものです。回路の負荷は1Ωの抵抗という条件下で、制御電圧を0.1Vから1Vまで変化させました。ご覧のとおり、優れた直線性が得られることがわかります。
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図4. 制御電圧VCTRLと出力電圧VOの関係。VCTRLを0.1Vから1Vまで変化させると、VOは-5Vから5Vまで変化します。
「LTspice®」のモデルを使用し、LT8714の性能の解析も行いました。最初のモデルでは、パワーグッド・インジケータ(PGピン)を使用し、2つ目のモデルでは結合されていないインダクタを使って解析を実施しました。
まとめ
本稿では、LTC8714を使用して構成したシンプルな2象限の電源回路を紹介しました。この設計についてはテストを実施し、LTC8714によって優れた直線性が得られることを検証済みです。