UCSPパッケージの熱に関する考察
要約
オーディオアンプが消費する電力の量は主として、そのアンプのパッケージと外部ヒートシンク(PCB上の銅プレーン、あるいは金属製のヒートシンク)によって制限されます。D級アンプのような効率のよいアンプは従来のAB級アンプほど電力を消費しないとはいうものの、すべてのアンプはある程度熱として電力を消費します。このアプリケーションノートでは、UCSP™パッケージの電力消費性能について、また他のパッケージオプションと比べて出力電力の消費をどの程度抑えることができるかについて説明します。
UCSPパッケージ
UCSPは集積回路(IC)を封入するために使用される従来のプラスチックパッケージを不要にするパッケージ技術です。シリコンをPCBにじかに半田付けすることで、ボードスペースが節減されますが、従来のパッケージの利点のいくつか、特に熱消費が犠牲になります。
ほとんどのオーディオアンプ用パッケージは、一種のエクスポーズドパッドを備えていて、ICの基板を直接ヒートシンクかPCBのグランドプレーンに接続することができます。この設計は、ICから周辺に伝達される熱のための低熱抵抗の経路ができるため、デバイスを過熱しないようにしています。
しかし、UCSPパッケージでは、デバイス底面のバンプを使用してICをじかにPCBに半田付けします。グランドバンプを介して基板からPCBへの直接の経路が存在し、またこれらバンプは低熱抵抗ではあるものの、その面積は標準的なエクスポーズドパッドよりもかなり小さくなります。その結果、熱消費は低減します。非グランドバンプも放熱するのに役立ちますが、グランドバンプと比較すると能力は低減します。ヒートシンクによる上面からの放熱は、UCSPデバイスを使用する大部分のシステムが要求するスペース制約のため実用的ではありません。それに加えてUCSPパッケージには、ヒートシンクを使用する他の標準的なパッケージほど機械的な頑強性がありません。実際、UCSPはヒートシンクに接触している間に損傷を受けるおそれがあります。したがってUCSPデバイスの放熱能力は、デバイスのグランドバンプとその他のバンプが放熱する熱の合計で決まります。
電力消費
オーディオアンプは通常、複数のパッケージで提供されていて、最大電力消費を示すパッケージオプションを使用してその特性が決められています。ほとんどの場合、これらのパッケージは、パッケージ自体が消費する電力が出力可能電力を制限しないようにしています。
たいていのICは、図1に示すように、データシートの「絶対最大定格」の項で、各パッケージオプションで可能な連続電力消費を挙げています。エクスポーズドパッド付きのパッケージ(この例ではTDFN)が通常、最大電力を消費します。UCSPは、エクスポーズドパッケージのデバイスよりも消費する電力が大幅に少ないことがわかります。
図1. オーディオアンプの連続電力消費についての標準絶対最大定格
出力電力制限の計算
エクスポーズドパッドのないパッケージを検討するときには、パッケージの電力消費が低減することによって出力電力が低減する可能性があることを認識しておく必要があります。代わりに、より高い負荷インピーダンスを使用して効率を最大にすることで消費を最小限に抑えることができます。
AB級アンプ
達成可能な出力電力の計算は、使用するアンプの種類によって決まります。AB級アンプの製造業者は通常、図2によく似た電力消費対出力電力のグラフを用意しています。アンプによっては、さまざまな電源電圧と負荷インピーダンスの場合のグラフが多数用意されています。
図2. AB級アンプの電力消費 対 出力電力
絶対最大定格の連続電力消費データ(図1)と電力消費対出力電力(図2)とを比較して、所定のパッケージで可能な出力電力を決定します。この例では、TDFNパッケージとµMAX®パッケージは出力電力が制限されませんが、UCSPは制限されます。この例のアンプの定格が1.1Wの連続電力であっても、UCSPパッケージで可能な出力電力は100mWだけになります。
D級アンプ
図3に示すように、D級アンプでは通常、電力消費曲線の代わりに効率が用意されています。
図3. D級アンプの効率 対 出力電力
D級の効率はAB級アンプよりもはるかに高いため、同じ出力電力の電力消費は非常に低くなります。電力消費は、次式を用いて計算することができます。
連続出力電力1.1Wを達成するには、このアンプは225mWを消費します。この電力消費は、図1で示す可能な全パッケージの最大出力電力よりも低いため、UCSPを含む各パッケージオプションで同じ出力電力が可能です。
音源素材に関する考察
オーディオアンプの出力電力は、通常、1% (< 6W)または10% (> 6W)のTHD+Nで1KHzの正弦波を使用して計算します。現実の世界のアプリケーションでは、アンプは音声、音楽、または効果音の再生に使用しますが、これらにはすべて正弦波よりも小さなエネルギーが含まれています。表1は、いくつかの共通信号のRMSエネルギーレベルを示しています。
表1.標準音源素材のRMSエネルギー
Audio Source Material | Ratio of RMS Level to Peak Level (dB) |
Sine Wave | -3 |
Rock Music | -10.8 |
Telephone Ringing | -12.3 |
Classical Music | -15.8 |
このデータは、同じ出力電力を達成するには、また結果として電力消費が同じであるためには、標準のオーディオコンテンツ用の出力信号が正弦波よりも大幅に高いピーク電圧でなければならないことを示しています。
前述のUCSPパッケージのAB級アンプを例にとります。正弦波で可能な連続出力電圧は、2.5VP-Pです。表1のロックミュージックの例では、同じパッケージが、パッケージの電力消費容量を超えることなく、出力端で6.2VP-Pに耐えることができます。ピーク電圧が同じ正弦波であれば、結果として8Ωの負荷に600mWが供給されることになります。
まとめ
オーディオアンプを選定するときには、当然ながら、さまざまなパッケージオプションの電力消費を考慮する必要があります。多くの場合、すべてのパッケージではなく、一部のパッケージでのみ同じ連続出力電力を達成することができます。実際、UCSPは多くの場合、エクスポーズドパッド付きのパッケージよりも維持される連続電力が少なくなります。この電力消費の問題は、UCSPの利点を捨てるのではなく、AB級のアンプの代わりにより効率的なD級のアンプを使用することで解決することができます。設計を変更することで、UCSPパッケージをさらに多くのアプリケーションで使用することができます。
この記事に類似した翻訳版が、「EE Times Japan」の2007年2月号に掲載されています。