モバイルUSB-C設計を簡素化する

要約

近頃では双方向のデータ伝送および電力供給用に、小型、汎用のUSB-Cコネクタを備えたノートPC、スマートフォン、PCが増加しています。USB-C (USB Type-C)に対応していれば、機器の充電、データ転送、ディスプレイなど周辺機器の接続のために、何種類ものコードを持ち歩く必要がありません。USB-C規格は、パワーバンクからPCやモニタまで、さまざまなポータブル電子機器のフル充電に十分過ぎるほどの電力を供給します。しかし、USB-C用の充電回路の設計には特有のスキルセットが必要であり、特に従来のUSB規格用の設計に伴う作業と比較した場合、違いは顕著です。このホワイトペーパーでは、バックチャージャによりUSB-C充電システムの設計プロセスをいかに簡素化することができるかについて説明します。

はじめに

ウェアラブル機器からビルオートメーションシステム、医療機器などに至るまで、よりコンパクトなリチウムイオンバッテリで駆動する電子機器がUSB-Cに対応するようになっています。実は、さまざまな民生機器でリチウムイオンバッテリの使用が拡大していることが、USB-Cの採用を促進しています。それらの機器はすべて電力変換を必要とするためです。IHS Markitによると、1つ以上のUSB-Cポートを備えた機器は、2016年の3億台から増加し、2021年にはほぼ50億台に達すると予想されます。その間にUSB-Cの採用が最も拡大する機器は、携帯電話、モバイルPC、フラッシュドライブ、メディアタブレット、ドッキングステーションです1。したがって、採用ペースは一部の業界アナリストの予想より遅いとはいえ、そこに市場の機会が存在することは間違いありません。

USB-Cは、絡み合う各種ケーブルに取って代わり、急速充電、コンテンツストリーミング、およびデータ転送のプロセスを簡素化することから、汎用規格と位置付けられています。表裏の区別がなく逆差し可能なUSB-Cコネクタは24ピンで、マイクロBコネクタ(USBインタフェースの小型版)より若干大きめです。USB 3.1はGen 2の定格データレートが10Gbps (USB 3.0の2倍)で、USB-Cコネクタのデフォルトプロトコルです。さらに高速化するため、USB-CではThunderbolt 3プロトコルもサポートされています。Thunderbolt 3は帯域幅が40Gbpsに達し、より低消費電力で、100Wもの電力を伝送することができます。Thunderbolt 3に対応したUSB-Cポート付き機器は、1本のケーブルのみで大量のデータを転送し、PCなどの複雑な機器とやり取りすることができます2

設計の観点から見ると、モバイル機器にとってUSB-Cの1つの魅力的な利点は、設計の小型化と薄型化が可能になるという点です。しかし、この規格はエンドユーザーにとって物事を簡素化するものの、USB-C用の充電回路を設計することは容易ではありません。

図1. USB-Cのケーブルコネクタとスマートフォン入力

図1. USB-Cのケーブルコネクタとスマートフォン入力

USB-C用の設計を困難にする要因

USB通信プロトコルはかなり複雑であるため、その実装は容易ではなく、多大な時間を要する場合があります。カスタムUSBファームウェアを備えたUSBマイクロコントローラ、または固定機能の通信ブリッジ(USBの専門知識に乏しい場合はこちらの方が容易)は、USB通信を設計に組み込む際の2つの選択肢となります。最新のUSB規格であるUSB-C用の設計には、特有の課題が伴います。すなわち、エンベデッド設計において信号の完全性と速度の問題に対処することや、どちらの方向にも流れる100Wの電力に対応すること、そして従来型のさまざまなインタフェース(USB 1.1/2.0/3.0、HDMI、イーサネット、DisplayPort、電力およびオーディオ接続など)に接続することが求められます3

さらに、現在入手可能な充電器には、USB-Cポートの制御機能が組み込まれていません。その結果、USB-Cの充電器を接続しても、ポートがそのアダプタを認識するまで充電は自動的には開始されません。そのため、充電器とポートコントローラのやり取りを可能にする必要があります。充電器とコントローラの間でアナログ/デジタル信号の検出、読み取り、および処理を実現するには、複雑なホスト側ソフトウェアの開発が必要です。たとえば、USB-Cおよび従来型の幅広いUSB電源アダプタに対応可能な設計を実現する必要があります。また、ポートコントローラICによって検出した電源能力に基づき、充電器の入力電流限度を正しく管理することも必要です(充電器の入力電流限度の設定により、充電器は電源の最大能力でバッテリを充電可能になるため、充電の高速化が実現します)。これには、ホストアプリケーションプロセッサまたはマイクロコントローラにおけるソフトウェア開発が必要です。

USB-Cはそれ自体で最大5V/3Aをサポートしており、所要電力が15Wに満たない多くのアプリケーションにはそれで十分です。しかし、電源アダプタから5VをVBUSに供給するには、USB-Cポートコントローラがエンドツーエンドのポート検出を確立する必要があります。検出しなければ、VBUSは0Vでコールドソケットになります(これは従来のUSBとの大きな違いです)。USB-CとUSB Power Delivery (最大100Wの電力供給をサポートする規格)により、最大20V/5Aまでの複数の電力レベルに対応することも可能ですが、これにはUSB-C Power Deliveryに対応した複雑なマイクロコントローラが必要であり、多くのアプリケーションはそのような電力レベルを必要としません。

ソリューションのサイズは、もう1つの重要な設計上の考慮事項です。USB-Cコネクタは従来の各種コネクタと比べてはるかに小型ですが、バッテリで駆動する民生機器は絶えず小型化されています(多数のポートを必要としないUSB-Cもその一因)。そのため、USB-Cの充電システムも、ますます厳しくなる小型化の要件に対応する必要があります。

高集積USB-Cバックチャージャによる設計の簡素化

マキシムは、所要電力が15W未満のアプリケーション向けに、個別のポートコントローラICを不要にし、ホストソフトウェア開発の軽減と部品コストの削減を実現するUSB-Cバックチャージャを提供しています。MAX77860は、15Wアプリケーション向けにUSB-CポートコントローラとチャージャICを集積したUSB-C 3Aスイッチモードチャージャです。このデバイスは、チャネルコンフィギュレーション(CC)検出を内蔵した業界初の高集積USB-Cバックチャージャであり、ソリューションのサイズを競合製品に比べて30%小型化しつつ、USB-C充電システム設計の簡素化と柔軟性向上を実現します。このデバイスはCC端子検出機能により、USB-C電源からVBUSへの電力供給に必要なUSBポート接続検出を自動的に実行することができます(CC端子では、ケーブルの取り付け/取り外しとソケット/プラグの向きも検出します。さらに、この端子は、USB Power Deliveryと、DisplayPortやHDMIなどのサードパーティ製プロトコルをサポートするオルタネートモードに必要な通信にも使用可能です)。

充電はホストの介入なしで自動的に開始されます。MAX77860は、3Aの充電電流能力によりバッテリを急速充電する一方、高効率により充電中の機器の温度上昇を抑制します。このチャージャは、3.9mm × 4.0mmのパッケージで提供され、高スイッチング周波数(2MHz/4MHz)のため比較的小型のインダクタとコンデンサを使用します。

図2. サブシステムブロックダイアグラム:MAX77860を内蔵したUSB-C充電システム

図2. サブシステムブロックダイアグラム:MAX77860を内蔵したUSB-C充電システム

MAX77860は、熱放散を低減する高効率の降圧回路を備えています。また、従来のUSB BC1.2アダプタとの下位互換性もサポートしています。内蔵の6チャネルアナログ-デジタルコンバータ(ADC)は、ホストアプリケーションプロセッサやマイクロコントローラのリソースを解放しつつ、正確な電圧および電流測定を実現します。このデバイス上のポートコントローラは、プラグ検出、ケーブルの向き検出、電力およびデータロール検出、VBUSの電流能力検出を実行します。5.1V/1.5AリバースブーストOTGにより、USB On-The-Go (OTG)モードの補助機器に給電することが可能です。

要約

USB-Cコネクタは、コンパクトな汎用ケーブルにより双方向の電力供給とデータ転送を実現するため、民生用電子機器に広く採用されることは驚くに当たりません。しかし、従来の通信プロトコルを使用するソリューションの開発に慣れた設計者にとって、USB-C用の設計には、電圧管理、効率、ソリューションサイズの面で特有の複雑さが伴います。これらの課題に対処するために最適化されたUSB-Cバックチャージャは、この規格の利便性をさまざまなポータブル製品に取り込むプロセスを簡素化する上で役立つと考えられます。

関連資料
  1. USB Type-C Adoption Keeps Growing Across Industry Segments (さまざまな業界部門で拡大し続けるUSB Type-Cの採用)
  2. What Is USB-C? An Explainer (USB-Cとは:概説)
  3. USB Type-C is Coming: 3 Things You’ve Just Gotta Know (USB Type-Cの登場:知っておくべき3つのこと)


参考資料

1 USB Type-C Adoption Keeps Growing Across Industry Segments.

2 What Is USB-C? An Explainer.

3 USB Type-C is Coming: 3 Things You’ve Just Gotta Know.



著者

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Perry Tsao