シンプルな3.3Vレール用バックアップ電源

はじめに

データ喪失は電気通信用、工業用、自動車用アプリケーションにおける重大な懸念事項であり、これらのエンベデッド・システムには信頼できる電源供給が求められます。ハード・ドライブやフラッシュ・メモリが読出し動作や書込み動作を行っている最中に突然電源が失われると、データが破損してしまうおそれがあります。設計者は多くの場合、電源喪失時でもクリティカルな負荷に短時間で対応できる電力を確保するために、バッテリ、コンデンサ、スーパーキャパシタなどを使用しています。

LTC3643バックアップ電源によって、設計者は比較的安価なストレージ部品である低コストの電解コンデンサを使用できるようになります。ここに示すバックアップ電源やホールドアップ電源において、LTC3643は電源が使用できる間にストレージ・コンデンサを40Vまで充電し、電源喪失時にはクリティカルな負荷に対してそれを放電します。負荷(出力)電圧は、3V~17Vの任意の電圧に設定できます。

LTC3643は5Vおよび12Vレール用として簡単にバックアップ・ソリューションに組み込むことができますが、3.3Vレール・ソリューションの場合は特別な注意が必要です。LTC3643の最小動作電圧は3Vですが、これは3.3Vの公称電圧レベルに比較的近い値です。しかし、図1aに示すように、バックアップ電源を非クリティカル回路からデカップリングするために阻止ダイオードを使用する場合、これでは余裕がなさすぎます。D1がショットキー・ダイオードの場合、その順方向電圧降下(負荷電流と温度の関数)は0.4V~0.5Vに達する可能性があり、これだけでLTC3643のVINピンの電圧は最小値の3Vを下回り、その結果、このバックアップ電源回路は起動しなくなってしまいます。

図1(a)および(b). バックアップ・システム回路における阻止ダイオードの位置

図1(a)および(b). バックアップ・システム回路における阻止ダイオードの位置

考えられる1つの解決策は、図1bにD2として示したように、電源であるDC/DCコンバータの入力側へダイオードを移動することです。ただし残念ながらこのシナリオでは、上流側のDC/DC電源に接続した非クリティカルな負荷がバックアップ電源の電力を消費するため、クリティカルな負荷用に残る電力量が少なくなってしまいます。

3.3Vバックアップ電源の動作

阻止MOSFETを使ってクリティカル負荷用の電力を確保する3.3Vバックアップ電源を作成するソリューションを図2に示します。図1に示す阻止ダイオードは、Q1(低ゲート閾値電圧のPチャンネル・パワーMOSFET)に置き換えられています。

図2. 3.3Vレール用LTC3643ソリューションの拡張回路図

図2. 3.3Vレール用LTC3643ソリューションの拡張回路図

3.3V環境においてバックアップ電源を作動させる鍵は、直列RA-CA回路を追加することです。起動時に入力電圧の上昇と共にコンデンサCAを流れる電流は、ICA = C ×(dV/dt)で表されます。この電流によって、Q2(低ゲート閾値電圧の小信号NチャンネルMOSFET)を動作させるのに十分な電位がRAに発生します。Q2がオンになると、Q1のゲートがグラウンドに引き下げられ、入力電圧とLTC3643の電源ピンVINの間に極めて低抵抗の経路が形成されます。コンバータに3.3Vの電圧が加わると、コンバータが起動してQ1のゲートとPFOピン両方の電圧を下げ、ストレージ・コンデンサの充電を開始します。

3.3Vレールが安定した状態になると、RAの電圧がQ2のゲート閾値レベル未満になるポイントまでICA電流が低下してQ2がオフになり、バックアップ・コンバータの機能に影響しなくなります。また、PFOピンがR3Aを接地することによってPFIピンの電源故障電圧レベルが最小値の3Vにリセットされ、入力電圧源の接続が遮断されてもコンバータが動作を継続できるようになります。

回路機能

3.3Vレール起動時の波形を図3に示します。入力電圧が上昇するとQ2のゲート電圧も上昇し、Q1のゲートをローにします。Q1は動作状態を維持し、Q1のボディ・ダイオードをバイパスすることによって、LTC3643は3.3Vのフル電圧に達することができるようになります。最終的にQ2のゲート電圧は閾値レベル未満に低下してQ2がオフになり、LTC3643はこの時点までに完全に動作可能な状態になり、Q1のゲートを制御できるようになります。

図3. 起動時の3.3Vレール波形

図3. 起動時の3.3Vレール波形

これはLTC3643の汎用性を示すものです。具体的には、ストレージ・コンデンサの充電に使用するブースト・コンバータの充電電流を制限する能力です。配線が長い場合や、電圧源が高インピーダンスであるなど、合計電流を最小限に抑える必要がある場合は、充電電流による入力電圧の低下を最小限に抑えるために、ブースト電流を比較的小さい値に設定することができます。これは、3.3Vレールでは特に重要です。図2では、0.05Ωの抵抗RSがブースト・コンバータの充電電流を0.5A(10.5A負荷)に制限し(設定可能な最大制限値は2A)、残りを負荷に供給します。

3.3Vレールが失われた場合の波形を図4に示します。入力電圧が低下してもQ2のゲート電圧はグラウンドに近い状態で変わらず、Q2はオフのままになります。これに対し、Q1のゲート電圧は急激に3.3Vまで上昇します。これによってQ1がオフになり、Q1のボディ・ダイオードが阻止ダイオードとして動作することで、入力から負荷を分離します。このとき、バックアップ電源が電源機能を引き継いで、ストレージ・コンデンサを放電することにより、LTC3643はクリティカルな負荷に3.3Vを供給します。

図4. 電源喪失時の3.3Vレール波形

図4. 電源喪失時の3.3Vレール波形

まとめ

ここに示した回路により、LTC3643を3.3Vレール用のバックアップ電源ソリューションとして使用できるようになります。LTC3643は、低コストの電解コンデンサを蓄電部品として使用することによって、バックアップ電源を簡素化します。

著者

Victor Khasiev

Victor Khasiev

Victor Khasievは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズのIC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックアップ電源などを取り上げています。効果的な力率改善の手法と高度なゲート・ドライバに関して2件の特許を保有しています。日々の業務では、製品に関する質問への回答を通じた顧客のサポート、電源回路の設計/検証、プリント回路基板のレイアウト、システムの最終テストの実行とトラブルシューティングなどに取り組んでいます。