降圧コントローラを使用した負電圧の生成

はじめに

負電圧は、車載インフォテインメント・システム向け需要が拡大しているLCD画面の電源に使用されています。また、工業環境や鉄道環境においても同様に、負のレールは計測器アプリケーションやモニタリング・アプリケーションのニーズを満たしています。いずれの場合も、負電圧レールは正の電圧源から生成する必要がありますが、正負の変換を行うICは降圧コントローラほど普及していないのが実情です。テストによって品質が確認された負出力コンバータはあまり提供されていないようですが、LTC3892デュアル出力コントローラのような認定済みの降圧コントローラは、既に数多く出回っています。LTC3892デュアル出力降圧コントローラをC´ukトポロジで使用すれば、負の出力電圧を生成でき、専用の負出力コンバータをテストするための時間とコストを省くことができます。

デュアル出力コンバータ:−12V 3Aおよび3.3V 10A

LTC3892はデュアル出力コントローラで、図1に示すように、1つの出力を正電圧用に、もう1つのチャンネルを負電圧用に使用できます。このソリューションの入力電圧範囲は6V~40Vで、VOUT1は3.3V 10A、VOUT2は−12V 3Aです。VOUT1は、Q2、Q3、L1、および出力フィルタ・コンデンサをパワートレイン・コンポーネントに使用する単純な降圧コンバータ・トポロジとして構成されています。LTC3892-2では、VPRG1を接地することによって3.3Vの固定出力に、あるいはVPRG1をINTVCCに接続することによって5Vの固定出力に設定できるので、VFBピンに分圧器を使用して出力を3.3Vに設定する必要はありません(出力に直接接続)。

図1. 正と負の電圧を生成するためのソリューション。VOUT1は3.3V 10A、VOUT2は−12V 3A。

図1. 正と負の電圧を生成するためのソリューション。VOUT1は3.3V 10A、VOUT2は−12V 3A。

VOUT2はGNDを基準とする負の電圧出力です。オペアンプU2(LT1797)は差動アンプとして配線されており、これは負電圧を検出して、それをLTC3892エラー・アンプ(EA)の0.8Vリファレンスにスケーリングするために使われます。この方法では、LTC3892のEAとオペアンプの両方がシステムのGNDを基準としているので、電源の制御が容易で機能もシンプルになります。負の出力電圧を設定するための基本式を以下に示します。

229331-数式_01

VOUT2は非同期C´ ukトポロジを採用しており、Q1、D1、L2、および出力フィルタ・コンデンサをパワートレイン・コンポーネントに使用しています。C´ukトポロジについては他の技術文献で広く解説されているので、ここでは詳しく述べません。パワートレイン・コンポーネントに加わるストレスは、以下のようにまとめることができます。

229331-数式_02

このソリューションの評価にはDC2727Aデモボードを使用しました。その際のVOUT2の効率を図2に示します。このアプローチは、LTC3892-2のLTspice®シミュレーション・モデルにも使われています。

図2. 14V入力時の負電圧出力(VOUT2)の効率

図2. 14V入力時の負電圧出力(VOUT2)の効率

まとめ

LTC3892は、もともと同期整流式降圧変換用に設計された汎用性の高い柔軟なコントローラですが、オートモーティブ、工業などのアプリケーション用の正負電圧を生成するためにC´ ukトポロジで使用することも可能です。

著者

Victor Khasiev

Victor Khasiev

Victor Khasievは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズのIC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックアップ電源などを取り上げています。効果的な力率改善の手法と高度なゲート・ドライバに関して2件の特許を保有しています。日々の業務では、製品に関する質問への回答を通じた顧客のサポート、電源回路の設計/検証、プリント回路基板のレイアウト、システムの最終テストの実行とトラブルシューティングなどに取り組んでいます。