DN-137: あらゆる条件でマイクロパワー動作を実現する新型コンパレータ

マイクロパワー・コンパレータには、大きな電流が流れる動作モードをもつものがあります。特に設計が不適切なデバイスでは、スイッチング中に大きな過渡電流が流れる可能性があり、周波数が高いときや、バッテリ・モニタ・アプリケーションのように、入力がほぼ平衡状態のときに消費電流が大幅に増加します。

図1に一般的なマイクロパワー・コンパレータのスイッチング中の消費電流を示します。トレースAは入力パルス、トレースBは出力応答、トレースCは電源電流です。このデバイスは電源電流がマイクロパワー・レベルで規定されているのに、スイッチング中には40mAが流れます。この好ましくない意外なことによって、設計電力の再試算が必要になったり、関連回路動作が干渉を受けることがあります。

図1. 過渡時に大電流が流れる設計が不適切な「マイクロパワー」コンパレータ。周波数が高いほど消費電流が増加

図1. 過渡時に大電流が流れる設計が不適切な「マイクロパワー」コンパレータ。周波数が高いほど消費電流が増加

LTC®1440シリーズのコンパレータは、真のマイクロパワー・デバイスです。スイッチング中の電流ピーキングを排除し、結果的に周波数に対するまたは入力がほぼ平衡時の消費電力を大幅に低減しています。図2のプロットは、LTC1440の消費電力対周波数をマイクロパワー製品と呼ばれている別のコンパレータと対比させたものです。LTC1440は消費電流が高い周波数では比較に用いたコンパレータの約1/200と低くなっており、1kHz以下でも大きな利点を維持しています。

図2. LTC1440ファミリの消費電流は高い周波数では比較に用いたコンパレータの1/200

図2. LTC1440ファミリの消費電流は高い周波数では比較に用いたコンパレータの1/200

表1はいくつかのLTC1440ファミリの特性を示したものです。一部のバージョンには、電圧リファレンスとプログラム可能なヒステリシスが組み込まれており、どのデバイスも応答時間は5µsです。

表1. マイクロパワー・コンパレータLTC1440ファミリの特性
製品番号 コンパレータ数 レファレンス プログラム可能なヒステリシス パッケージ 伝播遅延(100mVオーバードライブ) 電源電圧範囲 電源電流
LTC1440 1 1.182V あり 8ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V 4.7µA
LTC1441 2 なし なし 8ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V 5.7µA
LTC1442 2 1.182V あり 8ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V 5.7µA
LTC1443 4 1.182V なし 16ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V
8.5µA
LTC1444 4 1.221V あり 16ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V 8.5µA
LTC1445 4 1.221V あり   16ピンPDIP、SO 5µs 2V to 11V 8.5µA

この新しいデバイスは低消費電力で高性能回路を実現します。図3の標準32.768kHzクリスタルを使用した水晶発振器は、スプリアス・モードなしであらゆる条件で始動します。消費電流は2V電源ではわずか9µAです。

図3. スプリアス・モードのない32.768kHz“時計用水晶”発振器。この回路に流れる電流はVS=2Vで9µA

図3. スプリアス・モードのない32.768kHz“時計用水晶”発振器。この回路に流れる電流はVS=2Vで9µA

図4 の電圧- 周波数コンバータはダイナミック条件でLTC1441の低消費電力の利点をフルに生かしています。0V~5V入力は0Hz~10kHzの出力を生成し、直線性0.02%、ドリフト60ppm/°C、および電源除去40ppm/Vの特性を達成しています。最大消費電流はわずか26µAと現在入手可能な回路の1/100以下です。C1はQ5、Q6、100pFで構成されるチャージポンプを切り替えて、負入力を0Vに維持します。LT1004と関連部品でチャージポンプ用の温度補償付きリファレンスを形成しています。100pFコンデンサは一定電圧に充電されます。したがって、帰還を維持するために回路で変更できるのは繰返しレートだけです。コンパレータC1は、入力電圧誘導電流に正確に比例する繰返しレートで、負入力に一様な電荷パケットを送ります。この動作により、回路の出力周波数は入力電圧だけで厳密に決定されることが保証されます。

図4. 所要電源電流がわずか26µAのLTC1441をベースにした0.02%V/Fコンバータ

図4. 所要電源電流がわずか26µAのLTC1441をベースにした0.02%V/Fコンバータ

起動または入力オーバドライブによって、回路のAC結合帰還をラッチすることがあります。これが起こると、C1の出力は“L”になり、C2は2.7M/0.1µFの遅延後にこれを検知して“H”になります。C2の出力が“H”になると、C1の正入力がプルアップされ、Q7を通して負入力が接地されて、通常の回路動作が開始されます。

図5にこの回路の消費電力対周波数を示します。電流は周波数がゼロのとき15µAで、10kHzでもわずか26µAにしか増加しません。

図5. V-Fコンバータの消費電流と周波数。放電サイクルは1.1µA/kHzで電流の増加を抑制

図5. V-Fコンバータの消費電流と周波数。放電サイクルは1.1µA/kHzで電流の増加を抑制

この回路動作の詳細な説明は、「Linear Technology」マガジンの1996年8月号に掲載されています。

著者

Jim-Williams

Jim Williams

James M. Williams(1948年4月14日~2011年6月12日)はマサチューセッツ工科大学(1968年~1979年)、Philbrick、National Semiconductor(1979年~1982年)、Linear Technology Corporation(LTC)(1982年~2011年)でアナログ回路設計者ならびに技術文書の著者を務めていました。同氏は、書籍5冊、National Semiconductorのアプリケーション・ノート21件、Linear Technologyのアプリケーション・ノート62件、そしてEDNマガジンの記事125件など、アナログ回路設計に関する文書を350件以上執筆していました。同氏は、2011年6月10日に脳卒中を起こし、6月12日に他界しました。