マイクロコントローラのクロック―水晶振動子、発振子、RC発振器、またはシリコン発振器?

要約

水晶、セラミック発振子、RC (抵抗、コンデンサ)発振器、およびシリコン発振器は、マイクロコントローラ(µC)への使用に適した4種類のクロックソースです。アプリケーションに最適なクロックソースは、コスト、精度、および環境パラメータを含む多くの要因に依存します。このアプリケーションノートでは、マイクロコントローラのクロックを選択するための決定要因について説明し、これらの発振器の種類を比較します。

はじめに

マイクロコントローラ用のクロックソースの大部分は、2つのタイプに分類することができます。1つは水晶やセラミック発振子などの機械的な共振デバイスに基づいたものであり、もう1つはRC (抵抗、コンデンサ)発振器のような電気的位相シフト回路を用いたものです。通常、シリコン発振器は、電流ソース、整合の取れた抵抗とコンデンサ、および安定性を増すための温度補償回路の利点が加えられたRC発振器の完全に集積化されたバージョンです。クロックソースの2つの例を図1に示します。図1aは、水晶やセラミック発振子のような機械的な共振デバイスでの使用に適したピアース発振器の構成を示しています。一方、図1bは、単純なRCフィードバック発振器を示しています。

図1. シンプルなクロックソース例:(a)ピアース発振器の構成および(b) RCフィードバック発振器

図1. シンプルなクロックソース例:(a)ピアース発振器の構成および(b) RCフィードバック発振器

機械的な発振子とRC発振器との主な相違点

通常、水晶やセラミック発振子を用いた発振器(機械的)は、極めて高い初期精度と適度に低い温度係数を提供します。対照的に、RC発振器は、起動が高速で低コストですが、一般的に温度と電源電圧に対する精度が貧弱で、公称出力周波数の5%~50%の範囲で変動します。図1に示した回路は、クリーンで確実なクロック信号を生成することができますが、環境条件、回路部品の選択、および発振器回路のレイアウトによっては、その性能が大きく影響される可能性があります。セラミック発振子とそれに伴う負荷容量の値は、特定のロジックファミリの動作に合わせて最適化されなければなりません。高いQを備えた水晶は、アンプの選択による影響をあまり受けませんが、過励振時の周波数シフト(さらに故障)には影響を受けやすくなります。電磁妨害(EMI)、機械的な振動や衝撃、湿度、温度などの環境的な要因は、発振器の動作に影響を及ぼします。これらの環境要因は、出力周波数の変動を引き起こして、ジッタを増大し、深刻なケースでは、発振器の機能を停止する原因となります。

発振器モジュール

上記の問題の多くは、発振器モジュールを使用することで回避することができます。発振器モジュールは、すべての発振回路部品を内蔵し、低いインピーダンスの方形波出力のようなクロック信号を提供します。さまざまな条件での動作が保証されています。最も一般的なタイプは、水晶発振器モジュールと全機能内蔵シリコン発振器です。水晶発振器モジュールは、水晶を用いたディスクリート部品の回路と同程度の精度を実現します。シリコン発振器は、ディスクリートRC発振器の回路よりも高精度であり、その多くはセラミック発振子を用いた発振器と同等の精度を実現します。

消費電力

消費電力は、発振器選択のもう1つの重要な考慮すべき点です。ディスクリート部品の水晶発振器回路の消費電力は、主にフィードバックアンプへの供給電流と回路内で使用される容量の値によって決まります。CMOSで製造されたアンプの消費電力は、動作周波数にほぼ比例し、電力損失容量の値として表すことができます。たとえば、反転アンプとして使用されるHC04インバータのゲートの電力損失容量の値は、標準で90pFです。5V電源で4MHzにて動作した場合、この値は1.8mAの消費電流に等しくなります。ディスクリート部品の水晶発振器回路は、概して20pFの余分な負荷容量が含まれるので、総消費電流は2.2mAになります。

セラミック共振器回路では、一般的に水晶発振回路よりも大きな負荷容量の値が規定されており、同じアンプを使った水晶発振回路よりもさらに多くの電流を消費します。

比較すると、水晶発振器モジュールは、温度補償と制御機能が含まれているため、概して10mA~60mAの供給電流を消費します。

シリコン発振器の消費電流は、種類と機能に依存しており、数µAの低周波(固定)デバイスから、数十mAの周波数プログラム可能な部品まで分布します。MAX7375などの低電力シリコン発振器の消費電流は、4MHz動作時で2mA未満です。

まとめ

特定のマイクロコントローラのアプリケーションに最適なクロックソースは、精度、コスト、消費電力、および環境などの要因の組み合わせによって決定されます。次の表は、このアプリケーションノートで述べた一般的な発振器回路の種類、およびその長所と短所をまとめたものです。

表1. クロックソースタイプの性能比較
Clock Source Accuracy Advantages Disadvantages
Crystal Medium to high Low cost
Sensitive to EMI, vibration, and humidity. Complex circuit impedance matching.
Crystal Oscillator Module
Medium to high
Insensitive to EMI and humidity. No additional components or matching issues.
High cost; high power consumption; sensitive to vibration; large packaging.
Ceramic Resonator
Medium
Lower cost Sensitive to EMI, vibration, and humidity.
Integrated Silicon Oscillator Low to medium Insensitive to EMI, vibration, and humidity. Fast startup, small size, and no additional components or matching issues. Temperature sensitivity is generally worse than crystal and ceramic resonator types; high supply current with some types.
RC Oscillator Very low Lowest cost Usually sensitive to EMI and humidity. Poor temperature and supply-voltage rejection performance.