Silent Switcher採用、低EMIの1.2A μModuleレギュレータを4mm × 4mm × 1.82mm BGAパッケージに収容

はじめに

高性能DC/DC POLコンバータのアプリケーション・ボードは配線密度が高く、ほとんど隙間がありません。また部品密度が高くなると、電磁場干渉(EMI)が大きな問題となるため、使用できる電源ソリューションの範囲も狭まります。LTM8074 µModule®レギュレータを使用すれば、このような制約条件を容易に満たすことができます。このデバイスは小型でPCB上面の限られたスペースに収まる上、薄型のため、PCBの裏面に実装することが可能です。LTM8074はSilent Switcher®(サイレント・スイッチャ)アーキテクチャを特長としており、フィルタやシールド部品を追加することなく厳しいEMIテストに合格できるため、設計および製造プロセスを簡素化できます。

1.2A Silent Switcher μModuleレギュレータ

LTM8074は、超低EMIで高電圧入出力のフル機能DC/DC降圧スイッチング電源です。コントローラ、パワー・スイッチ、インダクタなどすべてのサポート部品が、4mm × 4mm × 1.82mmの薄型でRoHS準拠の表面実装型BGAパッケージに収容されているため(図1)、高電圧ポイントオブロード(POL)レギュレーションのためにPC基板底面の未使用スペースを活用できます。

図1. LTM8074はSilent Switcherアーキテクチャの採用により、小型パッケージに全機能を内蔵した低ノイズ・ソリューションを実現。

図1. LTM8074はSilent Switcherアーキテクチャの採用により、小型パッケージに全機能を内蔵した低ノイズ・ソリューションを実現。

このデバイスは、3.2V~40Vの入力電圧範囲、0.8V~12Vの出力電圧範囲で動作し、出力電圧を高い精度でレギュレーションすると共に、1.2Aの電流を出力します。高効率で熱強化されたパッケージングにより、優れた熱性能と高電力密度が可能となっています。図2に示すように、LTM8074のケース温度の上昇は、負荷条件下でも最小限に抑えられ、熱抵抗が低いことがわかります。

図2. 室温(23℃)、全負荷(12V入力、5V出力(1A))の条件で、LTM8074の温度上昇はわずかです。

図2. 室温(23°C)、全負荷(12V入力、5V出力(1A))の条件で、LTM8074の温度上昇はわずかです。

内蔵コントローラのピーク電流モード制御アーキテクチャは、高速の過渡応答と優れたループ安定性を実現します。図3に、出力電圧の高速過渡応答と低ピークtoピーク電圧変動を示します。

図3. 最小の出力コンデンサ(2μF × 4.7μFセラミックス)を取り付けることで、LTM8074は高速過渡応答を示します(12VIN、3.3VOUT)。

図3. 最小の出力コンデンサ(2µF × 4.7µFセラミックス)を取り付けることで、LTM8074は高速過渡応答を示します(12VIN、3.3VOUT)。

種々の出力コンデンサを使用する幅広い動作条件下で十分な安定性マージンが確保できるよう最適化された、帰還ループ補償を備えているため、設計が簡素化されます。LTM8074は放射妨害波を最小限に抑えるSilent Switcherアーキテクチャを採用しており、厳しい電磁両立性基準を容易に満たすことができます。

狭いスペースに収容

すべてのサポート部品がLTM8074の小型のフォーム・ファクタに内蔵されているため、レイアウト設計が容易になると共にソリューション・サイズを低減できます。設計を完了するのに必要なのは、入出力コンデンサ、周波数、電圧設定抵抗のみです。代表的なアプリケーション回路を図4に、その効率を図5に示します。

図4. 7V~40V入力、5VOUT 1.2A設計に必要な最小限の部品

図4. 7V~40V入力、5VOUT 1.2A設計に必要な最小限の部品

図5. LTM8074の代表的な効率

図5. LTM8074の代表的な効率

µModule設計により、LTM8074は必要なものをほぼ完備するドロップイン・レギュレータとなっていますが、多くの設計パラメータは、特定アプリケーションのニーズに合わせて容易に調整可能です。出力電圧と動作周波数は抵抗によりプログラム可能で、動作周波数は外部クロックと同期するよう設定できます。また、LTM8074はパルス・スキップ・モード、Burst Mode®動作、スペクトラム拡散変調などの様々な導通モード・オプションをはじめ、プログラマブルなソフト・スタート、出力電圧トラッキング、パワー・グッド・インジケータ、イネーブル制御などの機能を備えており、軽負荷効率とEMI性能を十分に最適化できます。

超低ノイズ:CISPR 22クラスB

スイッチング・レギュレータには、比較的高い周波数で高いdI/dtの動作を行う必要があるため、放射EMIを生成する性質があります。LTM8074の低EMI性能は、スイッチング周波数を下げる、フィルタ回路を追加する、遮蔽を設ける、といった煩わしいEMI低減手法に頼るのではなく、独自のSilent Switcherアーキテクチャを組み込んだ結果実現したものです。図6および図7に示すように、CISPR 22クラスBなどの放射EMI基準を満たすための外部回路や特別なレイアウト手法は不要です。

図6. 12VIN、3.3VOUT (1.2A)でのEMI性能とCISPR 22クラスBの比較(3メートル、ピーク、垂直アンテナ、EMIフィルタなし)

図6. 12VIN、3.3VOUT (1.2A)でのEMI性能とCISPR 22クラスBの比較(3メートル、ピーク、垂直アンテナ、EMIフィルタなし)

図7. 24VIN、3.3VOUT (1.2A)でのEMI性能とCISPR 22クラスBの比較(3メートル、ピーク、垂直アンテナ、EMIフィルタなし)

図7. 24VIN、3.3VOUT (1.2A)でのEMI性能とCISPR 22クラスBの比較(3メートル、ピーク、垂直アンテナ、EMIフィルタなし)

まとめ

LTM8074は、広い範囲の入出力電圧をカバーする、出力電流1.2Aのコンパクトなポイントオブロード(POL)µModuleレギュレータです。Silent Switcherアーキテクチャを採用し、低EMI性能と設計しやすい調整機能を備えているため、ポータブル・デバイスから密に実装された工業用ボードまで、広範なアプリケーションの条件を満たします。

著者

Austin-Luan

Austin Luan

アナログ・デバイセズのPower by LinearTM製品グループに属するパワー製品のプロダクト・アプリケーション・エンジニア。μModuleレギュレータおよびパワー・マネージメント・コントローラに関し、顧客とフィールド・アプリケーション・エンジニアのサポートを担当。サンルイスオビスポのカリフォルニア州立ポリテクニック大学で学士号と修士号を取得。