DN-215: 100Aを供給する低コスト表面実装DC/DCコンバータ
はじめに
コンピュータ・システムが大規模化および複雑化するに伴って、供給電流の要求も増大し続けています。3.3Vで100Aを要求するシステムはごく一般的であり、次世代CPUの消費電流は1Vよりわずかに高い電圧で100Aに近ずきつつあります。この電流レベルの能力を備えた標準パワー・モジュールはほとんどないので、大半のシステム設計者は、所要電流を得るために複数のモジュールを並列にして使用することを強いられています。この電源ソリューションは一般に高価で、容積が大きく、性能も必ずしも満足できるものではありません。
最近発表されたLTC®1629は、低電圧、大電流アプリケーションに費用効率の高いソリューションを提供するデュアル電流モードPolyPhase™コントローラです。PolyPhaseは、複数の並列接続された電力ステージのクロック信号をインターリーブする(差しはさむ)ことによって、入力コンデンサのサイズと出力スイッチング・リップル電圧を大幅に低減します。今日まで、マルチフェーズ設計は、複雑なタイミングと電流分担が要求されるため実現が困難でした。LTC1629の製品化によってこれらの問題をすべて解決します。LTC1629の先進機能には、真のリモート・センシングのための差動アンプ、高いゲート・ドライブ能力、内部電流分担、および選択可能な位相制御などがあります。また、保護機能には、過電圧保護、オプションの過電流ラッチオフ、およびフォルドバック電流制限などがあります。このデザインノートではLTC1629と、すべて表面実装部品を使用した6フェーズ電源設計について解説しています。12Vの入力電圧と3.3V/最大100Aの出力で約90%の効率が得られます。
設計の詳細
各LTC1629は2つのインターリーブ同期式降圧出力段をドライブすることができます。PLLベースの内部位相回路は、簡単な位相選択信号(“H”、“L”、またはオープン)で2、3、4、6、または12フェーズ動作を可能にします。このテクニックにより数個のLTC1629を並列に接続して、30A~200Aの出力電流を供給可能です(表1参照)。
出力電流 | 35A 以下 | 35A~70A | 70A~105A | 105A~140A | 140A~200A |
LTC1629の個数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 6 |
降圧段 | 2 | 4 | 6 | 8 | 12 |
この設計では3個のLTC1629を使用して、6フェーズ動作を実現します。図1に1個のマスタ・ユニットと2個の同一スレーブ・ユニットの合計3つのほぼ同じセクションで構成される完全な電源のブロック図を示します。スレーブ・ユニットは、スレーブLTC1629のVos-およびVos+ピンがオープンであることを除いてマスタ・ユニットと同じです。マスタ・ユニットだけが出力電圧を検知します。この設計には全部で30個のSO-8 MOSFETと6個の小型表面実装インダクタが使用されています(ヒート・シンクは不要です)。スイッチング周波数は200kHzです。図3にセクション1(マスタ・ユニット)の詳細な回路図を示します。
図1. PolyPhaseコンバータ・ブロック図
表2は入力および出力リップル電流と従来型の1フェーズと6フェーズ構成に必要な入力および出力コンデンサとを比較したものです。1フェーズ・コンバータと比較して、6フェーズ回路は入力リップル電流を83%低減します。その結果、1フェーズ回路ではOS-CON入力コンデンサ(16SV220M)が13個必要であるのに対し、6フェーズ回路では3個しか必要ありません。6フェーズ回路の出力リップル電流の減少はさらに大きく、1フェーズ回路より96%も低くなります。100Aでの出力リップル電圧は9個のタンタル・コンデンサ(T510X477M006AS)でもわずか5mVP-Pです。その結果生じるリップル周波数は1.2MHz(スイッチング周波数の6倍)です。同じ出力リップル電圧を達成するのに、1フェーズ回路では248個のタンタル・コンデンサが必要になるはずです。図2は測定した総合効率(制御回路の電力損失を含む)が負荷範囲の大部分で90%近くになることを示しています。
図2. 効率と負荷電流
図3. セクション1の詳細回路図(マスタ・ユニット)
フェーズ数 | 入力リップル電流 | 出力リップル電流 | 入力コンデンサ数 三洋電機OS-CON 16SV220M | 同じ出力リップル電圧を実現するための出力コンデンサ数:KEMET T510X477M006AS |
1 | 48ARMS | 57AP-P* | 13 | 248 |
6 | 8ARMS | 2AP-P | 3 | 9 |
*1フェーズ回路は6個の1.3µH/17Aインダクタを並列に使用して100A出力を供給すると仮定。 |
まとめ
LTC1629ベースのPolyPhaseコンバータを使用すれば、標準製造工程を用いたシンプルで信頼性の高い設計が可能です。この独自のアーキテクチャは100A以上の電流でも高効率、小型、および低コストの回路を実現します。詳細についてはURLを参照してください。